カミキヒカルになりました。(本編完結)   作:だめねこ

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メルト視点


第50話

 俺にとって鴨志田朔夜は2.5の舞台では重宝されまくってる人気の役者で普段はへらへらした女好きだが、芝居は”上手い”

 普段の性格と真逆のキャラなのに原作の再現は完璧で演技力も十分すぎるとカミキさんに会わなければ思っていた事だろう……

 

 

『今日あま』の最終回で手本で”俺”になったカミキヒカルを見て驚いたのは記憶に新しい。

 そして、俺とは思えない”偽物”が演じた役は本物よりも本物に見えた。

 目の前にいる人物はどう足掻いてもカミキヒカルという人なのに……まるで頭の先からつま先どころか心の奥底まで見透かして、化ける事が出来る正真正銘の演技の化物だと思った。

 でも、演技の化物が俺に言った。

 

「”偽物”に出来たのなら、”本物”に出来無い道理はありません。自信を持ちなさいメルト君」

 

 その言葉があったからといて、初心者の演技が劇的に向上する訳ではなかったが、その日を境に俺の中の”何か”が変わった気がした。

 

『今日あま』が終わった後もネットで散々言われたし、何なら面と向かって演技が下手くその大根役者だって言われたが……カミキさんの言った”腐らずに意地を張れるなら……それは君の立派な武器になります”が俺の心を支えてくれた。

 

 それからはやれる事をやって来たつもりだ。

 役者に必要なのは体力だと言われれば走り込みも行ったし、漢字が苦手なら本を読めと言われれば、おすすめの本を聞いて少しでも時間があれば読むようにした。

 

 そんな時だった。

 『今日あま』の時に仕事を回してくれた鏑木さんが再度俺に演技の仕事を回してくれたが、それはよりにもよって主役級のだった。

 流石に演技の練習をしているとは言え、初心者同然である俺なんかが居ても場違いで迷惑以外の何物でもないと思い辞退しようと思ったが、鏑木さんが”ああ、カミキさんも呼ぶから大丈夫だ”と言われた時俺は一も二も無く出ますと答えた。

 

 最初の顔合わせの時はひどかった。

 星野アクアも有馬かなも俺を見た時うわって顔していたし、何なら挨拶の時だってそうだ。

 一流しかいないと言われる劇団ララライの人達も実際に言われた訳じゃないが目を見れば分かる。

 ”何でお前みたいな素人がここに?”と訝しんだ目で見られていた。

 そんな中でもカミキさんだけは俺が居た事を嬉しそうにしていた。

 しかし、そんなあからさまな態度を出せば空気が悪くなるのにカミキさんは全く気にしてなかった。

 

 それはそうだ。

 稽古三日目にして、全員の台本を丸暗記した上で『『稽古の代役』(スタンドイン)』も全員の解釈通りに全てこなした訳だ。

 結果を出した人に文句を言える人は存在しない

 それ以降はカミキさんに対しての侮蔑の視線は無くなったが、それとは別にカミキさんからの見る目が変わった。

 

 今にして思えば、カミキさんは自分の演技に絶対の自信があるが、それとは別に勝負事が好きなようで、特に演技勝負なんか挑んでくる気骨がある奴が好きらしいが……悲しい事に誰も挑んではいなかった。

 そもそもが看板役者の姫川さんは元々カミキさんの事を兄さんと呼んで慕っているくらいだし、演出家の金田一さんは古くからの知り合いの様だった。

 劇団ララライの若きエースと呼ばれる黒川あかねは元天才子役の有馬かなとバッチバチにやっている。

 寧ろ飛び火しない事を心配するレベルだったが、そのバチバチしているところをカミキさんは楽しそうに見ていた。

 

 そして、カミキさんが俺やゆらさんと言った初心者に演技指導を行っていたが、これは劇団ララライでは本来タブーらしいのを後で知ったが、俺はカミキさんに演技指導をして貰って良かった。

 それと言うのも、劇団ララライの人達や今回呼ばれた人は演技が出来るのが大前提なのだ。

 俺も努力はしてきたが、やはり初心者レベルである事は否定出来ない事実だったが……

 

「ああ、舞台まで大分日数ありますから、それまでに仕上げれば問題無いですね!」

 

 俺は落ち込んでいたんだけど……カミキさんにとっては、大した問題では無かったようだ。

 

 そして、演技指導の合間にカミキさんに気になった事があったから聞いてみた。

 

「……カミキさんの演技って一体何を考えてやればあんなに本人に見えるんですか?」

「あ、それ私も気になっていたんですよ!」

 

 カミキさんはすくっと立ち上がると嬉しそうに言ってくれた。

 

「いや、”アレ”実際には演技じゃないんですよ。それと言うのも私がやっているのは思い込みと言いますか……催眠術に近い物がありますが、一片の曇りなく胸を張って本気で思い込むんです。キャラの設定なんかは台本や原作にちゃんと書いてある訳だし、実際の人物になる場合は目の前に本人が居るんだから観察すれば良いんですよ」

 

 頭おかしいんじゃねーの?

 

「……カミキさんそうは言ったって、その人の全ては分かりませんよね?」

「勿論そうですよ? なので私は第一印象とある程度の自己解釈で対応してますね。なので過程が時に極端に違っていても、結果が同じであれば私個人の考えで言えば何ら問題は無いと思っています。例え原作者がおり、このキャラはこんな事言わないと言われても……思うだけなら自由です。仮に匁って言う弱気なキャラが、心の奥底ではヒロイン願望があっても良いわけですし、色々な一面を出しても良いじゃないですか? そこでしっくり来たものが正解になるんですからね」

「良いのかな~?」

「口に出さなきゃ分かりませんからね。だから、メルト君はメルト君が思う『キザミ』になれば良いんですよ。解釈不一致なんてのはそう言った一面を知らなかっただけの話です」

 

 それが功をなしたのかどうかは分からないが俺の演じる……違うな、俺が思う『キザミ』に一歩近づけた気がした。

 

 

 

 

 そして、今

 

 改めて言う事じゃないですが、鴨志田さん……あなたは演じる事がとても”上手い”です。

 俺は演じる事は下手くそなので諦めました。

 なので、俺は俺が本気で思う『キザミ』になりました。

 

 俺が『キザミ』なら戦う前に”アレ”をやる

 

 原作でやっていた刀を投げて、右腕に刃先を乗せて回転させて柄を取る!

 

 演じる事が『偽物』なら……今の俺は『本物』だ。

 

「かかって来いやぁぁぁ」

 

 俺の『キザミ』が大見得を切って何が悪い!

  

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