黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ   作:グランドマスター・リア

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やはりこの作品は書くの楽しい


黒の剣士、その日常

 

模擬戦を無事勝利し戻ると、そこには千束とたきなにフキとサクラと他のリコリスの面々と揃い踏みだった。

 

「おっす、千束にたきな。邪魔者は取り敢えずどうにかしておいたぞ」

 

「どうにかしておいたって……まあ何を言っても和子には今更か」

 

千束は多くの言葉を飲み込んで、笑いかけてくれた。

と、その隣で何とも言えない表情をしているたきなと未だに奇怪な物でも見るような視線を向ける他のリコリス達を見て、俺は内心で良い事を思い付いたと口角を上げる。

早速、俺はたきなポンと肩に手を置いて、主にフキとサクラに向けて言い放った。

 

「なあサクラ、君はさっきたきなの抜けた穴はどうたらとか言ってたけどさ。俺に射撃の技術を教えたのは、何を隠そうここに居るたきな大先生だ」

 

「え?ちょ、あなた何を言って……」

 

たきなが困惑するのを無視して、俺は続ける。

 

「これから千束とたきなと模擬戦しようって言うんなら、セカンドだからと彼女の事を甘く見ない方がいいぞ?」

 

よし、相手は鳩が豆鉄砲くらったような顔をしている。他の連中も同じような感じだ。

今の戦いは勝つこともそうだが、軽いデモンストレーションも含んでいた。なるべく派手に戦場を荒らし、印象に残るような内容にする。連中がたきなの事を馬鹿にし、侮辱するならこっちは相応のインパクトを与えてぶち壊せばいいのだ。その効果はてき面で、今までの中傷に対する返礼としてはお釣りが出るほどにスッキリした。

 

後は、千束とたきな次第だ。

 

「……後は二人次第だ。頑張れよ」

 

千束とたきなを引き寄せて、二人にだけ聞こえる声量で言うと俺はさっさとその場を後にして演習の様子が良く見える場所に付く。

俄然気合が入ったように意気込む二人を見て、俺は一安心して演習場へと視線を戻した。

 

 

 

 

「いやあ、スッキリしたー!」

 

帰りの電車の中で、俺は最近では珍しいくらいの上機嫌だった。

その理由は何を隠そう、模擬戦の完全勝利に他ならない。俺の後に、千束とたきなもフキとサクラを相手に模擬戦を行ったのだが、こちらも完勝。あの時のたきなを馬鹿にしていた連中の間抜け面は、一週間はネタに出来るだろう。

 

「やっぱスパっと勝利きもち良いよね!」

 

そんな調子で千束ともイェーイと軽くハイタッチする。

行く時は診断の結果に響くからと控えていた飴を食べながら、人の少ない車内に揺られて優雅に帰宅。DAの本部に行く際は若干憂鬱だった気持ちが、ここまで晴れ晴れしい物に変わるとは思わなかった。

 

そうして、不意にたきながこんな事を聞いてきたのだ。

 

「あの、和人さんーー」

 

名前を呼ばれた。と、同時に俺はたきなに待ったをかけた。

 

「ちょっと待った」

 

「え、なんです?」

 

要件も言っていないのに、開口そうそう止められたたきなはキョトンとした様子で首を傾げた。

 

「その和人"さん"って言うの、もうやめにしないか?千束の事も呼び捨てみたいだし、今からは俺の事も『和人』で頼むよ」

 

どんな心境の変化があったのか知らないが、きっと千束とたきなは互いに信頼を深める何かがあったのだろう。

そんな中で俺だけが"さん付け"のままなのは、些か寂しいものである。それもあって、俺がそんなお願いをすると、たきなは少し戸惑った様な表情をした後におずおずと言った様子で口を開いた。

 

「えっと、それでは……和人」

 

「おう、何だ?」

 

まだ若干ぎこちなさはあるものの、今はこれで十分。改めて、たきなは本題を切り出した。

 

「今日の模擬戦。和人は銃を使っていましたよね?」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

「いつもは剣だけで戦うと千束から聞きました。なのに、今日は違った。その理由を聞きたくて……」

 

そこまで聞いて、俺は『ああ成程』と得心する。千束にチラッと視線を向けると、可愛らしくウィンクを返された。

たきなの質問への答えだが、隠すような事でもない。それはあくまで、俺の個人的な理由に他ならないからだ。

 

「別に、特別な理由はないよ。ただ、あいつらにたきなの事を馬鹿にされたのが気に食わなかった。だから、せめてたきなに教えてもらった技術で倒してやろう!って……それだけ」

 

「つまり、私の為(・・・)だったと?」

 

俺の為(・・・)だよ。あくまで個人的な鬱憤だからな」

 

見返してやりたかった。

不当な評価をくだすDAも、他のリコリスも。俺と違って、たきなは自らの意思でDAを出た訳じゃない。結果的には命令違反だったかもしれないが、彼女は命をかけて仲間を守った。それなのに理不尽な理由で追い出されて、その上あんな風に言われるなんて……。

確かに、事情を知らない人間からすれば、それが一般論なんだろう。仲間殺しの命令違反。忌むべき対象なのは間違いない。

しかし、俺はそれを我慢できなかった。曲解された認識も、批判した彼女たちが当たり前に口にする批判も、全部ひっくるめて見返してやりたかった。

 

だからこそ、あれは俺自身の為の戦いだった。

 

「たーきな。要するにね?和人はたきなの事が大好きだから、たきなが悪口言われたのが許せなかったんだよ?」

 

「おい千束、誤解を招くような言い方はやめろ!」

 

連中の前に、この愉快犯を先に沈めた方が良かったのでないだろうか。

そんな俺を、たきなは微笑みながら見つめていた。

 

「……ありがとうございます、和人」

 

ほんの一言、小さな声で紡がれたお礼の言葉。

それを聞いた俺は、満面の笑みで首肯したのだった。

 

 

 

 

 

 

季節は初夏への移り変わりを経て、リコリスの制服も夏服へと変わった今日この頃。

喫茶リコリコでも地下の射撃演習場が増設されたりと、いくらかの変化があった店長であるミカ曰く防音にかなりの金がかかったみたいだが、「日々の研鑽こそが任務の成否に直結する」と言って満足そうにしていた。

 

今はちょうど、シフト時間外を用いてたきなに射撃を見てもらっている。

 

DA本部で指導してもらってからも自らも練習を重ね、度々たきなに見てもらっている事で俺の射撃技術もそれなりにマシな物にはなりつつあった。その証拠に、今は弾が的を外す事はないし、何発かは真ん中に近い位置に当てれるようにもなっていた。

 

「誤差三マス程度、ですか。前よりも良くなりましたね」

 

「おかげさまで」

 

表情一つ変えずにたきなは早速、その結果と今回の改善点を分析していた。

そして、数秒程度の思考の後に口を開く。

 

「基本的な事は押さえているみたいですが……より正確さを求める場合、弾がどう飛ぶのかを和人自身がしっかりと認識する必要があります。具体的には、銃口を始発点に的までの射線をイメージする感じでしょうか」

 

「射線をイメージ、か。成程、確かにその辺りは剣術とも通じる所があるな」

 

剣術においても、正確に型をなぞるだけでは半人前だ。

自身の振る剣が如何にして対象を切り裂くのか、どういった剣筋を描くのか、それらを頭の中で常にイメージする必要がある。これが感覚的に出来る様になれば、練度はそれ以前とは比較にならない程に増すのだ。

 

「そうなんですね。では、試しにその感じでやってみてもらえます?」

 

「分かった」

 

銃を構えて、頭の中で銃口から一本の線を的まで伸ばす。

これまでは姿勢や構えを意識する必要があったが、今はこの辺りも感覚的に出来るようになったので、意識を別の部分に集中させる事ができる。

射線を的の真ん中に合わせて、引き金を引いた。

 

「っ」

 

銃声と反動。

弾は的の真ん中からニマスほど外側に命中していた。

 

「やっぱダメか……」

 

「落ち込むことありませんよ。これも訓練あるのみです」

 

本当に、たきな大先生さまさまである。

出来ない事があれば改善策を提示し、出来れば次のステップに至るための課題を出してくれる。故に、俺みたいな初手がボロボロの人間でもここまで良くなるのである。

 

「一生ついて行きます。たきな大先生」

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、その呼び方やめてください」

 

こんな感じで、剣の修練は自宅でやりつつリコリコでは(もっぱ)ら銃の訓練に精を出していた。

その後はたきなが買い物で先に訓練場から上がって、俺は教えられた事を参考に射撃の訓練を続けた。一時間ほどで集中力も切れてきたので、訓練を切り上げて地下からリコリコへと戻る。

 

店のフロアに出ると、そこには何やらゲーム機の片付けをしているクルミと、小難しそうな顔で腕を組み、椅子に座っている千束がいた。

またぞろアホな事に頭を悩ませているのだろうと、特に声をかける事もなくカウンターに座る。

 

「ねぇ、クルミ」

 

「なんだ?」

 

賄いのコーヒーを嗜んでいると、背後から二人の会話が聞こえてきた。

 

「たきなのパンツって見たことある?」

 

「あるわけないだろ」

 

などと案の定意味の分からない事を言った千束に、食い気味に否定したクルミ。

 

「ちぇ、何でも知りたいんじゃないのかよ?」

 

「ノーパン派か?」

 

そんな返しをクルミにされて「いやいや……」と手を振る千束に、俺は思わずため息が出そうになる。

 

(巻き込まれる前に帰ろうかな?)

 

こういう時は大抵面倒な事を千束が言い出して、それに巻き込まれる。

しかもたきなの下着の話とか、男の俺が居る前でする事じゃない。話の内容をなるべく聞かないようにしながら、瞑目しているとごちゃごちゃと音が聞こえてくる。そうして数秒後に、隣に千束が立った気配がして、思わず目を開いた。

 

「どういう事か聞かせてもらいましょうか?」

 

「何でそうなった!?」

 

たきなの履いている下着の話で、ミカに問い質すとはどういう状況か。ここで千束から簡単に説明された。どうやら、たきなが男物の下着を履いていたらしく、また彼女がそれを「指定なのでは?」と斜め上の返答をしたらしい。

そもそも喫茶店に指定の下着なんか無いだろうと思ったのだが、その成否は今ミカから明かされようとしていた。

 

「服は店で支給するから下着は持参してくれと」

 

「どういう下着がいいか分からなかったので」

 

成程、一発で状況が理解できた。

 

「だからって、何でトランクスなのぉ!?」

 

「好みを聞かれたからな」

 

当然のように言ったミカに「アホかー!」と突っ込む千束。

 

「これ、履いてみると結構開放的で……」

 

次の句は「動きやすい」だろうか?

まあ、指定の下着がどうだとか言うアホな議題は置いておいて、女性が家などで男物の下着を履いているケースというのも別にゼロではない。男が異性の下着を使っていたらただの変態だが、別にたきなならそこまで気にする事でもない気がする。

 

「なあ千束、本人もこう言ってる事だし……」

 

「シャラップ!そう言う事じゃないの!たきなぁ、明日十二時に駅前集合ね」

 

もはやそこに俺の入る暇はない。

 

「仕事ですか?」

 

「ちゃうわ!パ・ン・ツ、買いに行くの!……あと制服着てくんなよ?私服で来いよ」

 

更衣室のドアが閉まった。嵐が過ぎ去った後のフロアに漂う沈黙を破ったのは、たきなだった。

 

「指定の私服はありますか?」

 

「……和人、頼む」

 

「いや、なんでだよ!?」

 

理不尽な投げやりに悲鳴交じりのツッコミが、夜のリコリコに響いたのだった。

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