古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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ゴーレム化の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムと申す。

 

 実はイルルの上では家庭菜園とかをやっているよ。

 

 まあ、規模が普通に農場レベルだし、魔法使いの隠れ家だけあってアレな植物がたくさん生えてるけど。

 

 昔は魔人たちの味覚に合わせた食物の生産に躍起になっていたが、今は魔法の素材関係の物がほとんどになってしまった。

 

 種の無いスイカを作ろうとしたら何故か巨大化したりと、色々な思い出がある菜園だな。

 

 

 

 今現在、結局は食用にしたポリンたちを放し飼いにしている区画もここである。

 

 抽出したエキスを巡業団に送ったら、大層喜んでくれた。

 

 

 でも、原材料であるポリンの動画を送ったら割とショックを受けてて草。

 

 

 人間に出しても下手な調味料よりうまあじな代物だが、魔人たちにはやっぱり大好評か。

 

 俺の舌に合わせたものでもあるので、魔族にも大好評間違いなしなんだが……

 

 アルちゃんたちに配らせてみたところ、大好評だがそれはそれとして人間は食うようだった。

 

 というか、人間にかけて食うらしい。

 

 

 ……なんでそうなるの? 

 

 

 もう俺、魔族君のことよく分かんないよ。

 

 スライムと魔族の相性が悪いのだろうか? 考えるのも疲れた。

 

 アルちゃんたちの情報収集が容易になったから、もうそれでいいです。

 

 

 

 菜園には捕まえて使用魔法について研究していた貪食の樹海産の魔物とかもいるのだが、見た目が良かったり、グルメ界めいた産物などを提供してくれる奴は研究完了後も飼っている。

 

 かつてティファたちにも使った『使い魔契約の魔法』を使うのが基本。

 

 でも、魔族とまで行かなくても、それなりに知性のある魔物とは交渉して待遇について決めていたりもする。

 

 まあ、最終決定権は譲らないのであくまで参考にするだけなんですけどね。

 

 魔物なんて話聞いてもらえるだけで上等だろ。……優しいミクさんですら、俺は甘いって言ってくるよ。

 

 まあ、世界を巡る巡業団では魔物の被害とか見まくってるだろうからな。

 

 

 かつて俺は『魔人を作る魔法』の完成の為に、かなり生命改造系の魔法を研究していた。

 

 その集大成の一つにして、計画の重要なピースとなったのが『接ぎ木の魔法』なわけだ。

 

 だが、もちろん他にも色々な魔法が生み出された。

 

 それらのノウハウが『聖獣を作る魔法』にも流用されている。

 

 ……よって、魔物や魔族の改造は俺にとって二番目に長期で研究し続けている魔法と言えよう。

 

 

 

「ほーら、お水の時間よー! いっぱい育ってもっと綺麗に可愛くなるのよー!」

 

 

 アルちゃんが植わっている花の魔物たちに如雨露で水をやっている。

 

 鼻歌混じりでとっても楽しそうで可愛いですね。

 

 全身で水を浴びている花の魔物たちも気持ちが良さそうだ。

 

 如雨露から出る水で小さな虹がかかって見えるし、何というかとてもメルヘンチックな光景である。

 

 花の魔物たちは律儀にアルちゃんが通り過ぎてから、余分な水分を身体を振るって飛ばしている。

 

 俺の次に懐かれてるあたり、アルちゃんにはやはり謎のカリスマがあるなあ。

 

 

「あら、トラオム。おはよう! 今日はいい天気ね。お花ちゃんたちも元気そうよ」

 

「おはよう、アルちゃん。ここの天気は自在だけどな。しかし随分とこいつらが気に入ったみたいだな」

 

 

 俺の言葉にアルちゃんは「ふふん!」と自慢そうに鼻を鳴らして答える。

 

 

「みんな私が見に来ると踊ってくれるのよ。それに合図をこうやって出すとね……」

 

 

 アルちゃんが手を指揮者の様に横に振るうと、花の魔物たちがウェーブを作る。

 

 ライブ会場かな? 

 

 彼女たちはアルルーナよりもずっと知性は低いが、それでも賢い犬くらいは知性がある。

 

 アルルーナと違って話せないけどな。

 

 原始の魔族はこんな感じだった可能性がある。

 

 でも、こいつらも樹海産だからか普通の魔物では無いんだよな。

 

 普通の魔物は『使い魔契約の魔法』で従属させてもこんなに愛想が良くない。ティファがいい例だ。

 

 やっぱり俺の魔法と魔力が関係しているのだろうか? 

 

 呪いの類はこいつらのおかげで研究が捗ってるから良いことなんだけどな。

 

 

「カラフルだから見応えがあるなー」

 

「でしょー! ホントに可愛いものだわ!」

 

 

 おまかわ。アルちゃんが楽しそうで何よりです。

 

 機嫌良さそうなまま、アルちゃんは続ける。

 

 

「これで話せたり、歌ったりしてくれたらもっと可愛いんだけどね」

 

「ふむ。それは……」

 

 

 不可能ではない。

 

 だが、正直に言うとやりたくない。

 

 俺が最も長期間研究していて何よりも得意な『ゴーレムを作る魔法』と違って、生物改造系は不安定かつ暴走の危険がある。

 

 特に、素体が人間や動物からかけ離れた植物系は。

 

 アルちゃんに万が一のことがあれば、俺が平静を欠くことは間違いない。

 

 いや、仲間の誰であっても喚き散らすかも。

 

 ペットや観葉植物ならともかく、家族にするなら精神系の魔法で弄りたくはないのだが、元となる魔物によってはそれでは凶暴性や魔物の本能を抑えきれない可能性が高いのだ。

 

 

 とりあえず、『絶対に安全な処置』をした同じ植物系で話せる程度の知性がある魔物をお出しする。

 

 

「あー、こっちに植わってるアルルーナじゃダメか?」

 

『こんにちは、アルちゃん。いい子いい子』

 

「そいつは私のことツタで掴んで振り回すから嫌よ! 何でそんなのまで植えてるの!?」

 

 

 また白目を剥いちゃったよ。アルちゃんは表情が忙しい子だなあ。

 

 アルルーナはニコニコと笑ってるが、アルちゃんが近寄ってきたら捕獲して玩具にする気満々ですね。

 

 ちょっと見てみたい気もするが……

 

 ともかく、このアルルーナも俺の処置がなければとても危険な魔物だ。

 

 知性は定義で言えば魔族と言えるくらいはあるが、本物の現代魔族に同族として認められるほど高度では無いし、肉体も精神も異形過ぎる。

 

 人間から異形の精神を持っていると見られる魔族から見ても異形な精神なのだ。

 

 知性はあっても理性が低く、人間性を付与してもかなりサイコな感じが残る。

 

 

 

 故に、俺は極めて人間に近い魔族以外は魔人の素体としては用いない。

 

 ……ゼーレではもちろんやってなかったが、魔人の素体として『どこまでが大丈夫で、どこからがダメなのか』は確かめてある。

 

 失敗の知見を得るのも重要なことだ。あえて、そういう『失敗作』をたくさん作った。

 

 もちろん、失敗作たちにはこのアルルーナに施した『絶対に安全な処置』を施している。処分してはいないよ。

 

 巡業団には送れないので、樹海の奥地に作った村で俺の研究を手伝ってもらっているのだ。

 

 

 まとめると、俺の魔法にもまだまだ不完全な部分が多いという事だな。

 

 作ったから終わりではない。

 

 これからも習熟と改良は続けて行かないと。

 

 

 とりあえず、アルちゃんにはこう提案することにする。

 

 

「喋らないからこそ可愛いって言うこともあるかもしれないぞ? 本当にその子たちも話せるようにしたいのか?」

 

「う……そ、そうね。それじゃあやっぱりこのままで良いわ。無理言ってごめんなさいね、トラオm(ガシッ、ビュッ」

 

 

 うんうん。アルちゃんがそっちを選択してくれて良かった。

 

 自分で開発しといてアレだが、あんまり使いたくない魔法というものもある。

 

 メテオとは違う意味で使用にはちょっと忌避感があるのだ。

 

 ……我ながら甘いものだな。

 

 

 

 ところで、アルちゃんはどこに行った? 

 

 

 

「いやーっ!? 助けてトラオム──!!!」

 

『アルちゃん、好き好き。遊びましょ』

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より28年後。

 

 グラナト伯爵領に現れた脅威は取り払われ、巡業団による興業も終わった。

 

 人々は喜びに包まれていた日々を惜しみつつも平和な日常に帰ろうとしていた。

 

 だが、まだイベントが一つ、明日の朝に残っている。

 

 

「…………」

 

 

 伯爵の城の牢屋にて、物理的・魔法的に厳重に封印された魔族が一人。

 

 七崩賢、断頭台のアウラである。

 

 だが、ここまで厳重にしなくても逃げ出すことは叶わないだろう。

 

 文字通り、手も足も出ないのだから。

 

 それでも彼女は明日の処刑を思って恐怖に震えつつも、必死に生き残る術を考えていた。

 

 魔族も色々だが、齢で500を超える彼女は往生際が良い性質ではないようだ。

 

 まあ、魔族としても生物としても普通だ。死を受け入れられる生き物の方が少ない。

 

 しかし自力での脱出はどう考えても不可能。

 

 魔族の横のつながりの薄さを考えれば、彼女に救いの手が差し伸べられる可能性は低いかに見えた。

 

 

 

 だが、奇跡は起こった。

 

 

「ああ、アウラ。明日打ち首だなんてかわいそうに。私が助けてあげましょう」

 

 

 そんな女の声と共に、アウラの視界を覆っていた目隠しが外される。

 

 アウラが目にしたのは自分よりも古い大魔族の知り合い。変わり者で有名だったソリテールだった。

 

 脳裏に少しの疑問も湧いたが、そんなものは圧倒的な安堵感に比べれば気になるものではない。

 

 これで助かると、安堵からの涙さえ流しながら救い主に話しかける。

 

 

「そ、ソリテール。まさか助けに来てくれるなんて」

 

「偶然にも近くに来ていたからね。助けられて良かったわ、アウラ。貴女が断頭台で処刑だなんて、人間も酷いことするわ」

 

「ありがとう。昔から貴女には世話になってたわね。この借りは必ず返すわ。早くここから連れ出してちょうだい」

 

「ええ、もちろん良いわよ。でも、せっかくだからここで少しだけ治療をしましょう。大丈夫、しばらくは見張りは来ないはずだから」

 

 

 ソリテールの返答に手回しの良さを感じてアウラは更に安堵する。

 

 これなら見つかって置いて行かれることはなさそうだと。

 

 

 そんなアウラにソリテールはある提案をする。

 

 

「……ねえ、アウラ。もし、魔力が増える代わりに記憶を全て失う薬と、魔力が増える代わりに少し精神が歪む可能性がある薬があったとしたら、どっちがいい?」

 

 

 何故、そんな問いを? という疑問がアウラに湧く。

 

 だが、話の流れ的に本当にそういうものを持っているのかもしれない。彼女は自分よりも年上だし、大物魔族とのつながりも多い。

 

 ……実験台にされる可能性も考えたが、この状況で断れるわけがない。

 

 アウラは必死に思考を回す。

 

 

「ああ、変に深読みしなくてもいいのよ。どちらを選んでも貴女は助かるから、好きな方を選んでね」

 

「……そう、それじゃあ────」

 

 

 やはり拒否は許されないようだ。

 

 アウラはそれでもさして迷うことなく選択する。

 

 ソリテールはその選択に嬉しそうにしながら、懐から黒い液体の入った瓶を取り出す。

 

 

「ああ! やっぱりそっちよね! 魔族なら当たり前だわ。記憶の連続性が途切れるなんて死んだも同然だもの。貴女はとても魔族らしい魔族だわ」

 

「……それがその薬?」

 

「ええ。とってもありがたいお薬よ」

 

 

 そう言ってソリテールは瓶の蓋を外すと、迷うことなくアウラにふりかける。

 

 液体はやはり真っ黒で、結構な粘性があった。

 

 その感触に少しの不快を感じるアウラだったが、すぐにそんな場合ではなくなる。

 

 視界が揺れ、背筋が凍るような感覚に襲われ出したからだ。

 

 

「ちょっ……ソリテール、これ……大丈夫、なの……?」

 

「大丈夫、大丈夫。直ぐに終わるわ。…………ねえ、アウラ。魔族が魔神の眷属になるには二通りの方法があるって知ってる?」

 

「あ……う……」

 

「一つは記憶を保って魔人になる方法よ。でも、長く生きた魔族ほど、自分の記憶への拒否反応から暴走したり精神崩壊したりする危険が高いの。だから、こっちは生まれたばかりの魔族用ね」

 

「…………な……に……を」

 

「こっちだけでも充分凄いのだけれど、慈悲深い魔神は私たちのような罪深くて欲深い魔族のためにも、ちゃんと選択肢を用意してくれているのよ」

 

 

 アウラには既に聞こえていなかったが、興奮しているソリテールは認識していない。

 

 

「それが、これ。────肉体をゴーレム化する方法。……素晴らしいのよ。記憶はそのままに人間性を手に入れてしまっても、これなら精神は魔神の意志によって守られて病むことは無いの。肉体そのものも生身よりずっと快適なのよ? 首が取れても死なないし、感覚は鋭くて、各種欲求はちゃんと再現されてて、オマケに老いることはなく、改造で自由に選択して成長することすらできるの!」

 

 

 両手で頬を抑えて恍惚に耐えている様子のソリテールは、結局耐えきれずにその場でくるっと回って喜びと信仰を吐き出す。

 

 

「私ね、かつて魔族だった私には誇りを持っていたわ。だけど、あの御方は困った風にしながらも、それも許してくださるの。過去と今の私の両方を肯定してくださるの! とっても素敵だと思わない? ああ、アウラ。貴女も私と同じになればきっと分かってくれるわ」

 

 

 ソリテールはいつの間にかアウラの身を覆うほどに増殖した黒い液体を愛おし気に眺めながら、座り込んで焦点の合っていないアウラの瞳を覗き込む。

 

 

「その聖油が体中に馴染めば準備は完了よ。……ちゃんと見届けてあげるわ。貴女があの御方の手によって『完成化』するところをね。…………私たち、魔族時代はあまりお話しできなかったわね。でも、これからはいっぱいお話ししましょうね」

 

 

 魔王軍残党にとっての絶望の化身であり、元魔族たちの多くが信仰対象に隠してこっそり所属する魔神正典。その創設者にして信頼厚き法務官である『大修道士、ソリテール』は、天上の天使の笑顔でアウラの手を握った。

 

 

 

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