古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

21 / 66
聖獣を作る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名はトラオムと言う。

 

 ほぼ完全なる無名の魔族と言っていいだろう。目撃者は大体オブリビエイトしたからな。

 

 今は久しぶりにイルルの背に戻ってのんびり研究生活をしている。

 

 いや、ちょっと懐かしいな。

 

 ゼーレに居た期間は決して俺の魔族生の中では長い時間では無かったんだが。

 

 だが、昔と変わったこともある。

 

 

 

 まず、ゴーレムたちがほとんど居なくなった。

 

 いや、歌姫や司書たちの代わりに用意したのはいるんだけど、前ほどの数じゃない。

 

 別に彼女たちとの縁を切った訳じゃ無いからな。

 

 今でもアンジェラを通して普通にミクたちとは連絡している。

 

 魔法の交換日記を使ってね。書き込むと対応する日記に文字が浮き出るよ。

 

 図書館長権限でアンジェラが所有しているはずなのだが、頻繁に他のゴーレムたちに盗み出されては書き込みが成される。

 

 向こうの日常はなんとも楽しそうでなによりだ。

 

 魔人たちにはバレないようにしてくれよ? アイツらやたらと子供っぽいんだから。

 

 肉体改造の影響か、それとも人間性を与えたからか、魔人たちはどうにも根が幼い。

 

 別れる時に変な奴に引っかかるなとは言ったが、実際にはそういうのは理解できてないだろう。

 

 まあ、ゴーレムたちがそういうのは追い払ってくれる。

 

 どうしようもなかったら、ミクとアンジェラから別の緊急連絡手段で応援要請が来るはずだし。

 

 

 

 ああ、魔人でも唯一、そこまで幼い訳では無い奴が居る。

 

 家に残して雑用させたり、弄り倒したり、実験に付き合わせてるアルちゃんのことだ。

 

 他の魔人とはちょっと作り方を変えてみたんだ。

 

 まず、記憶の完全消去をしなかった。

 

 ……そのせいで、自分の行いに拒否反応が出て、半年は吐きまくり寝込みまくりだったな。

 

 まあ、肉体はとびっきり頑丈にしといたから大丈夫だった。

 

 精神安定の為に『マジカルエステの魔法』とかも使いまくったし。

 

 肉体側が安定すれば精神も引っ張られるからね。

 

 アルちゃんは、あまり精神系の魔法には頼らずに安定させた。

 

 魔人の新たな可能性の模索でもあったし、身内に一定以上の精神操作は縛ってる都合もある。

 

 

 その甲斐もあって今は元気いっぱいです。

 

 ほら、サカバンバスピスのオカマニちゃんに剛速球タックルされてもケガしてない。

 

 

「トラオムー! ちょっとこの子、全然私に懐かないわよー!?」

 

「いや、好かれてる好かれてる。アリクイがアリを好きなのと同じくらいにな」

 

「食料として見られてるの、私!?」

 

 

 冗談だよ。ちょっと俺が誘導してじゃれつかせてただけだ。

 

 何と言うか、アルちゃんは謎の弄りがいがあるんだよな。

 

 親子って感じの関係でも無いから、友人みたいで気安いし。

 

 自制しないと、一日中彼女に構ってたということになりかねない。

 

 

 

 あと、定期的にゼーリエちゃんと会ってる。

 

 ……会った場所の地形が変わるのが常なので、外洋の孤島に、決戦のバトルフィールドを建設中だ。

 

 どうせ俺たちの戦いには耐えられっこないので、頑丈さはそこそこに、自動修復能力と周囲への影響を減らす仕組みを作ってるわ。

 

 マジでバトル好きだよね、ゼーリエちゃん。

 

 いや、やってると俺もちょっとずつ楽しくはなってきたけど。

 

 あそこまではドハマリできないかな。

 

 

 ただ、感想戦まで何度もやってる甲斐あって、大分仲良く成れたと思う。

 

 昔を考えれば有り得ない事だ。

 

 本当にゼーレの仲間たちには感謝している。

 

 しかし、ゼーリエちゃんは気難しいが、一度内に入ってしまえばそこまで頑なでは無いな。

 

 最近では魔法と関係無いプレゼントとかも受け取ってくれるようになったし。

 

 今はバトルばっかりだが、その内に一緒に旅行とかしたいものである。

 

 巡業団のためにも、ゼーリエちゃんと仲良く成るのは急務だしな。

 

 

 

 

 

 

 そうそう、最近の話なんだが、大ニュースがあったよ。

 

 

 

 なんと、魔族どもが魔王軍なるものを結成しました。

 

 

 

 

 

 

 ????????!!!!!???!??!!??!? 

 

 

 

 

 

 魔王……軍…………? 

 

 

 

 何の冗談ですか? 

 

 魔王はハーブか何かやっておられる? 

 

 理解不能、理解不能、理解不能! 

 

 

 

 魔族で、一過性では無い社会っぽい物を作る……? 

 

 ……罰ゲーム過ぎて想像するのも嫌だよ、俺。

 

 何が悲しくて個人主義者だけの種族を、大陸中で無理矢理に集めたんだよ。

 

 

 いや、絶対に人間の軍みたいに指揮系統とかちゃんと出来てないわ。

 

 魔族は上位者の命令には服従するけど、隙あらば独断専行したり逃亡したりするぞ。

 

 あと、自分の部下に『葬送のデルフィン×100』みたいなのが来る可能性があるんだろ? 

 

 やばたにえんの無理茶漬けです。内臓がストレスで爆発四散して死ぬ。

 

 真面目に考えるほど、トラオム君には魔王は不可能です。

 

 

 

 魔王は実力もヤバいけど、頭の中も相当ヤバいやつだよ、これ。

 

 うん、絶対に関わりたくない。

 

 

 

 でも、俺はともかく巡業団はどうしてもドンパチすることになるよな。

 

 もう大魔族が複数来ても返り討ちにできると思って送り出したけど、魔王軍なんて大規模な組織ができることは想定してないんだわ。

 

 何とか援護しないと不味いよな。しかし、全魔族とガチンコはしたくない。

 

 そういうのは勇者の役割だろ。

 

 俺は勇者に20ターン以内に打ち負かされるまで戦わないよ。

 

 

 ……援軍、作るか。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの旅立ちより5年後。

 

 旅路の途中で野営中だったヒンメル一行は、魔族の小隊によって奇襲をかけられる。

 

 スヤスヤエルフや泥酔僧侶などを抱えた状況では、かなり危険な戦闘になることが予想された。

 

 

 しかし、一行は意外な援軍を受けて、犠牲も大きな怪我も無く、撃退に成功する。

 

 そして現在。勇者ヒンメルはその助太刀と戯れていた。

 

 

「おーっと、よしよし。人懐っこいなあ、お前」

 

 

 ヒンメルが撫でまわしているのは真っ白で大きな狼。

 

 だが、もちろんただの狼であろうはずが無い。

 

 魔族を相手に一歩も引かずに戦い、獅子奮迅の働きをしたのだから。

 

 この白狼の正体を知っているアイゼンは、驚きと共に呟く。

 

 

「信じられん。あの天狼がこうも懐くとは……」

 

「え? どういうことだい、アイゼン。こんなに人馴れしてるのに」

 

 

 モフモフのお腹を撫でまわしながらヒンメルが問うと、アイゼンは呆れ気味に教える。

 

 

「女神様が遣わしたと言われる天狼たちは、遥か昔から魔族と戦い続けてきた誇り高い戦士たちだ。多くの人間たちが飼いならそうとしたが、一握りの勇者の中の勇者にしかその身を触れさせないんだぞ」

 

「なんだ。それじゃあ、何も不思議ではないな。うん、流石は天狼。見る目があるじゃないか」

 

 

 自信過剰なヒンメルの言葉も、この光景があってはぐうの音も出ない。

 

 そこへ、ようやく目を覚ましたエルフがやって来る。

 

 

「おはよう。襲撃があったみたいだね。……随分と懐かしい匂いがすると思ったら、天狼か」

 

 

 目をしょぼしょぼさせながら起きてきたフリーレンだったが、真っ白なモフモフを見つけて懐かしそうな顔になる。

 

 

「ああ、フリーレン。こいつが一緒に戦ってくれたんだよ。今はこんなだけど、本当に頼りになったんだ」

 

「知ってるよ。魔族と戦う者にとっては心強い仲間だからね。……昔はもっとたくさんいたんだけどなあ」

 

 

 昔はもっと数が居て、天狼も一匹ではなく群れで戦っていたのだ。

 

 だが、長い戦いの中で魔族に数を減らされて行き、今はほとんど見なくなってしまった。

 

 それでも、天狼を村人が守り神として信仰対象にしたり、魔族と戦う者たちがあやかって紋章にしたりと、彼らへの感謝と敬意は忘れられてはいない。

 

 眩しそうに天狼を見つめるフリーレンだが、近寄ろうとはしない。

 

 それを不思議に思った二人は顔を見合わせると、尋ねる。

 

 

「どうしたんだい、フリーレン?」

 

「人間には滅多に触れられるものじゃないが、エルフは女神様に近い種族と言われているからか、例外的に触れられると聞いたが?」

 

 

 二人の疑問にフリーレンは指をツンツンしながら、もどかし気に答える。

 

 

「昔は私も触れられたんだけどね。今はどうにも触れさせてくれないんだ。コッコロなんかは、行く先々で現れて纏わりつかれてたのになあ」

 

 

 残念そうなフリーレンに、ヒンメルは少し考えると天狼に目線を合わせる。

 

 

「なあ、ちょっとでいいから。僕の仲間にも触れさせてやってくれないか?」

 

 

 ヒンメルのお願いに、天狼は少し首を傾げる。そして──

 

 

「無理だよ。彼らは人間の指示なんか……」

 

 

 諦め声で言うフリーレンを待たず、天狼は彼女の前にゆっくりと歩み寄ってくる。

 

 

「嘘……」

 

「僕は勇者だからね。これくらいは当たり前さ。……ほら、フリーレン」

 

 

 フリーレンは恐る恐る、随分と久しぶりに天狼に手を伸ばし、触れる。

 

 彼女の記憶にある通りのモフモフが、懐かしい思い出を想起させる。

 

 

 かつて、フリーレンの村の近くにも天狼の群れが居た。

 

 その群れにフリーレンと特に仲の良い子狼が居て、よく遊んでいたものだ。

 

 ……彼らは、伝承にある通りに誇り高く、勇敢な戦士だった。

 

 魔族がフリーレンの居たエルフの村を襲った時も、最後まで戦ってくれた。

 

 もちろん、フリーレンの友達だった子狼もだ。

 

 最後の一頭になっても、決して引かなかった。

 

 

 村のエルフがごくわずかでも生き残れたのは、彼らの奮戦のおかげだ。

 

 師匠について旅立つ前に、村人の遺体と共に彼らも弔ったのを覚えている。

 

 友達の身体に残った僅かな体温と、その体の重さも。

 

 

「……お日様の匂い。昔から変わってないね」

 

 

 フリーレンは天狼の頭を撫でつつ、その匂いを嗅いだ。

 

 そして、その顔つきを見直しながら言う。

 

 

「でも、天狼ってもっと凛々しかったと思うんだけど。お前は天狼というにはちょっとポアッとしてるなあ」

 

「アウッ!」

 

「いたっ」

 

 

「あ、噛まれた」

 

「天狼は賢く、侮りは許さない。今のはフリーレンが悪い」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。