MEMちょに殴られてから、2週間が経過した。
顔の腫れも湿布を貼っていたおかげですっかり良くなった。
個人的にはこのままフェードアウトを決め込みたいが、スタッフ陣からの強い要望もあった為、仕方なく……本当に仕方なく『今ガチ』に再度出ることになった。
ただ、このまま普通に出ると、MEMちょのファンのガチ恋勢に燃料を与えかねない……さて、どうしたものか? カミキさんに相談するか……
「ああ、それならアクアの顔面にモザイクをかけて音声も加工して貰いましょう。でその状態でMEMちょさんの肩でも揉んであげたり、なんか飲み物やお菓子でも食べさせてあげれば良いでしょう」
「それ犯罪者になってない!? つーかそこまでしたらもう俺じゃなくて良いだろうが!」
「パフォーマンスとしてやるんですが、流石にMEMちょさんも好きでもない人にそんな事はしてもらいたくは無いでしょうからね」
MEMちょが俺の事好き? 一体カミキさんは何を言っているんだ?
「……カミキさん? まず、前提としてMEMちょが何故俺の事が好きだと思ったんですか?」
「あ~、すみません。それに関しては、好きというか現段階では、好感度は高めですね。じゃなかったら焼き肉代を代わりに支払ったぐらいでは今回の事に協力はしてもらえないじゃないですか」
「いや、後日番組が終わった後に買い物に付き合わされるんだけど……」
「それこそ、好きでもない人と行きたいとは思いませんよ? 欲しい物があるから、その代金を後日請求するなら分かりますが、一緒に買いに行くと言ったらデートですよ? そんな訳ですので、MEMちょさんに収録が始まる前に打ち合わせをして収録中に許してくれるようにストーリーを作ってくださいね」
カミキさんはそういうと出かける準備をし始めた。
「あれ、カミキさん今日はこの後出かけるんですか?」
「ええ、この間の懐石料理とアクアに送金しましたので、ちょっとお小遣い稼ぎに競馬にでも行きますがアクアも来ますか?」
「うん?競馬は20歳からじゃないと駄目じゃないですか?」
「馬券を購入するのが20歳からであって、場内に入る分には年齢は問われませんよ?」
そんなルールだったっけ?
不思議に思い調べてみたら、確かに場内に入る分には年齢制限は無かった。
特に今日はやる事もないのでカミキさんと一緒に出掛けることにした。
「じゃあ、俺も行きます」
「では行きますよ」
そして、カミキさんは大きめのリュックサックを背負ってメルセデスベンツに乗り込んだ。
背負っていたリュックは俺が助手席に乗ってしまったので、後部座席に無造作に置かれた。
中身が入っていない所為か、凄く軽そうに見えた。
車のエンジンをかける前に懐から禁煙草のヨモギのタバコを咥えて火を点ける。
カミキさんが吐き出す煙と共に車内はヨモギのいい匂いが漂っていた。
「あっ! すみません。いつもの癖で今窓あけますので待っててくださいね」
カミキさんの容姿でタバコ・車の運転って……もはや犯罪レベルなんだよな。実際は30過ぎたおじさんなんだけど……
「それにしても、ベンツで右ハンドルってあるんですね」
「ええ、探せばいくらでもありますよ。もっとも左ハンドルのが多いですが、私は左ハンドルは運転出来ない事はありませんが……やはり乗り慣れないものは怖いですからね。ところで、アクアはお腹空いてませんか?」
「出来れば何か食べたいですね」
今日は学校が終わってから、カミキさんの事務所に直行したから、まだ何も食べて無い。
カミキさんにたかろうと思っていた訳じゃないんだが、美味しい所に連れて行って貰えることに期待しつつ返答した。
「じゃあ、まだ時間もありますので、マッ〇で良いですか?」
この人無敵か? 周りの目を気にしなさすぎだろう……
「お決まりでしたご注文どーぞ(何この2人すっごいんだけど!? 背の低い方は弟さんで凄い可愛らしいし、お兄さんの方はすっごいイケメンだ!?)」
「じゃあ、BLバーガーとチキチーと照り焼きバーガーとコーラのLサイズとお姉さんのスマイルもお願いします。後紙袋も付けて貰えますか?」
「ハイかしこまりました。スマイルはお持ち帰りも出来ますよ?」
「へぇ~じゃあ、もし興味があればこちらに連絡くださいね」
カミキさんはそういうと名刺を美少女の店員に渡した。つーかナチュラルにナンパしてるけど良いのか?
「あなたでしたら、こちらの業界でも輝けると思いますよ片寄ゆらさん」
「じゃ、じゃあ終わったらすぐ連絡しますね」
あーどうしよう、俺まだ注文してないのに、この空気ぶち壊さないといけないのか……
「アクア食べたいのがあれば、遠慮せずにどうぞ」
「じゃあ、新作のハンバーガー3種類全部とアイスカフェオレLサイズで」
頼んだ瞬間に美少女店員片寄ゆらさんが信じられない者を見る目で俺を見た。
あ、身長的に俺が兄だと思われたのか……
「……カミキさんすみませんここは俺が建て替えますので後でください」
「あ~その方が良さそうですね」
その後お会計はスマホで支払った。
以前カミキさんに送金してもらった金額がまだまだ余っているから問題は無いが、まさか¥2000以上かかるとは……高くなったものだ。
「それにしてもまさかこんなに可愛い美少女がここで働いているなんて思いもしませんでしたね」
「向こうもカミキさんと俺を見てびっくりしてましたけどね……」
パクパク美味しそうに食べるカミキさんだけど……良く食べるなぁ~。3つ目もぺろりと平らげたぞ! その小さい身体のどこにそれだけの量が入るんだ?
俺も今は若いけど、それでも食べられるけど2つが限界だな……
「アクア無理して食べなくても大丈夫ですよ。一応紙袋貰ってますので、再度お腹が空いたら食べましょうね?」
その為に紙袋を貰ったのか……気の配り方が凄いな!
「私も持って帰って食べたいので再度注文して来ます」
そういうとカミキさんはパタパタとカウンターに向かった。
数分後、各種類のハンバーガーを大量に購入していたけど、そんなに食べたら胃もたれするぞ。
腹も膨れた事だし、競馬場に向かって30分後に東京競馬場に到着した。
入場料を支払い場内に入るとカミキさんは電光掲示板には目もくれず、レースの新聞を購入後に額を指でトントンと叩いたら、自動券売機の所に向かった。
「カミキさんどれを買うんですか?」
「ええ、とりあえず3連単の倍率48倍の15-1-7ですね。お金も今手持ちが¥100しかありませんが、まぁ良いでしょう」
馬鹿なのか?
俺は今何を見ているんだろうか?
たった¥100が化けに化けて何千万にも膨れ上がった。
「うーん。神通力は無くなったと思っていたんですが……これは凄いですね」
カミキさんも苦笑しつつ、持ってきていた空っぽのリュックに札束をどんどん放り込んだ結果……圧倒的な存在感を放つようになった。
「まだ、お財布がスカスカなので、後200万稼いだら帰りますよ」
その後倍率68の3連単を5万円分購入してやっぱり当てた。
どうなっているんだ?
その後はカミキさんに手を引かれて、車に乗って最後のレースの端数を貰った。
「ハイ、ちょっと少ないですが、お小遣いですよ。じゃあこれでMEMちょさんのデート頑張ってくださいね」
「ああ、ありがとうございます」
この人何で芸能界にいるんだろうか?
お金なら、もう腐るほどあるのに……何か理由でもあるのかな?
とりあえず、臨時収入が入ったし、MEMちょに連絡して復帰後の動き方について打ち合わせをしておかないとと思い連絡したところすぐに繋がった。
「カミキさんすみませんちょっとMEMちょに連絡しますね」
「ハーイどうぞ~」
カミキさんはヨモギタバコを吸いながら、上機嫌で運転をしていた。
「あ、MEMちょ今大丈夫か?」
『おーアクたん久しぶりー元気してた?』
「まーボチボチな。そっちは?」
『こっちはあかねちゃんがちょっとね』
え!? また黒川の奴暴走しそうなのか?
「……俺はもう何も出来ないぞ」
『いや、収録自体は大丈夫なのよ。ただ、アクたんに対しての執着がちょっとやばそうなのよ』
「え!? 何でそんな事になっているんだ?」
『あかねちゃんなんだけど……収録が終わった後に今まで、エゴサをしていたみたいで、アクたんが体を張った後もやっぱりエゴサしていたんだって、それまではアンチコメばっかりだったのに、今じゃあ悲劇のヒロインになった事で、『あの時アクア君が何でこんなことをしたのか今になって分かったの』って女の顔しながら言ってたのよ。いやーアクたんも罪な男だね。そういう訳だから頑張ってね~』
MEMちょはそういうと電話を切ってしまった。
「カミキさんどうしよう?」
「何かあったんですかアクア?」
「今MEMちょに連絡したんですが、あの時カミキさんが言った頭が良い人ほど引っかかる『あの時○○君が何でこんなことをしたのか今になって分かったの』ワードを黒川が言ったらしくて……」
「嘘ですよね……だって、気づくのが早すぎますよ! 1~2か月は猶予があると思っていましたが……あ、だからか、今日の勝因の理由は……。アクア、バレた以上は仕方がありません。責任とって振るか付き合うか良く考えるようにね。私からはそれしか言えません」
どうやら『今ガチ』が終わっても楽になる日はまず来そうにない事が判明した。