黒の剣士、リリベルから転職してリコリコに行くってよ   作:グランドマスター・リア

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黒の剣士、護衛する

 

勢い余って吉松を殺しかけた日から、数日後。

リコリコにまた一件の依頼が舞い込んだ。『ウォールナット』、裏の世界では有名な超凄腕のハッカーでDAからも様々な情報を抜き出した過去があり、一部では老人とも呼ばれている。

そのウォールナットから、破格の条件で仕事が入ったという連絡が入って急いで来た所だった。

報酬は一括前払いで相場の三倍、それだけ鬼気迫っている訳だ。

 

店に付くと、丁度入口から吉松が出て来た所だった。

 

「おはよう、桐ヶ谷君。これから仕事(・・)かい?」

 

「吉松さん。……えぇまあ」

 

吉松がリコリコに頻繁に訪れるようになった事で、必然的に彼と顔を合わせる事も多くなった。

再会する前こそ恨みこそある間柄だったが、今では良くも悪くも俺の事情を全て知っている数少ない人でもあるので、それなりにフランクな関係を築けていた。

 

「そうか。頑張りたまえ」

 

言って、去っていく吉松の背中から視線を外して店に入る。

 

「お待たせしました」

 

「和人!おっはー!」

 

「来たか、和人」

 

店には既に千束とたきな居て、どちらも弾薬の確認など支度を行っていた。

 

「ミカさん、今状況どうなってます?」

 

「現在、武装集団に追われているそうだ。相手は五人から十人程度、プロ寄りのアマだ。ライフルも確認している」

 

「結構押してますね。すぐに準備します!」

 

規模と危険度はこの前取り押さえたゴロツキの約数倍。

思ったよりも状況はひっ迫していると判断して、すぐに更衣室で着替えてフロアに出る。

 

「念の為にブレードは二本持っていきたいですね。非殺傷弾の弾倉(マガジン)ってあります?」

 

「どちらも既に用意している」

 

ミカはアタッシュケースをカウンターに置く。

中には俺は普段使っている特注ブレードの予備(スペア)が一本、非殺傷弾の弾倉が三本入っていた。マガジンと銃はサッチェルバッグに、二本のブレードはそれぞれガンベルトに携帯する。

 

「和人ぉ、仕事については聞いてる?」

 

「あぁ一通りは目を通したよ。今回は少し骨が折れそうだな」

 

それに、たきなに取ってもリコリコに入ってから初の大仕事だ。

 

「その分、報酬も凄いからねー。それじゃあ、二人とも行こ!」

 

まるでこれから戦いに赴くとは思えない気軽さで、俺達は店を後にする。

 

「ところでぇ、私お腹空いたんだけどぉ」

 

「時間無いですよ」

 

「えぇ~」

 

大方、寝坊でもして朝ご飯を食べていないのだろう。そんな事だろうと思って、俺はバッグからケースに入れたおにぎりを一つ出して千束に渡す。

 

「駅弁を食う時間はないからな。電車内ではこれで我慢してくれ」

 

「おぉ!和人ナイスゥ!」

 

伊達に三年もコイツと戦っていない。この為に任務前の腹ごしらえになればと三人分(・・・)の塩おにぎりを速攻で握って来たのだ。アスナが傍に居ない今、日頃の飯も当然自炊である。

千束が大手を振って喜んでいるのを横目に、バッグからもう一つ塩おにぎりを出してたきなに手渡した。

 

「ほら、これたきなの分」

 

「あ、どうも……ありがとうございます」

 

いつも千束の反応を見てきたから、こうして礼儀良く返されるのは少し新鮮だった。

 

 

 

電車の中で逃走経路、手順を確認しながら昼食を兼ねた遅めの朝食を食し、依頼主と合流する地点まで向かう。

合流地点は閑静な住宅街で、そこの駐車場に用意された車両に乗って、羽田空港までウォールナットを護送。搭乗のゲートを潜った時点では、ミズキに交代する手はずになっていた。

 

「ねぇ、たきな。そのウォールナットってハッカさんと合流した後、どうやって羽田まで行くの?」

 

「千束、それ電車の中でたきなが全部説明してたぞ。さてはお前、飯食うのに必死で聞いてなかったな?」

 

「本当になんも聞いてないですね……」

 

俺とたきなが呆れ交じりの視線を送ると、千束はわざとらしくテヘっとしらばくれる。

 

「ごめぇん、もう一回お願い!たきな様ぁ」

 

因みに千束は任務の時、いつもこんな感じだ。

基本的には信頼できる少女なのだが、どうしてこうも戦闘が絡まない部分がズボラなのか問い質したくなる。そんな物とうの昔に諦めたが……本人に反省の色が見えない以上、こっちが何を言っても無駄である。

 

「店長が車を用意してくれてるようです」

 

「まぁじ?はいはーい!千束が運転しま――」

 

「たきな、車の運転は頼んでいいか?」

 

「はい、任せてください」

 

千束はこういう任務の時は絶対に自分が運転をしたがるのだが、俺は過去に一度、彼女に運転を任せた際に一度後悔をしているのでもう二度と千束を運転席には座らせないと心に誓っている。この場で言うなら、器用で真面目な気質のたきなこそ適任だ。

 

「えぇ、何でぇ?たきな運転できんのかよぉ?」

 

「出来なきゃリコリスになれないでしょう」

 

と、話している間に件の駐車場に付く。

そこには一台、真っ赤なフレームのスーパーカーが停車していた。その他に車両はない。つまり間違いなくあれだ。めっちゃテンションが上がっている千束の横で、俺とたきな不安そうにしていた。

 

「目立つな……」

 

「はい、目立ちますね……」

 

どう考えても逃走に使う車じゃない。

あんなのすぐ敵に補足されて、強襲を喰らって終わりだ。テンションが上がっている所の千束には悪いが、店長に掛け合って別の車両を手配してもらおう。そう思って携帯を取り出そうとした時、こちらに物凄い勢いで近付いて来るエンジン音に気が付いた。

 

現れたのは白いワゴン車で、俺達の前に停車すると窓が開いてリスの着ぐるみが身を乗り出した。

 

「ウォール!」

 

「ナット」

 

依頼主と共有した暗号。間違いない、この着ぐるみがウォールナットだろう。

 

「すぐに乗れ!追っ手が来るぞ!」

 

「え?なに今の合言葉?ダサってちょっと待って!スーパーカーは!?スーパーカーが良いんだけど!」

 

「あぁもう、分かったよ。そんなに乗りたいなら、任務が終わった後にミカさんに掛け合って乗せてやるから!今はこっちで我慢してくれ」

 

さっさと乗り込んだたきなとは対照的に駄々をこねる千束の手を引いて、車に乗せる。

助手席にはスーツケースが乗せられているので、必然的に三人で並んで座る事になるのだが、流石にワゴン車に高校生三人乗りは少し狭い。

 

「もうちょいそっち詰めれない?」

 

「無茶言うなって、こっちもこれで限界だよ」

 

狭いとは言え、別に耐えられない程じゃない。仮にも女子高生とゼロ距離でくっつく状況はあまりよろしいとは言えないが、かと言って千束とは何度も任務を共にしているし、今更密着するのを気にする間柄でもない。

 

「予定と違ってすまない。ウォールナットだ」

 

「ハイハイ、千束です。彼女はたきな。こっちの子が和人。なんか、イメージしてたハッカーさんと違いますねぇ」

 

「底意地の悪い瘦せた眼鏡小僧とでも?だとしたら映画の見過ぎだよ」

 

「ほら、やっぱり」

 

「いや、だとしても着ぐるみじゃないでしょ?」

 

前世では色んな奇想天外の出会いをしてきた自信があるけど、確かに着ぐるみのハッカーはそんな俺から見ても特殊だ。

 

「ハッカーは顔を隠した方が長生き出来るってだけさ。JKの殺し屋の方が異常だよ、リコリス」

 

博識、依頼をしてきている時点で多少こちらの情報も知られていると踏んでいたがリコリスについても当然の様に把握済みという訳か。

 

「クマのハッカーよりは合理的ですよ」

 

「たきな、イヌだよ」

 

「リスだ」

 

その一幕で車内に微妙な空気が流れる。

数秒の沈黙の後、ウォールナットが再度問いかけた。

 

「どう合理的なんだ?」

 

「つまり、日本で一番警戒されない姿だって事ですよ。これ」

 

「JKの姿は都会の迷彩服という訳か」

 

だとしても異常な事には変わりないと思うが、それをこの場で言っても仕方がないで言葉を飲み込む。

話が一区切りしたので、別の事について聞いてみることにした。

 

「このスーツケースはなんだ?」

 

「ボクの全て。国外逃亡には身軽な方がいいだろう?」

 

「いや、それ着ぐるみが言うかよ……」

 

着ぐるみ姿でゲートに入場できるかはさておき、間違いなくシュールな絵なのは確かだ。

顔を隠すにしたって仮面とか、マスクとか色々とあっただろうに何故着ぐるみにしたのか……

 

「にしてもいいなぁ。私も海外行ってみたい」

 

そう言った千束に視線を向ける。それに対してウォールナットが「一緒に行くかい?」と聞くが、千束は首を横に振る。

リコリスとリリベルには戸籍や住民票がない。故に確かな伝手やコネクションを駆使して偽造パスポートを作るでもしなければ、海外に渡る事はまずできないのだ。そして、リコリスは外部からの秘匿されているためにそう言ったコネクションを持てる機会も滅多に訪れない。

千束にしては珍しく最初から諦めたような発言に、目を伏せる。

 

リコリスとしての役目を完全に果たし、殉職する事なく適齢まで生きられれば、或いは戸籍を貰う事も出来るだろう。千束の望みは、その時まで彼女を死なせない事でしか達成できない。

 

初めて語るけど、これがこの世界で俺が抱いた一つ目の目標みたいな物だ。

 

因みにその中にはつい先日、たきなも追加された。目の前でパーティーメンバーを殺させない。俺が未だに剣を磨き、戦い続けているのはその為だ。

今の俺はもう『キリト』じゃない。何処にでもいる普通の人間、桐ヶ谷和人だ。だから、世界そのものを守るなんてそんな大それた事は言わない。それでも、せめて目の前の家族(リコリコ)だけは守り抜きたい。

 

「行けるさ。いつか、必ず」

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