古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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安眠の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムです。

 

 相変わらずの情熱大陸である。

 

 みんなそんなに戦争ばかりしてて飽きないものかね。

 

 いや、魔王軍が解散するか目的を達成するまでは終わらないだろうな。

 

 魔族はアッティラさんやモンちゃんより脳筋文明だからな。魔法使えるからインテリ面してるけど、本質は獣や。

 

 まあ、人類だって文化遺産を奪われるために内政中毒になってる平和ボケだけではないから、割と戦えてる。

 

 

 

 俺は巡業団から送られてきた音楽の箱でミュージックを聞きつつ、今日も魔法開発だ。

 

 世の中、計算よりもノリと勢いで動くことが多いそうだぞ。

 

 そういえば、俺の魔法開発もそっちが圧倒的に多いな。

 

 そっちの方が、良い魔法が出来る事が多い。ちょっとした事故も起こりやすいが。

 

 

 最近、貪食の樹海から外世界へ進出した植物系モンスターたちがハッスルしてるらしいよ。

 

 人間の代わりに大魔族をムシャムシャしてくれるなんて、モルボルやアルルーナは良い植物だなあ。

 

 単純に危険地帯の近くには人間が少ないと言うだけで、区別して襲ってるわけじゃ無かろうが。

 

 まあ、樹海の原種に比べれば貧弱な魔物だから大丈夫でしょ。

 

 モルボルで例えれば、樹海のは8だけど、外に出たのはもっと弱いナンバリングのだよ。

 

 

 

 豆知識。人間の使えない状態変化の魔法を呪いと言うぞ! 

 

 強力な呪いが使えると、魔族社会ではそれだけで一目置かれるんだ! 

 

 だから、状態異常の欲張りセットを付与できるアルルーナやモルボルは一部の魔族に崇められてます。

 

 まあ、アルルーナは可愛いからね。俺の作った迷宮の最下層にも再現体を置いてある。

 

 原種ではないけどね。あと、最下層での魔物への敗北にはちょっとしたペナルティがあるよ。弱い奴だから良いよね。アルルーナの場合はね……あのね、やっぱり言うのは止めときます。

 

 でも、拠点にモルボル像を建てる魔族はちょっと理解できない。威嚇効果はありそうだが。

 

 

 

 それはそうと、ゼーリエちゃんとのデート(魔法合戦)なんだが、いい加減に本当に改善を見込みたいんだ。

 

 いや、最初期の目が合ったらバトル開始みたいな、アイサツさえ省いたポケモントレーナーの如き関係からは大分進んだけどね。

 

 

 でも、どうあってもバトルが本題状態から先に進めない。

 

 ギャルゲーは専門じゃないけどさ、目標は普通の友人になることなのにこんなに苦戦するとかある? 

 

 別に男女の関係を本気で目指してるわけじゃないんだぜ? 

 

 

 ゼーレで誰も友人関係から先に発展しなかったから、そういうのは縁が無いんだろうなって思ってる。

 

 マジで結婚願望とか無いしね。だって自由に魔法で遊べなくなるじゃん。

 

 どんなに好きな人が出来ても、多分俺は自分の趣味を優先しちゃうタイプなので普通の家庭は作れない。

 

 子育ては仲間と分身とゴーレムたちのどれが欠けててもやばかった。

 

 

 

 

 だから、ゼーリエちゃんとは普通にもっと魔法談義できる程度の仲になりたい。

 

 でも自分の知恵に限界を感じたので他人の知恵にすがることにしたんだ。

 

 別の問題の改善も兼ねてね。

 

 

 

 

 

 そういう訳で、巡業団にホイホイやってきたのだ。

 

 

 

 

 

「もう対人能力では俺を超越してるお前に聞きたいんだが、女性と仲良くなる方法を知りたい」

 

「相手は誰? わたし?」

 

「ゼーリエちゃんに決まってんだろボケ娘」

 

 

 その瞬間、アムは凄まじい勢いで嘔吐した。

 

 脇に立っていたアンジェラが瞬時にバケツを顔前に配置しなかったら大惨事だったな。

 

 そのままぶっ倒れようとしたアムを、アンジェラの逆側に立っていたミクが何とか支える。

 

 

 周囲に勢揃いしてる家族が頼れる姉の醜態にビビってるぞ。笑顔笑顔。

 

 

 せっかく俺が遊びに来てみんなテンション上がってたのに、もう空気が死んだじゃん。

 

 まあ、俺のせいでもあるけど。

 

 

 アワアワする長女ナルメアの隣で三女のきょうぞうちゃんが溜息を吐くと、無言で魔弾銃から回復魔法をぶっ放して次女アムを立ち直らせる。

 

 これで会話が続くな。ヨシ! 

 

 

「お父様……私はね、あのエルフの皮を被った怪物が大嫌いよ」

 

「なんてこと言うの」

 

 

 今いるのは巡業団の本拠地であるトールの背中にある屋敷の大広間だ。

 

 煌びやかな内装にシャンデリア。魔法で作った豪華な調度品に溢れた空間に、家族もゴーレムも勢揃いしている。

 

 もちろん、アルちゃんたち便利屋は秘密の存在なのでいないが。

 

 俺の為に歌姫たちが演奏しながら俺の好きな『Butter-Fly』を歌ってくれていたのだが、団長がいきなり死にかけたために演奏が止まってしまった。

 

 

 ゼーレの友人が居なくなった俺の相談相手となると巡業団くらいしかない。

 

 それと、アムの再教育もしておきたかったので思い切ってやってきたのだが……

 

 ゾンビみたいな表情でアムはイヤイヤしている。

 

 

「そもそも娘に女性の口説き方を聞かないでちょうだい。もうあまり仲良くなりすぎなければいいから、勝手にやってくれないかしら」

 

「いや、遅かれ早かれここに連れて来るしな。だって、自然豊かな場所を除けば巡業団が一番のデートスポットだし」

 

「お父様が相変わらず人の心がなくて私は嬉しいわ……。私は変態人間と魔族のアレっぷりに日々苦労してるのに。お父様を祭る祭壇を女神様の祭壇の地下に作って心の支えにしてるのよ?」

 

「そうか……。おい、ずん子よ。ちょっと地下に行ってその祭壇をずんだ餅に変えて処分してくれ」

 

「酷いわね。でもそういう冷酷で容赦が無くて自分本位な所が素敵よ」

 

 

 ちょっと自重しようか? 

 

 両脇のミクとアンジェラが僅かに戦闘態勢に入ったぞ。

 

 うちの家族の空気は緩いし多少の無礼は許されるが、限度はある。

 

 甘いだけでは子供の躾はできないからな。ゴーレムたちは魔人たちを割とビシバシ躾けてる。

 

 特にミクとアンジェラは俺への過度な侮辱や暴力は絶対に許さない。

 

 どうせ今の彼らに俺は殺せないとかは関係無いのだ。その意思そのものを咎める。

 

 死んでも俺がそばに居れば短時間なら復活可能だと知っているから、マジで殺されるまであるぞ。

 

 いや、復活まで織り込み済みなのかもしれんが。

 

 

「……まあ、ちょっと屈辱的だけど、あのエルフは味方にしておきたいものね。あくまでも私たちの為にあのエルフと仲良くしたいのでしょう? 分かっているわ」

 

「いや、普通に尊敬する大魔法使いだからという理由が一番強いが?」

 

「嘘よ。魔人である私たちと違って、本当に人の心の無い魔族であるお父様にそんな感情アバーッ!?」

 

 

 ミクが仕込み長ネギから解放した千本桜でアムを切り刻んだ。

 

 流石に冗談でも許されないライン越えの発言だったらしい。

 

 ちなみにミクの長ネギには本物の長ネギの他に、こんな風に色んな仕込み武器入りの奴を持たせてる。

 

 服装も武器に合わせて変わるよ。今は『千本桜』を歌う時の衣装だ。

 

 ……ネギの中身がリボルケインでなくて良かったな、アム。

 

 逆側で終末鳥装備になっているアンジェラからは目を逸らす。

 

 

 今度は姉を回復させず、きょうぞうちゃんが前に進み出て来る。

 

 

「お姉様は誰よりも自立しているようで、本当に親離れができていませんわね。しかし、実際のところ、お父様はゼーリエさんとどの程度の仲になりたいのでしょうか?」

 

「普通に魔法で遊んだり、共同研究できるくらいになれればいいかな。決して男女の関係は求めてないよ」

 

「それだけでも結構大変そうですわね」

 

「実際、大苦戦してる。そこら辺の突破口の手掛かりを探してここへ来たんだが」

 

「しかしねぇ……彼女もお父様も相当年季の入ったコミュ障であるのですから……」

 

 

 ミクとアンジェラの顔が百面相してて面白いね。

 

 でもこれ以上娘をなぎ倒してても話が進まないし、きょうぞうちゃんは大目に見てやって欲しい。

 

 

「確かに俺には女心とか分からんし、ゼーリエちゃんもそんなの持ってるか怪しい。でも、俺たちにはこの大陸でも屈指の教養と魔法があるんだぜ」

 

「う~ん、この。本当に自慢そうなのが矯正不可な感じを醸し出していますわね」

 

「俺から魔法を取ったらなんも残らんからな」

 

 

 ゼーレではみんなから構ってくれてたので、あまりそういう技術を学ぼうとしなかった。

 

 今思えば大失敗だったな。いや、アイツらが気安すぎて練習にならんかったかな? 

 

 きょうぞうちゃんはそれでも首を傾げながらも知恵を出してくれる。

 

 

「もういっそ直球でやりたいことに誘ったらどうですか? どうせ迂遠なやり方じゃ通じませんよ」

 

「やっぱりそうなのかなあ?」

 

「あと、お二人が普通のデートをしても楽しめないでしょうし、絆も深まらない気がします」

 

「まあ、それはそう」

 

「とりあえず、多少強引にでもここに誘ってください。私たちが魔法を披露しますので、お二人でそれを指導する形で共同作業の実績を積んでください。出来得る限りにお父様の魅力をアピールしてサポートしますので」

 

「お、おう」

 

 

 ……え? めっちゃ有能、有能じゃない? 彼女を団長にするべきだったかな? 

 

 俺がきょうぞうちゃんのアドバイスに感動してると、彼女はニッコリ笑って言った。

 

 

「それでは、ご褒美に私にいつでも直接お話しできる魔法を教えてくださいませんか? 習得するまでは私を実家の方にウボァー!?」

 

 

 突然の暗黒物質がきょうぞうちゃんを襲う! 

 

 発生源を見ると、血塗れのアムが笑みを浮かべて立ち上がろうとしていた。

 

 

「きょうぞうちゃん? そういうのは団長の私が受け取るべきものだと思うのだけれど?」

 

「ク・ル・ミ、ですわよ、お姉さまぁ? よくもやってくださいましたわねぇ!?」

 

 

 あー、姉妹喧嘩が始まってしまった。

 

 くるみちゃんも『刻々帝』を取り出して戦闘態勢だ。逆行とかはできないけど、極めて限定的な時間停止や分身はできるから充分に姉と張り合えるんだよなあ。

 

 ミクとアンジェラは放っておく態勢だな。後片付けもしっかりさせる気だ。

 

 ナルメアはワタワタしてるだけだし、身内の喧嘩だと役に立たんな。

 

 他の姉妹も囃し立てたり逃げようとするばかりだ。

 

 

 ……男衆どうした? ……ハッ!? 隅っこの方でまとまって気配を殺している!? 

 

 結界まで張って祈祷しながら嵐が通り過ぎるのを待つ構えだ! 

 

 何て冷静で的確な判断力なんだ……

 

 いや、姉に逆らうべからずと虐げられ続けた結果だな。

 

 ちょっとお父さん情けなくて悲しいです。

 

 

「まあ、思ったよりも収穫があったからヨシ!」

 

 

 これでゼーリエちゃんとの関係も改善するかもしれない。

 

 それにくるみちゃんが思ったよりも頼りになるのも収穫だった。

 

 アムは兄弟にはとんでもないファザコンだと思われてるだろうが、流石に兄弟から母親へのランクアップをガチで狙っているとは思われていない。

 

 だが、万が一それがバレたら姉妹に甘いナルメアでもアムが団長を続けることを認めないだろう。

 

 と言うか、ナルメアは泣いて馬謖を斬るが如く、アムを処断するかもしれん。

 

 ……その場合は何とか穏便に治めて、くるみちゃんへ団長交代だな。

 

 

 とりあえず、肩の荷が軽くなった気がするから帰って寝よう。

 

 傑作である『安眠の魔法』を使えば、僅か一時間でスッキリ爽快だぜ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より28年後。

 

 フリーレン一行はシュヴェア山脈を越えて本格的に大陸北部地方へ進んでいた。

 

 ハイターの魔法の存在と、巡業団からシュタルクも上級の魔装服を貰えたことにより、冬の山脈越えにも苦労しない。

 

 勇者の剣を守る里で今では大変珍しくなった天狼の群れを眺めたりしながら、旅路は順調であった。

 

 途中の町や村で北部高原の情報収集を続けていると不穏な噂を聞くものの、悪い知らせばかりではない。

 

 僧侶ハイターは北部の大都市ロスリックに襲来した大魔族、『破壊の魔天使』をかつての弟子が仲間と共に撃退して英雄となったことを知った。

 

 それが影響したのか、以前にも増してハイターはフェルンとシュタルクの仲を猛プッシュするようになり、逆に二人に煙たがられたりもしたが。

 

 

 しかし、危険を増す北部の旅はいつまでも安穏には進まない。

 

 

 ある村にて、村人のことごとくが多種多様な呪いによって苦しんでいる地獄のような光景に遭遇する。

 

 これにはフリーレンもふざける間もなく、引き締まった表情で対処に入る。

 

 ハイターを中心に呪いの種類と大本を確認するが、結果は良いものでは無かった。

 

 

「最悪の一歩手前ですね。呪いの発生源は恐らくは『貪食の樹海』から流れてきた魔物です」

 

「うわあ……。昔に師匠に大賢者の試練場で相手をさせられたけど、あれはキッツイよ」

 

「ここは樹海からは離れているんですがね……鳥にでも種が運ばれてきたのでしょうか」

 

 

 年長者たちのげんなりした様子にフェルンとシュタルクも更に緊張感が高まる。

 

 

「大陸南部にあるという危険地帯の魔物ですか。巡業団の方からも気を付けるように言われましたが、この光景を見ると、恐れられているのも納得です」

 

「いや、めっちゃ怖いよ! 毒、石化、眠り、植物化まで呪いのオンパレードじゃん!」

 

 

 しかし、彼らの覚悟を待つ猶予も無さそうだ。

 

 フリーレンとハイターは特に危険な状態の村人だけ応急処置して、魔物の討伐を決意する。

 

 

「こんなことなら師匠から『安眠の魔法』を教えてもらえばよかったよ。あの魔法は裏技のような使い方として、呪いによる覚めない眠りからすら一時間で目覚めさせられるからね。これから重要な役割を任せるハイターの負担を少しでも下げられたかも」

 

「眠りだけでも時間がかかるとはいえ、僧侶抜きで何とかしてしまえるとは凄い魔法ですね」

 

「うん。師匠が例のミミックから見つけた魔法だからね」

 

「ああ、なるほど。大賢者フェイスレスの魔法ですか」

 

 

 雑談をしながらもハイターは元凶の正確な位置を特定し、一行は事前の戦闘準備に入る。

 

 フリーレンはハイターに呪いへの守りを幾重にも掛けてもらいながら、フェルンとシュタルクに注意事項を伝える。

 

 

「相手の正確な種類は不明だけど、対処法は一つだ。『何もさせない』。複数の強力な呪いを持つ可能性が高い樹海の魔物は原種でなくても危険すぎるからね。様子見抜きで初手から火力を集中させるよ。相手が分かったら、私の指示する所に攻撃してね」

 

「はい。全力で攻撃します」

 

「やるかやられるか、か。戦いなんてそんなもんだけど、マジで一瞬で勝負が決まるのは怖いなあ」

 

 

 打ち合わせが終わると直ぐに森に入っていく。

 

 あまりにも余裕のない急いた行動に、フェルンとシュタルクは不安を高めつつも必死に抑えていた。

 

 

「……居た。あれは──」

 

 

 フリーレンは元凶の魔物を発見する。幸いにも見たことがある魔物だ。そして案の定、植物系。

 

 その魔物は艶やかなドレスの様に色とりどりの花弁を身に纏い、たおやかに笑っていた。

 

 残念ながら同時にフリーレンたちに気付いており、奇襲は出来ないようだ。

 

 彼女は文字通り花が咲くような笑顔で話しかけてきた。

 

 

「いらっしゃい、冒険者さん!」

 

 

 

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