「まずい! このままだと兄さんに全部持っていかれる!」
慌てる姫川さんを他所に金田一さんは眠たげな眼をしながらも当然の様に告げた。
「結婚したって言ってはいたけど、やっぱりカミキはカミキだったか……」
カミキさんとキャストの様子を見ながらもしみじみと告げる金田一さん
本来キャストが聞きに回るはずなのに、何故かカミキさんが聞きに回ってキャストの子の愚痴を聞いており、抱き着いて来た子に関しては優しく頭を撫でていた。
やはり見た目がショタだから、相手の女の子も油断してしまい、そこで圧倒的な父性で一気に心を鷲掴みにしてしまうのだろう
「アクア作戦変更だ。直球勝負に出るぞ」
姫川さんはそう言うと立ち上がった。
「兄さんこっちに来てくれ、ちょっと聞きたい事があるんだ」
「すみません。大輝君に呼ばれてしまったので離れますね」
「じゃあ私もそっちに行くー」
「待って私も行くよー」
カミキさんが移動するとキャストの女の子も2人着いて来た。
カミキさんは俺の隣に座ろうとしたが、先にキャストの子が座ったので、姫川さんの所に移動しようとしたら手を掴まれて強制的に隣に座る事になり反対にもう一人の子が座った為、逃げ道は塞がれた。
そして、正面に座っている姫川さんと終始ニヤニヤしている金田一さん
「……たまには、兄さん自身の話が聞きたいんだけど……例えば失敗談とか」
姫川さん……コミュ障か!? いくら何でも直球過ぎるだろう!
そんな無茶ぶりで誰が答えるんだよ!
「失敗談ですか……困りましたね」
カミキさんはそういうと眉を八の字にしてうーんうなり始めた。
「えー良いじゃないですかぁー私も聞きたーい」
「私もー」
よし、キャストの子達も流れに乗ってくれたようだ。
「……無いですね。皆さんが聞きたいのはナンパの失敗とか料理の失敗の話じゃないですもんね?」
「そうだけど……そうなんだけど、兄さんでもナンパ失敗する事あるのか?」
「まぁーそれはありますよ。いくら私だって万人に好かれる訳ではありませんし、好みのタイプでは無い人もいるでしょうからね」
「ちなみに料理に失敗は?」
「味覚障害の時に調味料の分量を少しばかり間違えた事がありましてね。食べた時にちょっと濃すぎた事がありませんでしたか?」
そういえば、カミキさん味覚障害の時でも普通に料理作っていた。
味見とかはちびっ子がしていることが多かったけど、特に違和感はなかった気がするが……というかこの人どうやって味のリカバリーしたんだ?
「俺は分からなかっ……ってちょっと待て、兄さん味覚障害だったのか!?」
「あっ! そういえば大輝君には言ってませんでしたね。 今は味覚も戻っていますので大丈夫ですよ」
「そ、そっかーそれは良かった」
「じゃあ、失敗談は良いとして後悔したことってカミキさんはあるのか?」
「こ、後悔ですか? うーん、そうですねぇー同年代の男友達が居ないぐらいですかね? 小学校も中学校も役者やモデルの仕事で忙しかったし、高校は育児に仕事にマネージャー業務もそうですし、進学も考えていましたので勉強もしないといけない訳なので、遊んでいる暇なんてありませんでしたし、そんな余裕があれば寝る時間に充てたいですからね」
あれ、カミキさんの後悔の話なのに流れ弾が飛んできたぞ?
「兄さん……俺も小中高共に役者の仕事が忙しくて友達0人」
姫川さんは見た目が根暗の陰キャだし、そもそも喋るのが苦手そうだからな
「アクアはどうですか? 今高校でボッチじゃないですよね?」
「あー陽東高校はエレベーター式だから外部受験組は中々難しいけど、それでもクラスで喋る奴ぐらいは居るぞ! ほら、カミキさんにサイン強請った男子生徒居たじゃん」
「あーあの子ですか……女性にサインをしたことはかなりありますが、男性にお願いされたのは彼が初めてなんですよね」
カミキさんはすっごい嬉しそうに言ってるけど、やっぱり女たらしだから、同性からは嫌われているんじゃないのか?
「やっぱり女たらしだから、同性からは嫌われているんじゃないのか?」
あ、やべぇ思わず口から漏れてしまった。
「……ええ、勿論嫌われたりしましたよ。今思い返しても腹立たしい事この上ないですが……許されるなら、あいつら全員ぶちのめしてやりたいぐらいですよ!」
「それっていつの話ですか?」
こんなカミキさん初めて見たかも……
「それは大学の3、4年生ぐらいの時でしたかね。ピアノサークルの連中ですが……当時千佳さんもピアノサークルで、男共に大層モテていたんです」
「となると姫野さんが大変な目にあわされた感じですか?」
姫野さんはたまにしか会わないからイマイチ性格が分からないけど、そんなに悪い人では無かった気がするが……
「……千佳さんとは大学1年生からの付き合いですが、会った当初から傲慢で高飛車で面食いのショタコンで最初の言葉が『あなた……可愛いわね? 私が飼ってあげるわ。光栄に思いなさい』ですからね」
え!? あの人そんなんだったの!?
黙って聞いてる姫川さんも驚いてはいた。
「姫野……千佳? カミキ……姫野千佳ってもしやピアノで有名なあの姫野千佳か?」
「そうです。金田一さんご存じですか?」
「いや、ご存じも何もかなりの有名人じゃねーか! プライベートは一切謎の深遠の令嬢って言われていたからな」
「……まぁー確かに見た目やスタイルも良い訳ですが、性格はアッパッパーですよ。っと話が逸れましたね。で、千佳さんなんですが、ピアノサークルの男連中に大層好かれては居たようでしたが、千佳さんの目に留まったのは皮肉にも私だけみたいで、それからは大学内ではずっと付きまとわれてましたね」
カミキさんはそういうと喉が渇いたのか、お酒を飲んで喉を潤してから再度話始めた。
「私も大変忙しかったので、千佳さんにはぞんざいな態度をしてましたが、それがサークル連中にとっては許せない事だったらしくて、知らない間に私をミス東大にエントリーしていたんですよ! 文化祭は寝て過ごそうと思っていたのに……」
「お前東大卒なのか? 女たらしだったのに?」
金田一さんは大層驚いていた。
「金田一さん……驚くのは構いませんが、女たらし=勉強出来ないにはなりませんよ。こんな遊んでいる私でも学業はおろそかにはしてませんからね」
参考にはならないけれど、ルビーにはこの姿勢を見習って欲しいものだ。
「まぁー結論から言えば辞退が出来ない状態だったので、『B小町のアイ』に化けました。衣装は秋葉原で購入したメイド服を着用してね。その結果苺プロや大学側にも『アイ』が東大に居るって大騒ぎになりましたが、見事ミス東大に選ばれました。まぁーそれ以降はサークルの連中も大人しくなりましたが……今風に言えばBSSですかね」
「「「BSSってなんだ?」」」
俺も姫川さんも金田一さんも口をそろえて聞いてしまった。
「あ~『
「そんな事を躊躇なく出来るのはカミキさんぐらいですよ」
「アクア……どんなに綺麗な言葉で言い繕ってもこの世は男と女の世界です。口に指を咥えて見ていても欲しいものは手に入る事はありません。物ならお金を貯めればいずれは買えますが、人はそうじゃありません。一歩踏み込んだ奴が勝つんです。私から言わせて貰えればナンパや合コンに出会い系などをやっている人の方が遥かに健全ですね」
「いや、それは極端なんじゃないか?」
「いえ、これに関しては男も女も関係ないですが、どちらにせよ行動しない人にはチャンスはありませんし、どっちつかずの優柔不断な人間が好かれる事はありません。最後は体を張った奴が勝つんです」
いや、うん、まーそうだけど……そうなんだけど、ここまで饒舌なカミキさんを見るのは初めてだけど……もしや酔っぱらっているのか?
その後もカミキさんの恋愛術が永遠と説かれており、キャストの子もうんうん頷いていたのが印象的だった。
とりあえず、明日も舞台がある訳だし今日はお開きにした。
家に帰るとルビーが必死に勉強をしていた。
そういえばテスト期間だったが、この様子だと何時も通りの赤点ギリギリの低空飛行だったのだろう
反対にアイはテストの点が取れており、ルンルンとしているが、カミキさんと絡めていない所為か、目のハイライトは消えている。
正直言ってかなり怖い
「た、ただいま」
「アクアおかえりー」
「……お兄ちゃんおかえり」
ルビーが今にも泣きだしそうな目でこっちを見て来るけど……テストの結果だけでここまで落ち込むものか?
俺はテストで悪い点を取った事は無いからルビーの気持ちは分からないが、とりあえず少しぐらい見てやるか……
そう考えつつ、アイとルビーが勉強しているテーブルに近寄った。