カミキヒカルになりました。(本編完結)   作:だめねこ

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アクア視点


第53話

 かなもあかねも実に楽しそうで良い演技をして眩しく見える。

 

 かなの演技はアクアも楽しもうよと語りかけてるようだが……

 

 いや、楽しんでいる余裕なんてねぇーからな!

 

 俺はお前たちみたいなスター性なんて持っていない

 あるのは裏方で仕込まれた小手先の技術だけだし、なんなら今だって必死にお前らの演技に食いつくのが精いっぱいだ!

 こっちは無表情だから、演技に集中出来るけど、姫川さんを始め皆表情豊かで演技を行っている事からも余裕があるのだろう。

 

 『ツルギ』の刀をなんとか受けはするものの、体勢を崩してしまったところでクライマックスが始まる。

 

『ブレイド』! 今よ!!」 

 

 『ツルギ』の掛け声に反応して『ブレイド』が隙を晒した『刀鬼』に必殺の一撃を加えようとしたが、恋人の『鞘姫』がその身を盾にして『刀鬼』を守った。

 『鞘姫』が斬られる姿は俺にはスローモーションの様に見えた。

 

 握っていた刀を離して座り込んでしまう

 

 もし、これがリアルなら俺はあかねを斬った相手を今すぐ刀を拾い切り殺していただろう……

 だが、『刀鬼』はそうじゃない……

 恋人である『鞘姫』が斬られた事で生まれた感情は『怒り』でも『絶望』でも無く『虚無感』だった。

 

「刀を抜け、女を斬られて黙って引き下がるのか」

 

 だからこそ『ブレイド』の言った事に対して出てくる言葉は……

 

「もういい」

 

 目の前で恋人を守れなかった『刀鬼』は『無力感』に囚われている。

 

「俺は『鞘姫』の為に戦っていた。『鞘姫』を守れなかった今となってはもう戦う理由がない」

「……それだけか? あるんじゃねぇのか? お前にも……」

 

 無表情の『刀鬼』が恋人を倒れて湧き始めた感情は『虚無感』で次に守れなかった事により『無力感』で包まれたなら……最後は『怒り』だ。 

 刀を掴み『ブレイド』に斬りかかる。

 斬った『ブレイド』が許せなかったのか、はたまた守れなかった『刀鬼』が自身の力の無さに怒りを覚えたのか……どちらが正しい解釈かは結局俺には分からなかったが、どちらも正しくどちらも間違っているのかもしれない

 どちらにせよ俺はそんな体験だけは死んでもごめんだ。

 だが、仮に俺がもしそんな体験をしてしまったなら……自身はどうなっても構わないから、相手を必ず殺しにいくだろう

 

 刀を弾き飛ばされても、俺には牙がある!

 体が動くのであれば決して諦めはしないが……

 

 

 しかし、どんなに頑張ったところで物語のラストは決まっている。

 

 

 結局の所、主人公である『ブレイド』が勝って、『刀鬼』は負けたこの一点に尽きるのだろう

 

 守る事も復讐する事も出来なかった『刀鬼』は『絶望』した。

 

「戦いは終わりだ。けが人は医者に連れていけ!」

 

 『ブレイド』はそう宣言するも『匁』が冷静に告げる

 

『失血が多すぎる『鞘姫』は助からない』

「まだだ!」

 

 そこに『ツルギ』が待ったをかけた。

 

「この子の剣は傷移しの鞘で、自分が負った傷を配下に移し替える事の出来る支配者の力だ。それをこの子は、仲間の傷を自分に移し替える事に使っていた」

 

 『ツルギ』の言葉に渋谷クラスタ側は驚いていた。

 

「心当たりはあるでしょう? 私にもあるのよ。戦いが終わって身体のどこも痛くないのは初めて……敵にここまで情けを掛けられたのは初めてなのよ」

 

 『ツルギ』はそう言うと体を改めて動かして確認する。

 それにより、戦いに参加していた面々も自身の身体を改めてみると傷は無くなっていた。

 

「もしかして初めからこうして戦いを収めるつもりで……」

 

 『キザミ』も自身の身体を見直して『鞘姫』の目論見に気が付いたようだ。

 

「まったく……」

 

 『ブレイド』と『ツルギ』が『鞘姫』の剣を握り、鞘姫の傷を自身に移し始めた。

 

「この鞘の本来の使い方は」

「こういう事だろ!!」

 

 少なくない傷を二人が負う事で『鞘姫』の傷は無くなり目を覚ます。

 

 これは俺じゃなくても誰もがそう動く事だろう……

 死にかけていた恋人が回復して目覚めたならばやる事は一つ

 

 恥も外聞も関係なく『鞘姫』を涙を流しながら抱き抱える。

 

 こうして、物語はハッピーエンドを迎えて主役の『ブレイド』が綺麗に締めた訳たが……

 コレ後一ヶ月やるのかぁ~

 

 

 

 

 

 

 楽屋に戻ってかなと一緒にソファーに座っているんだが……

 

つっかれたー! 早く家に帰って靴下脱いで寝っ転がりたーい

 

 俺の彼女はおっさんみたいな事を言い始めた。

 これで20歳過ぎていたら間違いなく、キンキンに冷えたビールでも飲んで”仕事終わりのビールは最高だわ”って言いかねないな

 そんな中まるで地獄に落とされた罪人の様な顔をしてるルビーとミヤコさんと嫉妬の炎を目に宿すアイと楽しそうにしている姫野さんだっけかな? が楽屋に来た。

 

「……おにーちゃんお疲れ」

「一体どうしたんだ? ルビーにミヤコさんは何でそんなに疲れているんだ?」

「……私は何も言わないし、何も聞いて無いからね!」

 

 ミヤコさんはそう言うと頭を抱えて椅子に座ってしまった。

 ここまで疲れ切っているミヤコさんを見るのは初めてだ。

 

「……アイ一体何があったんだ?」

 

 なんでアイがそんなに嫉妬塗れになっているのかと思ったら……そういえばカミキさんは舞台が終わったら売店でグッズ販売もしていたんだった。

 あの女たらしのカミキさんがグッズ販売を自らやっている以上列は凄い事になっているし、何より女性の観客が多くいた以上は買わせているのだろう

 

「……私もヒカル君と一緒に劇やりたい! ゆらちゃんばっかりイチャイチャしてずるいよ! アクアもそう思うでしょう?」

 

 もし、仮にアイが出たら……

 

 すっげーテンション上がるな!

 アイが『鞘姫』なんかやったら、俺は今日以上に演技が出来る気がする!

 

「……よし、今すぐ金田一さんを脅迫してねじ込もう!」

「ダメに決まってるでしょ! アイさんが出たら『東京ブレイド』じゃなくて『東京ブレイドinアイ』になっちゃうじゃない!」

 

 かなにハリセンで叩かれてしまった。     

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