稽古が始まって三日がたった。
こういった舞台の場合は大体一ヶ月程度の稽古期間を設けるが、やはり忙しい人が多いので、全員が揃ってやれることはあまりない。
特に主演級は他の仕事も多く、稽古に参加出来ない事も多々あり、そうなると他の役者の稽古に支障が出るので、『
しかし……
「カミキ!姫川の代わりに『ブレイド』だ」
「分かりました」
金田一さんにそう言われてカミキさんが『
そして、カミキさんが演じた『ブレイド』は唯の『ブレイド』ではなく……顔合わせの日に行った『姫川さんのブレイド』を行った。
そうなれば当然一緒に共演するかなの役者魂に火がつく……それも初日以上に燃え上がってだ。
その火は一気に燃え広がり、これを見ている役者は目を輝かせていた。
「これが2流?……詐欺も良い所だな」
「す、すごいとしか言えないよ!
あかねも大はしゃぎしているが……
「あかねはしゃいでる所悪いが……このままだと姫川・かなペアに大差で負けるな」
さっきまで大はしゃぎしていたあかねが今度は頬っぺたをプクーッと膨らませてこっちを見始めた。
どうやら俺の彼女の怒る感情表現は子供レベルだった……
「アクア君だってこのままじゃ……」
あかねは消え入りそうなくらい小さい声で呟いたが……
「そもそも俺は最初から勝とうと思ってないし、才能ある奴に勝てるなんて思ってないよ」
そう言うとあかねは困り顔になってしまった。
「カミキ次は『キザミ』だ」
「あの金田一さん? かれこれぶっ通しで6時間位やってるんですけど?」
「まだ行けるだろう?」
「ご飯位食べても良いですよね?」
「……分かった行って来い」
金田一さんとカミキさんは中々ブラックなやり取りを行っていたが……カミキさんは何とか休憩をもぎ取れたようだ。
「アクアにあかねさんもお疲れ様です。今からご飯食べに行きますけどどうします?」
「行きます」
「……私も」
「ミキさん私も行くー」
「ちょっと、カミキさん私も連れてってくださいよ!」
「わ、分かりました」
カミキさん大体いつも飯奢ってくれてるけど、結構な金額使ってるんだよな……
「ちなみに今日は何処行くんですか?」
「そうですねぇーラーメンでも行きますか?」
流石に連日だと厳しいか……
「ええ~! 私中華が食べたい」
「流石にあんまり時間がかかると稽古に支障が出ますからね?」
ごもっともだが、かなよ……お前どんどん遠慮が無くなって来たな!
「わ、私はラーメンでも良いですよ!」
「私は美味しければどこでも行きます」
「俺はお任せで」
「じゃあ皆さん行きますよ」
そうして俺・あかね・かな・ゆらさん・カミキさんの五人で飯を食べに行こうとした瞬間だった。
入口のドアが開き、姫川さんが入って来た。
「すみません遅れました」
「おう、姫川じゃあ早速入れ」
「分かりました。ところで兄さんはどっか行くの?」
「ええ、今からご飯行ってきます。」
「……ずるい。俺も行く」
「お前は何しに来たんだ!」
姫川さんは金田一さんにスパンと頭を叩かれた。
<次の日>
今日は原作者が来る日らしくて、その所為か脚本家のGOAさんも来ていた。
「やっほ来ましたよっと」
「おうGOA調子はどうだ?」
「別件の脚本スケジュールがガタガタでね。朝までに修正寄越せとか言われて大変だったよ。その所為で眠い眠い」
「お気の毒に……」
金田一さんと話している内容だけど、やっぱり芸能界はブラックだわ
そんな二人をあかねが見ていた。
「あかね何か聞きたい事でもあるのか?」
「……うん、アクア君から見てこの脚本ってどう思う……?」
「ん? ああ、そういうことね」
あかねが言わんとして要る事は分かるが……
「ちょっと原作とは違うでしょ?」
「確かに所々違うが、それでも原作に準拠した脚本だと思うぞ。それに俺が前に出たドラマの脚本に比べたら90倍はマシ」
「『今日あま』はひどかったもんね……」
あれに比べればなんてことはないな
「気になる所があるなら直接聞いたらどうだ?」
「駄目だよ!」
あかねは慌てて言い出した。
「演技の指導は演出家から受けるものなの、だからそこの指揮系統を崩したら駄目なの」
へぇーそうなのかー
「カミキさんメルトとかめっちゃ指導しているけど……」
「カミキさんは一旦置いといて、多くの人にあーだーこーだ言われたら役者も混乱するでしょ? 演技指導を受ける相手は一人に絞った方が良いの、それに他の役者と演技の駄目だしし合うのも金田一さんは良しとしない位だし……」
すみっこの方でカミキさんがメルトの駄目だしをしながらゆらさんの指導も行っているけど……
「……カミキさんさっきのどうでしたか?」
「そうですね……もっと大きく動いた方が良いですね」
「ミキさーん私のも見てください」
「ハイ、ゆらさんどうぞ」
「……!!!?」
「ゆらさんも良いですよ~」
「ふーん」
まぁカミキさんは一旦置いといて……
「すみません。黒川が脚本について質問があるみたいなのですが、演出の金田一さんの意見も踏まえてお伺いできたら……」
「ちょっとアクア君……!」
「二人同時に聞けばスジは通るだろ」
「それはそうだけど……」
まぁ疑問を疑問の儘にするよりは聞いた方が早いからな
それにしても、あかねは真面目で融通が利かず、かなは水を得た魚の様に生き生きしてる。
役者としてどちらが正しいかは分からないが、何事も無く終わる事を願うばかりだ。
そんなことを考えていた時だった。
「はーいおつかれー!」
雷田さんの声が聞こえたから見てみると2人の女性が居た。
「今日はスペシャルゲストが起こしですー!」
「あ……えと……こんにちは……」
まるで小動物を思わせる黒髪の女性はそれだけ言うと口を噤んで目を逸らした。
「『東京ブレイド』作者のアビ子先生!……と付き添いの吉祥寺と申します」
『今日あま』の作者だったっけ?
「吉祥寺先生お久しぶりです!」
「有馬さん……『今日あま』の打ち上げ以来ですね……!」
かなと吉祥寺先生はそういうとキャッキャと盛り上がっているけど……
「アクアさんもまたお会い出来て嬉しいです」
「光栄です」
この後の事目に浮かぶ
「先生お久しぶりです」
メルトはそういってお辞儀するが……
「あっども……」
感情を感じさせない絶対零度で発せられた言葉
仕方ないと言えば仕方ないか……チラっとカミキさんを見ると目が合ったが、こればかりはどうにもならない為、首を横に振っていた。