黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ   作:グランドマスター・リア

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黒の剣士、絶技を見せる

 

車をハッキングで乗っ取られ、絶体絶命かに思われたが何とか海に突っ込む寸前で脱出できた。しかし、たきなの射撃技術には改めて驚かされた。激しく車体が揺れる中、空中に車が投げ出されたほんの一瞬で正確に五十メートルは離れているドローンを撃ち抜く。

優秀なんてもんじゃない。

ファーストリコリスの千束ですら自信がないと言う程の難易度と言えば、大方察しが付くだろう。

たきなは間違いなく、将来ファーストリコリスになれる器を持っている。

 

と、たきなに関してはこの通りだが任務の話に戻ろう。

危機的状況は去ったが、遠方から例の傭兵と思われる集団が様子を伺っているのを見て、千束の提案で俺達は近場のスーパーマーケットの廃墟に一先ず身を潜める事にした。

 

「私を先頭に、たきな、和人の順番で行くよ。……付いてきてください」

 

後方を俺とたきなで警戒しつつ、護衛対象を千束が先導する。

しかし、動き出そうとした時、裏口方面から二人の傭兵が突入してきた。

 

「たきな!」

 

死の一瞬、ライフルの連射が降り注ぐよりも一瞬早くたきなはスーツケースをシールドにして身を隠す。

俺は物陰から出る前だったが、恐らく姿は見られた。

 

「四人発見、銃を持ってる!」

 

指示も的確かつ迅速。

プロよりのアマというミカの評価は正しい。プロの軍人ほどではないが、かと言ってそこら辺の素人とは比較にならない練度。それもアマチュアの中では、かなり実力がある方だ。

 

「よいしょっと!」

 

千束が商品棚を足場にして飛び上がり、傭兵のうち一人をダウンさせる。そのタイミングで銃撃中の敵の内、一人がリロードに入った事で一時的に張り巡らされていた弾幕が消える。

 

「ナイス千束!」

 

俺はその隙を逃さず、物陰から飛び出す。

 

「和人さん!?」

 

まさかの行動にたきなは驚愕する。

二人の銃口がこちらに向くが、臆せずたきなの前に立つ。

 

「馬鹿が!」

 

射撃体勢の整ったライフル持ちの傭兵二人を相手に、ブレード一本で相対する。確かにこんなのは馬鹿のやる事だ。それでも、俺は飄々とした余裕の笑みを崩さない。

剣を上段に振り上げるのと同時に、マズルフラッシュが煌めく。埃の舞う空気を切り裂いて銃弾が迫る。

 

「ッ!」

 

アサルトライフル二丁による掃射。

ライフルは拳銃とは違い、一分間に数百発は射撃できる。その連射速度と精度は自動拳銃の比ではなく、装弾数も数十発以上が基本だ。引き金を押し続ける限り、一弾倉につき数秒間に渡って銃弾の雨が襲う。

 

極限の集中で、スローモーションになった世界を超加速的意識で見通す。後はタダ反応と斬撃の繰り返し、片手剣七連撃技〈デットリーシンズ〉の応用で、飛んでくる銃弾をスパスパと弾く。踊るような身のこなしと、流れるように美しい剣筋はかの世界から一切の衰えを見せない。これが、この世界では誰も知らない『黒の剣士』の絶技である。

 

それを目の当たりにしているたきなは、信じられない物でも見ている様に目を見開いた。しかし、すぐに我に返って射撃の合間を縫って傭兵を銃撃する。

 

「グァッ!?クソ!」

 

肩に一発、それで一人を無力化。

 

「何だコイツは!どうなってやがる!」

 

銃撃する人数が一人に減れば、当然二人の時よりも捌くのは容易い。

続いてもう一人、脇腹に一発被弾してゲームセットだ。

 

「んー、やっぱり対物ライフルの弾丸よりは簡単だな」

 

ブレードも刃こぼれ無し。流石はアラン機関の特別性だ。

 

「馬鹿なこと言ってないで早く行きますよ!」

 

たきなも今の和人の動きについて聞きたい事は山ほどあったが、今は任務を優先する。

千束を追って裏口側の通路に出ると、傭兵の一人が千束に対してライフルを構えていた。それを見て、たきなは通路からフロア側に引っ込む。しかし、連射される銃弾の雨が千束に命中する事はない。

 

疾走する事も、ステップ動作をする事も無く、ゆっくりと歩を進めるようにして全ての弾丸を躱しているのだ。相変わらずとんでもない技術だと舌を巻いていると、そいつは千束の非殺傷弾の餌食になる。そして、更にもう一人フロア側のたきなに銃撃された男も完全に無力化する。

 

「そのまま、手当てする」

 

相手が完全に戦意を失ったのを見て、千束はバッグから応急手当てに必要な物を取り出す。

俺は千束の傍まで行く。

 

「手伝いはいるか?」

 

「うぅん、大丈夫」

 

首を横に振ったので、バッグに掛けた手を引いて立ち上がる。

 

「敵の増援が来る前に脱出しましょう」

 

廊下にたきなの声が響く。

 

「少し待って」

 

「っ、囲まれますよ!」

 

苛立った様子で急かすたきなに、それでも手当てを辞めない千束。リコリスとして正しいのはたきなだし、だからと言って千束の信念を知っている俺としてはどちらに味方する事も出来ない。

成り行きを見守るに徹した。結論から言うと、千束が後から追い掛けるという事でたきなと俺は先に脱出経路に向かう事にした。

 

それ以上は敵襲もなく裏口まで辿り着くと、たきなが最大限に警戒しながら外の様子を伺おうとした矢先、ウォールナットはたきなの制止する声も聞かず扉を開いた。

 

「ッ、待て!」

 

外から飛び込んできた殺気を感じ取って、慌ててウォールナットを止めようと追いかけようとしたが……

 

「和人!出ちゃダメ!!」

 

そこに走ってきた千束が、俺の服の襟を掴んで後方に引く。

銃撃の音が響く。一発目を境に、堰を切ったように複数人の一斉掃射がリスの着ぐるみに赤い花を咲かせた。

 

「ウォールナット!?」

 

たきなが血塗れになった着ぐるみに駆け寄る。

 

「失敗です。護衛対象は死亡――」

 

たきながミカに報告する中、千束は一歩、また一歩とウォールナットに近付き、足元に倒れた着ぐるみを見て悲痛な表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

帰りの救急車両の中は言葉もなく、意気消沈としていた。

当然、護衛対象を守れなかった。たきなは止められなかった責任を感じているし、千束はさっきまでずっと泣いていた。

 

「俺があの時、外に出て守れていれば……」

 

「何言ってんの!あの数は幾ら和人でも無理だよ!」

 

その通り、俺の銃弾見切りはあくまで俺の視認できる範囲に敵が居る場合にしか有効じゃない。

相手の視線や動きから射線を予測する関係上、どうしてもある程度は近くないと正確な予測は出来ない。あの時、千束が止めていなかったら俺は死んでいた。それでも、自分の無力さを感じずにはいられない。

 

何分くらい経っただろうか、その沈黙を破った者がいた。

 

「そろそろ頃合いじゃないかな?」

 

「え?」

 

電子ノイズの入った声。

それは護衛中に何度も聞いた、正しく護衛対象のもので……

リスの着ぐるみは平然と上体を起こし、自身の頭に手をかけて一息に脱ぎ去った。

 

「アッツイ!ビールちょうだい!」

 

そこから出て来たのは、まさかの別行動を取っていたはずのミズキだった。

運転席の方から投げ渡されたビール缶を受け取ると、一息に飲み干していく。その様を見て、俺も千束もたきなも訳が分からないと言った様子でフリーズする。

 

「ミ、ミズキ!?え?なな、何で!?」

 

「落ち着け千束」

 

運転席から顔を出したのは救急隊員に変装したミカだった。

 

「ミカさんまで!一体どういう……」

 

防弾だと言って、着ぐるみのお腹を叩くミズキ。叩く度に派手に血糊が噴き出している。

どういう状況なのか掴めない。つまり、自分達がウォールナットだと思っていた着ぐるみはミズキで、だとすれば本物のウォールナットは何処に行った?

 

「え、じゃあ本物のウォールナットさんは?」

 

「ここだ」

 

声が聞こえたのは脱ぎ捨てられた着ぐるみの頭。

三人が驚愕していると、黄色のスーツケースが開く。

 

「追っ手から逃げ切る一番の手段は、死んだと思わせる事」

 

スーツケースの中から出て来たのは、金色の髪をした小学生くらいのVRゴーグルを被った少女。

 

「これなら、それ以上は捜索されない」

 

「という事は、わざと撃たれたんですか?」

 

「彼(ミカ)のアイディアだ」

 

どうやら発案者はミカらしい。

結局、死んだと思われたウォールナットは実は生きていて全ての計画通りだったという訳だ。ミズキいわく、あの場を切り抜けても最終的には必ず死ぬシナリオを用意してたみたいだから、実質的に任務が早く終わったという事で結果オーライ。

騙されたのは大変遺憾の限りだが、とにかく護衛対象が死んでいなかった事にホッとした。

 

 

 

 

 

その後、事後処理も恙なく終わりリコリコに戻って来た。

騙されていた事に拗ねた千束がカウンターに突っ伏していた。

 

「そろそろ機嫌を直せよ、千束」

 

「だって事前に教えてくれても良かったじゃないですかぁ」

 

その点に関しては俺も同感だが、実際にはこれが一番確率の高い作戦だったと今は納得している。人の命が助かるならピエロの一役や二役お安い御用だ。

 

「だってアンタ、演技下手じゃん!」

 

笑いながら言うミズキに千束は更にむくれてしまう。

 

「むしろ、たきなと和人と一緒に自然なリアクションしてもらった方がいいじゃない?ほぉら、こういう!」

 

ミズキが掲げたのは、作戦失敗直後の号泣している千束の写真だった。

 

「ああ!?それいつ撮ったの!」

 

何とかスマホを奪おうとするが、千束の背丈では腕を伸ばされると届かない。それを横目にミカから出された仕事後のコーヒーを嗜む。

そんな中、たきなが口を開いた。

 

「やはり『命大事に』って方針。無理ありませんか?あの時、きちんと三人で動けば今回のような結果にはならなかったはずです」

 

敵の手当てをしていた事で連携を乱した千束に対してのたきなの憤り。

特に合理的な思考で動くたきなに取って、常に感情的でやりたいこと優先な千束の行動が招く結果が受け入れられないのはよくわかる。かと言って、別に千束は覚悟も無しにそんな事をしている訳じゃない。

自分に出来る事を精一杯貫く。それが、千束の信念であり、こればかりは誰も歪めることは出来ないものだ。

 

「目の前で人が死ぬのを放っておけないでしょう?」

 

「私達リコリスには殺人が許可されています!敵の心配なんて……」

 

たきなも千束も間違った事は言っていない。

それによって、任務が失敗した訳でもない。ならば、これ以上その議論は意味をなさないというのが正直な感想だ。

結局、ミカがまかないを出して仲裁し、そこでこの話は終わった。

 

コーヒーを飲み干して、座布団を取りに行ったたきなを手伝おうと裏に入る。

 

「……何してるんだ?」

 

座布団が入った襖を両手でこじ開けようとしている千束を見て、疑問符を浮かべた。

 

「中にウォールナットが」

 

「え?」

 

襖が開くと、まるでドラ〇もんみたいに襖の上部に電子機器を展開したウォールナットが居座っていた。

 

「うちでしばらく匿ってくれってー!あんまり騒ぐんじゃないわよ!」

 

ミズキが理由を大まかに理由を説明する。

確かに一度逃げ切れたとは言え、今もなお彼女は追われる身だ。ともすれば、身を隠す場所が必要であり、確かにDAの支部であるここは何かと都合がいい。

 

「うわぁ、座敷童か何かだと思ったぁ!!」

 

「完全にポジションが某国民的アニメのネコ型ロボットだな……」

 

「ボクは奴みたいに万能ではないぞ。あくまで電子戦専門だ」

 

ドラ〇もんを奴と呼ぶ不遜な少女は、これでも日本最高のハッカーなのだ。

リコリコの仕事を手伝う条件で、しばらくこの喫茶店に住む契約だったらしい。

 

「今日から仲間だね。名前は?」

 

「ウォールナッ……」

 

「ちょいちょい!そいつは死んだんでしょ?本当の名前を教えなさぁい」

 

少女は聞かれて、『クルミ』と名乗った。完全に日本語にしただけだが、もしかしたらウォールナットの方が本名をもじって作った名前なのかもしれない。

 

「……え、ちょ、たきなサン?」

 

一人で得心した俺の隣で、ヘアゴムを取って指に引っ掛けている青い少女に俺は困惑気味に声を掛けた。すると、人差し指を立てて沈黙を促される。

 

(何故、ゴム鉄砲?)

 

その照準は目の前の赤い着物の少女へと向けられる。

そして、丁度発射されるタイミングで千束がこちらを向いた。放たれたヘアゴムは千束へと向かい、これが間一髪の所で回避され、後ろのクルミに命中した。めっちゃ痛そうにしている、完全にとばっちりである。

 

「「え?」」

 

千束は「何今の?」という顔を、たきなは避けられた事に対する疑問符を、座敷には微妙な空気が流れる。悶絶するクルミの声を背に、俺は今日も平和なリコリコで苦笑するのだった。

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