アイとのお約束も程々にしてリビングに向かうと……アクアとルビーの二人がおり、まるで判決を言い渡される寸前の被告人みたいな顔をしていた。
見た目は子供で中身が大人なんて普通は思わないけれど、怪しい点なんていくらでもあったのに……アイは気が付いていなかった訳なんだよなぁ~。
赤ちゃんが母乳を拒否する事は勿論あるだろう。
例えば母乳よりもミルクのが美味いと思えば、舌が肥えてしまいミルクばかり飲むようになるのは自然な事だし、何より母乳は血液から出来ているのでアイ自身の体調が悪かった場合味も変化する。
これで子供がアクアだけなら判断材料にはなりえなかったが……双子であるルビーはミルクよりも”アイ”の母乳を好んで飲んでいた。
まぁー推しのアイドルの母乳を飲める奴なんて、その子供と旦那ぐらいのものだし……厄介限界オタクであったルビーはミルクの時間になれば狂喜乱舞していたしな。
ルビーは同性だったから何とも思わなかったけど……もし、アクアがアイの母乳を飲んでいたら当時の俺はどう思うんだろうか?
……出来ればアクアに嫉妬して欲しいとは思うけれど、あの時はアイや双子も別段愛して無かったし、義務感の方が強かったけど……人の心は変わるもので、俺自身も例外じゃなかった訳だ。
「カミキさん……実は俺とルビーは転生者であって中身は大人なんです」
「で、でも私もお兄ちゃんも騙す気は無くて……だけど、こんな事言ったところで信じて貰えるなんて思えないから黙ってたの」
アクアもルビーも今にも泣きだしそうな顔をしながらも、そう告げた。
「……ヒカル君はどう思う? 私は……正直お風呂の事で頭がいっぱいだよ!」
まぁー顔を真っ赤にして手を忙しなく動かしている訳だから、思い出すだけでも相当恥ずかしいのだろうけど……
「ヒカル君だって、アクアやルビーと一緒にお風呂入ったことあるよね?」
どうやらアイは俺もアクアやルビーとお風呂に一緒に入った事があると思っているようだけど……
「アイさん……私はアクアとルビーの二人と一緒にお風呂に入った事はありませんよ。アイさん達は見慣れているから、大丈夫ですけど私はお腹に刺し傷が6か所ありますからね」
「……そうだったね。確かに見せるものじゃ無いもんね」
傷痕だけは未だに残っているから、子供達をプールや海に連れて行けないのが悩みどころなんだよな。
「え~話を戻しますが、アクアとルビーが転生者で合ったところで私はどうこう言うつもりはありませんよ。何故なら私とアイさんの子供である事には間違いありませんしね」
「そ、そうだよね。ヒカル君が言う通り二人は私達の子供だもんね」
アイは自分に言い聞かせるように反芻して、アクアとルビーも安堵の息が漏れたけど、まだ安心するのは早いから二人とも!
俺もカミングアウトしておくか……
「まぁ~かく言う私も転生者なんですけどね」
「「「へぇ~カミキさん(ヒカル君)も転生……えっ!?」」」
三人同時に物凄い驚いているけど……そもそもが援助も何もない状態で一人で生活していた子供なんて異常以外の何物でもない
「ヒカル君転生者だったの!? なんで言ってくれなかったの?」
アイはそうまくし立てたけど……
「言わなかった理由は……特にありませんね。転生者であろうがなかろうが、私が私である以上何ら問題はありませんし、それに証明する方法がありませんからね」
「……ちなみにヒカル君の前世ってどんな感じなの?」
前世の話題は当然聞かれるのは分かっていたけど、出来ればあんまり話したくはないんだよな~
別段極悪人でもなかったけど、善人でもなかった。
でも……客観的に見ると物凄く嫌な奴にはなってしまう
「う~ん。正直自慢する訳では無いので、あんまり言いたくはありませんけど……かなり裕福な家庭に生まれました。ルックスは今より劣りますので、学生時代は女性に縁はありませんでしたが、それでも器用で要領も良かったので学生時代は運動も勉強も問題無くこなせており、性格も明るい為友達も多くまた先輩後輩からも親しまれて居ましたので……平たく言えば陰キャの人には嫌われるタイプの人間ですね」
特に前世では何かしらのドラマっぽい事をしたのは大学を卒業した後ぐらいしか無いので、学生時代なんかはどの部分を切り取っても唯の自慢にしか聞こえないのが前世の俺だ。
「じゃあ……社会に出てからは?」
「海外を当てもなく彷徨ってみたかったので、お金を貯める為に企業に就職して営業の仕事やそれ以外の副業なんかも色々やってましたね。それでようやくある程度お金が溜まったので大陸を10年ぐらい彷徨ってましたね」
「宛てもなく海外を彷徨っちゃ駄目ですよ!? なんでそんな事したんですか!?」
アクアの言う通り、日本に比べて海外は危ないからね。
「大した理由じゃないですけど、小学生ぐらいの時に親に連れて行って貰った東京ドームで無料のロック・コンサートのライブを見たのがきっかけですね。何せ私の人生観が変わる程の衝撃を受けましたし、それからと言うもの”何か”に感動をしたかったんだと思い海外のドキュメンタリーを見る事が多くなりました」
俺がそれを笑いながら言った。
当時小学生だった俺には語彙力なんてものは無く、ただただ凄かったとしか言いようがなく、あのライブは今でも目に焼き付いており、未だに忘れられない光景だった。
その時子供ながらも歌には力があり、そして本気で歌えば魂が宿るのを始めて知った。
「東京ドームで無料ライブ!? そんな事ある訳ないじゃん!?」
「そ、そうだよ。ヒカル君も知ってると思うけど、東京ドームで無料ライブなんかやったら赤字確定で破産しちゃうよ!」
アイとルビーは驚きつつもそう答えた。
確かにその通りだし、俺も今生では長い事芸能界に携わっているから勿論知ってる。
しかし、誰も彼もが熱に浮かされたバブルの時代に置いて俺は確かに”それを見た”そして、解散したはずのウェイラーズと日本人に憑依したボブ・マーレイからのあるはずの無いバトンをあの日俺は受け取った気がした。
あれは元の世界だけでの事だったのかと思い、気になって調べたがこっちの世界でも行われていた。40年以上前の話だけど、嘘では無い
「まー無料ライブの件は一旦置いといて、アクアもルビーも人生は長いので一度くらいはそういう経験をして見るのも良いかもしれませんよ? 私はその甲斐もあって英語とか喋れるようになりましたね」
「スケールが違い過ぎる!」
とりあえず、これで年齢マウントは取られないと思う。
「ところでヒカル君の前世の名前はなんて言うの?」
アイはそう尋ねて来たけど……困った。
それと言うのも前世の名前だけは一向に思い出せないのだ。
まーアクアマリンやルビーみたいな宝石の名前じゃ無い事は確かだし、間違ってもパンスト太郎では無いから問題は無いだろう
「すみませんアイさん……それが困った事に思い出せないんですよ。宝石の名前じゃ無い事は確かだと思いますが、まー世間に知られている人間ではありませんし、今の私はカミキヒカルなので」
「じゃあしょうがないかぁ~」
アイはそう言うと落ち込んでしまった。
名前ぐらい隠す必要も無いから教えてあげたかったけど……ごめんね
「結局分かった事はカミキさんの前世は女たらしでは無いってことくらいか?」
「……カミキさんの言葉を信じるならそうなるね」
そこは信じて貰いたかったなぁー