黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ   作:グランドマスター・リア

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黒の剣士、リリベルにて(以下略)

 

『アラン機関』の支援を受ける事になった俺は、数ヶ月後に病院を退院した後、吉松によって中学生一人には勿体なさ過ぎる環境が与えられた。

折角支援を受けるならと、所望した一人暮らしには高級物件の1LDKという破格の条件が与えられ、今後勉学に関しても全て面倒を見てくれるという事だった。勉強に関しては前世が高校生だったのもあり、その範囲までは楽勝だとは思うがそれでもありがたい。

 

「桐ヶ谷君、ここが今日から住む家だ。存分に使ってくれたまえ」

 

「吉松さん……その、俺多分あなたのこと誤解してました」

 

まさか、ここまで手厚い支援をしてくれるとは思わず感激する。

 

「謝る事はない。君の境遇は聞き及んでいるからね。いきなり現れた私を警戒するのは当然の事だ」

 

気にする事はないと笑顔で言う吉松。

こんな風に彼は身元引受人から戸籍関係まで、何から何まで処理してくれた。但し、当然それは吉松が俺に対して求める結果を実現する為であり、完全に無償のボランティアという訳ではない。

 

あらゆる事が済めば、次は実務的な話になる。

 

「説明した通り、我々から君に支援の代価を求める事はない。しかし、私達は君という個人を支援すると同時に、その類稀なる才能に心血を注いでいると認識して欲しい」

 

『アラン機関』によって才能を育成された子供はアランチルドレンと呼ばれ、適材適所にその才能を惜しみなく磨き抜く。詰まる所、彼が言うにはその訓練だけは機関の指示通りに動いて欲しいという事だ。

こっちだって、支援を受ける判断をした時点でそれくらいの覚悟を決めている。

 

「分かってます。俺にやれる事なら、出来る限りします」

 

「良い心がけだ。早速だが、君の才能を磨く上でとっておきの場所がある。付いてきてくれ」

 

この時の俺は、吉松の言葉を過度に信用し過ぎていた。

吉松という男が俺の技術に何を見出したのか。それを聞いてからでも、きっと判断するのは遅くはなかった。

 

途中から目隠しをされて、連れていかれたのは何処とも知れぬ山奥。やがて見えてきたのは、その中に仰々しく佇む建造物の数々。私有地の張り紙やら、国の土地である事を示す策と有刺鉄線で囲まれた様は(さなが)ら監獄そのもの。

 

「ここが、今日から君が才能を磨く場所。秘密組織、DAの本部さ」

 

まさか、異世界に来てまで血みどろの地獄に足を突っ込む事になるなんて、その時の俺には予想すらできなかった。

 

 

 

 

 

 

分岐点は何処だったか、考えるだけでも無駄なのについつい考えてしまう。

支援を受け始め、約二年の歳月はあっという間だった。俺がこの間、才能を伸ばす場所として配属されたのは政府の秘密組織DAの実働部隊『リリベル』。簡単に言えば、人殺し上等の裏稼業の執行人。字面だけ見れば映画みたいだが、マジもんのマジだ。

ハッキリ言って、リリベルになってからの二年は地獄そのものだった。死ぬほど辛い訓練に、血と泥にまみれた任務をこなす毎日。

死んだ方がマシと思う事なんて幾らでもあったし、だらかといってそれが許される事も、又はそうする勇気も無かった。

 

徐々に心が擦り減っていく中で、元の世界に戻る方法の手掛かりも掴めないまま、日と時間だけが往々にして過ぎていく。

それでも、このアランチルドレンの証である"ペンダント"を手放せないでいるの俺も大概だが……

 

『アラン機関』は身寄りのない俺をそれはそれは丁重に育ててくれたし、それ自体には感謝している。しかし、それ以外に付いて、主に"才能の使いどころ"に関してはこれ程に呪った事もないだろう。

 

「和人、いつまで休んでいる?次の任務だ」

 

声を掛けられる。

赤色の制服を来た青年は厳格然としたリーダー気質な構えで、俺の前に立つ。

 

目の前の男は、俺の居る班のチームリーダーだ。

赤い制服は高ランク『リリベル』の証であり、因みに俺も同じ階級だが要望を出して特別に黒にしてもらっている。

 

「ハイハイ。それで、次は何だ?言っとくけど、暗殺とかはやらないからな?」

 

人殺し、リリベルが排除するのはどれも救いようのない極悪人の類だが、それでも俺は頑として殺そうとはしない。

とは言っても、こんな組織に居る以上はゼロとも行かず、仲間を守るためとはいえ少なくない数を殺してきたのだが、自分からそうしようと望んだ事は一度だって無い。

 

「悪いが、今回ばかりはその心情を曲げてもらう」

 

「何だって?」

 

聞き捨てならない言葉に目を細める。

 

「仕事内容は、逃げたリコリスの始末だ。それもファーストの中でも最強とされる程の凄腕でな。悔しいが、俺達だけでは仕留めきれん」

 

「リコリス?あぁ、確かDAの……でも、リリベルは基本的に向こうとは関わらない主義だったはずだろ?何でまた急に……」

 

政府の裏で公に出来ない事件を処理しているのは、何もリリベルだけじゃない。リコリスとは言ってしまえば女の子版のリリベルであり、その性質上、リリベルとリコリスは余程の事が無い限り、互いに干渉しあう事はない。事実、俺もリコリスという名称を知っているだけで、実際に会った事はないのだから。

それが急に始末しろとか言われたら、疑問に思うのも当然だ。

 

「極秘事項だ。それを話すには、任務への参加を表明してもらう必要がある」

 

「あっそ。それじゃあ、別にいいよ。司令に断るって伝えておいてくれ」

 

俺の頑なな態度に対して、青年は青筋を浮かべて銃口を向けた。

 

「これは命令だ。貴様に拒否権はない」

 

「あのなぁ、部隊リーダー君。お前らは自分達でどうにも出来ないから、俺にお鉢を回してきたんだろ?なのに、その言い方はどうかと思うぞ」

 

腰に装着したガンベルトから"剣"を取り出そうとして、その動作はその場に響いた声で止まる。

 

「そこまでだ。和人」

 

悠然と歩いてくる長身の白髪。長い髭を立てたスーツ姿の男が現れると、目の前の青年は先程までの態度が嘘のように改まった。

 

「司令!」

 

そう、この男がリリベルの司令だ。

司令は剣呑な光を携えた視線をこちらに向ける。

 

「和人。今まではその才能と強さに免じて、お前の我儘を許していたが……今回ばかりはこちらとしても急を要する。従ってもらう」

 

「……あんたがそこまで言うなんて、随分だな?」

 

「おい、和人!司令に対して失礼だぞ!!」

 

ため息交じりに聞き返すと、司令は俺の言葉など意に介さない様子で目を閉じる。横で怒鳴りつけた青年を無視して続ける。

 

「……分かったよ。任務には出る。その代わり、こっちのやり方には口を出さないで貰うぞ?」

 

この男を相手に何を言っても無駄だ。

今回も適当にのらりくらりとこなしてやればいい。そのリコリスがどんな事をやらかして、追われる羽目になったのか知らないが、そんな事は俺には関係のない。

 

その後、装備を整えて合流した俺は作戦内容をリーダーから聞く。

 

「今回の作戦は和人を中心として展開する。対象はセーフハウスの地下に潜伏中。まずは先遣隊が突入し、対象を引きずり出せ。和人は対象を補足後、状況を見つつ適切なタイミングで突入してくれ。……質問はあるか?」

 

「……ちょっと聞いても良いか?」

 

「何だ?」

 

任務を受ける時に聞けなかった事を、この場で聞いてみる事にした。

 

「本部は、そのリコリスをどうしても始末したいらしいけど、何でそこまで躍起になるんだ?幾らファーストとは言っても、たった一人逃げただけなんだろ?聞く限りだと、犯罪組織に関与したとかでも無いらしいし……」

 

「……電波塔事件を終結させたリコリス。と言えば、理解できるだろ?」

 

「っ!成程、そういう事か」

 

道理で、いつもはワイン片手に椅子でふんぞり返ってる上の連中が血眼になる訳だ。

電波塔事件のリコリスと言えば、基本リコリスとは相互不可侵であるリリベル隊員でもその存在を知っている。

 

(その少女の名は確か……『錦木千束』)

 

噂には銃弾を至近距離で避ける化物だとかって話だ。何処までが事実かはさておき、その戦闘能力が嘘偽りの類いではなく本物なら、確かに放ってはおけないのも理解できる。大方、本部も散々捕縛を試みて失敗した結果、今に至るという事だろう。

 

「相手は銃弾を避ける化物。ならばこちらも、同じように化物をぶつけるだけだ」

 

「化物って……酷い言い草だな」

 

仮想世界でならともかく、現実でまで化物呼ばわりされる云われはない。

あくまでも変わらない態度を取る俺に、リーダーが小声で呟いた。

 

「その余裕が、いつまでも続けられると思うなよ?」

 

「は?それって、どういう……」

 

俺が追及する暇もなく、リーダーが指示を出した。

 

「お喋りは終わりだ。『22:00(フタニーマルマル)』、作戦開始」

 

走り出したリリベル達の後に続く。

特に危機感も持たず、呑気に構えていた俺だったが、後に先程の彼の発言をその場で追求しなかった事を後悔する事となる。

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