吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムである。
そういえば、思った以上に大陸の地下を穴だらけにしてしまった。
まだゼーリエちゃんにはバレてないけど、どうしようか?
マイクラと同じだよ。夢中になっているとやりすぎてしまう。
分身とゴーレムたちでマルチ状態でやってたから、さもありなんな現状ですわ。
……ここまで来たら、もうロマン的に地下国家とか見たいな。
アルちゃんたちに難民を魂を貰うついでに誘導してもらおうか。
もう戦争なんてこりごりだよ、という人々も多い。
誰もが復讐者になれるほど気力があるとは限らないからな。
気力には個人差があるが、こまめに回復できないとあっという間に底をつくぞ。
俺はゼーリエちゃんの相手をし出してから研究が大分おざなりになってた時期があったからな。
だが、それももう過去の話だ!
最近はバトル抜きのお話でデートを終えることも極稀にできるようになったのだ!
確率としては、10%未満かな……
まあ、ちょっとずつ伸ばしていきたいと思っています。
バトル回避成功時の内容としては、食事したり、踊ったり、雑談したり、巡業団に魔法を教えたり、巡業団の劇を見たり、魔法談義したりである。
……あれ? 魔法談義があまりできてないぞ?
今後の課題として、今は自分の研究を頑張ろう。
今はちょっと俺としては初の試みをしている。
すると、偶然やってきたエリちゃんが話しかけてきた。
「あら、マスター。そのブヨブヨしたのは何よ? プリンの魔物?」
「いっそプリンの魔物を作るんでも良いかもしれないな……」
俺が弄っているのはスライムだ。
せっかくだから、スライムでまともなオリジナルの魔物を作りたいのだ。
初めてやることだから上手く行くかは分からないが、何となく必ず成功させなきゃいけない気がしてるんだ。
「マスターの魔法って意味不明なのも多いわよね。前にいたずらで私がアルちゃんに使った『プリンを茶碗蒸しに変える魔法』とか、ドッキリ以外の使い道が無いじゃない」
「でも、良いリアクションが取れただろう?」
「ええ! やっぱりアルちゃんは癒しよね! 甘やかしても、驚かしても可愛いわ!」
分かっていたけど、エリちゃんはいたずらっ子だな。
レ級が止めてないとアルちゃんの苦労がもっと増えてそうだ。零余子は事なかれ主義だし。
あまりやりすぎないように注意はしているのだが、俺も一緒になってアルちゃんのことは弄ってしまうことが多い。
自制しないと……何かジンクスとして、アルちゃんに構い倒した次のゼーリエちゃんとの待ち合わせではバトル展開が多い気がするし。
気を取り直してスライムを弄っていると、ポリンっぽい物ができた。
うーん、癒される見た目だ。これでいいかな?
癒しと言えば、俺って猫が大好きなんだよな。別に犬は嫌いではない。色々と好きな方が得でしょ。
でも、猫アレルギーとかいう世界のバグのせいであまり愛でられなかったんだよなあ。
だが今世ではそういうのは無いし、『毛を綺麗に掃除する魔法』、『ノミやダニを寄り付かなくさせる魔法』、『一瞬で爪切りする魔法』などを開発済みだ。
……でも、今はネコを飼ってません。
何度か飼っていたんだが、長生きしなくてなあ。
いや、魔族の時間での話だから、この世界で言えば充分に生きた方なんだろう。当時の技術で色々と魔法を使って延命して80年くらい。
ネコっぽい魔物を作ろうとも思ったが、どうしても納得いくのができなくて……。
ポリンっぽい物をつつきながら思う。
やっぱり俺は、猫が好きだ。ただし、ゲームで人間キャラから人権を奪って行った猫は除く。
久しぶりにまた猫を拾ってくるかな。猫吸いしたい。
でも、今はまだいないので代用品のアル吸いする。
大丈夫です、遥かに良いです。
……さて、気力充填完了。ポリンにどんな能力を持たせるか考えよう。
◆
勇者ヒンメルの死より約450年前。
大陸北部地下世界。魔勇者エリザベートの居城にて、魔王軍に参加する魔族たちのお茶会が行われていた。
参加者は見目麗しい女性の魔族のみ。多少の人外パーツは許容範囲だ。
魔族としては少し奇妙な条件だが、城主であり大魔族でもある魔勇者エリザベートの出した条件なのだから参加者は従うのみ。
とはいえ無理矢理連れてこられた者だけではなく、自分の意志で参加している者が多数だ。
目当てはそれぞれ違う。
単純に情報収集。大魔族との縁繋ぎ。魔法を磨くためのインスピレーションを得るために。
あるいは、美食を求めて。
「今日は呼んでくれてありがとうね。エリザベートちゃん」
「いいのよ、ソリテール。私たちの仲じゃない」
形式は適当だが、立食パーティーに近い。
そして魔族は人間の様に下位者に対して丁寧に挨拶などしないが、社交的で知られるエリザベートはよっぽどの小物でなければ朗らかに挨拶する。
無礼者は容赦なく血祭りにあげることでも有名だが。
尤も、ソリテールはかなりの大魔族だ。エリザベートとしても優先して配慮する対象。
変わり者同士ということもあるが、エリザベートの裏の目的からしても要警戒対象であるが故に。
エリザベートより社交的なソリテールは、新しい友達作りも兼ねてよくお茶会にやって来る常連だ。
「エリザベートちゃんのお茶会は、とっても美味しいものが出て来るから本当に嬉しいわ」
「あら、地下のゴーレムたちを掻き集めてるのはあなたもじゃない。農場も牧場も、料理もやらせればいいのに」
「料理くらいはさせてるわ。でも、そこまではする気にならないのよ。それにどうやってもこの味はでないしね」
給仕ゴーレムのパルラがソリテールの為にお菓子とお茶を持って来る。
同系列のゴーレムであるティルルやハスキーも周囲の魔族たちの給仕をしている。
そう、エリザベートのお茶会で出されるお茶とお菓子は、食事にあまりこだわらない魔族をして惹きつける物を感じさせるほどに美味しいのだ。
秘密は料理の素材にある。
「私みたいにマナスライムを隠し味に使ってないからでしょ」
「……普通は貴重なマナスライムを食事にまでは使えないわよ。人間でもそんなことしてるのは少ないと思うわ」
マナスライムは急速魔力回復薬の原料になることで有名なスライムだ。
有用すぎて人間にも魔族にも乱獲されまくっている。
丸かじりでもそれなりに魔力回復できる上に、上手く加工した薬なら戦闘中に使っても目に見えて効果があるほど。
実は味が良いことでも有名であり、魔力が多く含まれるからか特に魔族には美味に感じる性質を持つ。
味の種類も豊富だ。まるでそのようにデザインされたかのように。
とは言え、貴重品すぎて持っていない魔族の方が多い。
ソリテールは備えとして数本の魔力回復薬を持っているが、これは彼女が大魔族だからできることである。
「でも、ソリテールもさっき若い子に一本、魔力回復薬をプレゼントしてたじゃない?」
「それはあの子が有望そうだったからよ。アウラちゃんって言うんですって。とっても珍しい魔法を使うのよ」
「ふーん。ソリテールがそう言うなら、私も目を掛けておこうかしらね」
「ええ。戦争でお茶会のお友達もたくさん減っちゃってるけど、新しい子が増えてくれると嬉しいわ」
「そうね……。あっ、そういえば、もう聞いた? 大陸中央部の人間の首都を直撃しようと地下世界に軍を集めてた『混沌の魔女』クラーグの奴、やられちゃったんだって」
「ええ!? そう……知らなかったわ。あの子も良い子だったのに……」
魔族にもかかわらず本当に悲しそうな表情を見せるソリテール。
エリザベートからしても本当に悲しんでいるようにしか見えない。……だからこそ、恐ろしいのだが。
内心で不気味に思っていることを隠しながらもエリザベートは同意しようとするが、第三者から声が掛かる。
「……ふーん。あの蜘蛛女、くたばったんだ。ちょっとはできると思ってたのに、ガッカリかな」
大魔族同士の会話に唐突に割って入ることができるのも、格の近い大魔族しか有り得ない。
桃色の髪をなびかせて、今やってきたばかりの『破壊の魔天使』ミカが会話に混じって来ていた。
「あら、ミカじゃない。珍しいこともあるものだわ。でも、よく来てくれたわね」
「ごきげんよう、ミカさん。お久しぶりね。逢えて嬉しいわ」
対応する二人の言葉遣いは分かれた。
明確にミカがソリテールより古株かつ、強力な魔法を持つ魔族だからである。
そのミカに年齢と魔力で勝り、実力でも近い位置にあるエリザベートにソリテールが気安いのは、エリザベート自身とその上位者が許可したからだ。
三者共に最上級の魔装服に身を包み、有名な魔法武器を持つ。
そして当然の様にミカも魔力回復薬を複数持ち合わせている。
唯一、それが奪われた物ではないという一点でエリザベートは異なるのだが。
「ちょっと聞きたいことがあってね。ああ、こっちも逢えて嬉しいよ、エリザベートにソリテール」
取って付けたような挨拶だが、どちらかと言えばこっちが普通の大魔族の反応である。
いや、『破壊の魔天使』も普通とは程遠い好戦的な魔族だが。
エリザベートはソリテールより直接的な危険度はずっと高い客人に問い、ミカはゴーレムのラドリーからロールケーキを受け取りながら話す。
「それで、聞きたいことって何かしら?」
「うーん、実はエリザベートじゃなくてアルに聞きたかったんだけどね。来てないの?」
ミカの言葉にエリザベートはお茶を飲むことで少し考える時間を作る。
一体、魔王軍の最古参の一人である『赤魔公』にどんなことを聞くつもりなのか。
立派な城と無数のゴーレム。そして広い人脈を持つ大魔族エリザベートだが、ずっと昔から『赤魔公』の取り巻きでもあることは有名だ。
同格の『爆災』と『不倒』はエリザベートのように社交的には活動していないが、常に四人揃ってか二人組ずつで動いている。
『赤魔公』の名はそれはそれは恐れられている。今、『破壊の魔天使』が名前を呼んだだけでもびくっとした魔族がいるほどに。
配下三名と違って直接に魔族の仲間を処断した話は聞かないが、その尋常ではない魔力量と魔力操作技術で常に魔族の恐怖と尊敬の対象であり続けた。
若い魔族などは『赤魔公』が垂れ流す魔力をちょっと下方向に向けるだけで、圧力に押し潰されて跪かされるのだから。
エリザベートは現在は休暇でカラオケ大会をしているであろう主人と、その更に上の存在に思いを馳せながらも尋ね返した。
「ムカゴはそこら辺に居るけど、レキュウとアル様はいらっしゃらないわ。何を聞きたいのよ」
「いや、ちょっとね。『凶星の爪痕』について知ってる事があれば聞きたいと思ってね。ほら、アルは古株だけあって物知りじゃない?」
ミカの言葉にエリザベートは僅かに眉をひそめ、ソリテールはあることに気が付いたように手を打った。
「そう言えば、ミカさんの魔法は『流星の魔法』だったわね。『凶星の爪痕』と言えば昔に本物の星が落ちたと言われる土地。関係があるのかしら?」
「ええ、よく知ってるわね、ソリテール。あそこは私の生まれた場所なのよ。だからこれが私の魔法なんだと思うんだけど。実は最近ね、本物の星が落ちるイメージを持つきっかけを掴むために、帰郷して研究をしてたのよ。そうしたら、興味深い仮説に行きついてね」
ロールケーキを齧り、お茶を飲みながら語るミカ。
破壊力という点では魔族の魔法の中でも最強の一つに数えられる『流星の魔法』。
『破壊の魔天使』が超高空から魔法で生み出し落とした星は、地上の全てを砕くとまで言われる。
ソリテールが相槌を打つ中、エリザベートはまたお茶を飲むことで表情を隠しながら次の言葉を待っていた。
ミカはニコニコとお姫様のような笑顔で微笑みながら、美しい唇から言葉を紡いだ。
「もしかしたら、『凶星の爪痕』も魔法の産物かもしれないのよ。もしそうだとしたら凄いことじゃない? 私の『流星の魔法』なんて及びもつかないわ。その魔法が使える様になれば、私は本当に全てを破壊できる天使になれるかもしれないんだよ?」
ニコニコと微笑む『破壊の魔天使』を見つめるエリザベートの心中には諦観が満ちていた。
またアンタのやらかしか、と。