古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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歌の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。

 

 放漫のトラオムと呼ばれているが、最近は大賢者フェイスレス名義での活動が主になっている。

 

 まあ、名前にはあまりこだわらない。どっちも俺の事だしな。

 

 

 人間の魔法使いとして旅行をしながら人助けをする事が増えた。

 

 初老で背が高く威厳ある魔法使いの風貌にしているのだが、受けはあまり良くない。

 

 どうにも胡散臭いらしいのか、石を投げられて追われる事も多い。

 

 気合いの入った奴だと、頭より大きい石を投げて来やがる。

 

 その程度では傷つかないが、それは肉体面の話であって、精神は割とズダボロになる。

 

 ……ちゃんと魔法使いとして活躍して感謝されることもあるし。もう少し頑張る。

 

 でも、仕返しはする。遠隔の呪い、『ハゲの魔法』だ。悔い改めてね。

 

 魔族が襲い掛かってきた場合は、トラオムの知り合いのみ記憶を消して放流。

 

 残りは使い道があるので、使用魔法だけ調べたら封印して保管している。

 

 

 

 今日は休憩の日にしよう。

 

 何事も根を詰めればいいってものじゃない。

 

 研究でも行き詰まったら別の魔法を作るのも良いだろう。そのまま元の開発内容を忘れ去らなければだが。

 

 

 自宅である屋敷の自室の窓から外を眺めると、俺の作ったゴーレムたちが合唱している。

 

 どうしてみんな修道女姿なんだろうと思ったら、某映画の再現のためだったようだ。

 

 分身たちめ、エンジョイしてるなあ。法王っぽい服で聴いてる奴まで居る。

 

 そういえば、この世界では天使とか見たことが無いな。歌うのかな、ラブソング。

 

 独唱パートはルカさんか。まあ、英語の曲だと彼女向きだよね。

 

 

 ……みんなゴスペルとか賛美歌の類が好きなんだよな。

 

 この世界に合わせて、女神様を讃えるように編曲しているのだが、よく俺を捕まえては楽しそうに歌ってくれる。

 

 ゴーレムたちがそこら辺の人間よりも女神様への信仰が篤いなんて、不思議な話だ。

 

 まあ、女神様を讃えることに問題はあるまい。

 

 

 

 彼女たちは俺の研究を手伝ってくれようとはするけど、現状だと共同研究者ではなく生徒だ。

 

 まだまだ大魔法使いになるのは先の話だな。そもそもどこまで育つかも不明だが。

 

 モチベーションが魔法が好きと言うよりは、俺に構ってもらえるからだし。

 

 悪いが、それでは俺の求めている魔法使いには成れない気がするんだ。

 

 

 ゴーレムを増やしたせいで、対応する分身も増やさないといけなくなった。

 

 そのせいで魔法開発に回せる人員が一時的に減ってしまっている。

 

 ……相手しないと割と拗ねるんだよな。

 

 

 

「マスター、私にも何か特別な魔法をください」

 

 考え中なんだ。ちょっとだけ待っててくれ、ゆかりん。

 

「前にもそう言いましたよね! どうしてあかりちゃんには『サメの魔法』を渡したのに、いつまでたってもゆかりさんには何も無しなんですか!」

 

 

 

 こんな風にね。

 

 自分で開発しといてアレだが、あんな魔法を羨ましがるとかどうかしてるぞ。

 

 召喚されるサメは制御下に無いから、普通に襲い掛かって来るしな。

 

 しかしどうしようか。

 

 彼女に渡す魔法……壁を出す系しか思いつかねえ。

 

 俺が悪いのではない。前世で彼女にそういうキャラ付けしまくった奴らが悪いのだ。

 

 とりあえず、綺麗な宝石の壁を出す魔法なんかを作って教えようか。

 

 

 

 

 

「よう、本体。ゆかりさんの事なんだが、やっぱりもうちょっと削るべきじゃなかったか?」

 

 何言ってんだ。あれ以上に削ったら陥没しちゃうだろ。

 

「流石にそこまで削れとは言っていない。……うん? ちょっと待て、本体。お前、ゼーリエちゃんの正面装甲をどう思う?」

 

 ああ、見事な平坦だよな。ゆかりさん程では無いが。

 

「えっ?」

 

 えっ? 

 

「本体……お前、まだ頭の中に盛るペコが……」

 

 何言ってんだよ……だいじょうぶだ……おれは しょうきに もどったんだよ! 

 

 

 

 

 

 前に色んな便利魔法を込めた巻物を世界中に設置したが、古い時代の民間魔法って侮れない物が割とあるんだよな。

 

『服の汚れをきれいさっぱり落とす魔法』を作った奴、神域の天才だと思う。

 

 こういう魔法が古代の魔導書から見つかる度に、古代の先人へのリスペクト精神が湧いてくる。

 

 やはり、俺など長い長い魔法の歴史のほんの一欠片。

 

 俺の才覚を凌ぐ者が今この瞬間にも産声を上げているのかもしれない。

 

 彼らがまた同じ場所まで辿り着くだろう。……案外、あっさりと追い抜かれるかも。

 

 実際、時間アドバンテージ抜きなら俺より強くね? って奴は実は何度か見てる。主に魔族で。

 

 まあ、魔族は生産的な魔法は作らないから、人間の魔法使いに限ろう。

 

 俺が100に満たなかった時、彼らと肩を並べられただろうか? 

 

 

 

 ……やっぱり、休憩は無しにして、今日も魔力操作の鍛錬でもしよう。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より約1000年前。

 

 大陸中央部のとある町に続く街道を、魔法使いの師弟が並んで歩いていた。

 

 

「フリーレン。お前は巡業団の歌姫が使う『歌の魔法』は好きか?」

 

「……うん、あの魔法は好きだよ」

 

 

『歌の魔法』は聴衆にとって一番心地よい音量になるだけではなく、僅かだが正の感情を増幅する効果がある。

 

 巡業団の人気は二人が生まれる前から確固たる物だったが、皮肉な事に魔王軍によって破壊と絶望が巻き散らされた事により、その名声は更に高まっていた。

 

 

「分かり易い反応だな。あの魔法は好きでも、巡業団は好きじゃない、か」

 

「師匠も同じじゃないの? 巡業団には魔族もどきが何人も居るんだよ?」

 

「そうだな。私も好きでは無い。だが、あれは良い魔法だ」

 

 

 弟子が師を見上げながら問うと、師は困ったように笑いながら答えた。

 

『歌の魔法』はきっと、平和な時代の魔法使いが作りあげた物だろうと師は考える。

 

 他にも人の心に寄り添う優しい魔法を巡業団はたくさん持っている。

 

 だからこそ、その護衛を魔族もどきがやっている事が余計に心に引っ掛かる。

 

 

「だが、あれらは手強いし、私のやり方は通用しない。それに魔王が居る以上、巡業団を相手にしているような暇も戦力も人類には無い」

 

「じゃあ、魔王を倒したら戦うの?」

 

「それは……」

 

 

 師としては、早い段階で巡業団と戦う選択肢は捨てていた。

 

 自分自身の師に、「あれは放っておけ」と言われたこともあるが、敵対しようとすれば魔王軍同様に人類の敵扱いされかねないからだ。

 

 あれはあくまでも、魔族もどき、魔族では無いのだと、自分自身に言い聞かせていた。

 

 しかし、未来永劫に巡業団の中で彼らが大人しくしている保証は無い。

 

 何かしら対策は考えておくべきなのだろうが……正直、魔法使いの師には方法が思いつかなかった。

 

 

「奴らへの対策は、お前や魔王を倒した後に生まれる魔法使いたちに任せるよ」

 

「魔法使いに、どうやって『角折り』を倒せって言うの」

 

「確かに、あれは最強の魔族殺しであると同時に、最悪の魔法使い殺しだ。私としては、上手く利用して魔族を減らす事しか思いつかない。だが、戦士なら戦うことはできる」

 

 

 ふくれる弟子に笑って誤魔化し、師は無意識に腕をさする。

 

 完璧な神代の義肢であり、魔法の武器でもあるので違和感は無いのだが、どうしても腕が無かった時の感覚が抜けないのだ。

 

 自分や弟子に負けず劣らず不器用な師が、見かねて魔法の義肢をくれた時は本当に嬉しかったのを覚えている。

 

 魔法の武器の威力も気に入っている。現代の人間の作れる杖などの媒体よりも、遥かに魔法の増幅力に優れているし、この義手杖は魔法武器の中でも早撃ちを得意としているのが素晴らしい。

 

 今まで多くの魔物や魔族が、自分が屠られた事にさえ気付けずに葬られていった。

 

 

「『氷華』や『霹靂』も、正面からではかなり厳しいな。まあ、アイツらなら手段を選ばないなら何とかなる。……だが、『角折り』と巡業団の団長、『救世の聖女』には勝てるイメージが湧かない。お前はどうだ、フリーレン?」

 

「巡業団の連中は常に多勢で動くし、探知能力は偏執的なレベルだし、魔族とは比べ物にならないくらい連携が上手いから、無意味な仮定だよ。……単独の所を狙えても、師匠が勝てないのに私が勝てるわけ無いよ」

 

「今のお前ならそうだろう。……だが、未来のお前がそうとは限らない。そうだな、平和になったらまた考えてみてくれ」

 

 

 実際に戦うとなったら、古代のゴーレムである歌姫たちや司書たちも敵に回るだろう。

 

 つまり、巡業団そのものと戦う事になる。

 

 人類の戦力を掻き集めて討伐しても、魔王軍に殲滅されてお終い。

 

 今は思考遊びに語らうくらいで、実際に真剣には検討すらできないのが現実だ。

 

 

 遠くに見えてきた目的地を眺めながら、師はふと、己の師との語らいを思い出していた。

 

 

 

 

『お前、土くれどもの魔法が好きだろう。あんな物を再現しようとしている暇があったら別の鍛錬をするべきだぞ』

 

『師匠、確かにアレは良い魔法だと思っている。だが、私でも完全に再現できるか分からない古代の人間の魔法だ。流石に手を出したりするほど馬鹿じゃねぇよ』

 

『……そうだな。古代の人間の魔法、か。……フランメ、あれらが歌う女神を讃える歌を聞いたことがあるか?』

 

『曲の数は膨大だが、音楽の箱をあれだけばら撒いてるんだ。そりゃ、もちろんあるが……』

 

『どう思った?』

 

『古代にも女神様への信心深い連中が大勢いたんだなってくらいかな。質問の意図が分からないね』

 

『くくく、そうか。お前にも女神を讃えているように聞こえるか。……あの大馬鹿者もそう思っているのだろうな』

 

『どういう意味だい?』

 

『……さあな』

 

 

 

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