古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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結界の魔法

 

 

 

 吾輩は人間である。名は大賢者フェイスレス。

 

 現在はとある辺境も辺境の都市国家で魔法使いをやっている。

 

 どれくらい辺境だって? 

 

 

 葦名の国くらいかな。

 

 もう秘境の域だね。ここに国作ろうって話を聞いた時はリーダーの正気を疑ったよ。

 

 魔物は強いし、ファンタジー自然も殺意が凄いし、魔族すら潜伏している。

 

 それでも、はぐれ魔法使いたちのリーダーの提案で俺たちはこの地にやって来て、既に10年。

 

 主に魔法の力で何とか都市っぽい物ができて、人もそれなりにだが集まって来ていた。

 

 

 ──ここは排斥された魔法使いたちの作った国。

 

 名はまだない。リーダーが優柔不断過ぎてつけられて無いだけである。不便だから何とかして。

 

 仲間たちを集めたのはリーダーだが、俺は世間でも中々に名の知られた魔法使いになっていたので、割と尊敬を集めている方だ。

 

 実を言うと、ちょっと実験の為に必要な素材集めをしていただけだったのだが、リーダーと出会ってからいつの間にか一行に加えられていた。

 

 今でも割とポルナレフ状態のまま、ここに居る。

 

 

 リーダーの元にはぐれ魔法使いたちが集まるまで色々とあったし、この土地にやって来てからも紆余曲折あった。

 

 まあ、仲間たちにとっては大冒険だったな。

 

 リーダーが無謀過ぎて、俺が居なけりゃ何度死んでるか分からんレベルの旅路だった。

 

 信じられるか? そこまでやったのに、メンバーはリーダー含めて、それほど大層な野望は抱いて無い。

 

 魔法使いは世間じゃ肩身が狭いので、自分たちがほどほどに好き勝手やれる場所があればいいというだけだ。

 

 世界に復讐するとか、魔法使いの地位を向上させるとか、そういうのは興味ないらしい。

 

 あのリーダーについてきたのだから、そういう奴らなのだと思う事にした。

 

 

 不思議な居心地の良さに身を任せるまま、今日も俺はこの都市国家で自分の研究をしながら、人間の魔法使いたちの面倒を見ている。

 

 

「フェイスレスさん、またドラゴンが湧いたので駆除をお願いしたいのですが」

 

「おう、大賢者さん。谷の底に杖を落っことしてしまったから取って欲しいんだが」

 

「どうしても魔力探知が途切れてしまいます! 何か裏技とかないんですか?」

 

「リーダーがまた城の壁に穴開けました。補修よろ」

 

「畑の野菜に魔法を掛けて成長させようとしたら、襲い掛かって来ました! 何とかしてください!」

 

 

 テメーら、俺を便利に使い過ぎだぞこの野郎。

 

 

 人間が魔法使いとして大成するためには、強力な熱意か女神に愛されたような才能のどちらかがいる。

 

 俺の持論だが、まあ大きく外してはいないだろう。

 

 そういう意味では、ここの連中をどれだけ指導してもあまり期待はできない。

 

 むしろ、俺が見捨てたら10年後には儚くなってそうである。

 

 

 だが、何事にも例外は存在する。

 

 

 常識の方を破壊してしまうような、形容しがたい存在というのは確かに、いる。

 

 この都市の人間は、これまでどうやっても人間に馴染めなかった俺という大魔法使いを、何だかんだで上手いこと扱っているのだから。

 

 俺はリーダーやここに集まったヘンな魔法使いたちに、そんなフワフワした不思議な期待を寄せているのかもしれない。

 

 

 そんなことを考えていると、いつも通りに威勢よくリーダーがやって来た。

 

 

「フェイスレス! 都市結界の魔法は完成したか!」

 

 

 褒められるとすぐ調子に乗ったり、手癖が悪くてつまみ食いをしたり、俺の説教から逃げようとしたりと、割としょうもない奴だ。

 

 口癖は、「フェイスレスが何とかするだろ」だ。

 

 

 マジで勘弁してほしい。

 

 ダチ公じゃ無かったらハゲさせてるぞ。

 

 

「ああ、64層の多重大結界だぞ。常に構成が自動で変わり続けるから、まともにやったら絶対に解除できない。これを掛ければこのクソ立地でも多少はマシになるだろう」

 

「凄い! 何がどのくらい凄いのか分からんくらい凄い! 流石は我らが大賢者フェイスレスだ!」

 

「お前ホント……この都市の連中。ノリと勢いだけで魔法作ってるよな。だから俺と合うんだろうか……」

 

 

 どれだけ凄い結界を張っても、中にいるのはこいつ等である。

 

 突破する意味がほぼ無いという、ある意味では最高のセキュリティを持った国だな。

 

 人間も魔族もこんな世界の最果てみたいなとこに攻めてこねぇよ。

 

 魔物だけそれなりに追い払えたら良いだろう。

 

 だが、手抜きは俺のプライドにかけてできない。

 

 イルル、カンナ、トールに張った隠れ家の結界と同等以上にするつもりで作る。

 

 ああ、隠れ家は二つ目以降もちゃんと整備してるよ。

 

 

「フェイスレス。ぶっちゃけ、私は最初にお前に会った時、マジでヤベェ怪物が居ると思った」

 

「おいこらテメェ」

 

「だが、私なら何とかなるんじゃないかと思ったんだ。それで実際に何とかした! 流石、私!」

 

「あー、もう。何でコイツについてきたんだろう?」

 

「それは私が伝説に名を残す魔法使いだからだよ!」

 

 

 実際、お前は伝説級のバカだよ。

 

 俺が人間じゃない事に気づいてたのに誘ったのかよ。

 

 よくそれまで魔族に殺されて無かったな。

 

 だが、バカな奴でないと作れない魔法と言うのはある。往々にして、そういう魔法は理不尽に強い。

 

 癪だが、コイツの魔法や経歴は残るだろう。

 

 少なくとも、俺が死ぬまでは。

 

 一応、大賢者フェイスレスの手記に旅路についても記録しておいてやろう。

 

 後世に残るかは知らん。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より26年後。

 

 かつての仲間に嵌められてフェルンを育てたフリーレンは、いよいよ天国へ旅立とうとしていた。

 

 

 旅立とうとするメンバーは──

 

 

 魔王を倒したパーティの魔法使いフリーレン。

 

 

 類稀なる才能を持つ少女、魔法使いフェルン。

 

 

 フリーレンが持っていた『マジカルエステの魔法』の巻物を使ってみたら、50代に若返った僧侶ハイター。

 

 

 以上、三名。

 

 

 

 フリーレンはただでさえ白いのに、更に真っ白になって燃え尽きていた。

 

 

「嘘でしょ……ちょっとした若作りの魔法だと思ってたのに……」

 

「ヒンメルで試してみるべきでしたね、フリーレン」

 

 

 しょぼしょぼするフリーレンに、苦笑いでシワが大分減ったハイターが言う。

 

 かつての冒険で手に入れ、今の今まで死蔵されていた巻物は、当たりどころか大当たりだったのだ。

 

 なお、フェルンは驚きすぎて喜びさえも吹っ飛んでしまっていた。

 

 

「大賢者フェイスレスの魔法って凄いんですね。ハイター様」

 

「人間の域を超えた魔法使いだったのは間違いありません。まあ、流石にここまでとは思いませんでした。……活動期間が数百年に及んでいるので、その名を継ぐ一族かと思っていたのですが、この分だと本当に長生きしていたのかもしれませんね」

 

 

 続けてハイターはにこやかにフェルンに説明した。

 

 

「彼の魔法は高度すぎてほとんど遺失していますが、巻物の魔法以外にも現在の人間が使うことができるものが幾つかあります。例えば、私たちが着ているこの『魔装服』です。この服は大賢者フェイスレスが、はぐれ魔法使いたちの都市ゼーレで広めた魔法の産物なんです。私も若い頃は知りませんでした」

 

「この服もそうなんですか。とても着心地が良いですし、丈夫で色落ちしないからお気に入りでした」

 

 

 再び驚き自身の服をパタパタするフェルン。

 

 そこに僅かに精神を立て直したフリーレンが追加で解説する。

 

 

「フェルンの着ているのは中級の魔装服だね。丈夫なだけの下級と違って汚れや臭いも付きにくいし、戦闘にも耐え得るやつだよ。……昔は戦場でしかほとんど見なかったよね」

 

「これも平和になった証ですね」

 

 

 昔を懐かしみつつ平和を噛み締める魔王軍との戦争世代。

 

 その時代を知らないフェルンは、別の事が気になったので尋ねる。

 

 

「中級でこれなら、上級はもっと凄いのですか?」

 

「そうだよ、フェルン。私が着ているのが上級の魔装服だ。質の良い金属鎧より体を守ってくれるし、多少の魔法耐性もある。その上に、体の周りを快適な気温に保ってくれるんだ。魔王を倒した褒美の一つに貰ったんだよ。嬉しかったけど、魔王討伐の旅で欲しかったよ」

 

「宴の席で流星を見ながら、みんなで愚痴りましたね、それ」

 

 

 フリーレンは思い出話を差し込んで来るハイターに向き直ると、ジッとその服を観察して言う。

 

 

「ハイターのは、あの時貰ったのとは違うよね。……随分と質が良さそうだけど、ひょっとして」

 

「ええ、御明察です、フリーレン。これは最上級の魔装服ですよ。隕鉄鳥の如き強靭さと魔法耐性を併せ持ちます。傷も直ぐに修復しますし、手入れは完全に不要です」

 

「……よく手に入ったね。最上級品は再現不能。つまりは大賢者フェイスレスの作だ。ほとんど出回る事は無いのに」

 

「僧侶の繋がりで貰ったのですよ。聖都で少し縁がありましてね」

 

 

 ハイターの答えは短かったが、博識なフリーレンにはピンときた。

 

 

「ああ、あの魔族もどきは魔法都市ゼーレの出身だったね。巡業団結成の地だし、あそこほど最上級の魔装服を抱え込んでる団体も無いし」

 

「……フリーレン。お願いですから、私以外の僧侶の前では、魔族もどき呼ばわりは勘弁してくださいね」

 

「それはもちろん分かっているよ」

 

 

 フェルンには二人の会話の意味が分からなかったが、聞き逃せない事があったので、思わず尋ねた。

 

 

「巡業団ってその魔法都市ゼーレが発祥なんですね。何処にあるんですか?」

 

 

 両親が健在だった頃に連れて行ってもらった巡業団の催しは、フェルンの幸せの象徴の一つだ。

 

 ハイターに貰った、歌姫の歌が聴ける音の箱も宝物である。

 

 フェルンのその問いに、意外な事に二人は少し戸惑いを見せる。

 

 それでもフリーレンは首を傾げながらも答えてくれた。

 

 

「大陸北西部のどっかなんだけど……何処にあるかは分からないんだ。何度か行ったんだけどね」

 

「えっ、……ひょっとして、怖い話ですか?」

 

「いや、違うよ。魔法の話だ。あそこの都市結界の効果だね。……都市の位置は動いて無いはずなんだけど、どういう訳だか普通にはたどり着けないんだ」

 

 

 フリーレンの言う事には、魔法都市ゼーレがあるとされる地方で旅をしていると、偶然に迷い込めるらしい。

 

 魔法使いは迷い込みやすく、逆に戦士はほぼ迷い込めない。

 

 その大賢者フェイスレスの造った結界には、基点も境界も発見されておらず、よって解析すら不能なまま現在に至ると言う。

 

 

「魔法使いが排斥されていた時代の結界だからでしょうね」

 

「いや、それですませないでよ、ハイター。あれは意味不明だよ。不死なるベーゼの結界よりおかしいよ」

 

 

 魔法使いであるフリーレンとしては、大賢者フェイスレスの魔法は納得が行かない物が多いらしい。

 

 

「魔法を見れば魔法使いの性格は大体分かるんだ。フェイスレスはきっととんでもない変態だよ。魔法都市ゼーレを作った大魔法使いデーリッチとその仲間たちも、きっとそうだよ」

 

 

 

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