「……で、アクア焼肉の匂いはまだ良いけど、なんでお酒や煙草に果ては香水の匂いがするのかなぁ~?」
「お兄ちゃんのバカ! 不良! 女たらし!」
アイとルビーが勉強しているテーブルに不用意に近寄った結果がこれかよ
先に風呂に入れば良かった。
そうすればこんな事にはならなったのに、今度から気を付けよう
「お酒は酔いつぶれた大人を担いだからで、煙草は喫煙していた人のが俺に移っただけだし、最後の香水は会員制のバーに行ったからだ。ちなみに誤解の無いように言っておくが俺に女性が着いていた訳では無くて、俺の隣に居た大人に着いてたから実質俺は無罪だ」
「ママ! お兄ちゃんこんな言い訳してるけど、どうなの?」
「……ルビー? 私は確かに嘘を見破るのは得意だけど、別に嘘発見器じゃないからね?」
実の娘に嘘発見器扱いされれば、いい気はしないよな
「まーアクアは嘘を吐いてないようだね。それにしても、アクアもそういうお店に行くようになっちゃったかー」
アイはそういうと俺の近くに寄ると匂いを嗅ぎ始めた。
「焼き肉・酒・煙草・香水で隠れてるけど、僅かにヒカル君の匂いもある……」
なんで分かるんだ?
カミキさん匂う人じゃないけど……やっぱり、女性に対してのフェロモンでも全身から発散されているのだろうか?
そんな事を考えていたらアイが癇癪を起し始めた。
「アクアばっかりずるいずるい! 私だってヒカル君に会いたいし、一緒に遊びたいし、夜景の見えるところでお食事デートしたい」
「別に俺は仕事先で会ってるだけで、遊んでいる訳でもないし、ましてや劇が終わった後にカミキさん含めて食べに行ってるだけだからアイが思っている事は何一つしていないぞ?」
……と言ってみてもこの我儘なアイが納得するはずも無いから、最終手段を使った方がはやい
「それに俺が今帰って来ているって事はカミキさんも事務所にいる訳なんだから、アイから電話位掛けてみれば?」
「……その案頂き♪」
アイはそういうと素早く自身のスマホを取り出してカミキさんに電話をかけ始めた。
「……じゃあ俺は風呂入って寝る」
「あ、じゃあ私もそろそろ寝るね。ママおやすみ」
「ルビーはだめだよ♪」
アイに肩を掴まれたルビーは俺の事を涙目で見ているが……
「ルビー知ってるか? ドナドナされた子牛は助からないんだ」
そして、家ではアイに逆らえるものは存在しないのだ。
次の日の朝リビングに行くと、アイがフライパン片手に料理を作りながら電話をしていた。
制服の上にエプロンと言ったファンが泣いて喜ぶシチューエーションである。
年齢だって32歳なのに身長が低い上に制服も着用しているせいか、今は16歳位に見えてしまう。
思わず神に感謝してしまうレベルだ。
まー高校に入ってからずっと感謝しているんだが、構わないだろう……
しかし電話をしながら料理をするなんて、中々珍し事もあるものだと思いつつもテーブルに着いた時、俺は絶句した。
目の前のお弁当だが、俺とルビーのは普通だが、アイは自分のだけキャラ弁にしており、それもやたらと完成度が高いデフォルメしたらこんな感じになるであろうカミキさん弁当だった。
いや、いやいやこれ高校に持って行って食べるの? それも教室で? マジかぁー
「お、おはようアクアどうした……の!?」
あくびをしながらも制服に身を包んだルビーもアイの気合の入ったキャラ弁を見て思わず絶句していた。
「……あ、ヒカル君ごめーんそろそろ電話切るね♪」
『……ええ、それではまた今夜』
朝からテンションが上昇しているアイだけど……コレ電話の事教えない方がよかったんじゃないかな?
「あ、アクアとルビーおはよー♪ 朝ごはん出来てるから早く食べようね」
「……そうだな」
「……うん」
まだ、公演中だから午前中の一限ぐらいしか授業受けれないけど……弁当は貰って行こう
もうすぐ千秋楽だし、そこさえ乗り越えてしまえば一旦は仕事は終わりだし、しばらくは仕事はお休みして、どこかに旅行にでも行きたいものだな。
カミキさんにお願いすれば良い所に連れてってくれるだろう
と、この時の俺は安易に考えていた。
千秋楽当日……ミヤコさんとルビーからは何故か恨みがましい目で見送られたけど、アイからは「頑張ったアクアはちゃーんと評価がされてるから、最後まで気を抜かないようにね」と意味深な事を言われた。
恐らく『東京ブレイド』を見に来た有力な関係者でもいたのだろう
ま、才能が無い俺は下手な事をする必要は無い……やれる事を全力でやるだけだ。
そんな風に意気込んで千秋楽を迎えた。
舞台も終わって楽屋で皆が皆のんびりと終わった余韻に浸かっている時だった。
慌てた顔をしながら雷田さんと金田一さんが知らない5人の男女と姫野さんを伴ってやって来た。
「千佳さん? これは一体?」
まず初めにカミキさんが口火を切った……いや、切ってしまった。
「あ、ヒカルこちらが頼まれた
それを聞いた瞬間にカミキさんも冷や汗を流し始めた。
「……君たちの舞台は実に素晴らしい演技だった」
「まさにファンタスティックだったよ」
「目の前に本物が現れた時は心臓が止まるかと思ったぐらいだ」
世界最高峰の評論家達はこぞって誉めだしたが……雲行きが怪しくなってきた。
「……期待外れだった鴨志田君も最後にはようやく殻を少しぐらい破れたようだったし、観ていて詰まらなくはなかった」
評価としてはアレだけど、メルトと対比になってしまうと鴨志田さんが喰われていたから仕方ない部分ではあるよな
「しかし、カミキ君!? 君は何故脇役をやっているんだ? 君がその気なら
ここに来てカミキさんの脇役が裏目に出るなんて……こんな事あり得るのか?
カミキさんもまさかこんなことになるなんて夢にも思っていなかっただろうし……
「いえ、私はこう見えて忙しいので、脇役にまわったと言いますか……事情があったのでやってる部分もありますが、決して弱みを握られている訳では無くてですね」
あのカミキさんがしどろもどろ答えてる!
「クッ……事情があったのか、ならばカミキ君ハリウッド映画に出てみないか? 場所はアメリカだが勿論費用は私が出す」
「……すみませんありがたい話ではありますけれど、ちょっと考えさせてください。それと言うのも私カミキプロダクションの代表取締役をやっておりますので、あまり事務所を空けておくわけには行かなくてですね」
「むぅぅ、確かにすぐには決められないか……分かった。では一週間後に君の事務所に伺わせてもらうのでその時に答えてくれ」
「わ、わかりました。」
それだけ言うと評論家達は帰って行ってしまい、雷田さんが後を追っかけて見送りに行った。
「……はぁー結果的には良い方向に転がったから良かったものの」
金田一さんもため息を吐きながらも、評価された事は嬉しく思っているようだ。
反対に姫川さんやかなやあかねは表情にこそ出してはいないが……若干プルプルしているし、メルトに至っては冷や汗を掻きまくっていた。
そして、肝心の鴨志田さんは顔を青くさせていたが、ギリギリの評価ではあった。
「そ、そうですね。ところで千佳さん何故世界最高峰の評論家を呼んでしまったんですか?」
そんな中カミキさんは原因の姫野さんに問いただすが……姫野さんは何を当然と言わんばかりに首を傾げて答えた。
「何を言っているのヒカル? どうせ評価するなら最高峰が一番じゃないですか!?」
それは確かにそうなんだけど、そうなんだけど……一歩間違えれば全員地獄にララライしてもおかしく無かった。
「……千佳さんはそういう人でしたね。すみません皆さん思わぬご迷惑をおかけしました」
カミキさんそういうと頭を下げたが、評価自体は良かったので喜んでも良いのだろう……
何せ世界最高峰の評論家なのだから……