カミキヒカルになりました。(本編完結)   作:だめねこ

167 / 220
第60話

「お願い……お願いだから……私を置いて行かないでぇー」

 

 空港内でとある一人の女性が大粒の涙をボロボロとこぼしながら、とある男性?に手を伸ばすもその手は空を切り、男性?の体に触れる事は敵わなかった。

 

「アイさん……とても残念です」

 

 アイと呼ばれた女性……と言うか俺の母親は必死に持って来た荷物を全部ひっくり返してあるものを探すがそれが一向に見当たらないのだ。

 刻一刻と時間が迫るなか……アイはとうとう泣き崩れてしまった。

 

「いや……いやだよ……私……ヒカル君と……離れたくないよ!」

「アイさん……日本語で一番美しい言葉って知ってますか? それは”さよなら”です」

 

 そして、ヒカルと呼ばれた男性?……というか俺の父親は振り返る事をせずに急いで改札口を通って行ってしまった。

 

 その後、俺とアイは何時までもここに居ても仕方が無いので、散らかった荷物をかき集めて帰路に着いた。

 

「なんで……なんで……パスポートが無くなっていたんだろう! あんなに確認したのに……」

「本当にカバンに入れたのか? もしかしたら別の場所に置いたんじゃないのか?」

「別の場所になんか置かないよ! だって、大事なものだから万が一があると困るから寝る時だって肌身離さず持って寝てたくらいなんだよ」

「……つまり、カバンから出して肌身離さず持って寝たと」

「そうだよ!」

「それで、寝坊してしまい慌てて起きてカバンにパスポートを戻し忘れて今に至ると……」

「……そうだけど、そんな『ア・ナ・タのアイドル~』ごめんアクア! ルビーから電話だ!」

 

 アイはそう言うとスマホを取り出して電話に出た。

 それにしても、着信音がカミキさんの声で『サインはB』って相変わらずカミキさんの事が大好きなようだ。

 

「……もしもし、ルビーどうしたの?」

『……今ママの部屋掃除していたらベットの上にパスポートがあるんだけど大丈夫?』

「……大丈夫じゃないよ」

 

 アイはそう言うと通話を切ったようで力なく項垂れてしまった。 

 やっぱりカミキさんが悪い要素は何も無かったし、そもそも本当に時間ギリギリまで一緒に探してくれていたのにアイを責める事をせず、寂しそうにアメリカに行ってしまった。

 いや、別に今生の別れでは無いけれど……一回ぐらいカミキさんに謝っても良いんじゃないか?

 

「とりあえず、カミキさんが帰ってきたらアイは謝った方が良いぞ」

「……うん」

 

 

 何故カミキさんがアメリカに行く事になったのかと言えば……やっぱり『東ブレ』の件であの評論家達に目を付けられたが為に他ならない

 そして、カミキさんは海外に行ったことが無かったので、これ幸いと準備を進めて、臨時で代表取締役を嫌がるニノさんを寝室に連れ込んでの交渉を行い、すべての準備を整えた訳である。

 

 ……いや、それは良いんだ。

 

 ……良いんだけど、カミキさんが居ない事務所って相当ヤバそうな気がする。

 しばらくは、カミキプロには行かない方が良いのかもしれないな

 

 

 

 と思っていたけど……

 

 

 家に帰った瞬間アイは全身から黒いオーラを解き放ってしまい、部屋の隅っこで体育座りをし始めた。

 質が悪い事に廊下から見えてしまう位置なので、否が応でも視界に入ってしまうので、居心地が大変悪く俺はルビーと共に苺プロの事務所に逃げて来た。

 

「ねぇ今度宮崎に行くんだけど、アクアはどうする?」

「宮崎ってMVのロケか?」

 

 俺がルビーにそう聞き返すと強い口調での返しが来た。

 

「そうだよ。どうせ暇でしょ? 『東ブレ』終わって無職だし」

「別に辞めてはないし学生だし」

「あと舞台の慰安も兼ねてどうって先輩が……」

 

 ルビーの後ろでこっちをチラチラと頬を赤く染めて流し目を送るかなとその様子をデレデレした目で見ているあかねが居た。

 うすうすは気づいていたけれど……いや、あえて気が付かない振りを無意識にしていたのかも知れないが、あかねはかなの事が好きすぎる気がしてならない

 もしや、俺と付き合っているのはブラフで本命がかなだったりするのだろうか?

 いや、まさかそんな事無いよな? しかし、未だにキスしかしてない訳だし……

 確かめる為にも宮崎に行くか……

 

「そうだな……行くか」

 

 俺がそう返事をした瞬間にかなは目を輝かせてこっちに来た。

 

「ふ、ふーん今回は2泊3日の長期滞在よ! 準備とか出来てるの!? キャリーケースとか持ってる?」

 

 これは……いや、そう言う事か!

 

「悪い……実はそう行った事に詳しく無いんだ。だからかなが教えてくれると助かる」

「勿論よ! 私も午後はたまたまオフだし? この地方ロケのベテランが直々に教えてあげるわ!」

「……私もアクア君と一緒にまわるよ」

 

 あかねはそう言うと俺の腕に抱き着いてその豊かな胸を押し付けて来た。

 かなに見せつける為にやっているのか? はたまた彼氏である俺にアピールしているのか? 恐らく両方だと思うが……あの気弱なあかねがこうもグイグイ来るようになるとは『今ガチ』の時からすれば凄い成長である。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 俺はかなとあかねを連れて買い物デートをすることにした。

 

「アクたん……そのままかなちゃんとあかねちゃん引き連れて行っちゃったね」 

「やっぱりカミキさんの子ですね」

「……あれでも小さい時はカミキさんの事を毛嫌いしていたんだよね」

 

 ルビーの洩らした声は俺には聞こえなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。