古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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星堕としの魔法

 

 

 

 世界は広大で、時の流れは天地の全てを移り変わらせる。

 

 大して秀でている訳でもない個人がどれほど足掻いたところで、世界に爪痕の一つも残せるものだろうか。

 

 いや、世界とは断じてそんなにちっぽけなものではない。

 

 

 

 

 

「だから、俺がどれだけ好き放題やっても大して影響なんて残せないんだろうな」

 

 

 吾輩は魔族。御年100歳。名はトラオム。職業、魔法使い(自由業)。

 

 姿は人型だが、角が生えている。あと、顔が無い。

 

 真っ黒なのっぺらぼうだ。でも特に支障は無い。不思議。

 

 食事する時には顔がパカッと開くよ。キモイけどもう慣れた。

 

 魔族は前衛的なデザインが多いので、それほど目立たない。

 

 というか、完全な人型とか同世代では見たこと無い。むしろ俺が一番人っぽい。

 

 前世は人だったが、この世界の人と似ているだけでほぼ別種だろう。

 

 そこら辺は気にしていない。むしろ魔族で良かったと思っている。

 

 

 理由? まず、人間よりスペックが高いからだ。

 

 ファンタジー生物が跋扈している世界でも、個人で野山でそれなりに生きていける。

 

 人間だったら病や栄養失調、会話中のワイバーン襲来とかで即死だっただろう。

 

 というか、元現代人にはガチなファンタジー世界は厳しすぎる。

 

 唐突にワーム系の何かに丸呑みされたりするんだぜ。

 

 

 次に、寿命。長生きできるのは良いことだ。

 

 この厳しくも美しい幻想的な世界を楽しむには時間がいる。

 

 前世ではインドア派だったが、今生では旅が趣味になった。

 

 ゲームのグラフィックも進化していると思っていたが、リアルの迫力は凄いものだ。

 

 

 そして、最大の理由。

 

 魔族が魔法に秀でた種族であること。

 

 魔法! 何という魅力的な響き。

 

 前世では特に夢なんて持てなかった俺に、情熱を与えてくれたもの。

 

 かつて俺が愛した幻想そのもの。種族の特性もあってか、俺は魔法を愛していた。

 

 いや、娯楽が乏しすぎたから逃避的に熱中したという面もあるかもしれないけど。

 

 

 だが……

 

 

「……くっそぉ。この世界の魔法って、難しすぎないか?」

 

 

 ぶっちゃけ、俺はくすぶっている。

 

 同世代の同族と比べても秀でてはいない。むしろ劣っているだろう。

 

 ついたあだ名が、「放漫のトラオム」だ。

 

 この世界の魔族は一つの魔法を徹底的に磨いて、その魔法を己のアイデンティティとして生きていくというのに、俺は色々と浮気しているせいで、特別な魔法を持っていないからだそうだ。

 

 

「いや、別に同族にどう言われても気にならないし。頑丈だからお腹痛くなったりしないし。効いてないし」

 

 

 魔族はどいつもこいつも絶妙に話が合わない。

 

 ロマン溢れる生態でロマン溢れる魔法を持っていても、ロマンなんて欠片も無い奴らだ。

 

 奴らが俺を馬鹿にしているように、俺も内心では奴らを軽蔑している。

 

 一生を魔法に捧げているのに、魔法でオタク談義できないってどういうことだってばよ。

 

 まず、共同研究という概念すら無いらしい。

 

 

「みんなして無感情キャラみたいに面倒くさい上に、目が死んでるし。生まれ変わって陽キャデビューしようと思ったのに、種族単位で陰キャとか新手の呪いかよ」

 

 

 この世界は好きだが、魔族の創造主が居るなら文句の一つも言ってやりたい。

 

 こっそり信仰している創生の女神様とやらがそうなのか、魔神みたいなのが居るのか。

 

 まあ、実際にそういう超越者が降臨したら五体投地で許しを請うが。

 

 

「……環境に文句を言う奴に晴れ舞台は一生来ない。何のことわざだっけ? まあ、腐っても仕方ない。どんな時でもポジティブハートだ」

 

 

 気分を切り替えるために、もはや曖昧になっている前世の物語の大魔族の言葉を借りる。

 

 そうして隠れ家のログハウスの屋根に大の字になって空を見上げた。

 

 すっかり夜の帳が降りているが、満天の星空のおかげで暗くは無い。

 

 ……まあ、空に近い場所だという事もあるだろうが。

 

 

「しかし話し相手くらいは欲しい。魔族って仲の良い種族が居ないんだよなあ。やっぱりファンタジーの悪役ポジなんだろうか」

 

 

 天の星はゆっくりと動いているように見えるが、動いているのはこちらである。

 

 

「エルフも居るらしいけど、出会って即殺し合いとか勘弁だし。エルフも感情薄いらしいんだよな。スタンダードに近いエルフかな? 物語にはオークを性的に襲うようなのまで居た気がするから、もう何がエルフらしいのか分からんけど」

 

 

 飛行の魔法で隠れ家の屋根から飛び立つ。

 

 変わり者の落ちこぼれ呼ばわりされていても、魔族100歳。このくらいは軽い。

 

 人間の村に降り立てば容易く有力者になれるはずだ。

 

 同族がコンビニで買い食いするくらいの気安さで荒らしに来たら危ないし、虚しいからやらないけど。

 

 人間で攻撃魔法の試し打ちがいっぱいできて捗った(小並感)、みたいな話を割と聞く。

 

 まあ、文化が発展してない時代は平気で人間同士で弓矢で的当てとかしてたらしいし、種族が異なればそんなもんだろう。

 

 命を懸けて人間を守る自分が想像できないし、色んな物語を知っている身としてはアレな結末ばかりがたくさん浮かぶのでやる気が出ないのだ。

 

 何より、魔法の研究と鍛錬でますます遅れをとりそうだし。

 

 

 悪目立ちもしたくないが、それ以上に魔族社会でのヒエラルキーで下位に居たくない。

 

 種族的に協調性ゼロだが、大魔族に招集されてどうでもいい労働を強いられたり、戦いで捨て駒にされるとかはある。

 

 魔法ガチ勢であることは認めるが、それ以外はマジお排泄物ですわ。

 

 だから俺は強い魔族には近づかないことにしている。

 

 

「ドワーフは魔法の種族って感じはしなかったんだよなあ。……今の所、俺の話し相手はお前だけだよ、イルル」

 

 

 天空より眼下を飛ぶ巨大な天脈竜のイルル(勝手に命名)を見つめて呟く。

 

 まあ、餌さえあげたこともないんだけどな。

 

 むしろ俺がイルルの背中に勝手に隠れ家を作って住み着く寄生虫である。

 

 俺がこの世界で見たドラゴンの中でぶっちぎりの胸囲を誇っていたからイルルと名付けた。

 

 最近は半ば本気でコミュニケーションが取れないか考える程度には愛着が湧いている。

 

 それと、完全な人外の安易な人化は受け入れられない癖だが、納得できる経緯があれば有りかもしれん。

 

 

「魔法のある世界の光景ってやっぱり好きだわ」

 

 

 芸術品のような夜空を飛ぶイルルの雄大な姿に、改めて世界の美しさに感動する。

 

 魔族はこういう風情も無い。なんてもったいない。

 

 だから戦闘用の魔法以外は作ろうという気にもならないんだろう。種族的に容易いだろうに。

 

 

「……大丈夫だ。俺は前世で(多分)全てのダーウィン賞受賞者を過去にした男……きっと大成できるさ」

 

 

 俺は『周囲の気温を一定に保つ魔法』や『念力と重力と風力で高速飛行する魔法』が使える。

 

 後者はともかく、前者は全く評価されない項目ですね。魔族社会では。

 

 評価してくれない奴らに簡単に真似されたら悔しいので、『術式を偽装する魔法』を複数開発している。

 

 これからもセキュリティは強化し続けてやるぜ。

 

 ……こういう事してるから差をつけられるのかもしれんが。

 

 

「星、か。……物語では星に由来する魔法とかも定番だよな」

 

 

 現状の魔力と知識、魔力操作技術では夢物語だが、いつかは……

 

 

「星に関する魔法で一番に思い浮かぶのは、やっぱりアレだよなー」

 

 

 魔法使いになったのだ。ロマンを追い求めるなら外せない魔法というものがある。

 

 

「もう一息じゃ! パワーをメテオに! とか、やってみたいよな!」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より約2000年前。

 

 大陸南西部に「凶星の爪痕」と呼ばれる土地が誕生する。

 

 文字通り「星」が落ちた土地であり、周辺地域に絶大な被害をもたらし、その衝撃波は世界を揺らしたという。

 

 創世の女神による天罰とも呼ばれる大災害は現代に至るまで語り継がれている。

 

 しかし、その真実を知る者はほとんど存在しない。

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