古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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祝福の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムと言う。

 

 魔族たちで俺を覚えているのは一握りの古株くらいだろう。

 

 あんなに武器をばら撒いたのに、時の流れとは無情なもんだ。

 

 魔族がアレなせいもあるが。

 

 連中にとって大事なのは、使える武器であること。大魔族が使っていたという実績があって自身の箔になることだ。

 

 製作者の名前なんて、だーれも伝えてやがらねえの。

 

 おかげで魔族から武器を勝ち取った人間たちにも全く伝わってない。

 

 

 まあ、それは良いだろう。

 

 俺の数少ない魔族としての悪行とも言えるし。

 

 前にも言ったが、ロマンが広まってくれたんだから、それで満足だよ。

 

 

 

 ああ、それと飼っていたティファを野に放ったよ。

 

 いい加減、大きくなりすぎてイルルの上で飼うのも厳しくなってきてたし……

 

『使い魔契約の魔法』は解いてないし、俺たちを襲うことは無いだろう。

 

 愛着がありすぎて、処分は無理でした。

 

 まあ、知らないところで誰かに討伐される分には諦めもつく。

 

 

 あと、魔法の武器だが、ストームルーラーは作ってないよ。

 

 あんなの気付かなければ無いのと同じなんだよ? 

 

 倒したいなら、弓なり魔法なり投げ物なりで頑張ってくれ。

 

 俺もやったんだからさ(負の連鎖)

 

 

 

 

 

 

 

 ゼーレで行われた巡業団の最初の興行は大成功だった。

 

 これまで長く生きてきたが、あんなに楽しい日があっただろうか? 

 

 いや、間違いなく一番笑ったし、一番泣いた日だった。

 

 ちゃんと魔法で記録を取ったが、必要無かったかもな。

 

 俺はあの日を生涯忘れないだろう。

 

 

 

 巡業団は既にゼーレを出発した。

 

 会おうと思えばいつでも会えるが、親が頻繁に見に来るなんて鬱陶しいだけだろう。

 

 魔人は手元に残したアルちゃんもいるし、俺はまた研究の日々だ。

 

 甘ったれな連中が文句をつけて旅立ちを渋ったら困るので、アルちゃんの存在は他の魔人たちには伝えてない。

 

 

 ああ、ゴーレムたちは巡業団に全て預けた。

 

 図書館は別の隠れ家がある天脈竜のトールに移動させ、そっちへの転移の魔法をアンジェラに与えた。

 

 巡業団の本拠地として使って欲しい。

 

 歌姫たちにはできる限りの守りの魔法をかけ、魔道具も欲しい物を持たせた。

 

 魔人たちには、まあ最低でも300年くらいは巡業団を続けるように頼んだ。

 

 

 別に、永遠に続けなくても良いんだ。

 

 俺たちは好きにやりたいがためにゼーレに集まり、好き勝手やった末に巡業団を作った。

 

 だから、お前たちも好きにして良いんだ。それがゼーレの魔法使いなんだ。

 

 まあ、長く続けてくれれば嬉しいがね。

 

 

 そうアムたちに伝えると、困った顔で「他にやりたいことが見つかるまでは続ける」と言ってくれた。

 

 ありがたいことだ。陰ながら応援しよう。

 

 ……ただ、「家族に黙って女を作ったりしないで」は大事な場面ではいらない心配だった。場が凍ったぞ。

 

 生まれてこの方、彼女すらいたことがねぇよ、マセガキが! 

 

 お前らの方こそ、ろくでなしに引っかかるなよ! 

 

 あまりにも酷い奴を連れてきたら、お父さん隕石降らせますよ(真顔)

 

 

 

 

 一足早くリーダーは旅立ったが、最初の仲間たちがみんな後に続いたら、俺はゼーレを出ようと思っている。

 

 為政者としての能力がある訳でも無いのに、長命な俺が居座るべきじゃない。

 

 老害ムーブして俺の手でゼーレを台無しにしたくないし。

 

 それに、ゼーレは俺たちの居場所だったが、これからは後輩や仲間の子供たちの居場所だ。

 

 未来に懸念を残したくなかったので、俺が魔族であったことは徐々に忘れられるように呪いを掛けた。

 

 これで魔族トラオムの名を知る純粋な人間はいつかは居なくなる。

 

 ちょっと胡散臭いけど頼りになる大賢者フェイスレスとして、それなりに覚えててくれればいい。

 

 

 

 俺は魔法都市国家ゼーレの全景が見える丘の上で、音楽の箱でミクの歌を一人で聞いていた。

 

 冷たい風に吹かれながらも、俺が仲間たちと築き上げた国をジッと見つめる。

 

 風に乗って流れているのは、リーダーが好きだった曲。

 

 Wind Climbing~風にあそばれて~、だ。

 

 実にらしいじゃないか。

 

 甘ったれで楽観的で行き当たりばったり。

 

 それでこそ俺たちのリーダーだった。

 

 そんなリーダーを中心に集ったどうしようもない連中が、俺たちゼーレの魔法使いだった。

 

 最初は何となく引きずられて加わったんだよなあ。

 

 

 

「最高に楽しくてくだらない毎日だったよ、相棒。……また会おうぜ」

 

 

 

 

 魔力を立ち昇らせ、眼下に見えるゼーレを覆うように展開していく。

 

 余裕を持ってすっぽりと都市を分厚い魔力で覆うと、祈るように合掌し、魔法を発動する。

 

『祝福の魔法』。……正直なところ、効果があるかどうかも怪しい魔法だ。

 

 まあ、悪い事にはならないのは確認してる。気休めだな。

 

 

 はぐれ魔法使いたちの避難所ゼーレよ、どうか末永く栄えておくれ。

 

 

 

 

 

 あっ、そうだ。仲間たちが居なくなる前に、ちょっとしたギミックやお宝を設置して回ろう。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より約1000年前。

 

 訪れるだけでも結構な冒険になる、魔法都市国家ゼーレに魔法使いの師弟が訪れていた。

 

 

 ゼーレの周辺はまさに秘境という険しさであり、都市結界が無くともやって来るのは困難を極める。

 

 特にこの時代は魔王軍が跋扈しており、普通の都市間の移動ですら危険な時代だったのだ。

 

 だが、人間勢力を容赦なく押しまくっていた魔王軍の侵攻は、この時は少し落ち着いていた。

 

 だからこそ、外来の魔法使いの弟子は、珍しい師の誘いに乗ってやって来る余裕があったのだ。

 

 

「随分と奇抜な街並みだねぇ。……でも、魔人たちの故郷と聞いていたけれど、人間ばっかりなんだね。熟達の魔法使いが多いのは流石だけど、ちょっと意外だ」

 

 

 ゼーレの街並みは大賢者フェイスレスを筆頭としたはぐれ魔法使いたちが好き放題やったせいで、色んな文化が入り乱れて落ち着きが無かった。

 

 都市中央の巨大な和風の城がまず目につくが、それ以外も大概だ。

 

 よく分からないオブジェが並んだ公園や、時間になると七色に発光する巨大魔法時計など、名所はたくさんある。

 

 

 それも外来の魔法使いの師匠にとっては、何度も来て慣れたものだ。

 

 

「現在は人間しかいない。……昔は魔人も大勢いたんだがな。なあ、フランメ。お前は魔人をどういう生き物だと思う?」

 

 

 大通りを行きながら、魔法使いの師匠ゼーリエは唐突に問う。

 

 なお、彼女はこの都市に縁深く、優れた魔法使いであるために、都市の人々からは敬われている。

 

 

 師匠の突然の問いも弟子フランメには慣れたもの。直ぐに答える。

 

 

「まず、見た目で魔族と全く変わらないのが気に入らないね。感情の問題じゃなくて、普通に紛らわしくて困るんだ。巡業団が近くに来ていないかちゃんと確認しないと、満足に奇襲も仕掛けられない。万が一、連中に誤射したら、一発だけでも絶対に許されないだろうからね」

 

「はははっ! それはそうだな。戦力抜きでも、あの知名度と人気は脅威だろうしな。いっそ、魔族と戦うために作られた連中ならそういう区別もつきやすくされていたかもしれんが、あの通り音楽と芸を披露するためだけの存在だ」

 

「笑い事じゃないよ、師匠。こっちは命懸けなんだから。……『接ぎ木の魔法』はぶっちぎりで優れているけど、キメラを作る魔法はもっと昔からあった。いつかは魔族をベースに何かを作る連中は出て来ただろうが……まさか、一番に大規模にやって、しかも見事に成功させた連中があんな平和に利用するなんてね」

 

「ほう。連中は平和な目的の為に作られた存在として、『成功』していると?」

 

「……巡業団が人間の世界にそぐわなくなるまでは、安全だろうね。その後は分からないが」

 

「では、やはりお前が気にするべきことではないな。魔王軍に注力していればいい。あれは私が見ておいてやろう」

 

 

 珍しく可笑しそうに笑いながら言うゼーリエに、フランメは溜息をつく。

 

 しかし、ゼーリエは意に介さず、次の問いを放つ。

 

 

「では、魔人を作ったこのゼーレの魔法使いたちのことはどう思う?」

 

「……私に魔族との因縁が無ければ、もっと早くここに来ていたかもね。まあ、今より平和な時代の連中に文句を言っても仕方ないだろ。魔王軍が出来た時代にいてくれれば、頼もしい戦力になってくれたとは思うが」

 

「まあ、アイツらなら面倒くさがりながらも戦っただろうな。どこまで戦力になったかは怪しいが」

 

「ああ、民間魔法ばっかり作ってた連中だもんな。でも、幾つか冒険もしてるだろ?」

 

 

 巡業団が配布する本には、もちろんゼーレの創始者たちについて詳細に記された物が幾つもある。

 

 それを思い出しながら言うフランメに、ゼーリエは更に楽しげに言う。

 

 

「ああ、確かに結構な腕利き揃いだった。だが、アイツらの最大の実績は本には載ってないぞ」

 

「へえ? 当時を生きていた師匠だから知ってる類の話かい?」

 

「そうだな。ホラ話としか思われないから載ってないんだ。……アイツらはな、世界を救ったんだよ。この私も逃し続けた、最強の魔族を打倒したんだ」

 

「はあ?」

 

 

 突然の暴露話に、流石のフランメも目が点になる。

 

 ゼーリエはそんな弟子の反応に更に楽しそうに笑う。

 

 ……そういえば、今日は本当に珍しく師匠が上機嫌だとフランメは思った。

 

 普段の気怠げな様子がどこかへ飛んで行ってしまったゼーリエは、弟子の疑問に答えずに最後の問いを発する。

 

 

「では、大賢者フェイスレスについてはどう思う?」

 

 

 らしくも無く、フランメの顔を覗き込むような動作を見せながらの問いに、少しの間が生じる。

 

 

「…………本当に人間かい?」

 

「ほお。その心は?」

 

「いや、作った魔法がどれもこれも規格外すぎるだろう。師匠はフェイスレスのことを語る時はいつもボロクソ言ってるけど、人間の域を完全に超えてるよ。悪いけど、幾つかの魔法は師匠にも使用不可能だろう?」

 

「確かにそうだな。あの大馬鹿は魔法を作るのだけは得意だった。では、何者だと思う?」

 

「いや、さっぱりだね。でも、魔族だけは有り得ないかな。あんなに生産的で、ユーモアのある魔法の数々は絶対に作れない。けれども、一部の連中が言うような降臨した女神様の使徒と言うには、無軌道で人間臭すぎる。……師匠は知ってるんだろ?」

 

「もちろんだ」

 

「で、教えてはくれないと」

 

「いいや? お前が私を超える魔法使いになったら教えてやろう」

 

 

 ゼーリエの答えは、つまりは教えるつもりは無いということだとフランメは受け取った。

 

 ついでに、さっきから様子のおかしい師匠に、明日は槍でも降るかな、とフランメは考える。

 

 独特な形状の城にたどり着くと、ゼーリエは話は現在の国王であるアドバーグ・エルドルに通してあるから、自由に魔導書を閲覧させてもらうといいと言い残し、フランメを置いて去って行こうとする。

 

 フランメは勝手すぎるだろうと思い、その背に声をかける。

 

 

「直接紹介してくれてもいいじゃないか。どこへ行くんだい?」

 

「悪いが、待ち合わせの予定がある。一週間後にここで会おう」

 

 

 そう言うのを最後に、ゼーリエは本当にさっさと行ってしまう。

 

 フランメはあまりに取り付く島もなかったので、少し呆然としながらも、違和感の正体に気付く。

 

 いつも着ている魔装服よりも意匠が上等だった。

 

 いや、それはゼーリエの所有する万能古代ゴーレムである2Bが、人に会うと聞いて勝手に用意した物だろう。

 

 師匠は日常生活では、大体のことはずっとゴーレム任せだ。

 

 

 そうじゃない。それよりも……

 

 

 

「…………化粧してた? いや、まさかな……?」

 

 

 

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