「らぁぁぁ」
「良いですよメルト君! その調子です! 後、出来れば力も加減してくださいね!」
「ハイ!」
カン キン ギャリリ
舞台の上でメルトとカミキさんが刀を使った稽古を始めており、打ち合う音が鳴り響く……最初はお互いスローペースで動きの確認をしながら行っていたが、今じゃあ映画のワンシーン染みた殺陣を演じていた。
それと言うのも鴨志田が、またメルトに対して余計な事を言ったようだ。
『姫川さんはやっぱ凄いなー……だけど、お前の役は振り間違いだな』
鴨志田はそう言うと少しばかり稽古をして帰ってしまったらしい
言われたメルトもそれを知ったカミキさんも鴨志田に言い返す事はせずに稽古に集中する。
殺陣の稽古が終わると、メルトもカミキさんも汗を滝の様に掻いていた。
「メルトもカミキさんもお疲れ、コレどうぞ」
傍に置いてあったスポーツドリンクを渡してた。
「アクアサンキュー!」
「アクアありがとう」
メルトは一気に飲み始めるが、カミキさんは少量を口に含んだだけだった。
「二人ともちょっと聞いて良いか?」
俺がそう聞くと二人は顔見合わせて答えた。
「ああ、構わないけど……」
「どうぞ……」
メルトもカミキさんもそれだけ言って、俺の言葉を待ってくれた。
、
俺も鴨志田の言葉には相当ムカついているが、言われたメルトもそれを聞いたカミキさんもどう思っているのか単純に気になってしまった。
単純な話ではあるけど、鴨志田の役をカミキさんが奪った方が良い気がしてならないし、現場の雰囲気も悪くなる。
なのに……カミキさんは鴨志田に何を言うこともしなかった。
一体何故だ?
「……鴨志田に対してなんだが、カミキさんこのままで良いのか? 現場に悪影響が出るから、金田一や雷田さんに相談した方が良いんじゃないか?」
「それなら、メルト君の意見が最優先ですね。メルト君どうしたいですか?」
「俺は……今はカミキさんに付きっ切りで教えて貰っているから、演技の質も上がっているけど……それでも、下手だった事には変わりは無いし……こうして迷惑もかけているのは確かだ。だから俺からは特に何か言うつもりはないな」
「私はメルト君に対して迷惑だと思った事はありませんよ? あと今回に関してはメルト君が言わないのであれば、私も特に鴨志田君に対しては動く気はありませんよ。……それに舞台が終わった後の方が私は楽しみで仕方がありませんからね」
カミキさん……動く気は無いって言ってるけど一体何をする気なんだ?
「じゃあ、メルト君も太刀捌きも上手くなりましたので”アレ”の練習もしましょうか?」
「……カミキさん、俺”アレ”は出来る気がしないですよ?」
「大丈夫ですよ……
カミキさんはそういうとメルト連れて何処かに行こうとしていた。
「ちょっとカミキさん”アレ”ってなんですか? それにメルトに何を仕込むんですか?」
「それは本番までのお楽しみですよ。今喋ったらつまらないじゃないですか……」
にこやかに笑いながら、カミキさんはメルトを連れて去って行ってしまった。
「アクア君居た! 早く五反田監督の所に行こ?」
そうこうしていると時間になってしまったようで俺もあかねに手を引っ張られて五反田監督の所に向かった。
「ぐぬぬぬ……姫川さんこの後暇ですか? 稽古付き合ってください!」
「おお、俺もまだやりたりない位だから丁度良かった」
嫉妬の炎に塗れたかなの事はとりあえず見なかった事にした。
「……遅くなりました~ってミキさん居ないし!?」
「ゆらさん……丁度いい所に来たわね。ちょっと鞘姫やってよ。」
「ええ~無理だよかなちゃん!?」
ゆらさんの驚きの声が微かに聞こえたような気がするが気のせいだろう……
そして、舞台公演日となった。
一応……というか、無償で手伝ってくれた五反田監督や身内であるアイ・ルビー・ミヤコさん・斎藤社長を呼んでいる。
カミキさんはどうしたのかと思えば……
「ああ、私はですね。普段中々忙しくて来れない人を呼びましたよ」
「……もしや、四条社長ですか?」
モデルの仕事の関係上何度か逢ったことがあるが。年齢的に言えば40代なのに……ミヤコさん同様老いを感じさせない美魔女であり、カミキさん曰く淫獣モンスターらしい
「……残念。正解は姫野千佳です」
姫野千佳……カミキさんの愛人だったっけ?
子供は事務所に居たから分かるけど、姫野千佳さん本人にあった事は数回位しか無かった。
国内トップクラスの天才ピアニストは今なお健在で、多忙であることも理由の一つだ。
学歴もカミキさん同様で東大卒である。
一体何がきっかけで、まかり間違って愛人になってしまったのか甚だ疑問である。
「さて、じゃあそろそろ準備して行きましょうか?」
あ、もうそんな時間か……
「……ところで、メルトは大丈夫なのか?」
俺やあかねもそうだったけど……全体の通し稽古が終わると、後はそれぞれで好きにやっていた。
カミキさんとマンツーマンでやっていたとは言え、出来る時間帯は限られていた訳だし心配にもなる
だが、それに対してカミキさんはにこやかに答えた。
「故事成語ですが”男子三日会わざれば刮目して見よ”って言うじゃないですか……期間で言えば2週間以上ありましたから、メルト君は問題ありませんよ。しかし、それでも批判があれば……それは指導した私の責任です」
『プロ』に対しての拘りが強いカミキさんが問題は無いと言った以上は大丈夫だろう
はぁー俺もメルトの心配をしている余裕なんてそもそも無いが……何故だろう。何処かワクワクしている自分が居る。
「さてと私もゆらさんに負けないように頑張らないと」
いや、流石に負けないでしょ!