撮影三日目……
昨日に続き今日もカミキさんはアイに化けており、今はメンバー間でのイジメ問題のシーンを撮影中である。
肝心かなめのアイはと言うと……
『アクア……ボスの容態はなんだけど、大分良くなったから明日にも復帰出来るよ』
「……ああ、それは分かったけど……フリルお前は何でアイの看病をしているんだ?」
俺にとってフリルから言われたアイの容態は大変嬉しいものなのだが……何故フリルがアイの家に居てアイの看病をしているのかは全く分からなかった。
『尊敬するボスの看病を見るのは一人の部下として当然の事だし……それに体が拒絶反応を示したものの不義理な事をした自覚はあるの』
フリルはさも当然の事のように言っているが……そもそもフリルは飛び入りでノーギャラ参加だったとは言え、多少文句は言ってやりたかったが……あんなに涙をボロボロ流しての辞退だったので俺は何も言うことは出来なかった。
……男としてのショックはあったものの、フリルはカミキさんの愛人だし……その後気まずい事になるの間違い無いしな
「ところで斎藤社長はどうしたんだ?」
『社長なら私がボスの面倒見ますと言ったら、首を傾げたよ?』
そりゃあそうだよ!
本来他所の事務所の人気絶頂のマルチタレントがいきなり来て私が看病変わりますなんて言えば普通なら追い返すのが当たり前なんだけど……知らない仲では無いので斎藤社長も追い返す事はしなかったというか……出来なかったんだろう。
同性であるミヤコさんに最初からお願いすれば良かったかも知れないが……24時間ずっと一緒に居てあげる事は出来ないだろうから交代で対応してるのかもしれないな……
「……とりあえずアイの事は頼んだぞ」
「義理の息子から頼られたからには結果を出さないとね」
フリルからは嫌な返しを受けてしまい、途端に気分は憂鬱になった。
「お兄ちゃん誰からの電話だったの?」
「……フリルからの電話でアイの具合も良くなったから、明日には復帰出来るって」
「何でアイさんの看病をフリルがやっているのよ!」
かなの疑問には同意なんだが……
「……ほら、フリルは姫川愛梨役を突然辞めた訳だから、それに関して不義理な事をした自覚はあるようだから、何かしら埋め合わせをしようと思ったんだろう?」
「……アクア君はその事に関してどう思う?」
「……聞かないでくれ」
あかねの問いに俺は答えたく無かったのでそう返事をしてしまった。
俺も男だし……三人の美少女に囲まれてはいるものの、本音を言えばどこか惜しくも感じている部分はあるのが、やっぱりほっとした部分もあるのだから自分の事ではあるものの度し難いとも思っている。
「お兄ちゃん……大丈夫だよ! 私がちゃーんと受け止めてあげるから」
「あっ! ルビー! 何一人だけイイ子ぶってるのよ! ……私だってアクアの事10発でも20発でも受け止めるわよ!」
理解のあるルビーとかなに涙が止まらねーよ!
「ちょっと二人とも……アクア君の発言は浮気判定なんじゃないの!」
「あかねさん……お兄ちゃんだって健全な男なんだよ?」
「そうよ! フリルが可愛いのは現実問題しょうがない訳なんだし、多少思う事ぐらい許してあげなさいよ! そんな事ばっかり目くじら立ててるとアンタ捨てられるわよ!」
「ええ~! だって……普通彼氏が彼女以外の女性に目を向けたら浮気判定なんじゃないの?」
「人類の半分は女性なんだから、視界に入ってくるのはしょうがないじゃない! それともあかねは自分が認めた女性以外は全員消す気? それともアクアを監禁でもする気なの? どっちにしてもアンタ重すぎるわよ!」
相変わらずレスバの強いかなにあかねは思わず胸を抑えてたじろいだが……
「ルビーちゃんとかなちゃんが軽すぎるの!」
そのまま黙っている事をせずに再度反撃をするも……
「「だってお兄ちゃん(アクア)はカミキさんの子だよ!!」」
カミキさん程じゃ無いけれど……3股してる以上俺に弁解の余地は無かった。
そんな時だった。
「あ、アクア……映像の作業手伝ってくれ」
「すぐに行く!」
五反田監督にすぐに呼ばれて俺は逃げるように部屋を出て行った。
映像に映ってる二人のアイドルがライブが終わった後の楽屋でのシーンだ。
『アイなんか……アイなんか死んじゃえばいいのに!!』
そう叫んだニノさんは涙を流しながら楽屋から飛び出して、アイはその背中を見ている事しか出来ない……はずだった。
その背中に途中まで手を伸ばしたかと思えば……力強く手を握りしめて顔を伏かせたと思いきや……
『……ふざけないでよ! なんで私にばっかり八つ当たりするのよ! ファンを盗った? 私が贔屓されてる? 私は……私は……努力してるの! 口角だってミリ単位で修正したり、ダンスやボイスレッスンだって夜遅くまで練習してるから……なのに……アイは才能あるから! アイは可愛いから! 私は……ただ……愛を知りたいだけなのに……私の事なんて何一つ知らないし……知ろうとしない癖に……』
アイは涙を流しながら渇望を叫んでいた。
それは決して、アイドルが表に出して良い感情ではなく、映像に映っているアイは何処にでもいるか弱い少女である事を俺はその時初めて知った。
「監督これは……」
「勿論脚本には書かれていない、カミキヒカルのアドリブだが……俺はこれを採用しようと考えている。……ちなみにこのシーンに限っては本来のも取っているがアクアお前はどっちにする?」
俺の知ってるアイは決してこんな弱音を吐く少女では無いハズだ。
だから、カミキさんのアドリブや表現は間違ってる筈なのに……しかし、本来取る予定だった映像と見比べてみると……その差は歴然としていた。
本来のアイがこんなにか弱い存在だとするならば、アイが強くなったのは……恐らくカミキさんと出会ってからのはずだ。
芸能界という魑魅魍魎が跋扈する場所なのに嘘を吐かずに本気を叫んで生きて来たカミキさんだからこそ、アイはカミキさんに惹かれたのだろう……
「監督……俺は……いや、俺もこっちを選ぶ!」
俺の答えに五反田監督はそうかと笑顔で答えた。