カミキヒカルになりました。(本編完結)   作:だめねこ

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第20話

 それは唯の好奇心だった。

 

「なあ、黒川……アイの演技っていうか役作りなんだが、アレってどうやっているんだ?」

「いやそんな大層な物じゃ……」

 

 黒川あかねはどこか焦っているのかもじもじし始めた。俺何か変な事聞いたか?

 

「一応プロファイリングの本とか読んだりはしてるんだけどね。一杯調べて自分なりに解釈してるだけなんだよ。」

「うーんそれってどれぐらい前からやっているんだ?」

「5歳の時からこの手法でやってるよ?」

 

 つまり、5歳の時にプロファイリング能力を身に着ける為にコツコツ努力してきたと……人生何週目なんだろう? うちの妹に黒川あかねの爪の垢でも煎じて飲ませればちょっとは頭も良くなるか?

 

「後は色々勝手な設定とか足しちゃってるし」

「勝手な設定?」

「うん、例えば……アイには実は隠し子が居る……とか」

「はあ?」

 

 ま、待て! こいつ一体何を言ってやがる!?

 

「びっくりしちゃうよね? でも、そう考えると色んな感情のラインに接合性が取れるし、不可解だった数々の行動の理由が分かる。そして、何を考えてどういう人格なのか数式パズルみたいに分かってくる!」

 

 17歳のガキの思考回路じゃねーぞ。

 相手の行動パターンを全て読み解く? 

 

「た、例えばなんだが、アイの思考パターンてどれ位分かるんだ?」

「んーどういう生き方をして来てどういう男が好きかまで多分だいたい分かると思うけど?」

 

 じょ、冗談じゃない!?

 黒川あかねは危険だ。

 どうする? こいつを放置しておくことは俺達家族の秘密を握られているのと同じだ。

 

「参考までにどんな男がタイプなんだ?」

「うーん、まず見た目は重要で」

 

 カミキさんは身長が低いけど顔はトップレベルだから◎だ。

 

「次に嘘をつかない人」

 

 これはどうなんだ? カミキさんは嘘を吐いた事があるのか? 少なくとも俺達家族に対して嘘を言ったことは無いはず……

 そういえば昔アイとカミキさんがババ抜きをやったとき、アイがたったの一回も勝てなかったと落ち込んでいた事があったな……その時もカミキさんは嘘を吐かずに勝ったようだし、じゃあこれも◎か……

 

「最後に本心を見抜いてくれた人」

 

 アイの本心?

 

「アイの本心ってなんだ?」

「子供の時の家庭環境が良くなかったのか、愛情の抱き方に何かしらのバイアスがあると思う。それで、自身を守る為に嘘を吐き続けて来た訳なんだけど、それは言い換えると私の事を理解して欲しいってSOSだと思う。でも、長年嘘を言い続けた結果その仮面を見破れる人は中々現れなかったんだけど、15歳くらいの時に自身の根底を覆すほどの人物と会ったのかな? その人に対しての執着があまりにも強くなりすぎたのか、破滅的な行動が一番強くなってるけど、16歳のある時期にはそれが改善されたようで落ち着き始めたの。でも、その人が離れた瞬間再度塞ぎ込むぐらいに依存してるね」

 

「そ、そうなんだ」

 

 なるほど、アイのカミキさんに対しての異常な執着は本心を見破ったから起きた出来事か……それにしても塞ぎ込む事まで分かるものか? 確かにカミキさんが修学旅行と病院に入院していた時なんかは目に見えて落ち込んでいたけど……

 普通そんなのプロファイリングしても分からないだろうが!

 

 黒川あかねは野放しに出来ない!

 しかし、どうする?

 黒川あかねに首輪をつけるにはどうすればいい?

 考えろ! 

 この稀代の化物の弱点は……

 あ、一つ思い当たるものがあった。

 

「そういえば黒川って今忙しいのか?」

「うーん、アイの演技をするようになって『今ガチ』では人気は出たけど、次の仕事は決まって無いよ」

「ふーん。ちなみに事務所の取り分って8:2何だっけ?」

「……うん、だから収入が厳しいの」

「なら、うちの事務所に移籍するか? 黒川あかねなら大歓迎だぞ」

「でも、私のマネージャーが怒られちゃうし……」

 

 やはり、簡単には行かないけど、こっちだって逃がす気は無い

 

「大切なのはあかねの気持ちだろ!? お前はもう少し我儘になっても良いんだ。何かあったら俺が(カミキさんにお願いして)助けてやる!」

「……アクア君。分かったよ。私……アクア君の事務所に移籍するね!」

「分かった社長にはこっちから伝えておく。移籍に関してはもしヤバそうなら俺に連絡してくれ、頼りになる大人を呼ぶから」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「……アクアお前、やってくれたな!」

 

 斎藤壱護が頭抱えて、力なく吐き捨てる。

 

「そうは言っても、黒川あかねはやばいんだ! あいつは……アイの秘密に辿りついてるんだ。何かしらで首輪とつけておかないとまずい」

「そうは言っても他所の事務所の子なのよ? 移籍に関してはアクアが思っている以上に簡単じゃないわよ」

 

 ミヤコさんもため息を吐きながらも俺を諭すように言ってきた。

 

「まず、第一の問題が契約期間中に他の芸能事務所に移籍できないのよ。これはうちだけじゃ無くて、どの事務所でも同じことが言えるけど、もし破った場合は違約金を要求されることもあるわ……それもとんでもない金額になるわ……アクア払えるの?」

「……実際の所いくら位が相場になるんだ?」

「そのタレントにもよるけれど、売れて無い子だったり、実績が無い子なら100万単位もあり得るけれど、黒川あかねさんは出演女優賞だったかしら? 持ってるわよね……そうなると、売れてる売れてないにかかわらず金額は最低でも1000万は見た方が良いわね」

「……1000万だと!?」

 

 無理だ……100万・200万ならともかくそんな大金俺には集められない

 

「そうだ! カミキさんならそれぐらい用意できるはずだ! 過去にB小町の全員を引き抜いた時の金額が3億で2週間で用意したって話は俺も知っている。今回だって出来るはずだ」

「……アクア勘違いしているようだからちゃんと教えてやる。あいつが2週間で稼いだ金額は恐らく6億以上だ。そして渡した金額は3億じゃない……3億3千万近くあった」

 

 6億以上? なんだそれ?

 

「……今から8年前にカミキ君がB小町の引き抜きをするって壱護に言ったのよ、その時壱護が3000万を要求したわ。それも期日は2週間じゃなくて1か月よ?でもね、『……一桁足りませんね。3億持ってきます。それに期間は一ヶ月も要りません。2週間もあれば十分です』って言って本当に用意したのよ。本当にカミキ君……馬鹿なんだから」

「あいつは有言実行の男だからな。やると言ったら本当にやるし、アクア達を守る為なら、億を持ってくるぞ?」

 

 俺は、浅はかだったのか……

 

「斎藤社長あんまりアクアを虐めないで上げてください」

 

 振り返るとそこには困った顔をしながらも、いつも通りのカミキさんが居た。

 

「そもそも、8年前とはいえ、アクアと私では状況が違いますよ。私は当時22歳なのでギャンブルで荒稼ぎが出来ましたが、アクアはまだ未成年ですので、そんな方法は取れませんよ」

「仮にアクアが成人していても、俺は勝てるとは思えないがな……」

「……でしょうね。結局のところアレは唯の勘なんですから、誰にも真似は出来ません。ところであまり私も事情を詳しく聞いて無いのですが、再度説明をお願いします」

「要するにだ。今アクアが出てる『今ガチ』の黒川あかねが自力でアイの秘密に気づき始めたから、苺プロに移籍させたいってこと何だか……」

「……違約金の問題ですね。元を正せば私の撒いた種です。斎藤社長にミヤコさん申し訳ありませんでした」

 

 カミキさんはそういうとすぐさま頭を下げた。

 俺はそんなつもりじゃなかったのに……

 

「アクアにも心配かけてしまいましたね。大丈夫です後は私に任せてください。金で解決するなら、それが一番良いですからね」

 

 そんな時だったスマホから着信の音が聞こえた。

 

『アクア君今大丈夫?』

「あかねか? 大丈夫だけどどうなった?」

『それが……違約金なんだけど……』

「いくらだ? 言って見ろ」

『……1500万だって、私そんな金額払えないよぅ』

「カミキさん……違約金は1500万です」

「へぇ~、面白いじゃないですか……アクア電話代わってもらって良いですか?」

「え、ああ、あかねちょっと電話代わるぞ」

『う、うん』

「初めまして、私はカミキプロダクション代表取締役のカミキヒカルです。黒川あかねさんでよろしいですか? 何時もうちのアクアがお世話になっております」

『え、うちの? もしかしてアクア君のお父さんですか?』

「ハイ、アクアのお父さんです。で、移籍に関する違約金はこっちで用意しますので、心配しないでくださいね。で、支払いは何時までって言ってました?」

『今月中に用意しろと……』

「分かりました。それでは明日お伺いしますので、事務所に案内お願いしますね」

『は、はい』

「はい、アクアありがとうございますね。ちなみに明日はアクアも行きますか?」

 

 カミキさんはいつもと変わらない笑顔でスマホを返してくれた。

 

「もちろん行くよ」

「良い返事です。……たまにはヒリヒリしないと面白くありませんからね」

 

 カミキさんが言ったそれは俺の耳に確かに届いていた。 

 

   

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