古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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動画を撮る魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。

 

 まあ、トラオムと呼ぶのはゴーレムを除けばゼーリエちゃんとアルちゃんだけだが。

 

 魔人たちにはフェイスレスと呼ばせているしな。

 

 

 最近の話だが、メテオモドキを使う魔族にあらくれモンクたちが集う修道院が潰されたと聞いた。

 

 まあ、かなり素行の悪い連中だったそうだからあまり同情心は湧かないんだがな。

 

 女神様を信仰しながら、暴力と強姦を肯定するな。どんな修道院だよ。

 

 

 しかし、隕石っぽい物を落とすとは物騒な魔族だ。

 

 ひょっとしたら、例の『凶星の爪痕』もそいつの仕業かもしれんな。

 

 危険な魔族も居たものだと思う。

 

 

 

 ゼーリエちゃんもそう思うよね? 

 

 

 

 

 

 ……同意をいただけました。良かった。やっぱり魔族が悪いよー、魔族が。

 

 

 

 ゼーリエちゃんがウサギの探偵みたいな目で俺を見ていたのは気のせい。きっと。

 

 ……証拠不十分につき許された感じだな。

 

 まあ、最近では自然とパーソナルスペースに入って来てくれるくらい仲良くなれてるから大丈夫でしょ。問題無し。

 

 

 

 

 

 ところで、この世界には機械は無いが写真はあることを知っているだろうか? 

 

 ええ、もちろん魔法の力ですよ。魔法万歳。

 

 俺は昔はほとんど写真など撮らなかったのだが、ゼーレ建国以降ではすっかり写真魔になってしまった。

 

 ちょっとしたことでも記録するのは大事なことでもあるが、俺の弱さでもあるな。

 

 

 まあ、既存の魔法だけで満足してる俺じゃない。

 

 もう随分と前に作りましたよ、『動画を撮る魔法』。

 

 昔のゼーレや子供たちの小さい頃の光景もこれで残してある。

 

 いつかは巡業団のみんなをこれで揶揄いながら昔を懐かしむんだ。

 

 今はまだそんな気分じゃないけど。

 

 

 

 で、その『写真を撮る魔法』や『動画を撮る魔法』に関する話だ。

 

 巡業団はその時代の人物や風景を残すためにどちらも積極的に利用している。

 

 むしろ、対外的には一番使ってる魔法かもしれんな。

 

 使用率が歌の魔法と並ぶか超える勢いなのは間違いない。

 

 情報の保存だけではなく、各地への情報の発信にももちろん使われている。

 

 

 その例の一つが、魔族の手配書だな。

 

 巡業団が魔族の首に賞金を懸けているのだ。

 

 魔族は殺すと消滅するので、持っている魔法武器が証明になる。

 

 まあ、人間たちも同じことはしてるんだけどな。元祖は巡業団だと思う。

 

 それに報酬の豪華さでも巡業団が一番だし。

 

 基本は金貨だが、討伐された魔族の危険度によって、同価値の強力な魔法、魔法武器、魔装服を選べる仕様にしているらしい。

 

 

 うん、俺のサブカルチャー汚染の影響ですね。どこの世界政府だよ。

 

 純粋な戦力では無く、巡業団にとっての危険度が手配額の基準なのも地味に原作再現だな。

 

 いや、大体は人間にとっての脅威度とも同じだから問題は無いんだが。

 

 基本的には魔族を討つためというより、大陸中にこういうヤバい奴がいますよーと伝えて人間の被害を減らすための布告だな。

 

 もちろん、優秀な人材への援助も兼ねてるだろうが。

 

 才能があっても人間社会でのし上がれるかは別問題だからね。そこは強けりゃいい魔族よりも難しい。

 

 そういうコミュ障な人間の勇者に、巡業団のお墨付きを与えてやる訳だ。

 

 

 

 俺も巡業団が飛ばしている伝書TSUBAMEを捕まえて手配書を確認してるんだ。

 

 ああ、今の所は人間で捕まえることに成功した奴は居ないよ。

 

 元は隕鉄鳥なんだけど、もう別物レベルになってるからな。強化しすぎた。

 

 

 巡業団もできる限りの情報を載せてるけど、大体は文章だけで写真は無い。

 

 まあ、強力な魔族に遭遇したら写真を撮ってる暇は無いよな。

 

 よって、手配書に写真付きの魔族は、目撃者が多くて長生きもしてる、特に危険な奴だな。

 

 

 

 

 

 ほーん、これが『破壊の魔天使』ね。

 

 まだ若いけど、懸賞金はこの時代の価値で四皇幹部くらい。

 

 どっかで見たことがあるような見た目だなあ。可愛いけどメンタルがヘラってそう。

 

 幾つもの都市を崩壊させてるよ。戦法が爆撃機なのが中世ファンタジーでは無法なんよ。

 

 アルちゃんは怖がって近づきたがらないけど、念の為によく見張っておかせよう。

 

 

 

 おっ、これは『滅亡の鞭』じゃん。

 

 邪神ちゃん! まだ生きていたのか! とっくにくたばったと思ってたぜ! 

 

 懸賞金は四皇大幹部くらい。

 

 古い知り合いの生存にちょっと嬉しくなる。……いや、俺の顔と名前と武器配りを知ってるよな、コイツ。

 

 俺は死んだと思われてるから大丈夫だと思うけど。

 

 復讐したいって言ってたから伝承法をもたらした一族は何してるんだ。まーだ世代掛かりそうですかね? 

 

 

 

 そしてこれは討伐済みの手配書。

 

 懸賞金は四皇並みだぜ。大魔族の下限が超新星くらいの額で、コイツが上限くらいか。

 

 よっしゃあ! アンセスターの野郎、死にやがった! ざまあw

 

 エルフのせんしクラフト君! よくぞやってくれた! 巡業団に言って特別にカッコよく記録してやろう! ヒャッホー! 

 

 

 

 

 ……さて、ここからは便利屋のメンバーです。

 

 

 おい、いつまでもヤムチャみたいなポーズでリビングの床に転がってるんじゃないよ、アルちゃん。

 

 そしてお前らも大爆笑はやめて差し上げろ。

 

 普段は控え目な零余子や抑え役のレ級まで腹筋が逝ってるじゃん。

 

 あと、エリちゃんは笑いすぎ。

 

 

 

 

 

 まず、『爆災』のレキュウ。

 

 懸賞金は前は億越えルーキーですらなかったんだけどね。今はもう四皇大幹部くらいだよ。

 

 成り上がったなあ。何でやろなあ。

 

 写真は例の襲撃の時のだな。撮ってる暇があったとは思えん。誰かの記憶を幻影として投影してそれを撮ったな? 

 

 凶暴な笑みと異形の尾から放たれる瞬間を捉えた砲撃魔法の迫力が凄い! 

 

 額縁に入れて飾っておこ。

 

 ああ、文章の方にも、とにかく火力がヤバいから逃げろと書いてあるな。良い仕事だ。

 

 

 

 

 

 次、『不倒』のムカゴ。

 

 懸賞金はレ級と同じく四皇大幹部くらいだな。

 

 切り刻まれながらも笑いながら前に出て異形化した腕を振るっている写真ですね。

 

 ターミネーターみたいな絶望感を感じさせる。

 

 可愛いしカッコイイね。もちろんこれも飾る。流石は巡業団。構図が美しいよ。

 

 戦士は絶望しかない相手だから、戦っちゃいけないと書かれてる。

 

 まあ、そうだよな。縁壱さんレベルの戦士じゃないと殺せないよ。

 

 

 

 

 

 次は、『魔勇者』エリザベート。

 

 懸賞金は四皇大幹部でも最上級レベル。

 

 何か色んな衣装を着たエリちゃんがいっぱい写ってるよー。文句無しに可愛い。

 

 俺が褒めると本物も無い胸を張って得意げだ。まるで賞金を懸けられたことを気にしてないのは主人公感あるな。

 

 意味不明過ぎてヤバいから、絶対に近づくなと書いてある。

 

 せやな……。

 

 

 

 

 

 はい、ここまで前振りです。

 

 最後は写真じゃなくて、動画付きだよ。特別扱いだな。やったねアルちゃん。有名になるよ! 

 

 巡業団の団長自らが演説みたいなのしてますよ。

 

 手配書を開いて表面を突っつくと、動画が始まる。

 

 そして同時に床で死んでたアルちゃんが水の女神みたいにギャン泣きを始める。配下三名はまた爆笑する。

 

 

 

 肝心の内容だが、いきなり額に青筋を立てたアムが出てきて────

 

 

 

 

 

『私は巡業団の団長アム。

 

 この手配書を見てる貴方は選ばれし者。

 

 大金貨5000枚を掴むチャンスを与えられた強き者!』

 

 

 

 

 

 はい、こんなくだりで演説が始まります。

 

 ごめんね、アルちゃん。俺もめっちゃ笑ったよ。

 

 だってさ……これが大陸中に拡散したと考えるとさ……もう君、魔王より有名になったんじゃねぇの? 

 

 

 なお、アルちゃんは床を跳ねまわりながらブチ切れていた。

 

 

「みんなふざけないでよぉぉ──!? 私が何をしたって言うの? 何で四人で私だけ!? 何がデーモン・ラッシュよ! あの中二病! ファザコン! 処女!」

 

 

 おーおー好き勝手言いなさる。

 

 いや、滅茶苦茶に好き勝手言われたのはアルちゃんの方だけどさ。

 

 でも巡業団と救世の聖女の名声を考えるとね……。

 

 こんな大アリクイのスパムメールみたいな内容の手配書でも、アホみたいに大陸中で勇者たちが捜索を始めると思われる。

 

 いや、危険だから情報を巡業団に届けてくれるだけでもいいって言ってるけどね。

 

 亀仙人のじっちゃんの武道会後のセリフが言いたいがために巡業団を襲撃した件が、こんな事態に発展するとは……読めなかった、このリハクの目をもってしても。

 

 この分だと遠からず尋問された魔族からアルちゃんたちの表向きの潜伏場所も割れちゃうなあ。

 

 

 

 何かに思い当たったアルちゃんが血相を変えて俺に掴みかかって来る。

 

 

「ちょっと待ちなさい、トラオム! これ、私本当に生き残れるのよね? 完全に人間の敵にされてるけど!? 貴方、私を使い捨てる気じゃないわよね! 私のこと本当に見捨てないわよね!?」

 

 

 何を言ってるんだか。俺がアルちゃんを見捨てるわけが無いじゃないか。

 

 

「じゃあじゃあ、あの友達のエルフが襲い掛かってきても守ってくれるのよね!」

 

 

 ……当然だろ。俺は絶対に君を見捨てないよ。

 

 

「今、ちょっと間があった!? やめなさいよ! ちゃんと保証して! 私は貴方の秘書で副官で便利屋でしょう!」

 

 

 保証するってどうやって……あー、そんなに泣かないで。

 

 俺が悪かった。ちょっと君に負担を掛け過ぎたね。

 

 巡業団にはそれとなく手配書はこれ以上は配らないように言っておくから。

 

 流石に回収させようとするとバレそうだからそれは無理だけど。

 

 

 いや、いざという時に尻尾切りなんてしないって。

 

 それに毎日を懸命に生きてりゃ案外何とかなるもんさ。

 

 たとえ今日と言う日が不幸でも、明日をバーンとォ!! 信じましょ。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より29年後。

 

 危険な植物の魔物を何とか犠牲を出さずに討伐したフリーレン一行は、再び旅を続けていた。

 

 助けられた村の領主や村人たちからは、流石は勇者一行の魔法使いと僧侶、その弟子たちだと感謝された。

 

 魔王軍の本拠地がある北部に近づくにつれ、勇者ヒンメル一行の知名度が増している気がするフリーレン一行だったが、その感覚は間違いではない。

 

 北部ほど魔王軍の脅威にさらされており、現在でも残党との散発的な戦闘が続いているのだから、巡業団の配布する勇者ヒンメルの物語の本は御守り代わりですらある。

 

 

 フリーレン一行は旅の途中、フリーレンの希望によってある村に訪れる。

 

 

 そのクラー地方のとある村にて。

 

 フリーレンとハイターはかつての旅の知り合いである老ドワーフのフォル爺と再会する。

 

 フリーレンには両手の指を超える程度には長寿友達が居るが、フォル爺はこの旅のきっかけを作ってくれた特別な友人だ。

 

 滞在中の間。ハイターも交えて、彼らは思い出話に花を咲かせた。

 

 

 話に入れないフェルンとシュタルクは、二人で村人の手伝いをして過ごしていた。

 

 

「いやー、助かったよ。やっぱり魔法って便利だなあ。ウチの村にももっと魔道具とかあればと思っちゃうよ」

 

「いえ、しっかり報酬を頂いていますから」

 

 

 作物の収穫を魔法で手伝ったフェルンが村人からお礼を言われる。

 

 そんな様子を見ながらも、荷を運んでいたシュタルクは、ふと思いついたように言った。

 

 

「しかし、フリーレンって結構友達が多いよな。正直、もっと孤独なイメージだったよ」

 

「確かにそうでございますね。コッコロ様もそうでしたが、単に知り合いというだけでなく確かな絆を持っておられるように思えます」

 

 

 割と失礼な若者たちの印象だが、エルフの世間離れっぷりをよく見せつけられている二人にとっては意外であったようだ。

 

 

 そこへ、見事な演奏で女性が歌う音楽が聞こえてくる。

 

 仕事を手伝って貰っていた村人には慣れているを通り越して時報になっているようで、「もう昼飯の時間か」と呟いた。

 

 歌の発生源の方を見ながらフェルンは疑問を発する。

 

 

「『動画を撮る魔法』は珍しいですね。かなりの腕を持った魔法使いでないと使えません。やっぱりあれは巡業団の?」

 

 

 フェルンの問いに、村人は苦笑混じりに快く答える。

 

 

「ああ、あれは大昔にフォル爺の奥さんが巡業団に撮ってもらったものさ。……気を付けろよ。あれについて話を振ると、フォル爺はいつもの静けさが嘘の様に話し出すからな。捕まったら長いぞ~」

 

「ああ、それで演奏に比べて歌がちょっとアレだったんですね」

 

「……フェルン。結構、歌には厳しいよな。俺はあれも凄く上手いと思うけど」

 

 

 フェルンとシュタルクのやり取りに村人は大笑いする。

 

 

「はっははは! 巡業団の歌姫と比べられちゃあ敵わないな! でも、動画の彼女は美人だし良い声だろう? 今のウチの村の誰よりも綺麗だぜ」

 

「うん。曲も良いし、声も合ってて凄く良いと思うよ、俺は」

 

「良い曲ですよね。私も好きですよ、『愛をこめて花束を』」

 

 

 

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