古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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魂の取引の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムという。

 

 最近、子供たちが俺をどう思ってるのか調べてみた。ミクたちに頼んでね。

 

 聞き込みの結果、概ね問題無いということが分かった。

 

 少し過大に評価されてるところはあるかもしれない。

 

 だが、親としてはその幻想に精一杯応えるのが役目だろう。

 

 

 ナルメアの中では何故か俺は魔法使いというよりも、魔法戦士になってるのが気になったが。

 

 俺はゼーリエちゃんと違って戦うのは好きじゃないよ。

 

 確かに君たちには厳しく指導したけど、それは生き残る術を与えるためだ。

 

 ああ、勝つのは好きだよ。

 

 フレイザード様やザボエラの哲学は正しいと思ってる。

 

 それを見栄えの良い外面コーティングで隠さないのは問題だと思ってるけど。

 

 

 ちょっと他にも俺の認識が気になる子はいたが、一名を除いてそんなに問題は無いと思う。

 

 

 

 その問題の一名はね。よりにもよって団長のアムなんだわ……。

 

 なんかね、聞いてくれたアンジェラもドン引きだったんだけどね。

 

 厄介ファンと化した支配の悪魔みたいなこと言ってやがったよ。

 

 

 どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。

 

 

 メンタルヘルス担当のミクさんたちも絶句してたから、巧妙に隠れて症状が進行していたと思われる。

 

 ミクさんたち、謝罪と号泣しながら崩れ落ちちゃったよ。

 

 おかしいなあ。小さい時は優秀だけどもっと普通だったのに(節穴)

 

 正直、ゴーレムたちが誰もディアマンティーナ病を発症しなかったので、俺の子に限ってそういうことは無いと油断していたのはある。

 

 サブカルチャーを愛する者としては、恥ずかしい失敗だ。

 

 創造された生命とか、暴走が基本だろうに。

 

 

 まあ、魔人たちは性格とかは弄って無いんだから、これも個性だよな。

 

 度を越えてるし、受け入れる気は無いけど。

 

 お父さんは世界征服とかする気はありません。

 

 あと、娘をそういう目でも見れません。

 

 

 

 嫁に出す覚悟は少しずつしていたんだがな……

 

『娘をもった親なんてな!! 裏切られるためだけに、生きてるようなモンだよ……』

 

 ──なんて名言もある。

 

 でも、こういう裏切られ方は想定してなかったかな。

 

 接ぎ木の魔法を作ってしまったので、関係するもうひとつの名言も頭に浮かんでくるわ。

 

 はははっ、どうしよう……

 

 もう、結婚式のスピーチの心配してる場合じゃねえよ。

 

 マジでどうすっかなー、ホント。

 

 

 

 

 とりあえず、追加の兄弟を作って送ることで責任という重荷で正気に戻せないか試してみる。

 

 そろそろ巡業団の人員も増やして行こうと思ってたしな。

 

 他の魔人のみんなも自分が年の離れた弟や妹を育てる立場になれば、精神的に自立が進むかもしれん。

 

 ナルメアは必死にお姉ちゃんぶってたが、ぶっちゃけ今の兄弟では誤差なんだよな。

 

 

 

 だが、材料が足りない。

 

 人間の魂。そしてそこに含まれる人間性が。

 

 もうゼーレの友人たちは居ないからな……

 

 自分から抽出した物だけでも多分魔人は作れるが、女神の魔法は使えないだろうなあ。

 

 兄弟で仲間はずれの要素とか作るべきじゃない。

 

 しかし、死神じゃあるまいし、適当に狩ってくることはできない。

 

 と言うか、誓って殺しはやってませんが俺の自慢だ。

 

 

 

 じゃあ、どうするか? 

 

 正当な取引で貰ってくるとしよう。win-winでみんなが幸せになれるような取引が良き取引だ。

 

 

 この世は老いも若きも男も女も、心のさみしい人ばかり、そんな皆さんの心のスキマをお埋め致します。

 

 いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様の魂をちょっと頂けたらそれが何よりの報酬でございます。

 

 

 

 と言う訳で、行け! 我が精鋭たちよ! 

 

 

 

「まかせなさい! このアル様にかかれば、ちょちょいのちょいよ!」

 

「社長、フラグは立てない方が良いゼ」

 

「……今度は平穏に終わりますように」

 

「大丈夫よ! この私がしっかりサポートしてあげるわ! マスター、お祝いのパインサラダの準備もしっかりしておいてよね!」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より30年前。

 

 大陸でも危険な場所。貪食の樹海の移動ルートに近い辺境にある、とあるモンクたちの修道院を訪れる影が一つ。

 

 

 誰であろう、勇者ヒンメルその人である。

 

 魔王討伐より時間が流れ少しばかり年を取ったが、まだまだ衰えてはいない。

 

 彼は仲間との約束を果たすための探し物のため、大陸中を回っているところだった。

 

 

 ここはかつてモンクたちの聖地とまで言われた場所だ。

 

 今も全盛期は過ぎたとはいえ、結構な数のモンクたちが修練に励んでいた。

 

 勇者としての名声で見学を許されたヒンメルは、探し物の手掛かりがないかと周辺の古い遺跡を見て回る。

 

 

 そして、稀有な出会いに恵まれる。

 

 

「おや、もしかしてそこのお二人。エルフの方々かな?」

 

 

 ヒンメルはある古い銅像の前に立つ二人の金髪のエルフに出会った。

 

 背が低い方が偉い様で、高い方の杖を手に持つエルフは侍る様な位置へ移動する。

 

 ヒンメルには二人の雰囲気から、彼女たちが魔法使いだと分かった。よく知った雰囲気に似ていたので。

 

 

 偉そうな方のエルフは少し驚いた様子でヒンメルの正体を見抜く。

 

 

「おや、驚いた。まさかこんなところで魔王を倒した勇者に出会えるとはな」

 

「わあ、本物の勇者ヒンメル様なの。サイン貰えないかなあ」

 

 

 エルフは見た目では年齢は分かり難いが、ヒンメルには偉そうな方はフリーレンより年上に感じた。

 

 

「ああ、僕のことを知ってくれているんだね。ありがたいな。それであなた方は? ただ者では無いとお見受けするけど」

 

「ふむ。名乗り遅れたな。私はゼーリエ。神話の時代から生きる魔法使いだよ。最近は大陸魔法協会を立ち上げたから、少しは知られているかな? ああ、こっちはマルシル。まだ100にも満たん未熟者だが、一応は一級魔法使いだ」

 

「一応って……」

 

 

 あまりにも厳しいゼーリエの言葉に絶句する若いエルフの少女。

 

 ヒンメルにすると彼女はエルフにしてはとても表情豊かに感じられる。

 

 しかし、ゼーリエの肩書への驚きには及ばない。

 

 

「こっちも驚きだよ。こんなところであの伝説の大魔法使いに出会えるとは。『エルフ英雄列伝』で読んだけど、フリーレンの大師匠だというのは本当なのかい?」

 

「ああ、そうだ。……しかし、まさか本当にアレが魔王を討伐できるとは思っていなかったぞ。フリーレンは役に立ったか?」

 

「ええ。彼女なくしてはあの旅は立ち行かなかっただろうね。彼女を育ててくれたあなたにも感謝をしなくては」

 

「面倒を見たのはフランメだ。私は大したことをしていないぞ」

 

「いえ、それでもです。きっとあなたが居なければ、僕たちと彼女の出会いも無かったでしょうから」

 

 

 ヒンメルの言葉には真なる感謝と尊敬が籠っていた。

 

 それを邪険にするほどゼーリエもひねくれてはいない。

 

「そうか」と短く答えると、古い銅像へもう一度視線をやる。

 

 つられてヒンメルが銅像をよく見ると、それはなんと魔族の像だった。

 

 驚くヒンメルにマルシルが解説する。

 

 

「ええっと、これはこの修道院を救った英雄の像なのよ。ここだけではなく、世界各地に同じものがあるの。あんまり気分のいい話じゃないけどね」

 

「……ええ、フリーレンから聞いたことがあるので知っているよ。見るのは初めてだが……そうか、これが『赤魔公』なのか……」

 

「その通り。戦乱で、貧困で、病で、あらゆる人々の弱った時に現れては魂を対価にした取引を持ち掛ける、古の大魔族だ。奴のお決まりの文句、『魂かお菓子か?(ソウル オア トリート)』は有名だな」

 

 

 苦々しげなゼーリエの言葉にヒンメルはフリーレンに教えられたことを思い出す。

 

 大魔族である『赤魔公』は断頭台のアウラと同じく魂に干渉する魔法を持ち、少々の魂の欠片を渡せば願いを聞き届けてくれると言う。

 

 無理矢理奪わないのは魔法の制限だろうとフリーレンは言っていたが、同時に魂の欠片がどんなことに使われているか分かった物じゃないと苦々しく言っていた。丁度、今のゼーリエの様に。

 

 しかし、『赤魔公』によって救われた人々は多く、かの大魔族に大きな虐殺の逸話も無いために、こういった信仰のような形さえ残ってしまっている。

 

 『快楽天』を崇める邪教団よりはずっと無害だが……。

 

 この像を立てた人々にとって、救い主は女神様ではなく魔族だということなのだ。

 

 

 マルシルはよく勉強しているのか、ここであったことを語ってくれた。

 

 

 曰く、かつてのこのモンクたちの聖地の全盛期に、強大な魔族が襲い掛かって来たらしい。

 

 その魔族とは、歴史上でも特に強力だと言われた『破壊の魔天使』だと言う。

 

 モンクたちは素手で巨竜さえ打ち倒す人類の英雄たちだったが、致命的に相性が悪かった。

 

 空を飛ぶ『破壊の魔天使』は魔法で彼らを蹂躙し、モンクたちに成す術は無かったのだ。

 

 空は魔族の物であり、人間には弓や魔法で対抗する以外の術はそもそも無かったのだが、『破壊の魔天使』は遥か上空から撃ち下ろしてくるために特にどうしようもなかった。

 

 

「でも、当時のモンクたちの中でも最強だと言われた英雄が『破壊の魔天使』に一騎打ちを挑み、それを面白がったらしい『破壊の魔天使』が了承したのよ」

 

「なるほど。魔族の驕りだな。……だが、ここに『赤魔公』の像があると言うことは……」

 

「ええ。本当の悲劇はここからよ」

 

 

 最強のモンクの男は数多の魔族を打倒した人間の英雄として名高い男だった。

 

 彼は己の勝利を一切疑わずに立ち向かい、それを見守る周囲のモンクたちも彼の勝利を疑わなかったという。

 

 

 

 だが……

 

 

 

 

 

 実際は、勝負にすらならなかったのだ。

 

 

 

 

 

『破壊の魔天使』は直ぐに終わっては面白くないと、魔法抜きで戦うと言い、実際にそうしたと言う。

 

 最強のモンクはその慢心を容赦なく咎め、必殺の一撃を叩きこんだ。

 

 しかし、『破壊の魔天使』には大した痛痒を与える事すらできなかった。

 

 それどころか『破壊の魔天使』は人外の圧倒的な膂力で彼を掴んで骨をへし折り、あろうことか玩具のように振り回して叩き付けまくったと言う。

 

 そして、あっという間にボロボロになった彼を投げ捨てて、モンクたちの誇りを破壊する言葉を吐いた。

 

 

『……わーお。魔法じゃなくてこんな役にも立たないモノを必死になって磨いていたの? 哀れにもほどがあるじゃんね』

 

 

 ……その後は、悲惨に尽きる。

 

 心折れた彼らはただの民衆の様に逃げ散り、一度はこの修道院は滅びたと言う。

 

 この事件は『桃色の悪夢』と呼ばれ、現在に伝わっている。

 

 

 だが、それでも誇りを取り戻そうと後に戻って来た者たちもいた。

 

 しかし、彼らに手を差し伸べたのは、よりにもよって『破壊の魔天使』と同じ魔族の『赤魔公』だったのだ。

 

 とにかく再び誇りとできる力が欲しかった彼らは、その手を取ってしまった。

 

 

「私は責められないわ。当時のモンクたちのこと。勇者様はどう?」

 

「そうだね……。彼らの絶望は僕たちには決して分からない程の物だろう。悲しいことだと思うよ。……でも、今でも修道院が続いているという事は、彼らは与えられた力を正しい事に使ってきたのだとも思う。『赤魔公』の取引は悪魔のそれだが、不思議な事にそれほど悪い結末にはなってないんだろう?」

 

 

 ヒンメルの問いに答えたのは黙って二人の話を聞いていたゼーリエだった。

 

 

「確かにそうだ。『赤魔公』は歴史だけ見れば人間に結構な利益を与えている。聖都には彼女が魔人だったのではないかという者もいるほどだ。……まあ、それを巡業団の魔人たちの前で言ったらとんでもないことになるだろうがな」

 

「それはそうだろう。彼らは正真正銘、人間の味方なのだから」

 

「いや、それもそうだが、巡業団は実際に『赤魔公』と交戦したことがあるらしい。それも手痛い被害を受けたらしいぞ」

 

「それは……凄まじいな」

 

 

 魔王を打倒した勇者をして、凄まじいと言うほかない戦績だ。

 

 

「それにな、実は私も昔に戦ったことがある」

 

「ええ! それは聞いてないわよ!」

 

「言ってないからな。まあ、だから今でも時々、奴の痕跡を探しているのだ。……消せるものなら、消しておきたいからな」

 

「ああ、この巡回ってそういう意味があったのね……『破壊の魔天使』もそうだけど、残っている魔王軍の残党でも大物だからかと思ってたけど、因縁もあったのね」

 

「因縁か…………まあ、そういうことだな」

 

 

 更なる驚きと共に、エルフたちの話を聞いていたヒンメルだったが、ふと、あることが気になったのでマルシルに問うた。

 

 

「そういえば、『破壊の魔天使』と戦った英雄の名は残ってないのかな?」

 

「それはモンクたちが意図的に遺失させちゃったのか残ってないのよ。酷いわよね。いくらみっともなく負けたからって、それまでの実績はあったのに」

 

 

 そこまで言って、マルシルはあることを思い出して付け加えた。

 

 

「ああ、でも異名だけは巡業団が残してたはずよ。『怪物を超えた怪物』ですって。相手が悪かっただけで本当に強かったんでしょうね」

 

 

 

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