ワークショップが始まって2か月が経過した。
『B小町』のアイも順調に演技力が向上しているのだが……それはそれとして、やっぱり自己主張が強いって言うか強すぎる!
いやさぁ~ちょっとぐらい相手に花を与えてあげなさいよ!
何で全部持ってっちゃうかな~?
「あの……アイさん?」
「ねぇカブキ君今のどうだった? バッチリ目立っていたでしょ!?」
「……カブキでも団十郎でも好きに呼んでください。で、今の演技に点数を付けるとしたら100点満点中の花丸付きで120点ですよ。誰も文句の付けようの無い程の物です」
アイにそう言うと心底破願しながら俺の傍に寄って来た。
「やっぱり私って天才なんだよね~?」
「ええ、まごうこと無き天才で、完璧で無敵のアイドルで金輪際現れる事は無い一番星である事でしょうね」
俺もアイと一緒に劇をやったら勝ち目は無いに等しいけど……ただで負ける気は毛頭ない。
見た目・スタイルも良い訳だから、俺だって一回だけで良いからやりたいなと思うし、思っていたが……今自分が言った言葉で思い出した。
アイって星野アイだったな……
推しの子のストーリーなんてカナンの事があったから、すっかり忘れてたよ。
あ、そう言えば
やった結果確か……アイが子供を出産したため、ストーカーに殺させたんだっけか?
って事は……アイとやっても妊娠させなきゃ問題は無いだろうけど、妊娠したらストーカーに殺されてしまい、しかも子供に復讐されるのか……
ふむ、やったら最後取り返しのつかない事に巻き込まれそうだから……手を出すのは辞めた方が良いな
「もぅーカブキ君そんなに褒めたって何もでないよ~♡」
顔を赤らめてくねくねしているアイを見ると途端にうすら寒いものを感じてしまった。
これは”嘘”だな
理想のアイドル像を演じつつも、男性に……いや、老若男女問わず誰にでも好かれるような動きと仕草を自然にこなしている。
「いえ、別に褒めている訳では無いんですけど……そこまでやれるのであれば、今度は他の人にライトを当ててあげてください」
「え? 何でそんな事しないといけないの?」
何でと来たか……本当に分かっていないのだから質が悪い
これはカナンがアイにぶち切れたのが良く分かるし、何なら他のB小町に同情すらしてしまう
アイ自身が自覚無しに自分以外はおまけも同然と扱っている事に気が付いていないのだ。
言葉や想いとは裏腹にアイの態度がそれを物語っている。
私はアイドルのアイだからみんなに愛されたいと思っている反面……その心の内は誰にも見せる事は決してしない
全く、俺も本心を明かす事はパイセンぐらいにしかしないが……原作のアイは誰にも心を開く事は無いし、ましてや自身の子供達に『愛してる』とは言ったものの、その心の内側を見せる事は決して無かったはずだ。
「私に言わせれば、自分だけが目立つ演技をして一体何の意味があるのか理解が出来ませんが、あえて言うなら相手にライトを当てる事が出来ない人には演劇は無理ですね。それでもやりたいのであればワンマンライブをやってる方が良いですよ?」
これは心の底からそう思う
原作の事なんかはほとんど覚えていないけど、アイはソロ向けの人間だ。
アイドルグループじゃないと売れないって思われているかもしれないが……それなら『B小町』全員ワークショップに参加させれば良かったはずだが、それをしなかった理由がアイに劇を通して協調性を学ばせる為だと見てとれる。
しかし、こんなのは他のメンバーからすればアイ贔屓に他ならないだろうから、逆効果にしかならないと思う
「……君は建て前を言わないね」
「教える側の人が教わる側の人に媚びを売って何の意味があるんですか?」
「私は君が言ったように金輪際現れない一番星のアイドルだよ? だったら私に媚びを売った方が将来的には仕事が増えるんじゃないかな?」
「その程度の嘘で仕事が増えるなら苦労はしませんよ?」
「私にとっては嘘はとびっきりの愛なんだよ」
「アイさん……嘘は所詮嘘ですよ? どこまでいっても嘘は真になりませんし、そんな事に嘘を吐く必要はありませんから、わざわざ予防線を張らなくたって良いじゃないですか? 愛してるなら愛してるって言えば良いだけです。違いますか?」
「……だって私愛された事も無いし、愛した事も無いから分からないよ」
アイはそう言うと寂しいそうな顔しているけど……しかし俺に愛って何? って聞かれても困るし……
「……それは難儀ですね。ではそろそろ良い時間なので帰りますね」
「ちょ! ちょっとカブキ君! 今私の事を慰める場面じゃないの?」
「……何故ですか?」
「私とカブキ君は似ているからね」
果たして俺とアイの一体どこが似ていると言うのだろうか?
「……私はアイさんと違って協調性はありますし、人の名前を間違えた事はありませんが?」
「うぐぅ!? 違くないけどそう言う事じゃないの! もっと内面的な話!」
十分内面的な事だと思うけど……
「……性格面では一致してる部分は無いですね。私はアイさんみたいに嘘を吐きませんし……」
「……じゃあ、育った環境は? 私は施設育ちだけどカ、カ、カ」
急にカッカッカって言い始めたけど……
「……もしかして、カミキって言いたいのですか? 無理せずカブキでも団十郎でも好きに呼んで貰って構いませんよ?」
「カ…ミキ君は親っているの?」
お、頑張って間違えずに呼べたなこのポンコツ娘
「私の記憶では親に会った事はありませんので、分かりませんが探せばいるんじゃないんですかね? 流石に木の股から生まれた訳でもましてやコウノトリが運んできた訳でも無いんですから」
「つまりは私と同じで親がいないから愛された事が無いって事を言いたいの!」
ああ、なるほどね。
確かに上原パイセンや愛梨パイセンとは仲良くしているけど、愛されてるかと言われれば……違うわなぁ~
俺自身も二人のパイセンは勿論大切な人達ではあるものの、愛梨パイセンに対しても女性であるから性的な目で見ちゃうし、大輝君に対して愛してるって言うのは照れるけど、自分の子供で懐いてくれるから可愛良いと思えるくらいかな? そう考えると俺は自分に構ってくれる又は懐いてくれる人に対してある種の感情を抱くのか……
なんか新たな一面が知れて良かったな
「そうですね。確かに愛された事は無いかもしれませんが……それって重要ですか?」
「え!? だって愛が分からないと愛せないよ」
「愛が分からなくても大切な物は変わらないですよ。だからそれを大事にすれば良いんですよ。アイさんは難しく考えすぎです」
「そんなぁ~」
なんかカルチャーショックを受けてるけど大丈夫か?