目の前で眉毛を八の字にして唸っているアイが居る。
アイの手には、たった一枚のトランプが握られている。
対して俺は、ジョーカーとキングの2枚のトランプを所持している。
キングを引かれたら、俺の負け。ジョーカーを引かせたら、次は俺のターン……。
「……アイさん? 別段おしゃべりは禁止じゃありませんから、楽しくやりましょう?」
「……楽しく? 私、これで10回連続で負けてるのに? ……何でヒカル君の嘘が分からないんだろう?」
「それは勿論、私が嘘をついて無いからですよ?」
「じゃあ、ジョーカーどっちなの?」
「ええ、右ですよ」
「それは……どっちから見て右なの?」
「私から見て、右ですね」
俺がそう言うと、アイは吸い込まれるように右のジョーカーを取ってしまう。
「あ~またジョーカーだぁぁぁぁぁ何で!? 何でこれジョーカーなの? 意味が分からない! 今ヒカル君、絶対に嘘ついたのに~~!!!!」
「……10回だろうと、20回だろうと、何度だって言いますけど……私は嘘なんてついてませんからね?」
「そんなの嘘だよ!!!?」
「いえいえ、こういうゲームは
「うぅ~じゃあ、ヒカル君の番だよ……」
「ええ、では……」
額をトントン指で叩き……決めた。
「左ですね」
すっと取ると、それはキングだった。
「……ねぇ、ヒカル君? おしゃべりは禁止じゃないって言ってる割には……ヒカル君が取るときは、全く喋らないのは何でかな?」
「それはそうですよ。『嘘つきは常に嘘をつく! それだけは信じても良い』……ってジャック・スパロウが言ってましたからね。
「ぐぬぬぬ、じゃ、じゃあ!? さっきから額を指でトントンしているのは、なぁぜなぁぜ?」
「ああ、これは勘を働かせる為にやっているだけですよ?」
「え!? か、勘? 直勘ってこと!?」
「そうですよ。ま、今回は的中率100パーセント何て、出来が良すぎますが……こんなのはただの偶然ですのでお気になさらずに……」
「そうだ! じゃあ、ヒカル君? 次は嘘をついてね。そうすれば私が勝てる……!」
「……まぁ、良いですよ」
手を後ろに回してトランプを適当にシャッフル……って言っても、2枚だけだから適当で良いや。どうせ、確率は半分なんだから……。
「じゃあ……こっちがジョーカーです」
俺は、左のキングをアイに分かるように差し出した。
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……もぉぉぉ!? さっきから、ヒカル君の嘘が全く分からない!
私だって! アイドル以前からずぅぅっと嘘を吐き続けて、むしろベテランなのに……。
前回のだって、結果的にはヒカル君は嘘をついていなかった。
なのに……私には、ヒカル君の言葉が嘘に聞こえた。
何かしらのからくりがあるはずなのに……理解が出来ない。
でも、今はヒカル君は嘘をついてるはずだから……じゃあ差し出されて無い方がジョーカーって事? そんな安直な事するかな……? 私だったら、このタイミングで差し出してる方をキングにして……引かれたくない方をジョーカーにする。
つまり……今差し出されている方がジョーカーで、差し出されて無いのがキングだ!!!!
私は吸い込まれるように、引きづらい方のトランプを取った。
それを見たとき……私に電流が走った。
「な、なんでこれがジョーカーなの?」
「……何でって、アイさんが噓をついてって言ったから……ちゃんとついた結果ですが?」
「だ、だって!? そんな安直な嘘なんか、本来だったら分かるのに……!?」
「じゃあ、答え合わせをしましょうか? 何故、アイさんが私の嘘を見抜けなかったのか……それは大したことではありませんが、例えばこのジョーカーですが……」
ヒカル君はそう言うと……ジョーカーのトランプを指差す。
「誰がどう見てもこれはジョーカーですが、自身の認識を変えれば良いんですよ。今回ならキングを取らせないゲームではなく……相手にジョーカーを取らせるゲームなんですよ。そうなれば、話は簡単です。ジョーカーをジョーカーと思わなければ、それはジョーカーでは無いです。無論、キングも同じ理屈です。そうなれば……アイさんは嘘を嘘と見抜けなくなるので、勝手に考えて自滅するだけでしたからね」
……なんか納得出来ないけれど、理解は出来た。
「早い話が、嘘を嘘と思わなければ……それはまた一つの真実ってことです」
……その理屈は、全く分からないなぁ~。