カミキヒカルになりました。(本編完結)   作:だめねこ

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最終話

 喫茶店での事から俺達の日常は変わった。

 アイは仕事に専念するようになり、家に帰るのが遅くなった。

 その為、家事などは俺とルビーで分担してやることになったのだが……

 

「……ママ今日も帰るの遅いね」

「仕方ないだろ。何せ今をときめくマルチタレントだからな」

 

 毎日何かしらの番組には出ており、ドラマも主役で何本も抱えているのでアイは多忙の日々を過ごしていた。

 

 その所為か、付き合いも多くなり、お酒を飲んで帰って来ることも増えてきている。

 アイ自身がお酒に大分強いので、酔いつぶれる事は無いかもしれないが……それでも30歳に見えない美貌なので、そのあたり注意をしてもらいたいものだが、やはり神木との事が相当堪えたのだろう。

 

 しかし、アイがどう思っても俺は神木の奴は信用出来ないし、する気もない!

 

 アイが言った通りだとしても、15年前と言えば未成年である事は間違いない

 なのに、飲酒をしてあろうことか酔いつぶれたなんて、スキャンダルになってもおかしくなかったはずだし、アイを危険にさらしていた訳だ。

 

「ルビーもう遅いし先に寝たらどうだ?」

 

 時刻は23時を過ぎているが未だにアイは帰って来ない。

 恐らく今日も飲んでいるのだろう……

 

「大丈夫。私はママの事待つよ」

「そうか……じゃあ、俺は寝るよ」

「うん、おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 三人揃って寝る事は無くなったが、それが大分昔の事に思えた。

 

 

 

 

 

 学校も神木の事以外は何も変わった事は無い。

 

 休み時間は常に女子生徒と喋っており、お昼になれば下級生と共に複数で校舎内のどこかで仲良くお弁当を食べているようだった。

 

「あんな奴のどこが良いんだか……」

 

 縁を切ったとは言え、父親である事が分ってからというもの、女子に囲まれて楽しそうにしている様子を見てしまうと次第に腹が立ってくる。

 だから、今ぽつりと零したルビーの気持ちは良く分かる。

 

「まったくだ。皆あいつの本性を知らないから騙されているのに……」

 

 そして、中学を卒業するまでこの鬱屈した日常が変わる事は無いと思っていた。

 

 

 ある日の事だ。

 今日も今日とて、神木と同じクラスだから一緒の空間で授業を受けないといけない訳だったが……

 

「あー神木は両腕を骨折したらしくて、しばらくはお休みになった」

 

 担任の先生に発言でクラスの女子達のほとんどが悲痛な表情をしているが、男子達はそのことを気にもしていなかった。

 そりゃそうだよな。

 女子達とは良く喋っていたけれど、神木は男子達とは関わっていなかったのだ。

 だから、クラスのあっちこっちで神木の事を憶測であーだーこーだ言われている。

 

 その時俺は神木に天罰が落ちたと思っていた。

 

 

 そして、季節が変わり11月になった頃に神木は学校に来るようになった。

 

 神木がクラスに居るだけで、女子達が色めき立っていた。

 

「ねぇ神木君、両腕骨折したって聞いたけど大丈夫なの?」

「ええ、もう治りました」

「そうだ! 神木君が休んでいた間にノート作ったから良かった見て欲しいな」

「わざわざ、ありがとうございます」

「あっ! ずっるーい。……そうだ! ねぇねぇ神木君まだ本調子じゃなかったらお昼私がアーンしてあげようか?」

「良いんですか? じゃあお願いしますね」

 

 まるで、以前と変わらない光景がそこにはあった。

 だが、何故だろう?

 神木の表情からは憑き物が落ちたような……まるで、この世に未練が無い人のように思えた。

 

 そう考えてしまったら、無性に腹が立ってきた。

 

 仕事が忙しくて家には寝る為に帰って来るようになってしまったアイ

 俺も五反田監督の下で裏方の仕事をさせて貰っているから、家に居ないこともある。

 そして、ルビーもアイドルに昔からなりたいと言っており、その為にアイドルのオーディションを受けに行っているが……その度に俺が裏から連絡を行いその都度不合格にしている。

 大事な妹である以上信頼できる事務所でないと兄として預ける事は出来ないからな!

 

 出来れば苺プロに入ってくれれば問題無いのだが……

 苺プロもアイのおかげで、事務所も今じゃあ大手と同じ位大きくなったし、スタッフも増員出来た事で以前よりも余裕があるし、何よりも斎藤社長やミヤコさんの2人は小さい頃からの付き合いだから信用できる。

 

「ところでお兄ちゃんは進学するの?」

「一応進学は考えているけど……ルビーはどうするんだ?」

「私はアイドルになりたいから……芸能科がある陽東高校行こうと思ってるんだけど」

 ルビーはそう言うと言い淀んでしまった。

 陽東高校の芸能科か……

 スマホを取り出して調べて見ると、芸能科に入るにあたって第一条件としては事務所に所属する事であるが、今現状ルビーは事務所に所属していない

 

「芸能科に入るにはまず事務所に所属しないといけないな」

「うん……まだ時間はあるし、芸能科なら受験勉強しなくても問題無いからね!」

「そんな理由で高校を選んでいるのはお前だけだ!」

「……でも、今から勉強しても私の頭じゃあ受験は無理だし……ここが私の人生の勝負所なんだよ!」

「自分の人生をギャンブルにするな!」

 

 とは言ったものの、どうにかしないとルビーは中卒になってしまうのも事実だし、頼りのアイは家に帰って来ないから相談できないし……

 こうなれば、ミヤコさんと斎藤社長に相談してみるか……

 

 ルビーの将来を考えたときだった。

 モデルとして働いている神木も陽東高校に行く可能性がある事を考えてしまうと俺も芸能科に行かざるを得ないだろうな……

 

「そういういえば、神木君は高校何処に行くの?」

 

 神木の近くにいた女子が丁度聞いて欲しい事を言ってくれた。

 内容次第では俺も動かなくてはならないが……

 

「内緒です♪」

 

 神木はそう言うと人差し指を自身の口に持っていき答えた。

 一瞬ではあるけれど……そのしぐさが何故か”アイ”に見えた気がする。

 

「えー! 出来れば神木君と一緒の高校に行きたいなぁ~」

「私もー」

 

 男の為に高校を同じにしても不幸になるだけだけどな、何せ神木の学力は非常に高いので、恐らくどこの高校でも問題なく受かるだろう

 

 

 高校受験に向けてクラスがピりつくようになったため、クラスの女子達も勉強するようになったが、神木だけは変わらずのほほんとしており、下級生の子達と相変わらず弁当を食べていた。

 その事を踏まえて考えると神木は受験が必要ない所に行く可能性があって、モデルを行っている以上は陽東高校の芸能科に行く可能性が非常に高いだろう。

 そう考えると、あの余裕の表情にも納得出来る。

 ならば、俺はルビーを守る為に陽東高校の芸能科に入るべきだな。

 

 そもそも、今更ルビーが勉強したところで受かる高校は殆どないだろうし、何とか苺プロに所属させなければ……

  

「ルビーは……アイドルになりたんだよな?」

「えっ!? 今更どうしたの?」 

「だったら、苺プロに所属するってのはどうだ? ルビーが言えばミヤコさんも斎藤社長も断らないだろう?」

 

 それにアイだっている訳だし、そう考えるとルビーが苺プロに所属してくれると家族を守りやすいしな

 

「うーん、そうだね。そうしよっかな……大手のアイドルオーディションは悉く落ちちゃったし……」

 

 ルビーはそう言うと物凄く落ち込んでしまったが、声を変えているとは言え不採用の電話をしているのは俺なので、罪悪感を感じてしまう。

 

「それに将来の事だから、親にも相談しないといけないし……」

「でも、ママ今日帰ってくるかな?」

 

 娘の将来の事だから、事前に連絡すれば早く帰って来るとは思うけど……

 

「じゃあ、連絡してみるか」

 

 俺はスマホを取り出して、アイにラインを送った。

 

「えーと、進学の件で相談したい事があるから今日は早く帰ってきて欲しいっと送信」

「ちゃんと見てくれるかなー?」

「どんなに忙しくても親は子供の面倒を放棄はしないだろ? だから問題ないさ」

 

 不安そうなルビーにそういうとメッセージに既読が付き、アイからの返信が来た。

 

「分かったてさ」

「ふぅー良かった~」

 

 アイからの返事で胸をなでおろしたルビーだけど、事務所の所属に関しても許可を取らないとな

 

 

 

 

「たっだいま!」

「「おかえりー」」

 

 アイがまともな時間に帰って来たのは久しぶりである。

 

「それで、ルビーの進学の相談って何?」

 

 アイはそういうと荷物だけ置いてソファーに座った。

 

「それなんだけど……陽東高校に芸能科って言うのがあるんだけど、そこに行くには事務所に所属しないといけないの」

「そっかーじゃあルビーも苺プロに所属する? 佐藤さんに言えばすぐ出来るよ?」

「アイ……佐藤じゃなくて斎藤な?」

「あれ、そうだっけ?」

 

 自身の頭をこつんと叩いて舌を出して誤魔化した。

 これを有象無象の女性がやったら張り倒してやりたくなるけど、アイがやると可愛いとしか思えない!

 

 だから、アイを妊娠させた上に心まで弄んだ神木がどうしても許せない!

 いずれ復讐をするにしても、現時点では勝ち目は全くない

 何せ復帰した後もモデルの仕事は滞りなく行っているし、巷ではカリスマモデルと呼ばれており、スキャンダルになるような事は……俺達の事ぐらいしか無いのだから……

 俺だけならまだしも、アイやルビーを巻き込む訳には行かない

 

 まぁーアイなら気にしないだろうし、そもそも神木の事を認識出来ていないようだった。

 

 あの喫茶店前までは神木の写真を見るたびに喜んでいたり、涙を流しながら寝ていたが、今では神木の写真が掲載されている雑誌を見ても、動じる事は無くなっており、その様子からもはや忘れ去られたように思える。

 

 

 アイが神木を忘れた事を神木に教えれば一体どんな顔をするのか見てみたいものだが……今は藪蛇をつつく事もないだろう。

 

 

 そんな訳でアイからの言葉添えもあり、ルビーは無事に苺プロに所属出来た訳だ。

 

 

 

 

 そして、月日が経ち陽東高校の面接も無事に終えたが……

 面接の日に神木の姿は無かった。

 

 別段待ち合わせをしていた訳でもなかったし、何なら会いたいとも思っていなかったから逆に良かった。

 しかし、面接を終えたあと有馬かなと再会して、『今日あま』の最終回にチョイ役とはいえ出る事になったりと入学する前からバタバタしていた。

 

 勿論アイやルビーも『今日あま』見ていたので……

 

「あはは、アクアのストーカー役気持ち悪ーい」

「本当にお兄さんのこの陰キャラ感はすっごいよね」

「ほっとけ!」

 

 と盛大にいじられてしまったが、我が家で久しぶりに笑顔が溢れた瞬間だった。

 

 中学を卒業して、神木も入学しているであろう陽東高校の芸能科にルビー共々行くもそこに神木の姿は無かった。

 

「……あいつは居ないね」

「そうだな……もしかして落ちたのか?」

 

 出席確認の時も名前を呼ばれるどころか開いてる席すらもなかった。

 ならば、他のクラスにいるのかと思って後日先生に聞いてみた所

 

「神木ヒカル? あのモデルの子かぁ……あの子はそもそもうちを受けていないぞ?」

「そうですか……いえ、ありがとうございます」

 

 あいつが居ない事がこんなに嬉しいと思わなかった。

 

「ねぇお兄ちゃん今日どこかに寄り道して帰らない?」

「そうだな……俺も今日は暇だし、ルビーは仕事無いしな」

「それは言わないでよ!」

 

 そんな時だった。

 

 7人の美女と金髪の見知った人物が前方から歩いて来た。

 その美女たちは程度の差はあれどお腹が膨らんでいるように見える事から……元産婦人科の医者としての感だが、恐らく妊娠している可能性がある。

 そして、それを行ったのは神木ヒカルだ。

 お前は……お前だけは幸せになっちゃ駄目だろうが!

 何でアイを弄んだお前が楽しそうにしてるんだ!

 

 その光景を俺とルビーは唯見ている事しか出来なかった。

 

「……あいつ本当に最低だ」

「……ああ、全くだ」

 

 ルビーの言葉に俺は深く同意を示した。      

 

 その後家に帰ると、アイが珍しく家に居た。

 

「あ、アクアとルビーお帰りー」

「「ただいま」」

 

 アイはそういうとニコニコしながらこっちに来た。

 

「そうだ! さっき知り合いのプロデューサーから連絡が来てね。アクアに仕事を振りたいんだって……」

「へぇーどんな?」

「『恋愛リアリティーショー』って知ってる? アクアも高校生だしそろそろ彼女位作っても良いんじゃない? じゃないと私みたいになっちゃうよ?」

 

 アイはそういうとケラケラ笑いながらそう言ったけど、結構なブラックジョークだから全く笑えない

 

「いや、それって最後にキスしてカップルになる奴だよね? お兄ちゃんと私同じクラスだからそんな事をされちゃうと超複雑なんだけど……」

 

 ルビーからの視線が痛いが……そもそも、受けると言って無いし今の所は、作る気も無いぞ!

 

「いや、俺はやる気無いし……」

「ええ~! 絶対に出た方が良いよ」

 

 アイの勢いに流されて俺はなし崩し的に出る事になった。

 アイのお願いも会ったが、神木に復讐する為にも、力を付ける必要があると思ったからだ。

 

 しかし、番組『今ガチ』が始まってから、しばらくして俺はやる気をなくしてしまった。

 

『本日カリスマで有名なモデルの神木ヒカルさんが心筋梗塞によりお亡くなりになりました』

 

 そのニュースが流れた時だった。

 

「あっあぁーヒカル君が、ヒカル君がぁぁぁぁ」

「ママしっかりして!」

 

 アイはあいつの事を吹っ切れた訳じゃなかったのか……

 

 俺はアイがこの時初めて弱い女性だと気が付いた……




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