黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ   作:グランドマスター・リア

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黒の剣士、追跡者と戦う

 

リコリコを出た後、俺、桐ヶ谷和人は二人と合流するために指定された喫茶店に向かった。

 

「『cofe・frank』。ここだな」

 

店に入る。

昼時が過ぎて午後三時になれば客も疎らで、赤色の制服を探すと特段苦労もせず見つける事ができた。

 

「あ、来た!こっちこっちィー!」

 

向こうもこちらの存在に気付いて、千束が笑顔で手を振る。

千束とたきな、その向かいに護衛対象と思われる眼鏡の女性が座っていた。たきなの視線がこちらに向くと、「あなた誰ですか?」とでも言いたげに怪訝な表情をされ、苦笑する。

テーブルに到着すると、空いている席がさおりの隣だけだったので一言断りを入れてそこに座った。

 

「紹介するね、さおりさん。この子、私の友人で助っ人の桐ヶ谷和子ちゃんでーす!和子、こちら依頼主のさおりさんね」

 

「どうも、助っ人です」

 

朗らかな笑みを作って会釈する。

この三年で俺の清楚で接しやすそうな女の子ムーブはプロ並み(?)の磨きが掛かり、初見では中身が男なんて誰も気付けないレベルまで精錬されていた。こうして話す際は勿論、歩く時も体運びから足の出し方まで完璧な完成度を誇っている。

その証拠にこの姿で街をうろつけばナンパに会う事もシバシバ――因みにその時は千束に救出された――。てな訳で、大変不本意だがその可愛さは"客観的に"見ても本物らしい。

 

喫茶店でしばらくお茶をしながら詳しい事情を聞きつつ、夕暮れ時に差しかかった頃に店を出た。

 

その後、安全の為にと千束はさおりにお泊まりの打診をし、さおりもそれを快く承諾。

完全にこの場の面子全員でお泊り会をする流れになっているが、俺は流石にマズイと思いおずおずと言った様子で手を挙げた。

 

「すみません。俺……じゃなかった。私、今夜は予定があるので泊まるのはちょっと……」

 

「あら、そうなの?残念ね」

 

「あぁでも、途中までは一緒に帰りますから!」

 

幾ら任務の為とは言え、女装して性別を偽った上に女の人の家に上がり込み、更にはパジャマパーティーに参加するのは良心の呵責が痛む。

俺の顔を見ている千束が「なんで?」と言った様子でアイコンタクトを取ってきたが、「しょうがないだろ」と返しておく。

 

「まあ、しょうがないか。たきなは大丈夫だよね?」

 

「はい、問題ありません」

 

警護が多いに越した事はないだろうが、あくまでさおりには既にファーストリコリスとセカンドリコリスが一人ずつ付いて居る。仮に相手が数十人規模の武装集団でも、護衛対象を守り抜けるくらいの実力を持つ二人なのだから俺が居てもいなくても、大して変わりはしないだろう。

 

「オッケー!それじゃあ、そっちはしばらく任せるね?無茶はしないように。『命大事に』だからね?」

 

「はい」

 

一度リコリコに戻った千束。その時言った『命大事に』の意味を、たきなはきっと正しくは理解していない。あくまで裏の世界とは無関係の人間が居るこの場で補足する事は出来ないが、これは千束が帰ってくるまでたきなのストッパーをしておく必要がありそうだ。

なんて一人思う。

 

「今夜は大いに盛り上がりましょーう!」

 

もはや去り際のセリフまでテンションが高い千束の後ろ姿に、

 

「テンション高い子ね。不安が吹っ飛んじゃった」

 

と言うさおりと、

 

「私は……あのひと不安ですよ」

 

と言った、たきなに「分かる」と共感したくなる気持ちをぐっとこらえて、帰路を歩く二人について俺も歩き出した。

 

「それにしても、まさか和人さんに妹さんが居たなんて驚きました。それも、リコリスだなんて……」

 

さおりには聞こえない程度の声量で、たきなは俺に話しかける。

さっき千束が苗字を桐ヶ谷だと言っていたから、大方そこから俺(?)の妹だと予想したのだろう。この盛大な勘違いは、まるでGGOにログインしたあの日を思い出す。

この場で正体を明かしても良いが、面白いのでもう少しこのままにしておく事にした。

 

「はい。昼頃にお兄ちゃんから連絡があって、今日は非番だったんですけど念の為に駆け付けたんです」

 

似せた本人に聞かせたらぶん殴られそうな痛い演技も、たきなには特に怪しまれる事も無く信じてもらえた。

 

「そうなんですね。千束さんだけだと心配だったので、助かります」

 

含みのある言い方に苦笑する。

おい千束、早速後輩から言われてるぞ。

 

帰り道を歩いているうちに外はすっかり道も暗くなり、人けのない閑静な住宅街を三人で歩いていた。主に千束や、たきなの前の仕事(この場ではアルバイト)に付いて話すを二人の傍を歩きつつ、背後を警戒する。

 

(やっぱり、何か追ってきてるな。黒いワゴン車一台、すぐに手を出してくる様子はない。か)

 

数十メートル離れた位置から俺達を監視するように追走する一台のワゴン車。喫茶店の前から追いて来ていて、最初こそ慎重だったものの、暗くなって人が少なくなるとあからさまに近付いて来たので流石に気付いた。

後部座席は見えないが、運転席と助手席にはそれぞれ作業着の男二人が座っている。ざっと見た感じ、追跡や隠密の練度もろもろからしてアマチュアですらない素人だ。

 

「……井ノ上さん。あれ」

 

前方を歩くたきなのそっと肩を叩き、視線だけでカーブミラーを示唆する。

すると、彼女も追跡者の存在に気付いたのか目を細めた。

 

「いつから気付いてたんですか?」

 

「一応、喫茶店を出発した辺りからは。これでも、探知と索敵は得意なんで」

 

それと、こちらは伝えようか迷ったが……

 

(ドローンも一機……流石に放置するとまずいよな)

 

常に六から七時の方向、五十メートルほどの距離を保ち、死角となる中空をウロチョロしている黄色の飛行物体。

リコリスの戦闘を撮影されるのは正直あまりよろしくない。出来れば落としてからテロリストも方をどうにかしたいが、この距離の精密射撃にはかなりの腕がいる。当然、俺には出来ない。

この場合、優先すべきはやはりテロリストだ。

たきなは追跡者の方に集中している。ならば、さっさとこちらを片付けてドローンを落とそう。

 

「……っ!」

 

追跡者の確保について提案しようとして、それが言葉になる事は無かった。

 

(何だ?今、何か気配がしたような……)

 

SAOで何度も感じた独特の気配。様子を伺うような視線と、粘つくような敵意。

四時の方向、丁度路地と通りの合流地点になっている別れ道。そこから感じる僅かな敵対者の気配。目を瞑って集中すると、音、視線、気配、微弱ながらも確かに数人身を潜めている事が確認できた。

 

(奴らの別動隊か?ワゴン車の連中と違って、こっちはアマも混じってる)

 

人数は推測で合計で七人ほど、アマチュアの傭兵らしき人物が二人、他は素人。

リコリスとリリベルが日々暗躍するこの法治国家日本で、写真一枚の為だけに一般人の女性を付け狙う用心深さと執念には呆れる。

 

「面倒な事になったな……」

 

「あの、どうかしましたか?」

 

心の声が外側に出ていたのか、たきなが俺に問いかけた。

 

「いや、こっちの話。……悪いけど、さおりさんの事すこし頼んでいい?」

 

「それは構いませんが、後ろの車はどうするんです?」

 

「そっち井ノ上さんの判断に任せるよ。放置しても大丈夫そうなら、千束が来るまで待ってから対処してくれ」

 

万が一合流されて大人数で来られたら面倒なので、別動隊の方を早めに潰しておく事にする。

但し、真正面から突っ込んでも逃げられるだけなので、たきな達の元を離れて五十メートル先の曲がり角を左折して裏に回り込む。この辺りの立地は近所なので大方把握している。丁度、別動隊の潜んでいた路地の裏側から気配を消して進む。

 

「ビンゴ」

 

視線の先には、ワラワラと七人の不審者共がコソコソと身を潜めて居るではないか。

丁度たきな達の方に動きがあったのか、連中が路地から飛び出そうとしたタイミングで背後から声を掛けた。

 

「こんばんは、お兄さん達」

 

「誰だ!て、お前はあの二人と一緒に居た!?」

 

つい先ほどまでたきな達と一緒に居た俺がどうしてこんな場所に居るのか、きっとそんな事でも疑問に思っているのだろう。

 

「ダメだよ諸君。こんな(裏の)世界でやって行こうって言うなら、せめてどんな時でもチェッキングシックスを心掛けないとな。でないと……」

 

ブレードを取り出し、構える。

 

「怖いJKに一瞬でやられるぜ?」

 

「チッ、見られた以上、そのまま帰す訳には行かねえ!殺っちまえ!」

 

この集団のリーダーと思われる男の指示で、その場の全員が拳銃を取り出そうとする。しかし、それを黙って見ている俺じゃない。

 

「ハァッ!」

 

片手剣突進技〈ソニックリーブ〉。片手剣の技の中でも最も推進力の高い斜め上段で、手近な者の拳銃をはたきおとすと、すぐさま即頭部を蹴り飛ばして意識を刈り取る。

 

即座に一人目を無力化した事で、素人連中はその早業に怯んだ。その隙にすかさず顎先を蹴り上げて一人、鳩尾に剣の柄をめり込ませて一人、合計二人を倒す。

 

「これで三人。ちょっと練度が足りてないんじゃないのか?」

 

「クソ!」

 

向けられた銃口。

素人とは言え、この至近距離では外す方が難しい。躊躇いなく引き金ひかれて、マズルフラッシュと発砲音を響かせて弾丸を放つ。狙いは腹部、当たれば致命傷で本来なら絶体絶命の状況だが、俺ともう一人の赤い白髪のリコリスに至ってはその限りではない。

 

「シッ!」

 

短く息を吐き。剣を振り抜く。

最小限の動作で迷いなく空を切り裂いた刃は、パチンと音を立てて暗闇の中に火花を咲かせた。それが銃弾が弾かれた事による物だと知ると、テロリストは酷く狼狽する。

 

「何だと!?」

 

だが、それも一瞬でアマチュアの二人が素人の二人を怒鳴りつける。

 

「あんなのまぐれに決まってるだろうが!とにかく撃て!」

 

まあ、普通はそうなる。

流石はアマチュアとは言え傭兵をやっているだけはある。判断はそれなりに早いし、指示も的確だ。普通なら銃弾を斬るだの、避けるだのと言った事を信じる奴の方が馬鹿だ。

 

四人の男達が拳銃を向けて、次々と発砲する。

それらを物ともせずに自分に命中する物だけを剣で弾いて距離を詰めていく。

俺のやっている見切りは、千束の究極の洞察力による未来予知にも匹敵する程のそれとは異なり、予測と反応の合わせ技だ。この場合は四人の向けてくる銃口の向き、視線、体の動き方から大まかな射線を割り出し、後は射撃タイミングに反応を合わせる。

 

アクロバットな動きで出来る限り射線を攪乱しながら、銃弾の雨の中を突き進む。

 

「ちくしょう!」

 

まずは先頭の一人に脳天から踵落としを喰らわせて、銃を持てないように腕の筋を斬る。

仲間の一人が至近距離から銃撃してくるがこれも瞬時に体の軸を逸らす事で回避する。射撃のタイミングにさえ反応できれば、避ける事自体はそれ程難しくはない。フルオートのマシンガンによる掃射や散弾銃の超至近距離での銃撃でも無ければ、回避不可能になる事はまずないと断言できる。

それだけ、俺はこの世界に来てから戦う力を高めてきた。

 

「危機的状況でこそ冷静に。戦いの基本だぜ?」

 

腕を絡め取って、銃を取り上げると両足を撃って転倒させる。

残りは二人。明らかに戦闘経験があると思われる傭兵の二人組だ。

 

「こんの化物が!」

 

さっきからアサルトライフルで俺の事を狙っているが、仲間への誤射などを考慮して、上手く捉え切れていない。仲間が全員倒れた事でようやく狙いやすくなったみたいだが、ここまで接近してしまえば如何に連射力のあるライフルと言えど脅威ではない。

 

(でも、これ以上暴れられるのも厄介だな)

 

一応、ここは住宅街のど真ん中だ。

幾らDAがもみ消すとは言え、あまりバカスカやっていてもご近所さんに迷惑だろう。

 

「使います、ミカさん」

 

リコリス制服の懐から抜いたのは、携帯していた自動拳銃『デトニクス コンバットマスター』。

カスタムは微妙に違うが、千束が普段使っている物と同種の拳銃で短銃身ゆえに携帯性に優れている。普段はブレードとリリベル式CQCによる至近距離での戦闘を主軸にしているので主に銃は接近の為の牽制に使う事が多いが、早期決着を見込む場合はその限りではない。

装填している弾薬は、『プラスチック・フランジブル弾』。ゴム弾と呼ばれる物だが、これは普通の非殺傷弾よりも輪をかけて特殊な作りで、詳細は省くが赤い弾頭に着弾時に咲く彼岸花の如き赤い花が特徴的だ。

 

千束が普段、敵の無力化に使用している物と同じ物で店長のミカ特性の超低致死性の安心安全(謎)な仕上がりになっている。

 

その性質上、精密な射撃はほぼ不可能で銃なのに超至近距離から射撃する必要がある欠陥品だが、相手を殺さないという一点に置いては非常に有用だ。

如何に威力の引くゴム弾とは言っても、至近距離から被弾すれば死ぬほど痛い。至近距離での戦闘を主軸にしている俺に取っては、これ程にマッチした銃弾はこの世に存在しない。

 

安全装置を外し、疾走する。

 

「フッ!」

 

ブレードで銃弾を弾きつつ、狭い路地の中で家の塀を伝ったりしながら、銃弾の雨の合間を縫っていく。

数秒とかからず射程圏内まで接近し、片手刺突技〈レイジスパイク〉でライフルを弾き飛ばすと、動体に三発ゴム弾をぶち込んでやる。

そこから流れるように脇構えの予備動作から、逆袈裟の切り上げで銃を持つ手を切り裂くと、ライフルを取り落とす。

 

「これで終わりだ」

 

そこに二発のゴム弾を足と動体に一発ずつ見舞った事で、最後の一人も倒れた。

 

「周囲に敵の気配なし。戦闘終了だな」

 

安全装置をかけて、懐に銃を仕舞うとスマホを取り出してクリーナーに連絡する。

その間にワイヤーで七人を縛り上げておく。

 

「七人拘束しておいたから回収よろしく。オッケー、それじゃあ……」

 

クリーナーへの連絡も終わり、路地から出ると丁度たきなの方も片付け終わった様だった。

どうやら千束も既に到着していた様で、どういう訳かさおりがたきなに泣きついていた。

 

「あ、和子!」

 

ぴょんぴょん跳ねて駆け寄って来た千束に聞く。

 

「……なあ千束、これどういう状況?」

 

「えっと実はね……」

 

この後、たきなが護衛対象を囮にした事など一連の事を聞かされて「任せる」と言った本人である俺は軽く頭を抱えた。

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