古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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女神の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムだが、大賢者フェイスレスとも呼ばれている。

 

 でも、そんなことは重要じゃない。今はそれどころじゃ無いんだ。

 

 個人的に生まれてきてから最高レベルの大ニュースがあったんだ。

 

 

 え? 魔王軍? アルちゃんたちが探ってくれてるよ。専用転移魔法でよく帰って来るけど。

 

 頻繁にギブアップ宣言されるけど、とにかく甘やかしまくり褒めまくりで割とすぐに復活してくれる。

 

 チョロイぜ。そのままの君でいて。

 

 

 比較するに、ゼーリエちゃんは全然チョロくない。

 

 この前に俺は、お気に入りの『衝撃波の魔法』を精一杯披露したんだが負けてしまった。

 

 これでは十傑集には成れないな……。

 

 魔法そのものは応用力とかも含めて褒めてくれたけど、走り方がキモイは酷くない? 

 

 

 

 

 

 

 

 それよりも今は、女神様が俺の1600歳の誕生日に、魔法をプレゼントしてくれたことだよ! 

 

 

 しかも、全世界規模でのプレゼントだぜ? 

 

 俺の魔法があふれる世界が見たいという願いを聞いてくれたに違いない。

 

 こんなに嬉しい事は滅多に無い。俺、涙が出そうだよ……。

 

 

 

 ……やっぱりこの世界、神からの介入とかあるんだな。媚売っといて良かった……。

 

 しかし、未来がまた楽しみになったな。

 

 

 

 ああ、そういえば、つまらなくなるので未来視の魔法は一定以上先を見れる物は作らない。

 

 今という一瞬を楽しみ尽くせばそれで良いんだよ。

 

 ゲームとか漫画とか映画とかでも、ネタバレは嫌いです。いわんや、人生となるとな。

 

 でも、他人が使うのに備えないのは愚かだからね。俺の偽装魔法は過去視や未来視にも対応しているよ。

 

 

 

 それで女神様の魔法なんだが、なんとも遊び心に満ちていることで、聖典に暗号として記されている。

 

 凄い、女神様に一気に親近感が湧いたぞ。

 

 きっとゼーレの魔法使いたちのように、ユーモア溢れる素晴らしい神なんだろう。

 

 天国に旅立った仲間たちは楽しくやっているに違いない。

 

 俺も負けないように精一杯に楽しんでやろう。

 

 

 

 

 

 

 なんて思っていた時期が俺にもありました……

 

 

 

 

 何でや! 何で俺には女神の魔法が使えないんや! 適性? 何それ? 何かのバグ? 

 

 

 ……魔族ってやっぱり嫌われてるよね。

 

 じゃあ、何で繁栄してるんだよ。今、モンハンならぬヒューマンハンターが大流行してるよ。

 

 ああ、だから女神様がテコ入れしたのね。

 

 これまでは呪いを掛けられたら、魔族が何かの間違いで人間に優しくしたい気にならない限り助からなかったからな。つまり確実に死んでた。

 

 ただし、ゼーリエちゃんは除く。もっと古代の魔法見せて下さい! 

 

 

 幸いなことに、魔人たちは使うことができる様だ。特にアムは抜群の適性を見せた。

 

 あと、アルちゃんも同じくらい適性があった。

 

 何となく傾向が読めるような読めないような……? 

 

 

 そして、俺に無くて彼らにある物。

 

 それはやっぱり人間の魂だろう。前世はノーカウントらしい。

 

 もっと細かく条件は絞り込んで行きたいが、何となく、俺は使えないような気がしている。

 

 

 ……だが、それで俺が大人しく諦めると思ったら大間違いだ。

 

 

 

 オラッ! 分身ども集まれ! 

 

 今から聖典解読するぞ! 並行して、自動で暗号精査する魔法も作れ! 

 

 解読できた魔法は精査して、ヤバくない物だけ巡業団に回して発表させろ! これ以上無い信用になるぜ! 

 

 

 そして……見つかった魔法は、片っ端から解析して模倣するぞ! 

 

 ダメそうな奴は適当に同じ感じの魔法をでっち上げてもいい! 

 

 開発を! 一心不乱の魔法開発を! 

 

 さあ、聖典の研究を始めるぞ! 

 

 

 魔人たちの輝かしい前途と、今後ますますの魔法の発展を願って、

 

 バンザイ・チャント、重点!! 

 

 

「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」「ガンバルゾー!」

 

 

 

 

 

「えっ、なにこの……なに?」

 

「あっ、お帰りアルちゃん。今日はカレーだよ」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの旅立ちより10年後。

 

 魔王討伐の喜びに沸く大陸。

 

 その中央諸国にある俗に音楽都市と称される小都市にて。

 

 喜びに溢れいつもよりも音楽に満ちた町は、平和の訪れを謳歌していた。

 

 この美しい音楽による音楽の為の町の住人にとって、当然のことながら巡業団は特別な存在である。

 

 古くは旅の詩人や芸人たち、そして現代の楽団や曲馬団の全てに大きな影響を与え続ける、生ける伝説故に。

 

 

 魔王の討伐と巡業団の訪れという慶事が重なり、この日が音楽都市にとって歴史的な日になることはもう確実な事と思われた。

 

 

 歌姫たちが都市のあちらこちらで住人たちと踊り歌い、魔人たちもたまらずに混ざり出す。

 

 当然の様に、全ての魔人たちは歌や音楽が堪能だ。

 

 歌姫たちが育ての親の一人であり、生まれ故郷であるゼーレでも音楽の魔法は盛んに研究されていたからだ。

 

 角を持つ彼ら彼女らが町の人々と共に音楽を奏でる。

 

 その不思議な光景は、これから先の時代を暗示しているようにも思えた。

 

 

 巡業団の団長、救世の聖女アムは街で最も歴史ある聖堂の奥の部屋にて、外から途切れなく聞こえて来る音楽を聴きながら古い友人、いや、家族も同然の相手と紅茶を飲んでいた。

 

 白磁の様に美しい指先で上品にティーカップを傾け、その中身を減らすと一拍おいて聖女アムは話し出す。

 

 

「ようやく……本当にようやく終わったわね。これで新しい時代が来るわ。……お互いに、よくもまあ戦乱の時代を大陸中旅しながら生き残れたものね。でも、今日という日を貴女と迎えられて嬉しいわ、コッコロ」

 

「……本当に、多くの犠牲がありました。それらが無駄では無かったと、みんなが祝ってくれているようでとても嬉しいです。もちろん、お互いに健在であれたこともです」

 

 

 お互いに長命で指折りの僧侶として高名な二人が同郷であることは、知っている人は知っている豆知識だ。

 

 彼女たちが千年以上の時の流れの中で出会った、無数の人々。

 

 数え切れない出会いと別れ。

 

 今はもういない彼らの命の輝き。

 

 本や歌、劇にして出来得る限りを巡業団は伝えてきたが、全ては伝えきれるわけがない。

 

 だが、それでも彼らの記憶は今を生きる彼女たちの中で、今も息づいている。

 

 

 しばし、二人はこれまでの旅路に思いをはせて沈黙する。

 

 そして、示し合わせた訳では無いが思い出話を始める。

 

 

「これからは僧侶として求められることも変わっていくかしら? 女神様の魔法がもたらされてから今まで、それはそれは頼らせてもらったけれど」

 

「怪我も病も呪いも癒せる高位の僧侶は引っ張りだこですよね。きっと、これからも変わりませんよ。それにアムさんはお父様の魔法も使えますし、どこへ行っても大人気でしたね」

 

 

 コッコロの言葉に、アムは少し俯きつつ続ける。

 

 

「いつの世も『豊穣の魔法』や『湧水の魔法』は大人気よ。私の聖女としての名声を支えてくれてるわ。でも、少し滑稽よね。千年以上もあったのに、誰も女神様の魔法だって疑わないんですもの」

 

「良いじゃないですか。大事なのは人々を救えることです。誰かを笑顔にできる魔法こそが一番良い魔法だって、私は教わりましたよ?」

 

「私も教わったから分かっているわよ。別に文句があるとは言っていないでしょう?」

 

「ええ。そうですね。私もアムさんがとても優しくて家族思いな人だって分かっています」

 

 

 ニコニコと微笑むコッコロにアムは少し拗ねたように返すも、糠に釘だった。

 

 魔人の長である彼女も、長女であるナルメアも、コッコロが居る時はいつも妹扱いだ。

 

 長命故に年下扱いされるのは滅多に無く、どうにも居心地が悪い。

 

 だが、決して悪い気分では無いのだ。

 

 

 その後も、取り留めもなく思い出話は続いていく。

 

 年寄りの話は長いものだが、彼女たちには語ろうと思えば語れる思い出はいくらでもある。

 

 人間の老人の比では無く、いつまでも語れるのだった。

 

 

 しかし、記念すべき日にそんなに暇がある訳も無し。

 

 彼女たちの語らう部屋に、どたどたと近づき声を上げる者が現れる。

 

 

「アム団長! もうすぐ礼拝の時間なのに、遊びに脱走したパワーを追いかけて行ったセイロスが戻らないのデス! 私だけではゴスペルが寂しいものになってしまいます! 誠に申し訳ないのですが、団長に加わっていただけないでしょうか!?」

 

 

 焦りをたっぷり声に乗せた魔人の男が扉の向こうから話しかけてきた。

 

 アムは困った風に少し瞳を揺らすと、コッコロに言う。

 

 

「ごめんなさいね。もう少し貴女と話していたかったのだけれど……」

 

「いえ、せっかくですから私もご一緒させてください」

 

「あら、いいの?」

 

「私だってゼーレの民です。大勢の前で歌うのは久しぶりですが……」

 

「そうね。それじゃあ、久しぶりに一緒に……」

 

 

 二人は微笑み合うと立ち上がる。

 

 その瞬間、話が聞こえていたらしい扉の外の魔人が勢い良く入ってくる。

 

 

「おお!! コッコロさんも来て下さるのですか! おおおお~! なんと望外な! そして勤勉な! それでは、今日という日がとびっきり素晴らしい日になることがますます約束されましたねぇ!」

 

 

 二人は少し苦笑いして、大げさに感動を動作で表す大柄でおかっぱ頭の魔人を見つめると、連れ立って人々の待つ聖堂へと向かったのだった。

 

 

 

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