黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ 作:グランドマスター・リア
初手はリーダーを始めとしたリリベル達で突入していく。
俺はというと、外から虎視眈々と機会を伺っていたのだが、突入から数分と経たずに全滅するとか誰が予想できるだろうか?リリベル無力化RTAがあるなら確実に世界記録だ。
しかし、一個の精鋭部隊を軽く捻り潰したのは、屈強な戦士でも、筋肉隆々の傭兵でもない。
割れた窓ガラスから差し込む月光に照らされた白髪としなやかな肢体が、床に転がるリリベル達の惨状を作り出したとはとても思えない。その様は月夜に咲く一輪の花。取り分け彼岸花のように赤い瞳が、最期の一人である俺の方へと向けられた。
「君で最後?」
戦闘中とは思えないくらい優しい声音。
昼下がりのベンチで同級生を話すような軽い言葉遣い。
「まあ、一応は……」
全員負けた事だし後処理だけして帰りたいが、依頼を受けた以上は体裁だけでも戦ったという事にしなければリアルに首が飛びかねない。仕方なく、俺はガンベルトに携えた折り畳み式のブレードを引き抜いた。
「お、珍しい武器使うねぇ。私も、そういう相手は初めてだ」
「銃はどうにも合わなくてな。ずっとこれなんだ。あぁでも、だからって手加減してくれとかじゃないよ?そっちは気にせずやっていい」
この世界においても、俺に銃を始めとした遠距離武器を扱う才能はなかった。但し、それと引き換えに元の世界ではなかった運動神経の良さと、仮想世界のアバター並みの反応速度が武器として備わっていた。
故に、最初はナイフでの格闘を基礎に任務をこなしていたのだが、そんな俺の戦闘スタイルに合わせて、『アラン機関』から送られギフトの一つがこのブレードである。
特殊な製法で作られた刀身はしなやかで固く、重さや寸法もピッタリと手に馴染む。刀身が黒いのも相まって、今ではすっかり俺の相棒だ。
(他のリリベルは……生きてる?)
倒れたリリベル達を見れば、その殆どが気絶しているだけで被弾した箇所には赤い粉末が見える。
恐らくはゴム弾だろう。相手もこちらと同じく不殺とは、もしかしたら気が合うかもしれない。それを見て、俺は目の前で銃口をこちらに向けた少女を前にしても尚、薄く口角を上げる。
「オッケー、そんじゃあ始めよっか!」
言葉と同時に発泡。
大腿部を狙ったそれを的確にブレードの刀身で弾く。現実での銃弾はGGOのように予測線が表示されず音速を超えるが、この二年で死ぬほど訓練した事によって、今の俺の身体能力は軽くSAO時代の十分の一程度はある。分かりやすく例えるなら、SF映画顔負けの身体能力と言ってもいい。
そのお陰で、六連撃までならソードスキルだって再現できるし、銃弾切りも然り、GGOのようには行かずとも大人数に囲まれさえしなければ回避率百パーセントを維持できる。
(GGOみたいに予測線があったり、実際に銃弾が見える訳じゃない。でも、視線や体の動かし方から射撃タイミングさえ見切ればッ!)
続けて発泡された三発の弾を、ブレードを三回連続で振って叩き落とす。あの世界で〈シャープネイル〉と呼ばれたそれは、月光を刀身が反射した事でライトエフェクトのような軌跡を描く。
「うっそ!?」
これは流石の錦木千束も驚きを隠せないようだ。
その隙を逃さず彼女に接近する。しかし、そこは流石ファーストリコリス最強と呼ばれるだけあり並外れた動体視力で斜め振り降ろしの〈バーチカル〉を躱すと、体を逸らしたまま無理なく足払いを放ってくる。
「フッ」
それをステップで回避すると、空いた手で手刀の形にして突き出す。
これも体の軸を左に逸らし回避される。その拍子に銃撃された二発の弾丸のうち一つは剣で防ぎ、一つは敢えて体勢を崩す事で躱す。
再度、お互いの距離が開く。
「すごいね、君!私以外にも居るんだぁ、こんな事できる人!」
「流石に君みたいにフルオートのマシンガンを全弾見切るとかは不可能だよ。こっちのはあくまで反応と予測。君のそれは、そういう次元の物じゃないだろ?」
この一合だけでハッキリと分かった。
彼女の超人的な動体視力は本物だ。およそ視界に入る全ての範囲がこのリコリスにとっての支配領域と言った所だろうか。恐ろしいまでの才能、そのポテンシャルはあのユウキにも匹敵する。
俺が近接特化で剣を使えるからって有利に戦いが運ぶほど話は簡単じゃない。更にこっちの銃弾切りは軽くやっているように見えて、途轍もない集中力がいる。長時間の継続を戦闘を視野に入れた場合、燃費が
どちらが上かなんて考えるまでもないだろう。
(これはダメだな。普通にやっても勝てる気が全くしない……)
(いや……今回は最初から試すだけの予定だったし、この辺りが潮時だな)
やるだけはやった。
後は適当に死ぬほど痛いであろうゴム弾の餌食になって他のリリベルと仲良く本部に送り返されるとしよう。そう思って、両手を上げようとした。
(?あれは……!)
――その時だった。
千束の背後、割れた窓の外に一瞬見えた銃口の光り。
「危ない!!」
「え?」
反応と同時に飛びつくようにして、千束を伏せさせる。
頭から行ったので「ふぎゅ」と可愛らしい悲鳴が盛れたが、次の瞬間、俺達の真上を銃弾の雨が通過する。
(あの野郎!幾ら倒したいからって、ふつう機関銃まで持ち出してくるか!?)
しかも明らかに俺ごと殺すつもりの銃撃だった。
「待てよ。さっきのあの言葉、まさかそういう事だったのか!?」
作戦開始前、リーダーは俺に対して何やら不穏な事を口にしていた。
その時はいつもと同じ売り言葉に買い言葉だと思っていたが、まさか実害を被ってくるなど誰が予想できる?
やがて銃撃が止むと、俺はとなりで伏せていた少女の手を取って走り出す。
「今のウチに逃げるぞ!」
「え、ちょちょちょ!?」
少女は敵だった男がいきなり手を携えて逃走を開始したことに困惑しているようだったが、あんな袋小路に居ては命が幾つあっても足りない。地下に逃げ込む手もあったが、手榴弾でも投げ込まれたら目も当てられないので外に逃走する道を選んだ。
「何で君まで逃げてんの!?君たちの狙いって私だよね?」
「好き勝手やり過ぎたら、上司と同僚の恨みを買ってしまったんだよ!ついでに、向こうからすれば今は俺も抹殺対象だ!」
「全然わけわかんないって!」
解せん連中だ。幾ら正面切って勝てないからって、こんなやり方はないだろう。
これでも嫌々言いつつも受けた仕事は真面目にこなしてきた。組織に被った被害よりも、与えた恩恵の方がでかいはずなのに、結局は捨て駒扱いとは舐められてるとかそういうレベルの話じゃない。
血盟騎士団が如何に良心的な組織だったのか、改めて理解させられる。
狙撃ルートだけを切りながら、路地を駆け抜ける。
「合図をしたら、背後のドローンを落としてくれ!そのタイミングで別れよう!」
監視用のドローンは一機。
狭い道かつDAの監視網の穴なので、追っ手を撒くにはここしかない。
「ごめん、無理!」
「え!?いや、ファーストでこの距離が無理って事はないだろ?」
千束の予想外の言葉に間の抜けた声を上げてしまう。だって、ファーストリコリスと言えば全リコリスの憧れの象徴とか言われる存在だぞ?リリベルですら存在を知っている凄腕連中の中でも最強とか言われてる千束が、三十メートル前後の距離を精密射撃出来ないとか有り得ないだろう。
とか言いつつ、十メートルの的も満足に狙えない俺が、彼女の事をとやかく言えた立場かと聞かれれば微妙な所だが……
「ゴム弾なんだもん!仕方ないじゃん!」
「あ、あぁそういう事……それじゃあほら、俺の銃を使っていいから!これなら出来るか?」
俺の持っていたファイブセブンを渡すと、それに手に取って頷く。
「大丈夫!これなら狙えるよ!」
「りょーかい。それじゃあ、さっき言った通りに頼む!」
満足な返事がもらえた事で口角を上げる。
タイミングは次の角を曲がった瞬間。
「今!」
「ッ!」
放たれた初弾がドローンのプロペラに辺り、体勢を崩した本体を二発目が打ち抜く。
ダメ押しに三発四発と放たれた銃弾が、完全に監視用ドローンを破壊した。
「グッジョブ!」
称賛の言葉を送ると「へっへーん!」と胸を張った少女。
腕時計を確認すると、作戦開始からすでに三十分が経過していた。包囲網を形成される前に抜けなければ面倒な事になる。
「……助かった。このお礼はいつか精神的に!錦木さんも早く逃げろよ!」
約束通りここで彼女とはお別れだ。
逃走する上で、確実に生き残る為にもお互いの隠れ家は知らない方がいい。さっさと走り出した俺に、少女がなにやら叫ぶ。
「ちょっと、君の銃!」
けれど、戻っている時間も惜しかったので、俺は銃の事は諦めてそのまま路地を走り抜けた。
□
「ちょっと、君の銃!」
そう私が叫んだ頃には、すでに青年の姿は路地の闇の中に消えていた。
「逃げるのはや!?もう見えなくなっちゃった……」
五十メートル走で対決したら確実に私よりも速い。
その場に取り残された私は、彼に返しそびれた銃を見つめた。
「……あ、私も逃げないと!」
そうこうしている間にも追っ手が迫っているのを思い出して、一先ず安全装置を上げてホルスターに銃をおさめると、私も路地を疾走し第二のセーフハウスへと急いだ。
そこから百メートルほど距離が離れた場所には、DA製ではないもう一つのドローンが佇んでいた。
■
都内でも有数のタワーマンション。いわゆる上流階級のみが住むことを許される一室で、吉松はコーヒーを嗜みながらモニターを見つめていた。
映し出されているのは、アパートで起こったリリベルと錦木千束の一連の戦闘。瞬く間に、突入したリリベルをセーフハウスから撃退した千束の動きは正に神業と言っていい。
「本当に、君は素晴らしい才能を持っているね。千束」
他を圧倒する"殺し"の才能。
卓越した洞察力で相手の射撃を見抜く天賦の才。『アラン機関』の使徒として千束を助けた日、殺しに置いてこれ以上の才能などこの世には存在しえないと思っていた。
「……来たみたいだね」
吉松は再度、モニターに集中する。
銃撃やらで窓が割れ、荒れ果てた一室に現れた"黒い制服"に身を包んだ黒髪の青年。中性的な顔立ちをした彼の名前は『桐ヶ谷和人』。二年前、吉松がアランの使徒として最上の期待と抱き、支援を施した二つ目の才能。
限界を越えた反応速度で、あらゆる危機を回避する事ができる。それが和人の才能の源であるが、本質はそこではない。
それを実感し、見出したのが二年前のあの日だ。
病室で一人陰鬱と過ごしていた彼を訪ね、その才能を目の当たりにして、吉松は確信した。
天性の反応速度は勿論の事、目を見張るべきはその技術だ。料理に例えるのなら『反応速度』はスパイスで、具や主食はそれ以外の『技術』全て。何をどうすれば目的を達成できるか、瞬発の発想と創意工夫がまず根幹にあり、『反応速度』はそれを成す為のパラメーターの一つに過ぎない。
当時、未だ十二歳で中学生とは思えない程の深みに感嘆した。
『アラン機関』が支援せずとも、すでに才能は完成間近まで迫っていたのだ。
「千束、桐ヶ谷君。君たちの様な素晴らしい才能の邂逅は、一体どんな化学反応を巻き起こすのだろうね?」
故に、吉松はこの二人の出会いを心待ちにしていた。
この為に、吉松はアランの使徒として少年少女の壊れかけたゼンマイを巻いたのだから。
「楽しみにしているよ。二人共」
吉松は心底愉快そうな笑みで、モニターに映る二人を見ていた。