撮影も何とか取り終わったし……今日は一日ゆっくり過ごそうと思いつつ、ぼーっとしていたら外からプップーっと車のクラクションが聞こえた。
はて、今日はみんな休みだし……誰かが来る用事なんて無かったハズだけど? と思いつつも玄関を開けるとそこには……
大輝君が車に乗っていた。
「兄さん車買ったから海に行こうぜ!」
「……それは構いませんけど大輝君免許何時頃取ったんですか?」
「つい最近だけど?」
先輩達見てますか? あの小さかった大輝君が今じゃ大きくなり高級車である『ベントレー ベンテイガ』を乗り回しております。
しかも左ハンドルと言う運転免許取り立ての初心者が乗るにはかなり敷居が高いのもそうなんですが……一番の問題は3列シートの7人乗りだから、車体が大きいのです。
運転大丈夫? と大輝君に言いたくなったけど流石にそれは大輝君のプライドを傷つけそうなので飲み込む事にしましたが……もしかしたら今日が俺の命日になるかもしれないです。
とりあえずコーヒーでも飲んで眠気を吹っ飛さないとガチで死ぬかもしれん!
「大輝君ちょっと着替えてきますから待っててくださいね。あと何か飲み物でも持って来ますか?」
「あーじゃあ、お任せで」
「分かりました」
その後俺はコーヒーを二つ持って助手席に座って万が一が無い事を祈りつつ大輝君の運転を見守った。
しかし、俺の考えとは裏腹に大輝君は終始運転がイケイケだった。
上原パイセンはそもそもやんちゃだったから、イケイケではあるものの運転自体はかなり上手いから意外にも節度はあるのだが……問題が愛梨パイセンだった。
この二人が一緒の車に乗った時だけはイケイケどころか『ガンガン行こうぜ!』 に切り替わってしまうのだ。
いや、車の運転って『命大事に』が基本なのに愛梨パイセンがドリフトを体感したいとか言い出して俺も良く巻き添えを食らったものだ。
今は亡き二人のパイセンの影響が大輝君に受け継がれていると思うとは胸のドキドキが……ってこのマンションは!?
「……大輝君何故ここに?」
「ああ、フリルも誘ったんだ」
「……そうなんですね」
俺と大輝君が話して居るとマンションからフリルとMEMがやって来た。
「あっ! MEMさん姫ちゃん来たよ」
「はひぃ!」
「二人ともお待たせ後ろ空いてるから乗ってくれ」
大輝君がそう言うとフリルは遠慮せずにドアを開けて車の中に入り、MEMはおっかなびっくりしていた。
「おはようございます」
「「カミキさん! おはようございます」」
二人に挨拶をしたら凄い驚いていたけど……大丈夫か?
「えーっと、大輝君この後はもう海に行く感じですか?」
「いや、最後にアクアを拾ってからだな」
まーそうなれば当然……
「朝から海! ヒカル君と海! 撮影後のご褒美に海! 大輝君は分かってるね~!」
「わーい」
「……でも、私の隣にヒカル君が居ないから減点だよ」
「ガーン」
大輝君あんまり表情変わって無いけど喜んでいるのかな? それともアイのうざ絡みに対してめんどくさくなったのかな?
いや、本心では俺もフリルやアイの隣に座りたいけど、大輝君の運転が心配だし……人数が増えると影響もデカいから俺の助手席は譲れないのよ。
「ボス! 今回の海に関してはみなみから教えて貰ったビーチの下見なので……お店のリサーチも兼ねております」
「……そっか~そう言えばみなみちゃんは?」
「ああ、みなみさんなら今日はゆらさんと一緒に買い物に行くって言ってましたよ?」
何でも可愛いデザインの下着が売っているところに連れて行くとか言ってた気がする。
「……ふう、じゃあそろそろ出発するから乗ってくれ」
大輝君はそう言うけれど……やっぱり運転自体慣れて居ないので若干疲れているようで、眼鏡を一旦外して目頭を揉み始めた。
まー高級車で左ハンドルだし、しかも人数が人数だから運転初心者には荷が重いよな……
「大輝君疲れているようですから、変わりますよ。それに私が運転席ならアイさんが隣に来れますしね」
「……でも、兄さんは普段お世話になっているから……」
「まぁまぁ疲れた時はお互い様ですよ」
俺がそう言うと、大輝君は運転席を降りて後ろに回った。
そして、俺が運転席に移動すれば……当然チャンスと見たアイが助手席にやって来た。
「ふっふっふ……じゃあ私が完璧にヒカル君の助手をこなしてあげるね」
「あ、ナビがあるから大丈夫ですよ?」
「むぅぅぅーーー」
いや、変な事されても困るから寧ろ寝ててくれた方が良いんだけど……
「お兄ちゃん私海に行くの初めてなんだ!」
「ああ、俺もそう言えば行ったこと無かったな」
ルビーとアクアのやり取りに俺はちょっと居た堪れない気分になってしまった。
いや、この二人に限らず……俺は子供達をどこかに連れて行った事が無かったな。
仕事の都合も勿論あるとはいえ、それは子供に対して我慢をさせて良い理由では無いし、親として良く無かったな……
そんな事を考えていたらアイが不意に顔を覗き込んで来た。
「ヒカル君大丈夫?」
「……ええ、勿論大丈夫ですよ」
「なら良いけど、何かあったら相談してね。私なんかじゃ頼りないかもしれないけど、私達は夫婦なんだからさ」
まさかアイがこんな事言うなんて……何か感慨深い気がするな
「そうですね。今度の映画が公開されれば私とアイさんの関係も世間に知れ渡りますから、その時はデートでもしましょうね」
「……ヒカル君とデート♡……うん、絶対にしようね」
アイはそう言うと蕩けるような笑顔を俺に向けた。
「兄さん……俺は味覚障害になったかも、ブラックコーヒー飲んでる筈なのに滅茶苦茶甘い味がする!」
大輝君にそう言われて俺は今初めて恥ずかしい思いをした。
家族の駐車風景
父:カミキ
兄:上原パイセン
伯父:愛梨パイセン
母:大輝君
妹:アイ