黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ   作:グランドマスター・リア

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黒の剣士、DA本部へと赴く

 

忙し過ぎず、かと言って閑古鳥が泣く程でもない。

春から夏へと変わり始める梅雨入り前の今日この頃、本日もリコリコは平和です。

 

日も沈んで、今は常連客を集めて恒例の『閉店後ボドゲ大会』を開催していた。

 

「よっしゃー!先アガリ!」

 

種目は大富豪。手札の枚数はクルミとの僅かな僅差で、俺が一番最初に上がった。

 

「タッハー、和人つよいなー」

 

「毎回クルミちゃんか和人君が一位だもんね」

 

これでも廃人ネットゲーマーとしての矜持と誇りがある、幾らクルミが強かろうとそう簡単に負けてやるつもりは無い。

現在の戦績はクルミとの戦績はほぼイーブンで、お互いに一歩も譲らない駆け引きを繰り広げていた。

 

「ねぇ、たきなもこっちで一緒にやろうよ!レジ締めなら私も手伝うから」

 

「もう終わりました。レジ誤差ゼロ、ズレ無しです」

 

相変わらずの正確さと手際の良さである。たきなが店に来てから、明らかに打ちミス、数え間違いなどが減った。ならばと俺は座敷を立って、たきなの所へ行く。

 

「それじゃあ、もう暇だろ?こっちで遊ぼうぜ」

 

「いえ、結構です」

 

ピシャリと断ったたきなは、一直線に更衣室へと向かう。

 

「……ちょっと急すぎたかな?」

 

もう慣れたものとは言え、こうも素っ気ない態度を取られると少ししょんぼりする。

 

「和人は悪くないよ。たきなも、ちょっと恥ずかしいだけだって」

 

千束は首を横に振った。でも、たきなは別に人見知りでこんな態度を取っている訳じゃない。ミカが参加を勧めても、「そうすればDAに戻れますか?」と聞き返すのを見ればわかる。彼女の行動基準は言葉の通り、DAに戻る為に必要か、そうでないか。返す言葉もそんなんだと、こちらも取り付く島もないという物だ。

それでも、千束は根気強くたきなを誘う。

 

「たきなぁ、一緒にゲームやろ。ね?」

 

「もう帰るので」

 

「じゃあ、明日は?」

 

「明日は定休日ですよ?着替えるので……」

 

引き戸が締められて、尚も誘おうとする様子の千束を見かねてかミカが声を掛けた。

 

「千束、健康診断と体力測定は済ませたのか?」

 

「あ、いや、まだ……」

 

「お前、まだ行ってなかったのか?」

 

「だって、あんな山奥まで行くの怠いし」

 

「それで行かなかったから、この前は痺れを切らした楠木(くすのき)さんに一週間の講習受けさせられたんだろ?あの時、一週間も俺一人で仕事処理するの本当に大変だったんだからな」

 

そう、千束はいつも面倒だと言ってリコリスの義務であるライセンス更新をギリギリまでやらないのだ。

ライセンス更新を行うには富士山の近くにある本部まで赴く必要があるから、面倒なのは分かる。だが、そのせいでこっちまで割を食うのは勘弁願いたい。

 

「ミカさん、千束のライセンス更新っていつまでですか?」

 

「明日までだ」

 

それを聞いて俺は「うわぁ」と露骨に顔を顰めた。

 

「……千束。俺も明日は本部に行く予定だったから、どうせなら一緒に行くぞ」

 

「えぇ、そこは先生から上手く言っといてよ。先生の頼みなら聞いてくれるでしょ、楠木さん」

 

こっちが折角善意で誘ってやったのに尚も往生際の悪い千束にため息をついていると、急にバタンと音がして更衣室の扉が開いた。

 

「司令に会うんですか?」

 

「わぁ!?バカ服ぅ!!」

 

平然と下着姿で更衣室の扉を開けたたきな。千束がそれを即座に閉めて、こちらを睨み付けた。

 

「見た?」

 

「ミテナイ……」

 

俺もミカもすぐに顔を背けたから見てない。そう、何も見ていないのだ。

数秒してもう一度扉が開かれると、今度は制服をちゃんと着ていた。恐るべき早着替えである。

 

「司令に会うんでしたら、私も連れていってください。お願いします」

 

直角九十度に深々と頭を下げて頼む見込むたきなに、三人で顔を見合わせる。

俺達の返事がないと「お願いします」と再度、たきなが口にした。それを見た千束は、仕方ないと言った様子で微笑んだ。

 

「分かった。一緒に行こ」

 

こうして、明日の定休日は俺、千束、たきなの三人でDA本部に向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

東京の都心部から離れて、特急列車に揺られながら本部のあるの山の最寄り駅を目指す。

千束はライセンス更新。たきなは司令に直談判。そして、一番関係なさそうな俺は何をしに行くかと言うと、簡単に言えば挨拶みたいな物だ。三年前から現在に至るまで、俺はリコリスに扮する形で正体を隠し、リコリコに回ってくる任務を遂行している。だが、リコリスの制服は彼女達にとって一般人で言う所の身分証と同義であり、そう簡単に偽造・借用が出来る物じゃない。当然、そこにはリコリスの司令である楠木が絡んでいる。

 

リリベルに於いて、電波塔の英雄『錦木千束』に対抗できる数少ない駒として数えられていた俺が、リコリスの側に付く。これは楠木に取っても大きな意味があり、様々な事を条件に俺は特別にリコリスの制服が貸し出されているのだ。

その条件とは、例えば『有事の際にはリコリスとしてDAの招集に応じる』『リコリスの任務、義務を滞りなく果たす』などと色々とあるが、その中に『三ヶ月に一回、司令と面会する』と言ったものがある。

この面会は事前にアポを取って、決まった日付に行うのだが今回俺はこの面会をする為に本部へと向かっていた。

その為これも任務扱いであり、今日はリコリスとしての姿で来ていた。

 

「……千束、健康診断前に飴を食べるのはどうかと思うぞ?」

 

「キサマは私のオカンか何かか……たきなは飴いる?」

 

「結構です。糖分の接種は血糖、中性脂肪、肝機能他の数値に影響を与えます」

 

流石に二人から指摘されてはやりたい事優先の千束さんも「はぁい」と諦めるしかない。

そんな感じで雑談していると、目的の駅に到着した。駅は雨の日という事もあって人手はなく、殺風景な駅舎の前には一台の車と傘をさした女性が待っていた。

これは迎えの車で、それに乗って山奥のDA本部へと向かう。

 

幾度のゲートや警備をパスして、重苦しい監獄のような仰々しい建物が目の前に現れる。更に建物に入る為にも、持ち物検査と顔認証をして、ようやく本部に入ることが許される。

 

「やっと着いた」

 

「リコリコからだと結構遠いもんね?」

 

グッと伸びをして、受付に向かう。

 

「錦木さんは体力測定ですので隣の医療棟へ。井ノ上さんは……」

 

「司令とお会いしたいのですが」

 

「司令は現在会議中です。お戻りになるのは二時間後になります。その後も、そちらの桐ヶ谷さんと面会がありますので……」

 

最低でも二時間半は待つことになる。

そこで俺は右を挙げた。

 

「それなら、俺が面会する時にたきなも一緒に行きます。たきなも、それでいいか?」

 

「はい。構いません」

 

これで無理とか言われたら流石に泣いたが、了承してもらえた事に一安心。するのも束の間、背後を通りがかったリコリス達からひそひそと話し声が聞こえた。

その内容は「仲間殺し」だの「命令違反」だのと言った不快な悪口ばかりで、その内容に俺も千束も目を細めて睨み付けた。

 

「あいつら……!」

 

身内の事を言われて黙っていられる程、俺は優しくはない。一発苦言を呈してやろうと一歩踏み出そうとして、服をたきなが引っ張って止めた。

 

「たきな?」

 

「いいんです。和人さんが相手にする必要はありません」

 

「でも、あいつらたきなの事を!」

 

たきなは確かに無愛想な所があるけど、本当は誰よりも仲間の事を大切に思っている。今のように謂われない中傷をされる筋合いはない。

 

「気にしてません。私、訓練場に行ってますから……」

 

言って、たきなはその場から走り去ってしまう

 

「あ、ちょっとたきな!」

 

追いかけようとする千束を制止する。

 

「千束はこれから体力測定だろ?たきなの事はこっちで見とくから、そっちは早く面倒なのを済ませてきな」

 

「……分かった。じゃあ、たきなのことお願いね」

 

千束は少しだけ考える仕草をしてから、医療棟の方へと歩いて行った。

それを見送って、俺もたきなの後を追って屋内射撃場へと向かう。三ヶ月に一回とは、三年も通えば粗方施設の構造は分かっているのもあって迷わずに目的の場所に辿り着く。

 

「お、居た」

 

すると、黙々と訓練用の的を撃つ少女が一人。

丁度、弾倉一本分を全て撃ち終わった所だったらしく、的は全て中央部分を撃ち抜かれていた。恐るべき精度である。

 

「凄いな。全部真ん中だ」

 

「和人さん……いえ、こんなのは小手先の技術です。あなたのアレに比べれば、詰まらないものですよ……」

 

アレの意味する所を察する事の出来ない俺ではない。ウォールナット護衛任務の時にたきなの間近で見せた銃弾斬りの事だろう。

それにしても『小手先の技術』か。まさか、あの時に青髪のスナイパーに言った言葉をそのまま返されるとは思わなかった。

 

「でも、練習すれば誰にだって出来る様な簡単な物でもないはずだ」

 

サッチェルバッグから銃を取り出して、訓練用のゴーグルとイヤーマフを装着して俺も的を撃ち始める。的までの距離は四十メートル。全部で七発を撃ち終わって蓋を開けて見れば結果は酷い物だ。殆どは円形の外側に命中しており、うち二発は的にすら当っていない。

 

「ほらな」

 

「いや、これは幾ら何でも酷すぎると思いますが……」

 

たきなはその酷さに若干呆れている。

 

「そうですね……もう一度やってみてくれますか?」

 

「?あぁ、分かった」

 

的を新しい物に変えて、再度射撃の姿勢を取る。

 

「そのまま」

 

一括するような言葉にピタリと体を固定する。

 

「重心にズレはないですね。剣を使っているなら体幹もいいはず……一度、撃ってみてくれますか?」

 

言われて、一発射撃する。弾はギリギリ的の外側に命中した。

 

「成程、撃つ時に姿勢がブレてますね。反動(リコイル)の際に更に酷くなってますから、連射すると当たらないのも納得です」

 

「一目でよくそこまで分かるな……」

 

たった一度見ただけで原因を究明する知見の深さに関心していると、今度はたきなが背後から手を回すようにして俺の手の上から銃に添えた。傍から見れば抱きつくような姿勢に変な声が出かけたが、それを寸前でグッと抑える。

 

「グリップは内側まで握り込んで、体は的に対して正面を維持。腕だけでなく体全体でしっかりとバランスを取ってください。そうすれば反動で姿勢がブレる事もないはずです」

 

「は、はい」

 

思わず敬語になってしまう。

たきな大先生の指導の元、文字通り手取り足取り悪い所が改善されていく。

 

「こんな所ですかね。撃ってみてください」

 

引き金を引く。銃撃の乾いた音が射撃場に響いて、飛翔した弾丸が的の一番外から数センチ内側に命中した。

 

「……当たった!やったぞ、たきな!」

 

「動かない的が相手ならこれくらい誰にでも出来ます。全て真ん中からマイナス2マス誤差で当てられるようになって、ようやく及第点です」

 

「はい、すみません」

 

浮かれた心を一蹴するたきなの辛口な評価に、俺は意気消沈とする。

 

「とは言え、壊滅的に才能が無い訳でもないと思いますよ。ただ、剣をメインウエポンにしてる関係上、体の節々に独特の癖があるのでそれが当たらない根本的な原因かと思います」

 

「剣士特有の癖か……」

 

何となくそんな気はしていたが、そうなるともはや俺の長年の剣士人生が作り出した物が悪癖になっているという事になる。それはもう改善不可能という事ではないだろうか。

 

「そんな顔しなくても、ちゃんとそれ専用の訓練メニューを組めば、今みたいにある程度はマシになると思いますよ?」

 

「本当か?」

 

「えぇ、むしろその他の技術をあれだけ器用にこなせるのですから、銃だけが扱えないなんて普通は有り得ないです」

 

最後まで辛口である。本人に悪気はないのだろうけど、無表情で言われたら意外と心に来るんだよな。リリベル時代の教官も「銃なんてのは使い方を学び、撃つだけなら幼稚園児にも出来る。巧く使う事が肝要なのだ」とよく言っていた。今でこそあの言葉もよく理解できる。

 

「でも、たきなのお陰で少し光明が見えてきたよ。ありがとう」

 

「あ、いえ……どういたしまして」

 

お礼を言われ慣れていないのか、少し戸惑ったような顔をするたきな。その仕草が妙に新鮮で笑みがこぼれる。

それから、俺はたきなのアドバイスを元に射撃の訓練を続ける。一朝一夕ですぐに結果に現れるような物でもないが、統計的に見れば前よりも的を外す回数は確実に減った。少しとは手応えを感じている中、隣を使っているたきなは当然のように全て同じ部位に当てている。それも、全弾数ミリほどの誤差で……ハッキリ言ってレベルが違う。

 

そうして訓練を始めてしばらく経って、不意に背後から声が聞こえた。

 

「へぇ、ヤバイっすね」

 

後ろを見ると、そこにはツーブロックの茶髪をした少女が居た。セカンドの階級を表すたきなと同じ青色の制服のその少女が、品定めするような視線を向けているのはたきなの銃によって連続で頭部を撃ち抜かれた的。

 

「どうも、乙女サクラっす」

 

この出会いがきっかけで後に大勢のリコリスを巻き込んだ騒動に発展する事になる。

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