稽古が終わった後それぞれが帰り支度をしていた。
今日の演技はカミキさんと話をした所為か何時も以上に良く出来た……気がする。
しかし、それでもアイの様な見るもの全て惹きつける才能は俺に無いから、同時に落ち込んでもいる。
久しぶりに明日にでも五反田監督の所に行ってみるか……っと思った時だった。
そういえば、俺カミキさんに五反田監督の弟子になった事言って無かったな……
良い機会だし、カミキさんも連れて行こう!
「カミキさん明日の夜なんですけど空いてますか?」
「……明日の夜は空いてますが、アクアがそんな事を言うなんて珍しいですね。何かありましたか?」
「実は……カミキさんに会って欲しい人が居るんだ」
俺がそういうとカミキさんは驚いた顔をしながら、小指を立てた。
「まさか……”コレ”ではありませんよね?」
「そんな訳ねーよ! 俺はカミキさんみたいに12股もしないからな!」
「そ、そうですか、そうですよね。アクアは私みたいな女たらしとは違いますもんね」
カミキさんはそういうとショックを受けてしまったようだけど、子供の俺からすると何を今更だと思わずには居られなかった。
何せ、俺とルビーと姫川さんを省いてもまだ、子供が20人もいる訳だし……って話が逸れたな
「……で、会って欲しい人は俺に演技を教えてくれた人で、カミキさんも昔あった事がある五反田監督なんだけど、覚えてる?」
「五反田監督ですか……覚えてるも何も会ったことが無いですね」
「嘘だろ!? ほら、カミキさんが大学1年だった時に社長の代わりに送迎してくれたじゃないか! その時ドラマの監督をやっていたのが五反田監督だよ」
俺が力説するも、カミキさんは困った顔をしていた。
「私の記憶が確かなら、その時は車の中でピアノの練習をしていましたね。ルビーも車内に居たので、証言して貰えれば私のアリバイを証明出来ますよ?」
カミキさん……ルビーがそんな昔の事を覚えている訳無いじゃないか!
そんなに記憶力が良ければ、この前のテストで赤点をギリギリ回避の超低空飛行になる訳が無いんだし……
ちなみにアイは、全教科のテストで平均点をギリ超えてドヤ顔していて可愛かったけど……
「アリバイって……まるで事件の犯人みたいな言い方になってますよカミキさん!」
「……とりあえずは明日の夜は空けておきますね」
カミキさんはそういうと缶コービーを飲み始めたが、カミキさんの背後から満面の笑みを浮かべてるアビ子先生が近寄って来た。
「カーミーキー時間だよー!」
「……せめてこれだけ飲ませてください」
「だめ! 時間は有限なの」
アビ子先生に拒否されたカミキさんは昨日と同じく首根っこを掴まれてずるずると引きずられていった。
そういえば、カミキさんの味覚ってもう戻っているのか?
禁止を言い渡して以降は、セックスはしてないようだが……アイ達とはそれとは別に楽しんでいるようだし、もしやようやく枯れたか?
割と下世話な事を考えていたが、答えはカミキさんのみが知る事だ。
<次の日>
お昼頃に徹夜をしたであろうカミキさんが稽古場に来たが……昨日とは違い元気そうだ。
まさか……アビ子先生とやったのか?
「あ、あのカミキさん?」
「どうしましたアクア? そんな余命宣告されたような深刻な顔してますけど……何かありましたか?」
「いや、その……カミキさんが元気そうだったから……徹夜したんですよね?」
アビ子先生とやったんですか? なんてド直球で聞ける訳が無いから遠回しになってしまった。
それに、他の人達も昨日とはうってかわって元気なカミキさんを見ると不審な目でこちらを確認していたし、金田一さんなんて遠い目をしている。
「うん? ああ、その件でしたら、私が連れ込まれて30分後にアビ子先生の担当の人が来てですね。まーお仕事に専念されましたので……私は解放されました。なので今回は良く寝れました」
カミキさんの言葉に俺と遠くで聞き耳立てていた金田一さんは2つの意味で胸をなでおろした。
いや、本当に良かったよ。
カミキさんが倒れる事が無かった事と愛人が増える事が無くて……
カミキさんは節操無しでは無いかも知れないが……女たらしである以上いずれ手を出してしまってもおかしくは無いし、そもそも男女が一つ屋根の下に居たのだから何も起こらない訳がない! っと考えていたが、そもそもカミキさんとやった女性は次から露骨に態度が出るからやってないのは確かだろう……
「じゃあ、今日アビ子先生は来ないって事ですか?」
「……今日どころかしばらく来れないでしょうね。何せ締め切り2日前みたいなんで」
週刊連載の漫画家はブラックな環境だった。
そんな事を話している時だった。
「あの、カミキさんちょっと良いですか?」
「あ、みたのりおさんでしたか……どうしました?」
サラリーマン風の眼鏡に七三に分けられた髪の毛が特徴的なみたさんが来た。
「……!! そうです。実は私カミキさんに憧れてこの劇団に入ったんです!」
「そ、そうなんですか……」
「……私もカミキさんみたいに脇役からのし上がっていずれはこの劇団の真のトップである事を証明したいと思っています!」
「私は別に看板役者では無かったので、賞は助演男優賞位しか持っていませんが……そうですねぇー何を持って真のトップとするかは各々の価値観によりますので面白い部分がありますが、みたさんが思う”コレ”なら真のトップってなんですか?」
「私が思う真のトップは出演回数だと思います」
「そうですね。私もトップと言えば出演回数は重要だと思います。何せ役者は実力主義ですからね」
「そうですよね! カミキさんもそう思いますよね」
「……しかし、それでも私は看板役者ではありませんでしたね」
「それは……カミキさんが主役嫌いで有名ですからね」
「のりお……言っておくがそこのバカは主役嫌いじゃないぞ。指名が入れば主役もちゃんとこなす。……それも完璧にな」
金田一さんがむすっとした顔でこっちに来た。
「そうなんですか! 私はてっきり嫌いなのか思ってました」
驚いてるみたさんを他所にカミキさんは困った表情で答える。
考えてみるとカミキさんは何かあると常に困った顔をしている気がする。
「……別段主役は嫌いではありませんが、当時の私はみたさんみたいに4~5本位ドラマを抱えてやっていましたので、主役をやるとなると時間が足りなかったのです」
おでん屋でそういえばそんな事言ってたような気がする。
「……本来なら途中退場するはずだった脇役なのに、気が付いたらどこの現場もカミキを手放したくないから退場させないどころか最終回まで居残りさせたなんてザラだったな……おかげで、次のドラマの撮影が遅れそうになったりで大変だった」
ああ、金田一さんもカミキさんの所為で苦労していたんだな……
「アレは私の所為ではありませんよ?」
「いーやお前の所為だ! 唯の役者なのに……ところかまわず食い散らかすから、お前が原因で歪んだ奴は多いぞ」
え!?食い散らかして、歪んだ?
嫌なワードであるが、カミキさんが女たらしである以上はもう性分なのだろう……
「……それのおかげで仕事にあぶれませんでした」
「……お前そんなばっかりやっていたら刺されるぞ」
「大丈夫です。もう6回刺されてますから慣れたものです」
「慣れてる場合か!?」
ほんとそれな!