古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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完全な変身の魔法

 

 

 

 吾輩はエルフである。名はただのトラオム。

 

 好事魔多しということわざを知っているだろうか? 

 

 上手く行っていると思える時こそ、慎重になって落とし穴に気を付けなければならない。

 

 だが、分かっていても常にそうあり続けるのは難しい。

 

 そもそも見えている落とし穴ばかりではないし、巧妙に偽装されていたり、誰かに誘導されたらほとんど不可避であることもある。

 

 人生って本当にクソゲーみたいな要素多いよね。

 

 後から振り返って初めてフラグが立っていた事に気付くなんてざらだ。

 

 

 

 

 ……完成間近だったチェイテピラミッド姫路城……全焼しました……。

 

 

 

 

 

 ごめんね、エリちゃん。今度はもっと凄いのを作ってあげるからね。

 

 アルちゃん、彼女を慰めてやってね。

 

 俺はちょっとゼーリエちゃんに呼ばれてるから出かけてくるわ……。

 

 

 

 悲しいことがあったときは存分に悲しみに浸るべきだ。

 

 だが、悲しいことがあったからと言って、嬉しいことや楽しいことを蔑ろにするのもいけない。

 

 これから会うゼーリエちゃんには関係ないことなんだから、暗いアトモスフィアを持ち込まないようにしないと。

 

 

 ああ、完成させた『完全な変身の魔法』はゼーリエちゃんを大層驚かせることに成功した。

 

 余は満足じゃ。ポカーンとした表情をしっかりと脳内に記録できたからな。

 

 その後、ちょっと様子がおかしくなったゼーリエちゃんにお願い事をされた。

 

 

 何でも、とある強力な魔族をとっ捕まえたいから協力して欲しいとのこと。

 

 ゼーリエちゃんが俺に協力要請するってどんな怪物だよ……。

 

 

 普通の強敵だとゼーリエちゃんは「ここたま!(AC)」って叫びながら向かって行くじゃん(偏見)

 

 

 そう思ったが、どうにもとても異質な魔法を使う手合いらしい。

 

 探求心に溢れたゼーリエちゃんはそれをどうしても研究してみたいらしく、生け捕りがご所望とのこと。

 

 なるほど。大魔族レベルを生け捕りとか普通は正気の沙汰じゃない。

 

 アルちゃんみたいなのは例外も例外だからね。

 

 

 ちなみに、一般的な事象を語る時に外れ値を持ってきてそれを根拠にする奴とはまともに議論はできないぞ! 

 

 それは詭弁の手法だからね。

 

 

 普通の大魔族と言うのはたとえ魔力でこちらに劣っていても、油断ならない危険な魔法を使う相手なのである。

 

 万全を期して俺を呼んだのも無理はない。

 

 

 

 それで、ゼーリエちゃんはその魔族を封じておくための封印牢獄の建造を依頼してきた。ロハで。

 

 

 別にいいよ! 

 

 

 俺は秒で了承した。

 

 めっちゃ心躍る依頼じゃない! 

 

 友達からこんな大事なことを依頼されるなんて、これは遂に親友と言える領域に突入したのでは? 

 

 

 最近、壮大な建築計画で大失敗をやらかしたので、ここでその仇を取るつもりでやってやろう。

 

 それに普通の人間なら正気すら疑われる提案でも、俺にとっては大歓迎。

 

 人生を楽しむコツは、どれだけ馬鹿なことを考えられるかなんだ。

 

 ルパンが言ってたんだから間違いないさ! 

 

 

 

 早速、ゼーリエちゃんと二人で図面を作る。

 

 封印しておく部屋は、できる限り快適にしておくようにとのこと。

 

 まあ、研究室も兼ねる訳だから当たり前だな。

 

 作業部屋の環境を整えることを怠ってはいかん。妥協すると効率も閃きも失われるからな。

 

 流石はゼーリエちゃんだ。よく分かっている。

 

 シャワー室や寝室も一流ホテル並みの内装になった。

 

 

 脱出を妨げる仕掛けは何重にもえっぐい奴を仕掛けてやるぜ。

 

 もうこの牢獄からは大魔法使いワードナですら脱出を諦めるレベルにする。

 

 コズミックキューブを十倍の広さにしたようなのも作ってやろうかな? 

 

 

 色々と意見を出すたびに、いつになくゼーリエちゃんは楽しそうに答えてくれる。

 

 

 ……ああ。何か、ゼーレで仲間たちと一緒に魔法で遊んでいた時を思い出すな。

 

 ありがとう、みんな。

 

 みんながゼーリエちゃんを説得してくれたおかげで、みんなが巡業団を作ろうと言ってくれたおかげで、俺は今はとっても充実しているよ。

 

 

 

 それじゃあ、大体の草案もできたからもっと内容を詰めて行こうか。

 

 隣でゼーリエちゃんが口ずさむ『サクラメイキュウ』を聞きながら、更に考え込む。

 

 

 しかし、どこのどいつか知らんが、ここに閉じ込められる魔族には同情するぜ。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より28年後。

 

 大陸中央諸国のある小さな町にて。

 

 

 エルフのモンクであるクラフトは少し前の自分の選択を後悔していた。

 

 彼は悪漢に絡まれているかに見えた若い同族を思わず助けたのだが、もっとよく状況を確認するべきだった。

 

 

 後から話を聞くと、絡まれていたのは悪漢の方だったのだ。

 

 いや、確かに性質の悪い連中だったから退治したこと自体は間違いでは無かった。

 

 だが、襲われていた同族は、明らかに悪漢からカツアゲするために誘っていたようだったのだ。

 

 まさか、助けて露骨に舌打ちされるとは思わなかった。

 

 そして、クラフトが巡業団の書籍で有名なエルフだと気付くと、一瞬にして手のひらを返して媚を売ってきたのも予想外だった。

 

 

 今もクラフトの前に居る同族。カーラという名の修道服を着た浅黒い肌の色の女はへらへらと言う。

 

 

「いや~、あの有名なクラフトさんに助けていただけるなんて光栄ですよ」

 

「必要無かっただろう。……お前ほどアレな同族は初めて見たぞ」

 

「そんな褒めなくても~。あ、出会えた記念に奢ってくれても良いですよ?」

 

「褒めていない。そして厚かましいな!?」

 

 

 まだそれほどの歳では無さそうに見えるのに、この少女はかなり強かだ。

 

 と言うか、単にずぶといのかもしれない。

 

 クラフトはそれでもせっかく出会えた同族の若者なのだからと世話を焼いてやる。

 

 

「まあ、こんなものでも縁だ。飯くらいは奢っても良いが、一度だけだぞ?」

 

「えっ? 良いんですか? ちょっと心配ですね。クラフトさんは詐欺とかに気を付けた方が良いですよ?」

 

「お前な……」

 

 

 早速、前言撤回したくなってきたが、結局は普通に屋台で焼き鳥を奢るのだった。

 

 意外とおしゃべりなのか、エルフの少女は聞いても居ないのに、ペラペラと話し続ける。

 

 

「ちょっと彼らに善良なエルフである私に恵ませてやろうと思ってただけなんですよ? 悪い事してたら天国に行けないっていいますからね。ああ、でも悪事と私に出会えた事実で相殺されてたいして善行にもならないかもしれませんね。いやー、悪い事ってするものじゃないですよ」

 

「まあ、俺も悪漢退治を責めるつもりはない。だが、ちょっとはその面倒くさい性格は直した方がいいぞ。お前も僧侶なのだろう?」

 

「ええ、私は僧侶もやっていますよ。エルフの僧侶って受けがいいですからね。でも、私は特に聖典なんか読まなくても天国には行けると思うんです。だって存在しているだけで愛と癒しを振りまいていますから」

 

「その謎の自信はどこから来ているんだ……」

 

 

 受け取った焼き鳥を頬張りながら、彼女は呆れるクラフトに確認する。

 

 

「そう言えば、クラフトさんはこれから北部方面へ行く予定はありませんか?」

 

「いや? 俺は北部の方から旅してきたからな」

 

「あー、それは残念です。私、ちょっと一級魔法使いになっておこうと思ってオイサーストに行く途中だったんですよね。良い護衛が手に入るかと思ったのに」

 

「本当に厚かましいな。それに一級魔法使いだと? 腕っ節がいいのは分かるが、少し魔法に覚えがある程度じゃあ成れるものではないぞ?」

 

 

 クラフトの疑問にカーラは胸を張って自信満々に答える。

 

 

「全く問題ありません。…………だって、大陸魔法協会にはコネがありますからね! それも複数」

 

「いや、ちょっとやそっとのコネで一級魔法使いは無理だろう。二級までならともかく。と言うか、実力でなるつもりはないのか」

 

「私のコネはちょっとやそっとのモノじゃありませんから。ああ、もちろん実力でもなれるでしょうよ。伊達にエルフじゃありません。そんじょそこらの人間よりもずっと魔法には覚えがあります。でも、せっかく齧れる脛があるのに齧らないのって、逆に失礼だと思いませんか?」

 

 

 いい笑顔で言うカーラに、クラフトは諦めたように溜息を吐いて言う。

 

 

「……齧っていた脛に牙を剥かれないといいがな」

 

「それは大丈夫ですよ。妹の方はお姉ちゃんには逆らえない物ですし。おばあちゃんの方は会ったこと無いですけど、老人なんて娘には厳しくても孫にはダダ甘な物ですから。母は勘当されましたけど、私のことはきっと甘やかしてくれるに決まっています」

 

 

 

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