俺には父であるカミキヒカルの行動が分からなかった。
今でこそ、蟠りは無くなったが、当時は15歳のアイを孕ませた14歳の責任も取れないクソガキだと思っていた。
そして、アイが妊娠中も病院に来ることは唯の一度もなかった。
しかし、あの時……妊娠中のアイの表情だけは今でもしっかりと覚えている。
恍惚な表情を浮かべながら、大きくなった自身のお腹を撫でていた。
あんな推しの表情……俺は見た事も無かった。
ファンとして、俺は……悔しくてたまらなかった。
だって推しのアイドルが知らない男に女にされていたなんて悪夢だとしか思えなかった。
そんな中俺は崖から突き落とされて、次に目が覚めた時は推しの子になっていた。
俺とルビーは転生者である事をアイは知らない……故にアイが俺たちの面倒を見ている時ぽろっとこぼした言葉
『あ~あ、ヒカル君に早く会いたいなぁ~』
恐らくそのヒカル君とやらがアイをたぶらかして妊娠させたクソガキなのだろう
俺とルビーはそう結論を付けた。
生まれてすぐの赤ん坊が喋れる訳が無い為、一年は我慢した。
そして、アイがアイドルに復帰した後に初めて俺達は父親であるカミキヒカルを見た。
その時の感情は”気に入らない”だった。
何せアイが子育てで大変な目に合ってる時、父親であるこいつは何もせずのうのうと過ごしていたと思っていたからだ。
だが、実際は違った。
アイの為に役者としての仕事を投げ捨てて、苺プロにマネージャーとして所属し、空中分解を起こしかけていたB小町の関係を修復し、あまつさえ仕事も斡旋していた。
今でこそ理解できるが、当時は6股して解決!?
馬鹿じゃねぇのって思ったし……もっといい方法が有るだろうが! と思ったが……今にして思えば、そんな暇なんて無かったのだろう。
アイが復帰するまでに、環境を整えなければいけないし、不満の源を解消するためには全員口説き落とす以外方法は無かったんだ。
全部はアイの為に行動を起こしていた。
アイを守る為にはB小町を守らないといけない
B小町を守るには苺プロを守らないといけない
そして、苺プロを守る為に自身が代表を務めるプロダクションを作った。
じゃあ、アイ以外のB小町を移籍させた理由って何だ?
その時は一体何を守ろうとしていた?
そして、今は一体何を守ろうとしているんだ?
……そういえば、明日は『今ガチ』の最終回の収録だったな……アイの秘密に辿りついたあかねのプロファイリング能力なら、カミキさんの事も分かるか?
とりあえず、明日黒川あかねにカミキさんを調べて貰おう
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『今ガチ』の収録が終わった後、あかねにカミキさんの事をプロファイリングして欲しいと頼んだが……
「うん、私も昨日の事が気になったからカミキさんの事を調べてみたんだけどさ……なんていうか、かなり凄いよ」
「凄いってどういう事だ?」
「カミキさんって恐らく孤児だよね? 両親が居たって話アクア君聞いてたりする?」
あかねに問いに俺は首を横に振って答えた。
「いや、そんな話は聞いて無いな」
「……やっぱり、そうだよね。カミキさんって元々劇団ララライに所属していたのにびっくりしたけど、年齢も6歳の時なんだよね。でも、当時は役者としてのお仕事はあまり無くて、収入だって月に1万も無かったんじゃないかな? でも施設で生活していた訳でも無いし……」
「……当時カミキさんが住んでいた物件はおんぼろアパートの元共用便所で家賃は月3000円だったそうだ」
「……そっかぁー、月3000円の部屋で生活ね。なるほど、じゃあ次なんだけど……」
あかねはその情報をメモに取ると次の質問が来た。
「……カミキさんある日を境に急に演技力が向上したのか、突然化け始めたんだよね。恐らくカミキさんに演技指導を行った人物が居るんだけど……その人は女性でね。私の予想だけど……当時6歳のカミキさんと性行為を行っていたと思うの」
あ、ありえない。
「は? 6歳のカミキさんと性行為って……そんなのありえないだろう?」
「でも、そう考えると辻褄が有っちゃうの! その後のカミキさんって抜群の演技力とあの美形じゃない? その時から女役もこなせるようになったし、何より劇団員なのに、モデルの仕事もこなしていたの! 当時モデルの仕事をこなしていたのは劇団員でもトップクラスの大女優姫川愛梨だけなの」
「じゃあ、モデルの仕事をするようになったのは……」
「……姫川愛梨の紹介でするようになった」
「それだけじゃなくて、当時の姫川愛梨は結婚していて、その旦那が上原清十郎って方なんだけど……この人が女性関係にだらしがない人なの」
カミキさんが女性の扱いがやたら上手いのは6歳の時から経験済みだからだけでなく、上原清十郎って人の影響もあるのか……
「じゃあ、カミキさんは姫川愛梨の事を恨んでいたんじゃあ?」
子供の時にそんな真似をしていたらトラウマになってもおかしくない
しかし、あかねの表情を見るにそれは違うらしく
「……それどころか大変懐いていたようなの」
「嘘だろ!?」
そんなことされて懐くなんてありえない……まさかカミキさんの精神は壊れていたんじゃあ?
「当時のカミキさんって月の収入1万円ぐらいでしょ? 姫川愛梨に懐いていた理由としてはお金じゃないかな……」
あかねの言葉におでん屋でのやり取りを思い出した。
『そうですよ。あそこのおんぼろアパートの元共用便所で生活していた時からですね。私は6歳から劇団ララライに居ましたが、そんなに売れてる訳ではなかったので、生活費自体はそんなにかかっては居ませんでしたが、それでも収入が少なかったので、いつもかつかつでした。なので、たまの贅沢だってラーメンや牛丼にマック位でそれも一ヶ月に一回あれば良い位でしたね』
あの時〈苦笑まじりに答えるカミキさんだったが、その表情には陰はなくどこか嬉しそうにしていた〉
それはカミキさんにとって姫川愛梨はかけがえのない存在だったんじゃないか?
「……お金だけじゃなかったかもな」
「え、それってどういうことアクア君?」
「……だって、カミキさんはたった一人で生きて来た訳なんだが、収入が少ない状況で、食費代だって……一日¥80の大根で賄っていたんだ。そんな中で性行為をすればお金も貰えて、食事代も出してくれているならカミキさんにとっては命の恩人も同じなんじゃないか? そう考えると姫川大輝さんはカミキさんにとっては恩人の息子って事か……」
「そうなるね……でも、それだけじゃないと思うの。姫川大輝はカミキヒカルの子供の可能性がある……っていうか、顔がまんまそっくりだし! 違いが髪の毛の色と眼鏡かけているぐらいしかないよ! ほら、アクア君これみて!」
あかねがスマホで大輝さんの眼鏡を外した写真とカミキさんの写真を横に並べて見せて来た。
「……確かにそっくりだ」
「何で気が付かなかったかなー? 私色々調べてたけどプロファイリングするまでも無かったよ。大輝さんがカミキさんの子供でそれを物凄い可愛がっている以上は大輝さんの両親である二人にも悪感情なんて何にも無いと思うよ」
「じゃあ、カミキさんの考え方って分かるか?」
「逆にアクア君は何で分からないかな? カミキさん程誠実な人は居ないと思うよ? 今時珍しい位古い考え方だけど……義理と人情と責任は必ず取る人だよ? 昨日だって、社長があんな風に言ったからだってのもあるけど、カミキさんはちゃんと1500万を支払ったよ? アクア君はどう思った?」
「俺は正直……支払わなくても良いと思った」
あんな横柄な態度を取っていたんだ。当然違約金だって払う必要も無いし、あかねを脅していた訳なんだ。
「それは違うよアクア君……契約違反をしたのは私だし、違約金を支払う義務は当然あったよ。だから、カミキさんは社長に筋を通して、1500万を払ったんだよ」
「は? あの社長に筋を通した?」
「だって、カミキさん言ってたじゃない『私の知り合いなら違約金は無しで良いんですか』ってこれって責任逃れはしないって事だよ? もしこれが他の人の耳に入ればみんな『私カミキさんの知り合いだよ』って言うしそうなれば事実はどうあれ違約金は払わなくて済むからね」
そうだったのか……
「だから、カミキさんの事信じてあげなよ!」
「俺カミキさんに謝ってくる」
「勿論私も行くよ!」
俺とあかねはカミキさんの事務所に向かった。