新宿駅での初の路上ライブをこなしてから2か月が経過しとうとうJIFの日になった。
路上ライブも何度かこなしたおかげか大分経験も積めた。
俺の想像ではどんなに頑張っても知名度は全体のアイドルグループの下から数えた方が早い位だとおもっていたのだが……
俺の想像をはるかに超えるレベルで有名になっていたようだ。
ネットでもアークトゥルスの話題で持ちきりになっており、良くも悪くも人目を引いていたようだ。
悪い部分で言えば、俺に関しては劇団ララライに所属しているカミキヒカルだと言う事がバレており、女性役や脇役ばかりやって主役をやりたがらない変わり者と書かれていたし、カナンに関しても『B小町』をクビになった元メンバーと書かれていた。
俺の記事を見たカナンは憤慨していたが、そもそも事実だし、主役は時間を取られるだけで、思った程ギャラも高くないのだ。
それだったら、隙間時間でモデルの仕事している方が儲かるから俺はそっちの方がいいとさえ思っている。
カナンの記事にしてもクビになったの事実ではあるが、路上ライブをやっていた時も初めは野次が飛んでいたような気がするが……歌い終わる頃にはふつーに盛り上がっていたし、問題は無いだろう……
そして、問題の良い部分が……本当に良い事なのか分からないが、悪い部分のレスで皆一律に”だが、それが良い”と書かれていた。
なんだろう? 前田慶次なのか、それともカイジのナレーションなのか反応に困る。
まぁーそれは兎も角とりあえず知名度はかなり高くなっていた事だけは確かだ。
「カミキ……とうとうこの日が来たね! 私こんな日が来るなんて夢にも思わなかったよ」
カナンはそういうと嬉しそうにしていた。
「……そうですね。自分でやるとは言ったものの、こうしてみると感慨深いですね
」
JIFの会場を見渡すと専用の楽屋無く、すみっこの方に簡易的な着替えが出来るところがあるが……カナンは良いとして男の俺がそこで着替える訳には行かないので、あらかじめメイド服を着用して来た。
……というかそもそも、男性のアイドルが歌う場所じゃねーし!
そして、俺がメイド服で来ているって事はカナンも着用してきている訳で……多分一人で着替えるのは心細かったのだろうな……
周りは大体4~5人のグループだし……
「それにしても見渡す限り女の子ばっかりだな……俺みたいなイイ男は居ないのか?」
上原パイセンはそういうと周りを見始めたが……まだ、お客さんは入っていないのだからアイドルの女の子しかいないのが現状だ。
「上原パイセン? ここまで送ってくれたのはありがたいのですが、流石に今日はそういった事は控えてくださいね」
「……まさかだめなのか!?」
「流石に身内がフェス内でナンパをしているのをステージから見たくは無いです」
俺がそういった瞬間上原パイセンは物凄く悲しそうな顔してしまったけど、そもそも出会いの場を求めるところでは無く、アイドルがファンを楽しませる為の場所である。
「我慢してください」
カナンがぴしゃりと言い放ったが、尚食い下がる上原パイセン
「……だが、ファン同士の触れ合いというものは時には必要なんじゃねーか?」
普段は聞き分けが良いのに何故今日はここまで食い下がるのだろうか? それに上原パイセンのそれは対象が男女両方なのでどちらにせよアウトだし、それにそうじゃなくても、最近は愛梨パイセンが訝しげに上原パイセンの事を見ている気がするのだ。
愛梨パイセンも上原パイセンがバイなのは勿論知っているが、素人に手を出している事は知らないのだ。
俺には愛梨パイセンの浮気判定の基準がイマイチ分からない
業界の人間とやるのは基本OKを出しているようだが、素人に関してはだめらしいのだ。
以前、あまりに気になったので愛梨パイセンに聞いたのだが、基本的には同じ業界の人をリスペクトしているからこそ、
そりゃ気持ち良くなれば男も女もそうだけど……それはあくまでセックスの話なんよ。
じゃあ、素人はって聞いたら、帰って来た返事が私のどこが素人に劣っているっていうのよ!? って返答だった。
つまる所、芸能界で働いてる人達であればどっかしらで自分の能力を超えている人が居るから、許せているのであって違う世界の人に関しては土俵が違うからダメっていう良く分からないぶっ飛んだ考えだった。
「それはこの場で無くても良いことですし、それに上原パイセンが望んでいる触れ合いは性行為ですよね? 帰る時の車内がイカ臭いのは嫌ですし、愛梨パイセンにバレたら殺されちゃいますよ?」
俺がそう言った瞬間肩をガシっと掴まれていつになく真剣な表情をし始めた。
「……カミキ、一つ言っておくことがある」
「……なんでしょう」
なんだ? 上原パイセンは何を言うつもりだ?
「……愛梨に殺されるなら本望だ!」
上原パイセンはそう言うとどこかに行ってしまった。
いや、言ってる事はカッコイイけど……浮気が原因で無理心中はやめて欲しいな
30分後
絶望した表情で上原パイセンが戻って来た。
「……俺好みの男が居なかった」
体育座りでのの字を書いてる上原パイセンを無視して、俺とカナンは弁当を食べ始めながらも作戦会議を始める。
「私達の出番は『B小町』の後よね」
「そうです。会場のファンが『B小町』に染まって、余韻に浸っている状態で行う……完全アウェーな状態でスタートです」
「中々燃える展開ね」
「そうです……面白い展開ですね」
そう、これほど分かりやすい展開もないのだ。
『B小町』……っていうかアイに染まった人たちを全部持っていければ俺達の勝ちで出来なければアイの勝ち
「最初に歌うのはshake it!だっけ?」
「そうです。shake it!で決めます!」
shake it!で心を掴めなければ敗北は確定だ。
Dance!は掴む曲では無く盛り上げる曲だからだ。
「私の歌をきけーはやるの?」
「ロックであればやりたかったのですが……」
流石に曲の雰囲気に合わないからダメだよなぁ~