古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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遊戯盤の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムと申します。

 

 魔王軍の勢いが止まんねぇ。でも、人間たちも頑張ってるんですよ。

 

 俺は決して頑張ってる人間の魔法使いを馬鹿にしたりはしない。

 

 ゼーレの友人たちは素晴らしい才能を持っていたし、時代が下ればもっと凄い魔法使いも生まれるだろうからな。

 

 

 ただ、現時点ではまだまだ魔族に比べて実力不足で、純粋にカス以下なだけだ。

 

 

 それに僧侶も微妙な魔法しか使えなくて戦力差が酷いしな。

 

 女神様。あの暗号、ちょっと難しすぎるかなって思います。

 

 あと、推定総魔法数が膨大過ぎてビビってます。

 

 神格のレベル、マジパネェっす。超リスペクトしてます! 

 

 

 ……戦況だが、最終的にはひっくり返せると思う。

 

 人類にはそれだけのポテンシャルがある。だから女神様も魔法だけで充分だと思ったんだろうし。

 

 だが、日々集められた情報からまとめられている、大陸の地図上の勢力情報を見てると心配になるわ。

 

 土地を取ったり取られたりできてるからには、やられっぱなしではないんだろう。

 

 時々、本当に凄いパワーを持った超人がいるし。

 

 しかし、元の数の差を考慮してもキルレシオが酷いな。

 

 地図の上から人は見えないのは当たり前なんだが、どれくらいの犠牲が出てるんだろう……

 

 

 

 

 戦争に参加してない俺が心配ばかりして暗くなってても意味がない。

 

 勝利を信じて俺は魔法の研究を続けよう。

 

 ゼーリエちゃんも割と楽観視してるし。

 

 ……実際、神代の魔法と俺からコピーした魔法があれば彼女だけでもかなりの戦力だしな。

 

 

 こういう時こそ、ユーモアのある楽しい魔法を作ろう。

 

 有名になって来た巡業団のみんなも各地に笑顔をもたらしているんだし。

 

 というわけで、それなりの発想力と潤沢な前世知識から繰り出される俺の努力の結晶、『魔法を作る魔法』の力を見よ! 

 

 

 

 

 

 はい、出来上がりました。『遊戯盤の魔法』です。

 

 その名の通り、魔法でエンターテイメント性を高めた遊戯盤を作る魔法だ。

 

 この世界には電気器具は無くても、もっと便利な魔法があるんだぜ。

 

 幾つか種類を作ってみたが、アルちゃんたちには大絶賛状態だったのでゼーリエちゃんにも見せてみよう。

 

 

 ……それで限界バトルの時間を少しでも削れるなら本望だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほれ、チェックメイトだ」

 

「……参りました」

 

 

 そして瞬殺される。

 

 バ……バカな……か……簡単すぎる……あっけなさすぎる……。

 

 

 何で? 何で? 何で? ゼーリエちゃんはボードゲームの経験とか無いハズだよね? 

 

 俺は得意では無いけど、定石の知識と『電王戦の魔法』とかで精一杯考えてるのに。

 

 それでアルちゃん相手には無双できたのに。

 

 

 今やっているのはチェスだ。

 

 別に得意では無いけど、オサレそうだからチョイスした。失敗だった。

 

 ああ、某魔法学校映画であった動くチェスがモデルだよ。

 

 

 たったいま、俺のキングがゼーリエちゃんのクイーンに、アロガント・スパークで粉砕された。

 

 決着用のレア演出の一つだよ。

 

 他にも色々あるよ。北斗百裂拳とか、ジェノサイドカッターとか、水鳥乱舞とか。マレカス許さん。

 

 駒は砕け散っても次のゲームになれば元通りだ。

 

 

「では、休憩はこれまでだな。続きを始めようか……!」

 

「アッハイ」

 

 

 勝ったら次のゲームを勧めるつもりだったが、全駒されたらぐうの音もでねぇわ。

 

 ゼーリエちゃんは今日も元気で可愛いなあ(白目)

 

 午後の勝負は『自然化の魔法』で行ってみるか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のデートも激しかったです(瀕死)

 

 ゼーリエちゃん、もう少しこう何というか、手心というか……

 

 仮にこの世界に空間震をもたらす精霊が現れたとしても、俺のコミュ力では武力で対処することになるな……

 

 ああ、そういえば、巡業団の魔人に、くるみちゃんっぽい子も作ったっけ? 

 

 あれ? きょうぞうちゃんだっけ? やばい、極度の疲労で記憶が混乱している。

 

 流石に娘の名前の覚え間違いはマズイ。

 

 あの子もアムほどじゃないが気難しい子なんだから気を付けないと。

 

 

 ああ、『自然化の魔法』はゼーリエちゃんに大絶賛されたよ。

 

 応用とか規模とかまだまだ不満が多いんだけどね。

 

 最低最悪マッド野郎が使う、周辺空気からの酸素抜きとか評価が特に高かったよ。

 

 ……えげつないほど喜ぶよね、流石はバトルジャンキー。

 

 

 

 今日はあまり調子の良くない日だったな。

 

 まあ、そういう日もある。明日に引きずらないのが大事だ。

 

 アルちゃんたち四人に、最低でも各自で十個の遊戯盤のネタを考える様に指示して休む。

 

 期限は無期限だから、ちょっとずつ考えてね。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より25年後。

 

 魔法都市オイサーストにある喫茶店で一人の魔法使い見習いがくつろいでいた。

 

 彼女の名はエーレ。魔法学校でも屈指の才媛であり、幼いころから魔法に親しみその才能を発揮してきた少女である。

 

 彼女は一級魔法使いを祖父に持ち、その知識と才能を受け継いだだけに留まらず、才を磨く努力の才にも優れていた。

 

 

「下層までもうすぐ。やっぱり事前に情報収集していて良かったわね。……大賢者の試練場。もし、何の予備知識も無く挑んでいたとしたらと思うと、ぞっとするわ」

 

 

 祖父のコネも含めて彼女の力である。

 

 昔から魔法使いが栄達するには魔法の才能だけでなく、コネや世渡りの能力も必要だったのだから。

 

 そんなとにかく優秀な彼女にも欠けていた実戦経験の乏しさも、大賢者の試練場で順調に積み上げられていた。

 

 戦場では優秀だが経験の少ない理論派の魔法使いを、未熟だが感覚派の魔法使いが凌駕することも少なくない。

 

 魔法とはイメージであり、独創的かつ強烈な幻想を有する人間は特別な才能を持っているとされる領域だからだ。

 

 

 しかし、もはやエーレはそういった相手にも一歩も引けを取らないだろう。

 

 

「それで、あなたたちもようやく中層に入ったんですって? 低人数縛りなんてしてなければ、もっと進めていたでしょうに」

 

 

 エーレが声を掛けるのは、同じ魔法学校の生徒。カンネとラヴィーネである。

 

 彼女たちはつい先ほど、大賢者の試練場から帰還したばかりだ。

 

 ……いつものように、ももんじゃに蹴飛ばされて。

 

 

「うるせぇな。澄ましてられんのも今の内だぜ。私たちもすぐに追いつくからな」

 

「中層からは難易度が上がるわよ。得意の水辺地形でカニに乱入されたらやられる程度で大丈夫かしらね」

 

 

 噛みつくラヴィーネに余裕の表情で返すエーレ。

 

 なお、カンネはぐったりして椅子に寄りかかっていた。

 

 

 そんな三人の元に、もう一人の背の高い学友がやって来る。

 

 彼女は楽しみで待ちきれないという表情で、ある物を持ち込んできた。

 

 

「おおぉ、ここに居たか、エーレ。なあなあ、見てくれ。また新しい魔法の遊戯盤を手に入れたんだ。一緒に遊ばないか? せっかくだから、ラヴィーネとカンネもどうだ?」

 

 

 にへらっとした邪気の無い笑顔で誘ってくる彼女に三人は呆れ顔である。

 

 少しでも魔法使いとしての力量を磨こうと張り合っている所へこれだ。

 

 彼女は才能もコネもあるのだが、向上心には欠けており、民間魔法を集めたり魔法の玩具で遊ぶことに力を入れているのだ。

 

 エーレは呆れを隠さず、しかしたまには息抜きも良いかと思って了承する。

 

 

「少しならいいわよ。その遊戯盤は見たことがないやつみたいだし」

 

「確かに学校には無い古めかしい遊戯盤だな?」

 

「遊戯盤のゲームにも色々とあるからねー。それ、何人用?」

 

 

 遊戯盤を持ってきた彼女は良好な感触に喜びつつ、遊戯盤を開いて言った。

 

 

「うーん、四人から六人用みたいだな。丁度良い。……プレイヤーはここのくぼみに指を置いて、魔力と特定のワードで起動させるらしいぞ」

 

 

 彼女の説明に、カンネは腕組みしながら唸る。

 

 

「魔力を込める事が必須ってことは、魔法使い専用のゲームみたいね。聞いたこと無いわ」

 

「まあ、やってみりゃ分かるだろ」

 

「そうね。何事も経験だわ」

 

 

 そうして、四人は遊戯盤のくぼみに指を置くと、魔力を込めつつ起動ワードを唱えた。

 

 

「「「「ジュマンジ!」」」」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 気がつけばそこは見知らぬ土地。

 

 青い海と空に囲まれた孤島。

 

 魔法使いの少女四人は、口をポカンと開けたまま、目の前の人物の説明を聞いていた。

 

 

「ようこそ。正義の冒険者の皆様。夢と冒険の島、ロードス島へ。私はこの冒険のゲームマスターにして遊戯盤の精霊、ルリと申します。以後お見知りおきを」

 

 

 淡々と述べる自称精霊の無表情少女の言葉に、最初に再起動したのはエーレだった。

 

 

「嘘でしょ……これ、本物の大賢者の遺産じゃない! エルダ! あなたこれをどこで手に入れたの!」

 

 

 いち早く事態を把握した彼女に対して、カンネとラヴィーネは慌てるばかりだ。

 

 

「ええええ! 何これ! どこ! 私たちどうなったの!?」

 

「た、確か、遊戯盤に吸い込まれたような……いや、そんなこと有り得るのか?」

 

 

 そしてエーレに問いかけられた学友で唯一のエルフは既に大泣きしている。

 

 

「うえぇぇん! まさかフェイスレスの遊戯盤だったなんて~! みんな、ごめんなさい~!」

 

 

 どうやら彼女にとっても予想外な事態らしい。それを把握したエーレは素早く遊戯盤の精霊に問うた。

 

 

「質問したいのだけれど、この遊戯盤から出る方法は?」

 

「全員が初回プレイにつき、現在は離脱不能です。頑張ってクリアしてくださいね」

 

「やっぱりか……おじいちゃんの言ってた通り。大賢者の遺産は恐ろしいわね」

 

 

 思わず頭を抱えるエーレに、精霊ルリは安心させるように言う。

 

 

「大丈夫ですよ。これはあくまで遊戯盤ですから。みなさんは優秀な魔法使いのようですし、それほど時間もかからないでしょう」

 

「……ゲームの目的と、クリア条件はなに?」

 

「はい、ご説明いたします。このロードス島には六つの魔法の力を持つ宝石があるのですが、それを集めた者はどんな願いでも叶うと聞いたみなさんは冒険者としてやってきたという設定です。よって、島の各地で情報収集し、障害や試練を突破して六つの宝石を集めて頂くのが目的となっております。最終的には、このガントレットに宝石を全て納めて頂き、フィンガースナップすればクリアです」

 

「王道かつ壮大ね……」

 

 

 溜息と共に言うエーレ。

 

 そこへ、大事なことをエルダことエルダリエが精霊に問う。

 

 

「あのー、もしここで怪我したり、死んじゃったりしたらどうなるんだ?」

 

 

 精霊ルリは直ぐに答えてくれた。

 

 

「問題ありません。遊戯盤ですので、痛みはありませんし死んでも残機があります。一人三回まで即時復活可能です」

 

 

 その答えに安心したようにカンネとラヴィーネはホッと息を吐く。

 

 

「良かった。絵画世界とかは死人が出るそうだからね」

 

「ああ。こうなったら楽しんでやろうぜ。このゲームをクリアすれば、何か報酬も手に入るかもしれないしな。何せ、あの大賢者フェイスレスの遺産だ」

 

 

 気を取り直す二人だが、エーレとエルダの顔は引きつったままだった。

 

 エルダは恐る恐るもう一度問う。

 

 

「……それじゃあ、残機が無くなったら?」

 

 

 遊戯盤の精霊は微笑を浮かべて言った。

 

 

「それでは冒険者のみなさん。めくるめく大冒険の世界へレッツゴー」

 

「「「「ちょっと待って!?」」」」

 

 

 ルリの華麗なるスルーに全員がツッコむが、もはや冒険は始まったのだ。憧れは止められねえ。

 

 彼女たちを待ち受けるのは、無数の危険な魔物と遺跡の試練。

 

 そして、宝石とガントレットを狙う悪の魔法使いたちの秘密結社レッケンベルが仕組む、陰惨たる罠の数々。

 

 後に魔法使いエーレは語る。

 

 一級魔法使い試験よりずっと大変だったと。

 

 

 

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