古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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植物を操る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。

 

 もうすぐ500歳。友達はまだいない。前世含めて。

 

 魔法の開発はとってもいい感じだが、どうにも世界情勢が気になる。

 

 隠れ家は安全だが、引きこもってばかりでは時代に置いていかれてしまう。

 

 まあ、そのために外出用の分身系の魔法を作ったのだが。

 

『植物を操る魔法』をベースに作った。『木分身の魔法』。傑作である。

 

 ……はい、もちろん某忍者漫画が発想元です。

 

 まだまだ本物には及ばないが、完成度を上げるために何度も作り直している。

 

『多重並列思考の魔法』が完成すれば、俺の魔法開発速度は爆上がりするだろう。

 

 結局のところ、同じように修行してたら自分より多くの魔力と強力な魔法を生まれ持った奴や、要領よく魔法を作れて魔力を増やせる奴には絶対に敵わないのだ。

 

 故に、大事なのは効率化。

 

 効率よく魔力を増やす手段についても研究中なので、もう少しでパラダイムシフトを迎えることができる。

 

 凡才でもこのやり方なら天才を超えられるハズ……多分、きっと。

 

 

 

 早速に出来上がった木分身を派遣した俺だが、どうにも気になることが。

 

 昔に媚を売った年上の魔族たちが見つからないこと。

 

 どうにも若い魔族たちが人間よりの姿になっていること。

 

 どちらも大問題である。至急、情報収集に専念する。

 

 

 

 結果、前にタコ野郎の愚連隊をゴミの様に薙ぎ払ったロリババアエルフが大暴れしていることが分かった。

 

 何かこの地方の500歳越えの魔族は8割討伐されたらしいよ。

 

 ……ふざけるな! どいつもこいつも何あっさりやられてんだコラ! 

 

 魔族が異種族に魔法で後れを取るはずがない(キリッ ってのたまってた1000歳越えのラミアっぽい大魔族のアリスフィーズまで死んでやがる。

 

 

 お、俺が、必死に作り上げてきたコネが……

 

 

 貨幣とか役職とかが無い魔族社会では、自身の魔力と有力魔族とのコネが全てである。

 

 俺の情報収集手段と、魔族社会での地位は大きく揺らいだと言えよう。

 

 ちなみにダヌアちゃんはさっさと別の地方に逃げたらしいよ。賢明だね。

 

 俺も土地勘があって知り合いが多いからなんて理由で来なければ良かった。

 

 どうにも、魔族たちはそのゼーリエとかいうエルフに皆殺し前に一人だけ捕らえられて、記憶ぶっこぬきで知り合いの情報を吐かされて殺される、という流れで殲滅されていったらしい。

 

 

 森田……やはりお前が正しかったよ……。

 

 友達を作れば、友達の友達とかいう世界一信用ならない連中も増える。まさに真理だ。

 

 俺がもっと社交的で友達を作って家に招待していればお終いだった。

 

 しかしどうしよう。格上の連中が減ったということは、俺の地位が相対的に上がったという事でもあるが、全く喜べない。

 

 殺伐とした世界だと、こういうのは中の上くらいが丁度いいのだ。

 

 あまり上位者になりすぎると、必然的に女神を筆頭とした敵対者たちの殺す奴リストの上位に乗る確率もあがってしまう。

 

 

 俺は慎ましく魔法の開発をして遊んでいるだけの無害な魔族なのに! 

 

 

 ACのペイター君の末路を見れば分かる。

 

 無邪気に繰り上がりを喜んでいたら、自分がとんでもない怪物と戦うことになって終了だ。

 

 ……そもそもこの種族、大丈夫か? 何か人間と虫の社会の悪い所を混ぜているような気がする。

 

 

 

 新しい世代の魔族が人間の姿に近づいていることもヤバイ。

 

 ……俺が時代遅れのロートルみたいじゃないか! 

 

 いや、真面目な話。それが理由で軽んじられたり攻撃される時代が来るかもしれない。

 

 やはり魔族社会で上手くやって行こうという考えそのものを捨てた方が良いのかもしれない。

 

 ぼっちちゃんの様にデビューしても上手く行く気がしない。

 

 アレ、最高に良い友人たちに恵まれたという超ラッキー事例だろ。

 

 普通はチャラチャラしたクズのバンドマンに滅茶苦茶にされて人生終了だったはずだ(偏見)。

 

 

 孤立からの袋叩きエンドだけは勘弁してほしいが……

 

 俺には人生懸けて友達ガチャを引く勇気は無い。

 

 だって見るまでもなく排出率がカスなんだもの! 

 

 種族単位で自己中詐欺師まみれの中から、ガンガディアみたいな超優良魔族を引ける確率ってどのくらいよ? 

 

 果たして俺はこの先生き残れるのだろうか……

 

 

 

 とか考えてたら、ロリババアエルフ討伐隊(第5次)に組み込まれた。

 

 フフフ、自分自身の判断の遅さが嫌になるぜ。

 

 木分身とはいえ、コストが掛かっている。こんなアホみたいな戦で破壊されるのは絶対に嫌だ。

 

 だが、流石に魔族も能無し揃いでは無いので、今回は別地方からも大魔族を引っ張って来たらしい。

 

 強力な金縛りの魔法……呪いの域に達した魔法を持つ魔族が仕切りだ。

 

 相手が見えていなくても魔力で認識できてれば問答無用で止められるらしいよ。強いね。

 

 つまり逃げられません。クソが。

 

 魔物の軍勢も1万に近く、タコ野郎の手勢とは比べるべくもない。

 

 これなら確実に勝てるだろうと士官ポジの魔族たちも楽観的だった。

 

 

 なるほど完璧な作戦っスねーッ。

 敵が普通に戦ってくれる訳ねぇという点に目をつぶればよぉ~ 。

 

 

 そもそも相手は1人だぞ? フットワークでは完敗している。

 

 ゲリラ戦されたら軍勢とか意味無いだろうが。

 

 そもそも軍勢と魔族の部下たちが魔力を削れればどれだけ死んでも良いという考えが気に入らねえ。

 

 効率が悪いにもほどがあるだろうが。せめてもっと有意義に使い潰してくれ。

 

 笑顔を作って挨拶回りしながらも、俺の心はどんどん冷えて行った。

 

 

 それでもどうにか生き残る確率を上げようと知恵を絞っていると、先行偵察隊のリーダーにされた。

 

 なんかね、「目標が自分たちが出るまでも無い雑魚なら仕留めても良い」って言ってくれたよ。

 

 どうしてそんな酷い事が言えるんですか……? 

 

 これで愛想が尽きた。

 

 こんなクソみたいな連中のためにゲーティア君たちのような若い奴が犠牲になってきただなんて……

 

 俺、魔族のために戦いたくなくなっちまうよ……

 

 

 

 作戦会議の途中だが、適当な理由をつけてちょっと離れる。

 

 模範的な配下として振る舞っていたので、特に怪しまれはしなかった。

 

 ちょっと表に出てきて、周囲を確認。

 

 

 ……ヨシ、誰も見てないな! ポチッとな。

 

 

 その瞬間。先ほど出てきたばかりの作戦会議の場から、凄まじい光と爆音が溢れ出た。

 

 

 ゲンスルー! 吉良吉影! バンビエッタ! 終わったよ……

 

 

 やっぱ強いわ。『対象を爆弾に変える魔法』。

 

 これからもいざという時のために、挨拶回りでは念入りに「握手」しないとな。

 

 魔族に生き残りは無し。よし、じゃあゼーリエちゃんが来る前に逃げようか。

 

 

 

 

 

 

「『植物を操る魔法』を鍛えるなら森でしょって安易に考えてたけど、失敗だったかも知れん」

 

 

 この世界の大自然の殺意はマジでヤバイ。

 

 普通に魔法を反射する肉食植物とか生えてるからね。

 

 若い魔族なら秘境めいた場所に入り込んだらまず出て来られないだろうな。

 

 

「だが、ここならまず他人には見られないだろう」

 

 

 俺だってもう大魔族……とは言えないが、一人前以上なのは間違いない。

 

 そしてこの修行によって正真正銘の大魔族になるのだ。

 

 そうすれば……魔族にマウント取られて死地に追い込まれる危険性は減るはず。

 

 敵対者に狙われることについてはもう諦めた。

 

 殺す奴リストに乗っても、きっとほぼ無害な俺の優先排除順位は高く無いだろう! 

 

 

「まずは魔法植物ではなく、簡単な植物生成から……QOLの向上のためにも、野菜や果物を出せるようになりたいな。できれば品種改良とかも高速でできるようになりたい」

 

 

 もし、人類側にとても有用な魔法を開発できれば、ワンチャン寝返りを狙えるのではなかろうか。

 

 よーし、気合い入って来たぞ! 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より約2500年前。

 

 南側諸国の辺境に、突如として「貪食の大樹海」と呼ばれる危険地帯が出現した。

 

 世界中のあらゆる植物、貴重な薬草なども大量に群生する奇跡のような樹海だが、超級の危険地帯でもある。

 

 危険極まる「呪い」を放つ植物の魔物がひしめいているのだから。

 

 また、この樹海はゆっくりと動いており、約100年をかけて大陸南部を一定のルートで周回している。

 

 樹海そのものが規格外の魔物とも、古の大魔族の残した呪いの産物とも呼ばれるが、正確な情報は残っていない。

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