古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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儀式の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオム。

 

 便利屋のみんなは新しい拠点場所の選定も兼ねて休店状態です。

 

 前の拠点は容赦なく爆発炎上したからね。人間怖いわー。

 

 しかし人間との戦いは何だかんだで避けてるのに、魔王軍から文句を言われたことは無い。

 

 

 流石は魔族だ。魔力優越者への忖度が酷いぜ。

 

 

 まあ、魔王軍の士気を上げるのと、人間をビビらせるという点については誰よりも仕事してるまであるしな……。

 

 でも、やっぱり人間社会とは別の意味で問題がありすぎると思います。魔族社会。

 

 

 

 生贄にされる被害妄想に取りつかれたアルちゃんだったが、熱心な説得で案外あっさりと立ち直った。

 

 うーん、やっぱり何だかんだでメンタルも頑丈だよね。

 

 今日も白目剥いて叫んでますよ。

 

 まあいいや。アルちゃんが元気なら。

 

 俺も真剣に彼女のメンタルと信用を回復させた甲斐があった。

 

 

 ところで話は変わるが、快活で爽やかな女の子と、じっとり重力強めな女の子のどっちが好きかと言われれば、俺は前者だと答える。

 

 いや、後者も好きだよ、創作の中なら。

 

 ついでに自分が相手にするんじゃなきゃな。

 

 だから俺はやっぱりアルちゃんがさいかわ。

 

 

 ……特に魔法に関係ない話をしてしまったな。

 

 では、今回は大規模な魔法を行使する時の話をしようか。

 

 

 実力以上の魔法を行使するためのツールが儀式だと考えて概ね良い。

 

 足りない実力やらセンスやら魔力やらを、別のコストを支払うことで補うわけだな。

 

 支払うのは主に、時間、人数、触媒、生贄あたりか。

 

 

 魔族はあまり儀式魔法とか使わない。だが、人間は割と積極的に利用している。

 

 

 まあ、そうなるな……

 

 

 だって魔族にとって魔法は個人芸だし、そもそも共通の魔法を覚えてない事が多い。

 

 対する人間は魔族に比べてまだまだ魔力も魔法も貧弱なので、儀式で何とか勝負する。

 

 封印系とか特に多用されてるな。

 

 魔族は自分の魔法を自慢するの好きだし、割と短い儀式魔法を使える隙はある。

 

 俺なんかはゼーリエちゃんとの手合わせを除けば、まず敵に魔法の解説する事なんて無いのだが。

 

 

 すまんな。冥途の土産をくれてやるほど持ち合わせがないんでな。

 

 そういうのって死亡フラグじゃない? 

 

 いつか誰かが俺を打ち負かすだろう。だが、それは今日ではないしお前にでもない。

 

 至高の王でもあるまいに、慢心などどうして許されようか。

 

 

 奥様もニッコリな魔法使いの心構えだよ。巡業団にも仕込んだが、どこまで真剣にやってくれているやら。

 

 

 話が逸れた。

 

 儀式魔法の話だが、色んな難しい条件を付けることで実力に見合わない大規模な魔法も発動させることができる。

 

 使いこなせるとは言っていない。

 

 当然の話だな。無理して実力以上を出すんだから、儀式を始める時に決めた内容から変えて臨機応変に魔法を操るなんて真似は難しいのだ。不可能ではないが。

 

 

 でも、上手く使えればやっぱり有用だし……何よりロマンがある。

 

 俺が使う儀式魔法はイルルの結界のアップグレードが一番多いかな。

 

 分身を大量に出して、貴重な触媒を惜しみなく使い、何日も掛けて魔法を発動する。

 

 故に鉄壁!! よって無敵!! 

 

 機動戦艦イルルはそう簡単には落とせんぞ。ラピュタ砲みたいなのも設置したし。

 

 

 

 だが、たまには別の大魔法を使ってみたい。

 

 特に効果は決めてないけど、無意味に大陸全土に国土錬成陣も真っ青な巨大魔法陣を作りたくなる衝動に襲われることがある。

 

 

 これも まほうつかいの サガか……

 

 

 まあ、そんなのゼーリエちゃんに内緒でやれる訳も無し。

 

 代わりに規模は小さいけれど、特に複雑で普通は不可能な呪いっぽい魔法を儀式発動させてみよう。

 

 女神様には遠く及ばぬ俺なので、まだまだできないことだらけだ。

 

 だが、人間や魔族の若輩者の魔法使いのみならず、この俺でも儀式は分け隔てなく下駄を履かせてくれる。

 

 

 ヨシ! 『完全な変身の魔法』を作ってみよう! 

 

 変身魔法も、ただ着ぐるみの様に幻を被るだけの物から、ガチで肉体を変化させるものまで種類も質もピンキリだ。

 

 俺が目指すのはもちろん完璧な変身。

 

 イルルみたいな天脈竜にさえドラゴラムできるような……

 

 

 ……いきなり大規模なことはやるべきじゃないよな。大きな計画はまずはミニチュアで模型を作ったりするもんだ。

 

 とりあえず、細胞レベルでエルフに変身する魔法を作ろう。

 

 ドッキリでイケメンエルフに変身してゼーリエちゃんに会いに行ったら、きっとビックリするぞ~! 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの旅立ちより10年後。

 

 魔王を討伐した帰路。勇者ヒンメルのパーティは事を為す前と変わらずに、人助けをしながらゆっくりと旅立った国の首都を目指していた。

 

 だが、魔王を討伐したからと言ってすぐさまに平和が戻る訳では無い。

 

 残党はまだまだ残っているし、魔王にとって代わろうとする魔族がいないとも限らない。

 

 だが、流石に大きな都市なら危険はないかに思われた。

 

 

 

 それが大いなる勘違いだったと勇者たちは知る。

 

 

 

「はあ、町で別れて行動してる時を狙われるとはね」

 

「ハイターとアイゼンが無事なら良いんだが……」

 

 

 フリーレンとヒンメルはよりにもよって自身たちが滞在していた宿の一室に、強力な結界の魔法によって閉じ込められてしまっていた。

 

 とはいえ、かつて七崩賢の不死なるベーゼの結界さえ打ち破った大魔法使いフリーレンがいるのである。

 

 勇者ヒンメルはそれほど現状に危機感を持ってはいなかった。

 

 むしろ別行動している仲間たちの方を心配しているくらいだ。

 

 これで自分たちを封じておけるとは相手も思っていないだろうという考えから、今危険なのはハイターとアイゼンの方なのではないかと。

 

 

 しかし、フリーレンの答えはヒンメルの予想を裏切るものだった。

 

 

「ダメだね。この結界は破れないよ」

 

「……冗談だろう?」

 

「残念だけど冗談じゃないよ。……これは10名近くの強力な魔法使いが共同で儀式を行って発動している。確かに、一人一人は不死なるベーゼには遠く及ばない魔法使いだよ。でも、充分な準備時間に、特定の方法で破られる条件付け。それ以外の方法で破られた際は命を失う代償まで使って強度を高めている。……例え破れても、ハイターとアイゼンの方で事が終わる方が早いね」

 

「それはまた……いや、つまりは術者は人間ということか?」

 

 

 あまりにも入念な罠には必殺の意志が込められているように思えた。

 

 だが、捕らえたヒンメルとフリーレンには手出しもできない鉄壁ぶりから狙いはやはりハイターとアイゼンだろうか。

 

 

 そして、こんな手の込んだ小技は魔族は使わない。

 

 

 ヒンメルはこれが人間の仕業であることに気付いて衝撃を受けた。

 

 しかし、フリーレンの方はそれほどショックを受けていないと言うか、最初から敵の正体にあたりを付けていたようである。

 

 

 地面に座って結界を調べていたフリーレンは、立ち上がりながら答える。

 

 

「そうだね。街中で魔族が魔法儀式をコッソリと行えるとも思えなかったから、そうじゃないかと思ってたんだよ。……これは多分、邪教団『天上の法悦』の幹部たちの手による結界だ。昔から謎に実力のある魔法使いが多い事で有名な邪教団でね。この結界も有名なんだよ」

 

 

 なお、正確な規模と戦力は謎の指導者以外は把握していないのだが、実は80年後の大陸魔法協会より魔法使いの質では優越している模様。

 

 

「そんな実力者揃いなら、もっとマシなことに力を発揮して欲しいものだね……それで、破るための特定の方法とは? 有名なんだろう?」

 

 

 ヒンメルの何気ない問いかけに、フリーレンはちょっとだけ困ったように目をショボショボさせた。

 

 それでも、結界の境界になっている宿の壁に触れながら答える。

 

 

「条件は幾つかのパターンがあるけど、これは多分二つ。一つは外から開いてもらうこと。ハイターとアイゼンが助けに来てくれれば解決だね。……もう一つは閉じ込められた男女が────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、かなり遅くはなったものの、ハイターとアイゼンは普通に帰ってきて扉を開けてくれた。

 

 彼らは幾つかのトラブルに見舞われて人助けなどをしていた結果として遅くなったものの、特に襲撃などは受けなかったらしい。

 

 フリーレンとヒンメルが閉じ込められていたことにとても驚いていた。

 

 彼らはその後、何事もなく過ごして都市を後にする。

 

 

 都市から出てしばらくして、不意に勇者ヒンメルは都市を、いや、泊っていた宿を振り返った。

 

 僅かに自身の選択への後悔が脳裏をよぎる。

 

 だが、彼が見せた後悔より生まれた行動はそれが最初で最後だった。

 

 勇者ヒンメルは、心身共に真の勇者であったが故に。

 

 

 

 

 

 去っていく勇者一行を都市より見送る十人ほどの影がある。

 

 彼らはただ沈黙のままにゆっくりと、しかし深々と頭を下げる。

 

 冷たい風だけが吹きすさぶ中、彼らは偉大なる勇者の選択への無限の敬意を視線に込めて見送ったのだった。

 

 

 

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