……ああ、放課後になってしまった。
「……あっ、カミキ? カミキヒカル〜!? 行くわよ!!」
本当に楽しそうな仕草や声を出しつつ……姫野はこっちに近寄って来た。
「ええ、それではお願いします」
普段はアレだが、夕食を奢ってくれる相手だ。
こちらも礼儀を尽くすのが誠意というものだろう。
実際の所、姫野の実家はかなりの金持ちらしく……外食をする際はいつも贔屓にしている高級レストランがあるそうで、今回はそこに招待してくれた。
そんな訳でアイ達には夕飯は食べて来るから、今日は遅くなると伝えている。
当然、アイからは何処で食べるのか聞かれたが……場所は勿論、お店も名前も連絡したときは知らないから答えようがなかった。
そんな中で分かっている情報は、高級レストランってだけであった。
そして、当然アイからも『私も高級レストランに行きたい!』と駄々を捏ねられた。……しかしながら、食べ方が汚いアイを連れて行くのは恥ずかしすぎるので思わず、『……アイさん? アイさんは、たこ焼きとかフランクフルトを食べている姿の方が……一番、かわいいですよ?』……と言って、誤魔化してしまった。
アイがテーブルマナーを覚えさえすればいいのだが、如何せんあーんに味を占めてしまった以上……その辺りの学習が全く進んでいないのが現状である。
なので、このままだとアイとはそういった機会に恵まれないかもしれないなぁ~。
アクアとルビーはまだ子供だし、多少のミスは許されるし、そもそも本人たちも必要なら覚えるスタンスだから問題はないので、何時か連れって言ってあげたいものだ。
「それより姫野さん、お店の住所と名前を教えて貰う事は出来ますか? 私はバイクで通学してますので……現地で待ち合わせが良いのですが?」
「うっ!? それは仕方ないわね……。分かったわ、場所は東京都千代田区〇〇〇◇-△-□、すき焼き屋の〇〇〇よ。数多くのメディアや雑誌に掲載されていたから、カミキヒカルも知っているでしょう?」
「……ええ、勿論存じてはおりますが……まさか本当に良いのですか?」
「勿論、私の卒業がかかってましたからね。この程度の事で済むなら安いものですよ」
お店の名前を聞いて驚いた。
そこは予約が必ず必要で、個室完備の所だった。
お金も結構な金額がかかるし、普通の学生なんかじゃとても払える金額じゃない。
今の俺でも、二の足を踏んでしまうぐらいのレベルの金額だ。
どうやら……お嬢様ってのは、伊達では無いらしいな……。
「それでは、お店の前で待ち合わせですね」
「はい! それでは待ってますので……すぐに来てくださいね♡」
姫野はそう言うと……お迎えの車が来たらしく、それに乗り込んでいってしまった。
……しかし、そんなことよりも、姫野が乗った車を見て俺は目を見開いた。
姫野が乗った車は、ロールス・ロイスのファントムモデルだった。
いやいや、金持ちの次元が違うぞ!!!?
驚きのあまり硬直してしまったが、立ち止まっててもしょうがない。
今から行く場所は姫野がよく行くって言ってたし……お会計、大丈夫かな?
調べてみると、支払いは現金のみと書いてあったし……一応、100万くらい降ろしてからお店に向かおう……。
銀行に寄ってからお店に行ったわけなので、当然のことながら姫野はお店の前についていた。
「すみません。遅くなりました」
「……いえ? 大丈夫ですよ。では、行きますよ」
姫野はそう言うと……俺の手を引っ張って、お店に入っていった。
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個室に通されると直ぐ様、すき焼きのコース料理が運ばれて来た。
姫野がそれを美味しそうに食べ始めた所でふと、考えてみれば……。放課後に友達と、どこかで食べに行くなんてこと……全くなかったな……。
小・中は劇団ララライで、役者とセックスばかりしていたし……。高校に入ってからは、学業・家事・育児・お仕事・セックスと寝る時間を確保するのが精いっぱいだったし……。振り返ってみれば……友達と呼べる存在は、誰も居なかったなぁ~。
もしも、アイと関係を持たなかったら……? 俺は多分、姫野と結婚は分からないが……付き合っても良いとさえ思えちゃうぐらいには、気持ちが揺れるなぁ~。
今でも上品に料理を食べる姿は可愛く見えるし……何より、本当……
そう思うと……姫野との関係が、これっきりというのは……何とも寂しく感じてしまう。
しかしアイが居る手前、責任は取らないと行けないし……。子供達を裏切ることになってしまうし……。はぁ~どうしたものかねぇ~?
「カミキヒカル? 箸が止まってますわよ? ほら、これとか美味しいですから食べてください」
姫野はそう言うと、俺の受け皿に食べ頃の肉を運んでくれた。
「わざわざありがとうございます。それでは頂きます」
「どーぞ召し上がれ♡」
全くこっちの事情も知らないで……あんまり隙を見せないでくれよ。
我慢が出来なくなるから……。
……うん、口に運んだ肉はとても美味しかった。