カミキヒカルになりました。(本編完結)   作:だめねこ

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第71話

「じゃあアクアお仕事頑張ってください。何かあればすぐ私に連絡してくださいね」

「わかりました」

 

 カミキさんはそう言うとすぐさま車を走らせて去ってしまった。

 あんな事言っているけど、カミキさん自身かなり忙しいハズなんだよな……

 ……なのにさ、後部座席には当然の様に中身空っぽの大きなカバンがあった。

 ベガスで勝ったとは言っていたものの、これから競馬に行くのは間違いないだろう……

 

 カミキさんの事は一旦置いといて……

 

 今現在俺は俺自身の事を見つめ直さないといけないだろう。

 アクアとしての俺がやる事やっておきながら、優柔不断で八方美人でいる俺は大変ヤバい状態だ。一体なんでこんな事をしてしまったのだろうか? 雨宮吾郎の時でさえこんな事したこと無かったし、そもそもここまで酷くは無かったハズなのに……今では自制が利かずに欲望だけが前のめりになっている。

 これでは本当に誰に刺されても文句は言えないだろう

 

 とりあえず、仕事の時間だから一旦気持ちを切り替えるとしよう!

 何せギャラを頂いている以上は俺も『プロ』なのだから……

 

 

『はーい今日の深掘れ☆ワンチャンは競馬場で一番大負けした人を探す回になりまーす。それでは早速行ってみましょう! 深堀れ☆ワンチャン』

 

 深堀りリポーターの女の子が早速競馬場に入る。

 世の中の大体の人が負ける事請け合いなので、如何に爆死した人間を探すかが売りになるし、俺の求められているキャラクターはクールな一言で人の心を良い感じに傷を抉る人の心を感じさせない……言ってしまえば普段通りの俺をやるだけなんだが、競馬場かぁ……

 

 何故今日なんだ?

 

 いや、そもそもカミキさんがリポーターがいる競馬場に居ない可能性も十分あるから問題は無いハズ……はずだよな?

 

「いやーアクアさんは競馬ってやった事ありますか?」

「未成年だからやってるはず無いでしょう! 法律って知ってます?」

「今日もアクアさんの突っ込みはキレてますねぇー」

 

 スタジオでは爆笑しているけれど、俺自身は中継の画面を見て表情が固まってしまった。

 

『あ、今明らかにショタ……いえ、中学生ぐらいの金髪の少女が競馬場内に入って行きました! 未成年者の競馬は禁止されていますからねぇー早速我々も追いかけましょう!』

 

 これアカン奴や!

 

『はーいそこの金髪の少女ちょっと待ちなさーい!』

 

 リポーターの人はドアップで金髪少女……もとい俺の父親であるカミキヒカルを映してしまった。

 

『あれ、どこかで見た事あるような……ああ、あなたもしや、役者やモデルで活躍しているカミキヒカルさんですよね?』

『……ええ、そうですけれど、深堀れワンチャンですか?』

『そうですぅ~カミキさんご存じですか?』

『ええ、暇な日は見ていますよ』

『そうなんですか!? それはありがとうございます。……ところで今日は何故競馬場に?』

『ええ、実は支払い忘れていた未納分の税金代を稼ぎに来まして……税務署の方もこの後来ます』

『え!? 税金代を稼ぎに競馬するんですか?』

『そうですけど何か問題でも?』

『ちなみにいくら位なんですか?』

『え~っと10億位じゃないですかね?』

『馬鹿じゃないですか!?』

『あ、税務署の方も来たので、ちょっと馬券買って来ますね』

『いやいや、カミキさん!?』

 

 カミキさんはそう言うと馬券機の所に行ってしまい、慌ててリポーターの人も着いて行った。

 

 うん、この時点で開始早々大負けしているカミキさんがいるし、その横にはビシッとスーツを着込んだ税務署の方らしき人物が5人いた。

 

 番組としては取れ高はもはや十分すぎる程なのだし、この後の結末は普通なら爆死するカミキさんを見て大笑いするほどのものになるはずだったが……

 俺は知っている。

 カミキさんが競馬で負けた事が無い事を……

 

 

 カミキさんは額をトントン指で叩き、100円で89倍の3連単の馬券を購入した。

 

『カミキさん……100円ですか?』

『ええ、今の手持ちはこれだけですね』

『いやいや、これは無謀なんじゃ? だって10億ですよね?』

『ええ、未納分が10億でそれとは別に払い戻し金にも発生しますから、最低でも20億は稼がないといけませんね』

『明らかに馬鹿な事になっているカミキさんですが、今無情にもレースが始まりました。もうこうなれば祈るばかりです!』

 

 リポーターの人はそう叫ぶようにレースを見守る

 

「いやいや、競馬で……ましてや20億稼ぐってそんな事出来るはずないですやん」

 

 お笑い芸人の人が茶化し始めると他の共演者もそれに同調するかの様に一斉に批判をし始める。

 

「そもそも税金の未払いって言うのがおかしいし、普通は必ず払うものですよ!」

「そうですよね。それなのにわざわざ税務署の人に競馬場に来てもらうとか……ちょっと常識有りませんよね」

 

 逆張り……するには危険だが、何も知らない人間に父親を馬鹿にされるのは腹が立つなぁ~

 

「アクアさんはどう思いますか?」

「そうですね。そもそもギャンブルで返済しようと思うのがクズの発想ですが、しかし、税務署の方が全く動じて無いのが気になりますね……」

 

 そうこうしているうちにレースはいつの間にか終わっており、カミキさんの馬券がアップで映された。

 

『ただいまのレースは6-1-5……カミキさんの3連単は見事的中して、8900円の払戻になりました』

『では……次が120倍の3連単でそのまま全額行ってきます』

『いやいや、ここは様子見した方が良いですよ』

 

 現地ではそんなやり取りもあったが、スタジオでは違う方向で盛り上がった。

 

「今のは偶々ですね。ま、所詮はビギナーズラックですよ」

「ですよね~」

「次外れて終わり!」

 

 終わる訳ねーだろうが!

 

『さぁ運命の2レース目がスタートしました。8900円の120倍ですので勝てば一気に100万以上の大金になりますが、そんなに甘く無いのが世の中です』

 

 リポーターの人の熱いコメントとは裏腹にそのレースも見事的中したのだった。

 

『か、カミキさん? もしや……』

『ええ、勿論全額ベットで78倍の3連単ですね』

 

 そして、当てる

 

『じゃあ次は……44倍の3連単ですね』

『今の段階で8000万ですよ! テレビの皆さんこれが当たったら36億円になります』   

『言っても、半分の18億と未払い分の10億が持って行かれますので手元に残るのは8億円ぐらいですけどね』

『十分大金じゃないですか!』

 

 リポーターの人の突っ込みはさておき、レースは無情にも始まった。

 

 もはや、税務署の人までもが手に汗を握りしめてレースの行方を見守っていたが、カミキさんだけがぽけ~っとしながらレースを見ていた。

 

 

 

 

『信じられない光景が今目の前で起こっております。たった4回のレースで億の金額を稼いでしまった豪運カミキさんです。カミキさん勝利の秘訣は何ですか? やっぱり、馬の情報や天候などが関係するんでしょうか?』

『そうなんですか? 私は競馬でそんな事いちいち考えてしませんが、あえて言うなら唯の勘ですよ』

『え!? 勘……? 勘何ですか? 嘘言わないでくださいよ~。何か競馬必勝法みたいなのがあるんですよね? 馬券買う前に額をトントンしているのも理由があるんですよね?』

『……? ああ、あれはただ勘を働かせているだけですよ? 額をトントンすると勘が働きやすい気がしますので……それでは、税務署の方お待たせしました。口座に振り込みますので、番号お願いしますね』

『いえいえ、では行きましょう』

 

 カミキさんはそう言うと税務署の方々と一緒に離れてしまった。

 

『えーそれでは現場の深堀れ☆ワンチャンは以上となりまーす。 カミキさーんまってくださーい』

 

 そして中継から戻ってスタジオ内はある種の熱気に包まれていた。

 

「いやーこんな事ってあるんですね!」

「ないよ! だって36億だよ! 仕込んでるんじゃないの? しかも番組の趣旨としては大負けの筈なのに……あの人勝ってるじゃん!?」

「でも、28億持ってかれていますから、金額だけで言えば大負けしていると言っても過言じゃないですよね?」

「……しかも、税務署の方もいらしていた訳ですし、逃げようが無いよな」

「それでも手元に8億円が残った辺りすげーよな。今度カミキさんにあったら何か奢ってもらおう」

「知り合いじゃ無いから無理だろう」

「確かに!」

 

 その日の『深堀れ☆ワンチャン』は始まって以来の高視聴率となった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「鏑木さん知ってましたか?」

「ああ、カミキさんの事? あれは……偶然だよ。いや、本当にね」

 

 鏑木さん本人も苦笑いしているので、間違い無いようだけど……いや、カミキさんやりすぎだろ!?

 何で、税務署の人呼んでわざわざ競馬なんてやっていたんだ?

 一応フリル移籍用の資金はベガスで荒稼ぎしたので問題無いハズなのに……

 

 偶然なのか? それとも狙っていたのか? 俺には分からなかった。

 

「あと、次回のリポーターはアイ君になったからね」

「マジかよ!?」

 

 俺の驚愕の表情とは裏腹に鏑木さんは遠い目をして語った。

 

「ほら、僕としてはアイ君に言われるとさ……断れない立場な訳でね。だからアクア君……悪いね」

 

 しかし、アイが出るとなれば視聴率はそれだけで上がる訳なので、番組としては美味しいと考えているんだろうな。

 

「……わかりました。じゃあ俺上がりますね」

「ああ、アクア君……また、何か食べに行こう。お金は俺が出すからさ」

 

 こういうところが鏑木さんのずるい所だ。

 

 そんな事を考えながらスタジオを出ると、忙しいハズのかなとあかねが居た。

 

「……ねえアクア君ちょっと良いかな? ルビーちゃんの事で話をしようか?」

 

 あかねの物言いと無言で俺を見ているかな

 ……今日死ぬかもしれないな

 

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