古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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魔法を作る魔法

 

 

 

「エルフ強すぎクソワロタwwwワロタ……」

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。蔑称だが実はちょっと気に入っている。

 

 ついさっきまで大ピンチだったが、何とかトンズラに成功して一息ついている所だ。

 

 300歳の誕生日パーティー(参加者1名)の準備のため、地上に物資の調達に降りたのが失敗だった。

 

 筋肉ムキムキの下半身タコ足の魔族のオッサン(推定500歳)に徴兵されてしまったのだ。

 

 魔法種族の魔族にも肉体派は居る。

 

 脳筋でその辺の魔物と大差無いと思っているが、徒党を組む知恵は有ったらしい。

 

 

 タコ野郎とそれに近いレベルの魔力を持つ4名に「君いい魔力してるね! この辺に強いエルフ、居るらしいんだよ。一緒に一狩り行こうぜ。行くよね? (圧力)」と脅迫されるとは。

 

 

 内心では(このクソ蛮族共がよぉ!)とキレ散らかしながらも、「いいっすね~!」と即乗りした。

 

 タイマンなら格上とはいえ、タコ野郎を葬れる自信はあったが、5人相手に勝てるわけ無いだろ! 

 

 こうなってしまってはエルフに顔を広められない為にも、可哀想だが殲滅するしかないと集合場所に向かった。

 

 

 集合場所には同じく徴兵されたであろう不幸な魔族が5名と、ゴブリン系の肉壁魔物軍団が数百居た。

 

 付き合いで何度かこの手の臨時パーティに参加したことはあったが、これまでで最大規模だったので驚いたわ。

 

 何というコミュ力……とタコ野郎を見直しながらも、先に来ていた魔族のダヌアちゃん(推定50歳)に聞き込みを行う。

 

 幸いにも主催者のタコ野郎と4名のゴミ共を除けば、俺の魔力が一番強かったので簡単だった。

 

 魔力至上主義の魔族の集まりで最弱だと、マジで危険だからな。

 

 今回も、見てこいカルロ! させられてたら死んでたわ。

 

 させられた奴(ゲーティア君、推定30歳)は死んだ。

 

 

 ダヌアちゃん曰く、みんな俺と同じ感じで徴兵されたらしい。

 

 哀れ過ぎるだろ。今回ばかりはみんなと同じで俺も死んだ目をしていたと思う。

 

 100歳にも満たない魔族にとって、魔族を狩るくらい腕に自信がある年を経たエルフとか強敵過ぎる。

 

 だが、格上の魔族に要求された場合に限り、自分より格上の異種族の魔法使いとは戦わないといけない。

 

 無邪気に殺戮への期待にバカ騒ぎしているゴブリン系の魔物たちはともかく、二軍魔族メンバーのモチベーションは地の底を這っていたと言えよう。

 

 

 ああ、6名で唯一、ゲーティア君だけはタコ野郎たちの覚えがめでたくなるかもしれないと奮起していた。

 

 俺としては大魔族の庇護下に入るメリットはデメリットと全く釣り合わないと思っている。

 

 魔族というのはどこまで行っても自己中心的なものだし、強い魔族は自分の魔法を思いっきり使える場を求めて今回のような戦を引き起こすこともある。

 

 ブラック企業の上司の様に無慈悲な連中の配下になろうとする奴らの気が知れない。

 

 まあ、そんなことを言って運命共同体()の空気を悪くしても意味が無いので、適当にそうなると良いなと言っておいた。

 

 ……話を聞いていたダヌアちゃんは俺と同じ思いだったのだろう。ゲーティア君とは全く目を合わせなかった。気持ちは分かるけど、自分の生存率を上げるために同調して欲しかったよ。

 

 

 この集まりの経緯もダヌアちゃんに聞いたところ、偶然出会ったタコ野郎どもが、

 

「同族を狩る生意気なエルフ分からせをしたいのさ(意訳)」

 

「ならば、ゆこうか」

 

「おう」

 

「ゆこう」

 

「ゆこう」

 

 そういうことになったらしい。

 

 

 お前らの知的な要素は魔法だけか??? 

 

 お馬鹿をやっておくたばりになられるなら、自分たちだけでやってくださいませんこと? 

 

 

 その後、満を持してタコ野郎どもがホバー移動するマンタっぽい魔物に乗って登場。

 

 えっ、なにそれ可愛い。

 

 ゆるキャラ感がある。触ってみたい。真面目に欲しいんですけど。

 

 小さな家くらいなら包めそうな平たい巨体に、つぶらな瞳がとってもチャーミング。

 

 この時は戦いが終わったら手懐け方を聞こうかなと真剣に考えていた。

 

 

 タコ野郎のどうでもいい演説の後に進軍開始。

 

 演説が短かったのは評価できる。長生きしてると話が長くなるものだが、魔族はそうとは限らないらしい。

 

 だが、作戦内容、真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす、はどうかと思う。

 

 いや、戦力で優越しているなら大した作戦はいらないのかもしれないが、偵察くらいしようぜ。

 

 罠とかあるかもじゃん。

 

 俺がオブラートに包みまくって進言すると、最弱のゲーティア君が送られることになった。

 

 すまんな、でもこれで目立てるぞ。

 

 ゲーティア君はやる気満々で敵を舐め腐っていたようだったので、「別に倒してしまっても構わんぞ?」と応援しておいてやった。

 

 途中で怖気づいて逃げられると困るからね。

 

 ゲーティア君のご活躍をお祈りいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ゲーティア君の霊圧(魔力)が……消えた……? 

 

 

 知ってた。

 

 

 俺は軍勢の左翼の微妙に外側に居た。ゴマすりが功を奏してか好きな位置に陣取れたのだ。

 

 今は徐々に自分の魔力を落としている。真の敵(味方)にバレないように、アハ体験的にゆっくりと。

 

 傍にはダヌアちゃんがついてきた。

 

 どうにもこの子には生き残るための嗅覚が備わっている気がする。

 

 俺の所が逃げられる可能性が高いと見抜いたのだろうか? 

 

 固まってると狙われる可能性が上がるので離れて欲しい。

 

 多分、最初に狙われるのはタコ野郎だろう。

 

 最初に一番強い奴か一番弱いやつを狙うのは定石だが、魔族の軍勢相手なら首狩り戦術が最適だ。

 

 物語で勇者とかいうアサシンが派遣されるのも頷ける種族特性である。

 

 まあ、今回は軍勢というより暴徒の群れレベルだけど。

 

 

 俺としては勝てるのなら戦うのも有りだったが、なんとなく嫌な予感が強まって来ていたので、複数の逃走手段を脳内で何度も確認していた。

 

 

 結果として予感は正しかった。

 

 マンタの上でふんぞり返っていたタコ野郎が、凄まじい業火によってタコ焼きをスキップして燃えカスにクラスチェンジしたからだ。

 

 俺は突然の大将の戦死に悲痛な声を上げそうになった。

 

 ……エアリス(マンタに勝手に命名)、そんな……まだ触らせて貰ってなかったのに……

 

 タコ野郎はどうでも良かった。エアリスが美味しそうに焼きあがらなかったら、やったぜ、くらいは言ったかもしれない。

 

 というかエアリスの魔法耐性すげえ。500歳はある魔族が消し炭になる火力を食らって原形残ったよ。

 

 その後は地獄だった。

 

 相手は一人のはずなのに、何故かこちら側がノルマンディー上陸したみたいに滅多打ちになった。

 

 敵のエルフは冷笑を浮かべる伝統的な金髪ロリババアだ。

 

 もう俺はその時点で勝ち目が無い事を悟った。キャラの造形的にクソ強い感じしかしない。

 

『脳内スクショを保存する魔法』でスケスケ衣装と使用している魔法の記録を取ると、全力逃走を決意。

 

 迷ったのはどの方向に逃げるか。

 

 俺は複数の『緊急脱出用の魔法』を開発している。

 

 上空に高速で射出されるやつを使いたくなったが、高射砲めいた魔法でバラバラにされそうだったので、逆に『地面に凄い勢いで潜る魔法』を使用する。

 

 ……スッとダヌアちゃんが無言で寄ってきたので、ひっつかんで一緒に逃がしてやった。

 

 幸いにも逃げ切ることができたが、久しぶりに生きた心地がしなかった。

 

 少しでも逃げるのが遅かったら助からなかったかもしれない。

 

 近くのゴブリン系の魔物たちの集団が消し飛んでたからな。

 

 

 

 その後、棒読みでお礼を述べるダヌアちゃんと別れて隠れ家に帰って来た。

 

 300歳の誕生日は祝う準備が整う前にやって来てしまった。

 

 

 泣けるぜ……

 

 

 しかしやっぱり上には上が居るものである。いい経験にはなった。

 

 

「俺の特別な魔法も少しは形になってきているが、もっと練磨しないとな……」

 

 

 前に俺には特別な魔法は無いと言ったな。

 

 あれは嘘だ。同族には絶対に知られたくなかったので偽装していた。

 

 まあ、目の前で使わない限りはバレようがないんだけどね。

 

 

 俺の魔法は、『魔法を作る魔法』だ。

 

 なんじゃそりゃ? と思われるかもしれないが、要は魔法開発の難易度を下げる魔法である。

 

 生まれたての頃、魔法のあまりの難しさに心が折れそうになっていた時。

 

 夢の中に出家したらしい世界線の、坊主頭ジョブズが現れてアドバイスしてくれたのだ。

 

『アプリではなく、ツールを作れば良いんじゃね?』

 

 天啓だと思った。

 

 ジョブズの回す巨大ろくろに潰されて目覚めた俺は、それ以来この魔法の開発に専念していた。

 

 大量に開発して放漫のトラオムの異名の元になった魔法の数々は、この魔法のテストで生まれたものである。

 

 最初はマジで使えたものじゃなかったけどな。

 

 術式解析ミス、不親切なUI、頻出するバグ、異様にカクつくシミュレータ。……うっ、頭が。

 

 まあ、今となってはいい思い出である。

 

 色んな魔法を作りたくてそもそも開発する魔法を一つに絞るというのが俺には無理だったので、俺はこの選択を後悔してはいない。

 

 

「ヨシ! 再現できたぞ!」

 

 

 金髪ロリババアエルフがエアリスとそのオマケを焼き殺した魔法の開発にも成功した。

 

 これは俺の時代が本格的に近づいているぞ! 

 

 

「お前たちも見守って居てくれよ。俺はビッグになるからな。イルル、ティファ、リース」

 

 

 見つけて持って帰って来た小さなマンタの魔物2匹に餌やりしながら呟く。

 

 小さい方がリース、デカいのがティファだ。

 

 

「しかしお前たちはどこまでビッグになるんだろうな? エアリスって成体だったんだろうか?」

 

 

 当然ながら彼女たちは答えることなく、地面からちょっとフワフワしながら夢中で食事していた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 嵐の王と呼ばれる伝説の魔物が存在する。

 

 その名の通り、嵐と共に現れ、途轍もない巨体で村や町に覆いかぶさり、後には何も残らないという。

 

 歴史上で何度か名だたる戦士や魔法使いたちが討伐を試みるも、圧倒的な耐久力と強力な魔法耐性の前には無力であったという。

 

 その来歴は神話の時代まで遡ると言われるが、詳しい事は現代でも分かっていない。

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