ドーム公演5日前の出来事だった。
何となくではあったが、嫌な予感めいたモノを感じていた。
恐らく、これは虫の知らせなのだろう……。
その予感に駆られて、俺はアイに電話した。
「……もしもし、アイですけど」
「アイさん大丈夫ですか!? 声がおかしいですけど」
ワンコールで電話に出たアイの声は、擦れていた。
それはまるで命の灯が消えかかっているかのような……まさに風前の灯火の様に思えた。
「……ごめんね。私……ドームの公演は無理みたい」
こんなに弱々しいアイの声は、聞いたことが無かった。
「今すぐそちらに向かいます! だから、待っててください」
「ダメ!! ……ヒカル君にだけは見られたくないの」
アイはそれだけ言うと、電話を切った。
強い拒絶ではあったが、そんなこと知った事か!!
それは、俺が止まる理由にはならない……!
ハイエースに乗り込み、急いでアイの家に向かった。
急いで玄関を開けて、アイの家へと入る。するとそこには……ピンクのウサギ柄のパジャマを着て、布団に包まれたアイがいた。それに、付きっきりの看病をしていていたのか……マスクを付けて看病しているアクアとルビーも居た。
「……カミキさん、どうしたんですか?」
「アイの様子がおかしかったので、様子を見に来たのですがこれは一体?」
「恐らくですが……アイは、インフルエンザに罹ったようです」
……全身の力が抜けて、座りこんでしまった。
いや、厄介オタクに刺されたのかと思ったじゃん!?
とりあえず、斎藤社長に連絡して対策を練らねば……。
……連絡したら、すっ飛んできたよ……。
「……斎藤社長。という訳なんですが……どうしますか?」
……本当にどうしようか?
インフルエンザはどうしようもない。
顔を真っ赤にして、目がグルグル回っているアイに頑張れとは俺はとても言えない……。かと言って、代案が浮かぶ訳でもないし……はてさて、どうしたものか?
「……カミキ? お前、アイに化けてドームに出れるか?」
……えっ? 斎藤社長……正気ですか!?
「私は化けることは出来ても、声帯模写は出来ませんよ?」
「カミキ・・・・・・確かに声帯模写は出来ないようだが、以前お前が焼肉屋で酔っぱらていた時、記憶には無いだろうが、アイの声真似をしてたぞ。それも本人そっくりだったぜ」
んな、あほな事あるかいな……!?
疑いの目で斎藤社長を見ると、スマホを取り出して問題の動画を見してくれた。
『嘘は、とびっきりの愛なんだよ』
「マジか……」
思わず素の反応をしてしまうぐらいにはびっくりした……。
「……という訳でカミキ……ドームは任せた。アイの事は俺に任せろ!」
……俺、マネージャーだよね?
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そして、ドームの日がやって来た。
B小町のメンバーは、やる気に満ち溢れている。
俺は”カミキヒカル”ではなく……アイドルの”アイ”としてこの場にいる訳だから、全然緊張なんかしてないし……? なっ、何なら俺には……! だっ、誰にも負けない……強い信念がある!!!!
「こんなこと言うのアイには悪いけど……私、カミキマネージャーと一緒にライブが出来て嬉しいです!」
「……うん。アイには悪いけど、こんな機会は無いだろうしね」
「大丈夫ですよ、カミキマネージャー。何かあっても私達がちゃんとフォローしますので、安心してください」
「ねえ、せっかくだから……B小町のドームライブの成功を祈って、円陣組まない?」
「そうだね! 組もうよ」
「じゃあ、カミキマネージャーお願いします」
すぅぅ……と。息を吸って落ち着かせる。
「ではいっくよー、サインは?」
「「「「「「「B!!!!!!!」」」」」」」
今の俺は……”アイ”だ。
ライブ中の事はあまりに必死だったので、あんまり覚えて無いけど……どうやら大成功だったようだ。
そして、これは余談だが……ドームの日に厄介オタクがアイの家に来たようだが、斎藤社長が応対したため、相手は敢え無く御用になった。