古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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服を作る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムと言う。

 

 1300歳の誕生日パーティーはとても盛大な物となった。

 

 今後の益々の魔法の発展を願って、大勢で繁栄しそうなダンスをキレッキレで踊っている。

 

 もはやたった一人で毎年祝っていたのが遥か昔の事のようだ。

 

 みんなが毎年どんな出し物をするかで盛り上がっているのがとても嬉しい。

 

 去年はディスコを作って踊り狂ったし、その前はリアルお菓子の家を作って齧り倒したっけ。

 

 

 みんな仲が良いようで何よりだ。

 

 魔法で降らせた雪祭りでは、思い思いの雪像で楽しませてくれたなあ。

 

 あれは何年前の催しだっけ? 

 

 

 だが、俺に忠実なのは間違いなくとも、彼女たちの仲が本当に良いのかはちょっと自信が持てない。

 

 至る所に分身が居るのだから、深刻な喧嘩とかは無いのは分かっている。

 

 だが、もし隠れた場所でギスギスマウント合戦とかあったら死ぬ。俺の心が。

 

 

 そういうのをそれとなく確認するため、好きな相手に感謝の言葉を書いて投票する催しもしたのだが、失敗だった。

 

 上位入賞者には豪華景品も用意したんだがなあ……

 

 

 

 

 

 第一位、放漫のトラオム、「みんなありがとう」

 

 第二位、放漫のトラオム(分身A)、「フン」

 

 第三位、放漫のトラオム(分身B)、「女神に感謝」

 

 第四位、放漫のトラオム(分身C)、「くっ、トラオムに負けた……」

 

 第五位、放漫のトラオム(分身D)、「順当な順位ですね」

 

 

 

 

 ……まあ、そうなるな。

 

 

 次は俺への投票は禁止にしなければなるまい。

 

 壇上ではヤケクソだったけど、ミクさんたちが爆笑してくれて良かったよ……

 

 用意した景品どうしよう? 次に持ち越すしかないかなあ。

 

 

 終了したパーティーの片付けを見守りながら考え込んでいると、分身の一体が駆け寄って来た。

 

 

「おい、本体。これちょっと見てくれ」

 

 何だ? 投票用紙じゃん。まさか集計ミスでもあったか? いや、この有様を変えられる様な確認ミスは流石に有り得ないだろうが。

 

「無効票があったんだ」

 

 ああ、子供組辺りがふざけて変な絵でも書いてたのか? 別にいいよ。この結果以上にふざけた物は無いから。

 

「そうじゃない。……ちょっとこれ見てくれ」

 

 

 

 えーっと? なになに…………投票先、キアラ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この先のトラオム君の精神は、変態魔法を開発した事がバレると、砕け散ってしまいます。

 

 だから、絶対に隠し通す必要があったんですね。(白目)

 

 

「おい! 落ち着け、本体!」

 

 

 なんで? なんで? なんで? 

 

 誰にも話してないじゃ────ん!! 

 

 

「しっかりしろ! 傷は深いけど! ほら、これ!」

 

 

 ふ──ざ──け──る──な────────!!!!!! 

 

 あああああああああああああああああああああ!!!!!! 

 

 

「ほら! 用紙の裏だよ。メッセージがある!」

 

 

 うん? 「図書館の館長室で待つ」……うん、表裏とも、アンジェラの筆跡だな。

 

 

「ああ、多分まだアンジェラ以外にはバレてない。だから行って交渉してきてくれ」

 

 

 え? この呼び出しに応じるの? 俺が? 

 

 ……公開処刑場へ行くのと変わらないじゃん。

 

 どういう顔して会えば良いんだよ? ああ、俺顔無かったわ! ゲーハッハッハッ! (ヤケ)

 

 

「俺はコッソリと精神魔法で他に感づいた奴が居ないか探る。……頼んだぞ」

 

 

 ……ああ、分かった。逝ってくる。

 

 

 

 

 

 館長室にて。

 

 アンジェラは立派な革張りの回転椅子に座って出迎えてくれた。

 

 その白く美しい相貌には、ニヤリと言う形容が相応しい微笑みを湛えていた。

 

 俺はその憎々しいまでに可愛らしい顔を何とか見返して、声を絞り出す。

 

 

「……ご機嫌いかがです?」

 

「あら、思ったよりもお早い到着ね。まだお茶が入っていないのだけれど……」

 

 

 アンジェラは一見素っ気ないが、声色にはいたずらっ子の響きがある。誰に似たのやら……

 

 

「あまり親を揶揄うものじゃない。何が望みだ?」

 

「あら、もう本題? まあ、話したくないというのなら仕方ないわね」

 

 

 あまり長く話してたら、俺の心が持たない。心の中のライナーはもう銃口咥えてるからね。

 

 アンジェラはつまらなさそうに顔に手をやり、椅子をくるっと一回転させると、要求してくる。

 

 

「前々から思っていたのだけれど、ミクを筆頭とした歌姫にばかり衣装を増やすのは不公平だと思うの」

 

「なるほど……分かった。衣装で良いんだな?」

 

「一つや二つでは足りないわね?」

 

「ファッションショー開けるくらい作ってやるよ。だから……」

 

「ええ、マスター。私は何も聞かなかったし、知らないわ。他に知っている子も居ないはずよ。マスターならもう裏を取っているでしょうけど」

 

 

 ヨシ、交渉成立。

 

 まあ、問答無用で記憶を消しても良いんだが、彼女たちにはあまりそういう事はしたく無い。

 

 アンジェラも俺のそういう所を見極めてるから、この程度の要求なのだろう。

 

 そのまま指切りげんまんして、部屋を後にする。

 

 約束の大切さはよく教え込んでいる。俺を騙そうとはしないだろう。

 

 

 ……バレたのが身内で良かったな。

 

 不特定多数の他人にバレたらと思うと、寒気がするぜ。

 

 もし、ゼーリエちゃんにバレたら口封じは厳しいから……最悪、メテオ祭りかな。

 

 

 さあ、アンジェラの衣装を作らないと。

 

 最低限の材料があれば、『服を作る魔法』で大体の服は作れる。

 

 戦闘に耐え得る性能を持たせるには、流石に素材にも拘る必要があるが。

 

 もちろん今回は適当な仕事はできないので、素材から厳選するつもりだ。

 

 デザインの方だが、幸いにもアンジェラのなら当てがたくさんある。

 

 まずは、男に着せるにはもったいないくらい可愛い、魔法少女達の衣装からにするか。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より約1000年前。

 

 統一帝国のある都市にて。

 

 巡業団の即席魔法大テントの中。楽屋裏とも言える場所に、団の大物二人が揃っていた。

 

 

「遂に統一帝国が魔法の研究を許可したみたいね」

 

 

『幻想司書』アンジェラ。

 

 土くれの司書たちを率いる巡業団のナンバースリー。

 

 お洒落な事でも知られ、歌姫たちだけでなく彼女にも多くのファンが居る。

 

 今日は白雪姫のリンゴをモチーフとした衣装に身を包み、歌姫の長と共に休憩中だ。

 

 各地のあらゆる魔法や歴史を収集しているのだが、最近になるともう相手の方から情報を持ち込んでくれる事が多くなった。

 

 多くの知識を収集してきた彼女には、後世に生きた証を残したいと言う気持ちがよく分かる。

 

 

「おー、これでマスターの望んだ世界がやって来るね! 来るかな?」

 

 

『悠久の歌姫』ミク。

 

 土くれの歌姫たちの長であり、巡業団で最も人気なナンバーツー。

 

 数多の衣装を持つが、今日は最初に与えられた最も気に入っている服だ。

 

 彼女の銅像も大体はこの服であり、彼女と言えばこの格好を誰もが思い浮かべる。

 

 楽屋裏の畳の上に寝転がりながら、期待を膨らませて相方に尋ねていた。

 

 

 アンジェラは、実質的には同格であるミクに、呆れた視線を投げかけつつ答える。

 

 

「来るでしょう。大魔法使いフランメのおかげね。もし、このまま魔法使いが冷遇されたままだったら、いよいよ人間たちは危なかったでしょうね」

 

「そうなったら私たちの興行も出来なくなっちゃうよ! 彼女には感謝しないとねー」

 

 

 巡業団の興行はこの二人の組み立てた予定によって進行している。

 

 

 ナンバーワンである団長、『救世の聖女』は興行の障害となる全てに対処するのが仕事だ。

 

『角折り』『氷華』『霹靂』を代表とする護衛部隊の総指揮。

 

 政治的な手段、搦め手で巡業団を侵そうとする相手への策略と話術での対処。

 

 人気を維持し続けるための情報工作に、無償での治癒や豊穣の魔法の行使。

 

 興行にこそ関わらないものの、団長の影響力はやはり誰よりも大きいのだ。

 

 

 話題はその団長の事に移る。

 

 

「でも、団長はあまり気に入らないんでしょうね。フランメは故郷の魔法使いじゃないから」

 

「そんなのマスターは気にしないのにね!」

 

「だから余計によ。自分こそが故郷の魔法使いたちとマスターの夢を、という気持ちが団の誰よりも強かったはずよ」

 

「頼りになるんだけどね、団長。マスターに私たちを任されただけはあるよ」

 

 

 そこでアンジェラは少し目を閉じる。

 

 それが彼女の不機嫌な仕草だと知っているミクは、優しく窘める。

 

 

「団長もマスターの娘だよ。アンジェラ」

 

「ええ、分かっているわ。でも、ゴーレムである私たちと違うのも確かよ」

 

「心配いらないよ、アンジェラ」

 

 

 本当に全く心配していない様子で、歌姫はいつもの輝くような笑顔を見せる。

 

 

「時代はこれから色々と変わって行くだろうけど、団長なら上手くやってくれるよ」

 

「ミク。貴方は本当に楽観的ね。マスターによく似てるわ」

 

「そういうアンジェラは、真面目なようでズルい所がマスターによく似てるよ!」

 

 

 

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