帰りの道中は車内は静まり返っていた。
何年も居たけど、俺はカミキさんの事を何一つ分かっていなかった。
「アクアと黒川さん……夕食はどうしますか?」
どこか申し訳なさそうにこちらを訪ねるカミキさんだけど、今日はそんな気分じゃない……
男の俺でも、あのカミキさんは怖かったんだ。
今日初めて会ったあかねだって、相当怖かったはずだ。
その証拠に若干ではあるが体も震えている。
「俺は今日家で食べるので大丈夫です」
「私も……そこまで迷惑かけられませんので、大丈夫です」
「いえ、私の方こそお見苦しい所見せてしまい恥ずかしい限りです」
「じゃあ、カミキさんそこの信号曲がった先で大丈夫ですので……」
「分かりました」
カミキさんはあかねに言われた所で車を停めた。
「じゃあ、アクア君また収録でね。カミキさん送って頂きありがとうございました」
「ああ、じゃあな」
「いえ、それでは黒川さんお気を付けて……」
あかねが車から降りると、車内は再度静まり返った。
それから、20分程で家に着いた。
その間も俺から話を振る事も無く、その事に悲しそうな表情を浮かべるも、カミキさんからも話を掛けることは終ぞなかった。
「……カミキさん。送ってくれてありがとうございました」
「いえ、……アクア今日は怖がらせてしまいすみませんでした」
カミキさんはそれだけ言うと車を出してしまった。
カミキさんが去ったあと不意に空を見上げると、電線には無数のカラスが留っており、こちら凝視していた。
「……はぁ、こうしても仕方ない。家に入ろう」
カラスの存在は気になるが、今日はもう疲れた。
「ただいま」
「あ、お兄ちゃんお帰り~」
「お帰りアクア……あれ、ヒカル君は?」
家の玄関を開けると、アイとルビーが出迎えてくれたが、今はカミキさんの事を聞かれたくない
「……ああ、ちょっと忙しいみたいだから帰ったぞ」
俺が答えた瞬間アイの表情が変わった。
こういう時、すぐさま嘘がバレるのはやりづらい
「……へぇー、アクア何で今嘘ついたのかなー?」
「え!? 今お兄ちゃん嘘ついたの?」
結局嘘を吐いてもすぐさまバレてしまったので、今日あったあかねの事務所でのやり取りを洗いざらい喋るしかなかった。
話した結果
ルビーは勿論、アイですら驚いていたが同時に納得もしていた。
「へ、へぇー、私は実際にそこに居た訳じゃ無いけど……カミキさんが怒鳴るって相当だよねママ」
「そ、そうだね~何があっても笑顔で私がやらかしても困った顔をしながら『アイさん……ダメですよ』って言われた事しか無いから、今回は相当ライン超えたんだろうね」
うんうん、うなづいてるアイをよそに俺は別の事を考えてしまう。
あれは果たして本当にラインを超えただけなのかと……
俺にはカミキさんの事が分からないが、アイの演技がこなせたあかねならカミキさんの考えは分かるのだろうか?
後であかねに連絡をしてみよう
「じゃあ、ルビーテスト勉強頑張ろうね!」
「ママ? 私アイドル活動に力を入れたいんだけど……」
「ルビーもかなちゃんも知名度はあるから問題ないよ! それに勉強頑張ったら私はヒカル君からご褒美貰えるからね!」
「ええ~私は何か貰えないの~?」
「じゃあ、私がルビーの頭撫でてあげるよ?」
「あ、じゃあ勉強頑張るから今撫でてよ!」
「ルビーは甘えんぼさんだな~ウリウリ~」
「きゃー」
推しと妹がじゃれついてるだと!
あかねに電話してる場合じゃない!
☽
「カミキさんお帰り~」
「あれ、ツクヨミ一人だけですか?」
「か、カミキさんウズメもいますよ!」
「ウズメもですね。それでは改めまして、ただいま」
「はい、お帰りなさい」
「みゆさんは今日は居ないんですか?」
「そーなの! ママ同窓会に行っちゃってて今日は帰ってこないのよ」
「そういう理由なので今日はカミキさんの所でお邪魔になりますが大丈夫ですか?」
「ええ、勿論です。じゃあ今から夕食の準備しますので待っててくださいね」
会話は問題無く出来るけどやっぱり、今日の出来事で魂が傷ついてるわね。
誰もがパパに守ってもらってるのに、パパを守る人は誰も居ないのが現状ね。
「何かリクエストはありますか?」
「じゃあ愛情たっぷりのオムライス♡」
「ちょっと姉さん!!」
「良いんですよ。ウズメも好きなの言ってくださいね」
「じゃ……じゃあ、カミキさんの愛情たっぷりのグラタンが食べたいですぅ」
「ハイ、愛情たっぷりのオムライスとグラタンですね。かしこまりました。それではお嬢様がたこちらのソファーでお待ちください」
全くこんなことでパパの魂が癒えるのだから、本当に可愛いものね。
それにしても、黒川あかねは初対面だからしょうがないけど……アクアに関しては付き合いも長いのだから、自身の態度がパパを傷をつける行為だと気が付いて欲しいものね。
ふと、窓を見るとこちらを凝視している一羽のカラスがおり、目が合うとクワークワーっと荒ぶっていたから、きっと神様も若干アクアに対して怒っているのだろう。
あー分かってますって、アクアには今度あったらガツンと言っておきますから、観賞は良いですけど、干渉はしないようにしてくださいね。
じゃないと、パパが壊れちゃいますよ?
そう念じると、カラスはしょんぼりしてしまった。
全く会った事も無い神様ですら虜にしちゃうパパってどうなんだろ?
そんな事を考えていたら、パパが料理をテーブルに運んできてくれた。
「はい、お嬢様方お待たせしました。愛情たっぷりのオムライスとグラタンになります。熱いので気を付けてくださいね」
オムライスにはケチャップでLOVEと書かれており、グラタンもバーナーを利用したのか焦げ目でLOVEと書かれていた。
「わぁカミキさんありがとうーいっただっきまーす」
ウズメはそういうと目を輝かせて美味しそうにグラタンを食べ始めた。
「カミキさんあーんして欲しいな」
「ええ、ツクヨミは甘えんぼですね」
パパはそういうと私を持ち上げて自身の膝の上に座らせてあーんをしてくれた。
私だって、これくらいの役得があっても良いよね。
「どうですか二人とも?」
「「とっても美味しいよ」」
「それは何よりです」
パパも嬉しそうにオムライスを食べ始めた。
笹喰ってる場合じゃねー