古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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指輪の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムだ。

 

 ファンタジーではよく火山を舞台に冒険するよな。

 

 科学の力でも不可能な事じゃない。だが、どれほどの金がかかるのやらだ。

 

 その点魔法って凄いよな。鍛えて行けば、個人で大工事だってできるんだぜ。

 

 

 さて、魔法武器を作っているのだから当然だが、俺はいわゆる錬金術や鍛冶にも堪能だ。

 

 魔法を工程につかいまくるので、真っ当なソレとは大きく異なるが。

 

 ともかく、俺が主に身内に装備や装飾品を送る時はそれらの技術を使う。

 

 素材には封魔鉱など、魔法でも簡単には加工できない物も多いので苦戦を強いられているよ。

 

 ファンタジー世界では時に鉱石と生物の中間的存在すら出現するからな。

 

 

 そういったゲテモノたちも、好奇心に負けて使っちゃうんですけどね。

 

 

 意図せず意志を持ってしまった魔道具の類は危険なので処分するか俺が保管している。

 

 持ち主を不幸にする魔剣とか世に出せる訳が無いでしょ。

 

 

 ……まあ、今回はそういうものには挑戦しないし、作らない。

 

 本日は割と女心が存在したことにビックリさせられたゼーリエちゃんからのオーダーだ。

 

 

 

 最高の魔法の指輪が欲しいんだって。

 

 ……まあ、良いんですけどね。親愛の証として身に付けてくれるなら喜ばしい事だ。

 

 ただ、巡業団のみんなにもついでに作らせてもらうよ。

 

 特別扱いはしないって言ったばかりだし。

 

 しかしどんな魔法の力を込めたものかな? 

 

 魔装服だけでも俺が作った最高の品ならかなりの防御の魔法が込められているんだよな。

 

 でも、あまり攻撃的な効果を持たせるのも……

 

 ……まあ、案ずるより産むがやすしとも言う。

 

 作りながら決めてみよう。

 

 

 特別な素材を使って、特別な工程で作るとしよう。ロマンと愛情も精一杯込める。

 

 

 作業場所は地獄の様な光景の火山の中をチョイスした。クッパ城みたい。

 

 半端な温度や魔力では加工できないファンタジー物質を取り扱うので、それ相応の儀式の場にする必要がある。

 

 ああ、俺自身は環境の厳しさなど簡単に魔法で対応できるので、溶岩水泳部にだってなれるぜ。

 

 

 熱した金属を急速に冷やすために、決して溶けない呪氷を持ち込む。

 

『全てを凍らせる魔法』の産物であり、不用意に近づいたらマジで危険な代物だが術者である俺なら大丈夫。

 

 その他にも無数の魔法の作業道具を持ち込む。最高の品質のためには妥協できないんでな。

 

 

 

 そして高らかに詠い上げながら作業開始。

 

 全霊を込めるために呪歌を使う。

 

 内容はもちろんサウロン様が詠ってたやつのパロディだ。うろ覚えだけど。

 

 魔法の指輪と言えばあれでしょ。

 

 

 

 

 

 三つは、コッコロと、ゼーリエちゃんと、まだ見ぬ我が子に。

 

 七つは、ミクさんやアンジェラたち、ゴーレムのまとめ役に。

 

 九つは、友たちとの友情の結晶である巡業団の魔人たちに。

 

 

 一つは、アルちゃんのため。

 

 天空を駆けるイルルの上に。

 

 

 我が家族の全てを守り、全てを助け、全てを慈しみ、末永くつなぎとめる。

 

 この愛しき世界の中に。

 

 

 

 ヨシ! 出来上がったぞ! 

 

 ……あれ? こんなところまで冒険に来てたのか、コッコロ。もしかして聞かれてた? は、恥ずかしいな……

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より29年後。

 

 魔法都市オイサーストにおいて、三年に一度の一級魔法使い試験がもうすぐ始まる時期が訪れていた。

 

 今年の二次試験の試験官は一級魔法使いのマルシル。

 

 ちょっと前にオイサーストを襲った謎の魔力爆発事件を収めた英雄である。

 

 しつこく裏取引で試験通過を狙う姉カーラを『揺るぎなき力の魔法』で吹っ飛ばした彼女は、同僚である一級魔法使いたちと今年の参加者たちの印象を話し合っていた。

 

 

 髪のボリュームが凄いゼンゼが資料を髪で掴んで見ながら言う。

 

 

「今年の参加者はずいぶんと多いね。……あと、エルフも多くない?」

 

「たまたまよ。そういう年もあるでしょう」

 

 

 今は同族のことについてあまり触れて欲しくないマルシルは、明後日の方に視線をやりつつ答える。

 

 だが、参加者にネームバリューのあるエルフが揃っている以上、その話題は避けられない。

 

 ゼンゼとは対照的なスキンヘッドが輝くゲナウが参加者の分かっている限りの来歴を読み上げて行く。

 

 

「正直、試験の必要があるのか疑問に思うほどの英傑が混じっているからな。魔王を討伐した『葬送』のフリーレンは説明不要。マルシルの姉妹である『魔拳』のカーラや『翡翠姫』スイも一級魔法使いにも充分な実績持ちだ」

 

「……フリーレン様はともかく、姉たちは色々と問題のある人たちだから一級魔法使いになれるかは疑問だけどね」

 

 

 マルシルはげんなりした表情で俯きながら身内だからこそ知る彼女たちの本性を思い、酷評する。

 

 見た目では最も年上に見えるレルネンが、幸いにもエルフではない参加者の話を出してくれる。

 

 

「今年は魔法学校の卒業者にも粒がそろっているぞ。彼女たちの面構えを見ただろう。まるで歴戦の猛者のようだった。……ところで、みんなまとまった時間は取れるかな?」

 

「あの遊戯盤の参加者になるのは嫌よ、レルネン。あの子たちはよくもまあ誰も欠けずに戻って来られたわね。尊敬しちゃうわ」

 

 

 ゲナウと同じくスキンヘッドを輝かせるレルネンは、落ち着いた見た目とは裏腹に誰よりもエネルギッシュで功名心に溢れている。うっかりついて行こうものならとんでもない冒険に参加させられるのは一級魔法使いの全員が知っている。

 

 続いて話しかけてきたのは最新の一級魔法使いユーベル。己の魔法武器である白楼剣の手入れをしている。

 

 その蒼い魔法のオーラを放つ刀身に美しい相貌を映しながら、足をぶらぶらさせてもいる。

 

 

「確かにヒリヒリくる雰囲気だったよね、あの子たち。でも、そっちもエルフ混じりじゃない」

 

「……兄弟姉妹の中ではエルダ姉さんはまだマシな方だからね。でも、おばあ様が気に入る様な魔法使いじゃないのよね」

 

 

 フリーレンも相当アレだったので、マルシルはこの種族自体が相当アレなのではないかと思ってしまいそうになる。

 

 なお、マルシルの知っているアレなエルフ代表は母と長兄ゼルだ。

 

 幼い頃に優しくしてくれたコッコロの存在だけが救いである。

 

 

「そういえば、コッコロさんも来てるんだったわね。慰めてもらいに行こうかしら……」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「心配性な奴だな。少し魔力を解放したくらいで遥々と南部から飛んでくるとは」

 

「ゼーリエ様が魔力を解放するなんて、余程のことです。心配もしますよ……」

 

 

 大陸魔法協会の長ゼーリエは、自室にて血相を変えてやってきた同族のコッコロと面会していた。

 

 ゼーリエとしては心外なことだが、コッコロは命の使い時かもしれないと決意してまでやってきたのだ。

 

 蓋を開けてみればちょっとした諍いだったので、コッコロは胸をなでおろす心地だった。

 

 

 ゼーリエは椅子に座ったまま眼前に立つコッコロを悩ましそうに見つめて言う。

 

 

「フリーレンといい、お前といい。魔法使いとしての研鑽に専念していれば、もっと高みにあっただろうに」

 

「フフフ。またそのお話ですか。ゼーリエ様は本当に……お似合いでございますね」

 

「……そういうのはお前だけだ。あの巡業団の小娘は相変わらず小うるさいし、弟子たちは禁忌のようにその話題には触れん。…………それに、バカ娘はまだ謝りに面を見せん……」

 

 

 少しばかり悲しそうな声色になるゼーリエ。こんな調子を見せるのはコッコロに対してくらいだ。

 

 それをコッコロは嬉しく思うが、ゼーリエには言えないこともあるので複雑な立場だ。

 

 それでも、彼女の癖で不器用な親子を思ってお節介を焼いてしまう。

 

 

「皆さんが触れないのはゼーリエ様が家族の話題を出すと怒るからですよ。あの子のこと、そろそろ許してあげてもいいのではありませんか? ……今頃はあの子も心配していると思います。この指輪を通して、あの子にもゼーリエ様が魔力を解放したのは伝わっているはずですから」

 

「ああ、それでお前は南部に居ながら感じ取れたのか。この指輪は三つでセットだったな……ふむ」

 

 

 考え込むゼーリエを前に、コッコロは余計なことを言ってしまったかもしれないと少し後悔する。

 

 ……少し前に例の邪教団の隠れ家を潰した際、知った顔と会ったのだ。

 

 

 

 

 

『どうして……どうして貴方がここに居るのですか、ゼル?』

 

『あ、いや、その。……ちょっと、副業でここで幹部をやらせてもらっててね?』

 

『……待ってください。昔から妙に強い魔法使いの多い組織だとは思っていましたが、まさか、天上の法悦の教祖って……』

 

『…………はい。約1000年ほど前から、ウチの母がやっています』

 

『…………わァ……ァ……(号泣)』

 

『泣いちゃった!!』

 

 

 

 コッコロは当時を思い出して気が遠くなる。

 

 巡業団の魔人たち以外では一番よく面倒を見ていた。明るい紫の髪をしたあの子は、底抜けに明るくて思いやりのある、とても良い子だったのに……。

 

 数百年前に再会した時に水着みたいな格好になってたのはビックリしたが、中身は変わってないようだったので、コッコロは一度は安心させられたのだ。

 

 ……しかし現実は非情だった。斜め上過ぎる裏切りに、エルフ屈指の聖人コッコロでも受け入れられなくて失神しそうになった。その隙にゼルは逃げた。

 

 

 ゼーリエにはとても言えない。果たして本当に関係修復は可能なのだろうか? 

 

 悩むコッコロの前でゼーリエは別の話題を出す。

 

 

「ああ、そういえば、南部の方では『赤魔公』の目撃情報は無いか? 最近は見かけなくなっていてな」

 

「さ、さあ、どうでございましたでしょうかね?」

 

 

 ……そっちはもっと言えない。アムはともかく、ゼーリエは薄々勘づいているが、隠し通さなければ。

 

 コッコロは墓まで持っていかなければならない秘密が世界を終わらせかねないものばかりだということに、内心で泣いた。

 

 

 

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