「アクア先輩コレ……受け取ってください♡」
目の前の名前も知らない美少女はそう言うと可愛らしくラッピングされたチョコレートを震える手で俺に差し出して来た。
芸能科のフリルやみなみにルビーは兎も角……その他のクラスに知り合いは居ないし、俺の事を先輩と呼んでいる以上は後輩なのは確定だろう。
「ああ……ありがとう」
俺はそう言ってチョコを受け取ると後輩の女の子はすぐさま駆け出してしまった。
「なぁ星野……これでチョコは何個目になるんだ?」
自分のクラスで……ましてや、お昼休みと言う事もあり、結構な人数に見られている訳だし当然こう言った質問は絶対に来るものだ。
「……10から先は数えてない」
「はぁ~俺は星野が羨ましいぜ! 俺も星野みたいにイケメンだったらバレンタインデーは無双出来たのに!」
大きなため息を吐きながら俺は嫉妬と羨望が入り混じった視線に放課後までさらされ続けた。
胃の痛みを抑えながら俺はすぐさま帰ろうとした時だった。
「アクア帰るよー」
「待ちくたびれたよ。お兄ちゃん」
現役女子高生で母親のアイとルビーが教室の前で待っていた。
「ああ、じゃあ帰ろうか」
俺がそう言った時だった。
アイは俺の近くに寄ったかと思えば鼻を鳴らして匂いを嗅いできた。
「……うーん。アクアから甘い匂いがする……これはもしやチョコかな? ヒカル君に似てアクアもイケメンだし、モテるのはしょうがないね!」
アイはそういうとうんうん頷いて納得しているが……
「お兄ちゃん? かな先輩とあかねさんが黙って無いと思うよ?」
「……怖い事言うなよ」
「まーあの二人はアクアガチ恋勢だからね。それでこの後どうする? 私は今日仕事無いしヒカル君の事務所に行くけど……」
「じゃあ私もママと一緒にカミキさんの事務所に行く」
どうやらアイとルビーはカミキさんの事務所に行くようだが……前もって連絡はしているのだろうか?
「それはカミキさんに伝えてるのか?」
「アクア? 私とヒカル君は夫婦なんだからそんな無粋な事しなくても大丈夫だよ」
満面の笑みを浮かべて自信満々に答えるアイだけど……幾ら夫婦と言えどいきなりアポなしで突撃する方が問題だと俺は思うけど……その横でルビーがアイの言葉にうんうん頷いているから、下手に反論する方がめんどくさい事になりそうだったので俺は諦める事にした。
「よーし、じゃあヒカル君の事務所に行くよー」
「おー」
アイの言葉にルビーは元気よく返事をして、俺はそれを見守っていたが、ある事に気が付いた。
「そう言えばフリルとみなみはいないけれどどうかしたのか?」
みなみは……ともかくとして、フリルはアイの事をボスと呼んで崇めているし、寧ろこう言った事に関しては率先して動く行動力を持ったフリルが居ない方が不安なのだが……
「フリルちゃんとみなみちゃんは一旦家に帰ってからヒカル君の家に行くってさ」
「……そうか」
みなみは兎も角フリルらしからぬ不穏な動きに言い知れぬ不安がよぎった。
「……荷物多いし不本意だが、今日は教科書等は置いて帰るか」
カバンの中は既に数えるのも億劫になるほどのチョコでいっぱいになっていたが、カミキさんが学生の時は一体どうだったの少しばかり考えて居た時だった。
「アクア見つけたわよ!」
「あっかなちゃん」「先輩」
割と大き目な声でかながやってきたので、顔を向けると有馬は顔を赤く染めていた。
「まずコレあげるわ。か……彼女からのチョコなんだから感謝してよね」
「あ……ああ、勿論だ。かなありがとう」
俺が感謝の言葉を述べるとかなは耳まで真っ赤に染めてしまい、物凄く恥ずかしそうにしていたが、肉体関係があるのにかなはこう言った事に恥じらう傾向があり、その姿は……何と言うか男心をくすぐるのだ。
「うゎー先輩ちゃんとヒロインしてて可愛いなぁー」
「うんうん、フリルちゃんじゃないけれどこれは視力が上がるね! ルビーも負けてられないんじゃない?」
「うーん……でも、お兄ちゃんにはもう処女上げちゃったし、今更チョコを渡して気持ちを伝えるなんて……あれ?もしかして私順番間違えてた!?」
「大丈夫大丈夫。私なんて愛を知りたいからヒカル君とセックスした訳だし、その程度誤差も誤差だよ? うん……思い返せば私もヒカル君にチョコを上げた事無いし、誤差だよね?」
ルビーは失敗したって表情をしているが……アイはそもそも特大のやらかしをしていた訳だし、それに比べれば誤差も良い所だろうと思っていたが……アイはアイでカミキさんにチョコを渡した事が無いらしく、誤差って言葉を免罪符の様に使っていた。
「ところで俺達は今からカミキさんの事務所に行くけどかなはどうする?」
「勿論一緒に行くわ!」
かなはそう言うと俺の腕に抱き着いて来た。
「あっ先輩ズルい!」
「何言ってるのよルビー?アクアの反対が空いてるんだからあんたはそっちに行きなさいよ」
「あっ……そっかー。流石先輩あったま良い~♪だけどあかねさんにバレたら怒られそうだよね?」
「……そもそもこの場に居ない以上は仕方ないわよ。これが一緒の学校に通ってるメリットね」
「そ……そうだね。あかねさんには申し訳ないけれど、私達はメリットを享受しているだけだし? 寧ろお邪魔虫からお兄ちゃんを守る為に必要みたいな?」
「そ……そうよ! ルビー良い事言うじゃない! 寧ろ逆にアクアの毒牙にかからないように私達が他の女の子から体を張って守ってあげないといけないし……?」
「……うんうん。そうだね勘違いさせたら気の毒だし? いやー身内に女たらしが居ると大変だよね!」
「ひでぇ」
かなとルビーのやり取りに思わず俺は声を漏らしてしまったが……複数の女性と付き合いがある時点で語弊があるとは言えないのが辛い現状だった。
親同伴でしかも両側に女性を侍らしながら帰宅する訳だが、道中は針のむしろだったが、校門に着く時には更なる試練が待ち受けていた。
「アクア君待ってたよ? あと二人とも私の目が黒い内は抜け駆けなんてさせないよ」
「げっ!?」
「やば……」
「あかね?」
こちらを底冷えさせる笑顔であかねが俺の事を見ていた。
「あっそれとこれアクア君に……バレンタインだよ♡」
あかねはそう言うとカバンから可愛らしくトッピングされたチョコを取り出した。
「ああ……ありがとう」
俺はそう返事をするが、両腕はかなとルビーに抱き着かれているので動かす事が出来なかったが、あかねは俺の予測を超える行動して来た。
「うーん両手が塞がってみたいだし、私が食べさせてあげるね」
言うが速くあかねはすぐさまラッピングを解き、チョコを摘まむと俺の口に押し込んで来た。
「「あー」」
ルビーとかなはその光景に驚くが両腕を離すどころか、むしろ自分達の胸に押し付けるように強く抱きしめて来た。
俺がクズならこの状況でも楽しめるだろうが……この日は唯々胃が痛くなる日だったし、それはカミキさんの事務所に着いても変わる事はなかった。
続く……?