今日はカミキさんを五反田監督に合わせようと思っていたが、幸運な事に稽古事態も17時に切り上げる事になった。
理由としては、劇団ララライの人達もみんなそれぞれ夜は予定があるみたいで、
姫川さんとかなとメルトは熱心に演技を行っていたし、この後で駄目だしされた所の練習もするのだろう……
そんな訳で、いざ出発する時だった。
「私も出来れば……アクア君と一緒に居たいな」
あかねに捕まってしまった。
カミキさんの方を見ると……
「ミキさん私お腹すいたー。がっつりしたものが食べたいなぁー」
「うーん困りましたね。この後アクアと用事がありますし……アクアどうしますか?」
カミキさんも腹ペコガールに捕まっていた。
まぁー時間も丁度夕食時だし……連れて行くか
「仕方ないから2人共連れて行きます」
「……分かりました。とりあえず車持って来ますから、先方に連絡お願いします」
カミキさんはそういうとハイエースを取りに行った。
五反田監督の家に行く前に少しばかり紆余曲折はあったもののなんとか到着した。
手ぶらで行くわけにはいかないとカミキさんが手土産を購入する為に酒屋に行くことになって、そこでウィスキーと各種飲料を持ってきた。
お土産にお酒をチョイスするのは構わないが……コーラやサイダーにファンタなど炭酸系のジュースも何本か持って来ている辺り、カミキさんは飲む気満々だった。
五反田監督の家に着いてチャイムを押すと昭和の大阪のおばちゃんみたいな見た目の五反田監督の母親が出て来た。
「……お久しぶりです」
「あーアクア君久しぶりね! 相変わらず背が低いわね! ちゃんとご飯食べてる!? 食べないといつまで経っても大きくならないわよ!」
五反田母はカミキさんを見て俺と勘違いしたようだが……そもそも背が違うんだから違和感あるだろうが!
「いや、どうみてもアクアはこっちのデカい方で小さいのは妹に決まっているだろうが!?」
い、いや確かにカミキさん髪の毛長いし、背も低いし、おまけに女顔で喉ぼとけでてないから……見た目だけで言えば否定は出来ないが……ルビーでも無いんだよなぁ~
「……初めまして、カミキヒカルです。アクアの紹介で来ました」
「カミキ……カミキヒカル? カミキヒカル!? あの女たらしのカミキヒカル? いや、しかしカミキヒカルは男の筈だが……」
五反田監督のカミキヒカル三段活用は置いといて、カミキさんドラマ界隈でも有名人だったのか……金田一さんも言っていた事が確かなら劇団時代はかなりの売れっ子で便利屋扱いされていたようだし、五反田監督が知っていてもおかしくは無いのか……しかし、脇役メインだから世間の知名度はそんなに無かったようだ。
「……私は男ですよ」
「……なあアクアもしや性同一性障害って事は無いよな?」
「そんな訳あるか!」
なんで監督はこんなに疑い深いのだろうか?
その後カミキさんが保険証と運転免許証を見せて証明した。
「……何故私は性別を信じて貰えないのだろうか?」
カミキさんの見た目とゆるふわパーマのセミロングじゃ仕方ないだろうな。
「それでは改めましてアクアの父親のカミキヒカルです。いつも息子がお世話になっております。こちらお土産のお酒と割る用のジュースになります」
「あら、気が利く坊やね。うちの子にも見習って欲しいわね」
カミキさん31歳なのに坊やって……
「私はカミキさんの事務所でお世話になってます片寄ゆらです」
「まぁまぁ可愛らしい彼女さんね~坊やの彼女?」
「私は愛人13号です」
「「「ぶっ」」」
隣人13号みたいに言うんじゃねーよ!
「あらあら最近の子はお盛んなのね~そっちの彼女は?」
「私はカミキさん公認のアクア君の彼女一号の黒川あかねです」
「あらあらアクア君も隅に置けないわねぇ~やっぱり若くてカッコいい子はモテるのね。……それに比べてうちの子は女っ気が全く無くて……坊やうちの子に口説き方を教えてあげてよ」
聞かれたカミキさんも口元拭いながら五反田監督を観察する。
「……そうですね。とりあえず身だしなみを整えて清潔感を出しましょうか? 髭もちゃんと剃れば見た目は問題ないと思います」
「やっぱり坊やもそう思うわよね~。私もそう思うもん!」
「余計なお世話だ!」
確かに余計なお世話だが、意見を求められた手前無下に出来ないのがカミキさんだし、俺は見慣れているが……やっぱり困った顔しているな
「そ、そうですよね。すみません出しゃばりました。……それにしても夕食もご一緒させて頂きましてありがとうございます。この味噌汁美味しいですね!」
それにしてもさっきから五反田母に坊や呼びされてるの否定しないのかよ! ってカミキさん今何って言った?
「か、カミキさん今なんて言いました?」
「うん? 夕食も「その後です!」……ああ、味噌汁美味しいですねって」
「味覚戻ったんですか?」
「あ、そういえば言って無かったですね。……禁止にしてから2か月ほどで戻りましたよ」
なんでこの人はそんな大事な事を言わないかなぁ~
「……私の所為ではありますが、皆さん歯止めが利かないですから、対策を考える為にもしばらくはお預けにしてます」
あの女たらしのカミキさんが反省はしているなんて……明日は雪でも降るのかな?
それにしても、あんなに楽しそうにしていたカミキさんを見るのは初めてかもしれないな。
何時もは子供の面倒を甲斐甲斐しくしているし、食事だってニコニコしながら見守っているけど……決して輪には入らず外から見守っていたが、今日はとても楽しそうにしていた。
決して甘える事も弱さを見せる事もしないカミキさんだけど……
今日だけはとても幸せそうに見えた。
夕食を食べ終えたあと監督の部屋に集まったが……
「アクア君って五反田監督のお弟子さんなんだ」
「役者の仕事もこなしつつもモデルもやってるみたいだしな……本当にカミキにそっくりだな」
「俺は演技の才能は無いから裏方やモデルをメインにして稼いでるだけで、役者はあくまで頼まれたからやってるだけだし……」
「そうは言っても昨日今日の稽古では大分熱が入ってたよね?」
あかねはニコニコしながらこっちを見てくる。
あかねは知らないだろうけどカミキさんに『お金を貰っている以上は『プロ』の自覚を持て』って言われちゃったし、何より彼女の前でカッコつけれない奴は男じゃないからな!
「別に良いだろ」
「ふーん」
「ま、俺としてはアクアが役者の仕事をしてくれるのは教えた甲斐があって良いけどよ」
「そういえばアクア君が出てるやつってここにありますか? あったら見たいです」
「……俺は良いけどよ」
監督はそう言うと俺の事をじーっと見て来た。
いや、分かってるんだよ。
あの頃の俺は自分に才能があると思って勘違いしていた謂わば黒歴史なんだ。
「……悪いけど俺が見ていないところで見てくれ」
「……分かりました。じゃあ五反田さんお酒でも飲みながら見ますか?」
「お、おう?」
「あ、ミキさん私が作りますよ?」
「では、私は適当にコーラで割ってください」
「俺はストレートで良いや」
「はい、じゃあ私はロックでいこう」
「「「かんぱーい」」」
俺の黒歴史を酒のつまみにし始めたから、俺はベランダに退避した。
しばらくするとあかねがベランダに出て来た。
「アクア君はどうして演劇をしているの?」
「それはさっき答えたろ? 頼まれたからやってるだけだって……」
「じゃあモデルや裏方の仕事は? お金の為?」
「……お金が欲しいからってのは勿論あるけど、正確に言えば目標が無いからだ。俺自身将来何になりたいか今は定めてないから、とりあえずカミキさんの伝手でモデルやったり五反田監督に弟子入りして裏方の仕事やったりしている。あかねはどうなんだ?」
「私は楽しいからやっている」
「ああ、知ってる」
あんな風に全力で楽しんでいる演技を見れば誰って分かる。
「もう、アクア君そうやって私の事理解してくれているけど、私はアクア君の事知らないんだからもっと教えてよ」
全く可愛い彼女な事だ。
しかし……
「それは後ろで聞き耳している人が居ないときにな」
振り返ればニヤニヤしながらこちらを見ている五反田監督と映像を見て頭を抱えているカミキさんと映像に映るアイをじーっと見ているゆらさんが居た。
「いやー若いって良いなカミキ!」
「男を魅せるのに老いも若いも無いと思いますが……はぁーアクアの自信の無さの原因が分かりましたよ」
「お、なんだ言って見ろよ」
「……アイさんが悪いですね。こんなのは割り切っている人間じゃないと誰もが心を折られますよ」
「いやー流石アイさんですよね! アイさんが出た瞬間に正直お腹いっぱいですもん。こんな最初からクライマックスみたいな事されたら私だったら二度と演技なんて出来ませんよぉ~」
カミキさんもゆらさんも言葉は違えど言ってることは同じだったが……結局の所俺にアイと同等の才能があればこんな事にはならなった。
「アイは悪くない……才能が無い俺が悪かっただけだ」
「……これは五反田監督にも責任はありますよ?」
「……やっぱり?」
「それはそうですよ! アイさんみたいな無自覚な太陽に蜂が挑んでも焼かれて死ぬだけですよ」
カミキさんは俺の事をムサシって言いたいのか?
例えが古すぎて分からねーよ!