古魔族、放漫のトラオムの羽ばたき   作:リッチ

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見えざる矢の魔法

 

 

 

 吾輩は魔族である。名は放漫のトラオムである。

 

 ゼーリエちゃんとのデートなんだけどね。これまでは戦闘比率が圧倒的だったのに、今では戦闘は四割くらいになったよ。

 

 まあ、魔法談義とかの時間もそんなに増えてないんだけどな。……いや、身重なんだからガチバトルは自重してください。

 

 

 

 まあ、ゼーリエちゃんばかりに構っているのもアレなので、家族サービスもしたよ。

 

 ちょっと前に巡業団に行った時、まとわりついてよじ登ってくる娘たちを引きはがして、男だけで朝まで語り合ったんだよね。

 

 色々と男だけじゃないとできない馬鹿話をしたよ。

 

 やっぱり女の子が相手じゃないと圧倒的に気安いよね。

 

 

 それで聞いてみたんだ。

 

 俺は、まあ、なんか凄い大家族の大黒柱になっちゃったけど、お前らどうなんだって。

 

 

 ……兄弟たちの生み出す圧倒的静寂空間の大宇宙に、俺も何も言えなかったよ。

 

 

 

 とりあえず、「まあアレだ、若者の本分は自己研鑽だものな」とお茶を濁した。

 

 

 その後に色々と理由を聞けたんだけどね。

 

 やっぱり、種族の差や寿命の差はデカいハードルらしい。

 

 娘たちの方が求婚されることは多いのだが、当然ながら男衆にもそういう話は来る。

 

 娘たちはかぐや姫にも正気を疑われるレベルのハードルを要求するせいで、とっかかりすらないらしいのだが……。

 

 

 男衆の方も女性に求める理想がなかなかに非現実的だ。

 

 えー、何々? 絶対に裏切らなくて、自分よりも長生きして、暴力を振るわなくて、姉たちから守ってくれるような子がいいって? 

 

 

 

 

 

 甘えんな童貞ども。夢見がちを通り過ぎて夢見すぎだぞ。

 

 

 

 

 

 その後、ちょっと過激なコミュニケーションで全員と語り合って勝利した。

 

 はっはっはっ。なめんなよ、ガキども。お前ら如き、まだまだトラオム流基礎攻撃魔法の『見えざる矢の魔法』だけで充分なんだよ。

 

 この魔法はシンプルかつカスタム性が高い自信作だ。盗用されないように何重にも対策してるけど。

 

 発動までコンマ一秒無く、見えないので防ぐのが難しい。

 

 威力や弾道も自在だし、様々な特殊効果を付与することもできる。

 

 非殺傷とか、炎属性とか、石化とか、精神崩壊とか。……熟達していけば、物質的障害物や魔法障壁の透過すら付与できるから、マジでこれ一つで戦えるぞ。

 

 強力な効果を付与するとコストはちょっと重くなるが、効率化を重ねてるからちょっとだ。

 

 まあ、呪いを扱えなくてこの魔法の真価を引き出せない人間の魔法使いには、最良の攻撃魔法とはならんだろうが……。

 

 

 魔族に広まったら人類終わると思う。攻撃魔法がマスケットから機関銃に進化するようなものだからな。

 

 

 

 そして、罰ゲームでこれまで気になった子の名前を順番に言わせた。魔法で強制して。

 

 俺としては、どっかのお姫様とか、さすらいの美人魔女とか、敵対している魔族女性への淡い恋心とかが聞けるんじゃないかなと思ったんだ。

 

 

 

 そしたら、出るわ出るわ。…………ウチのゴーレムたちの名前がな!!! 

 

 お前ら仮にも親代わりだった彼女たちに懸想するとかどういうことなんだ。

 

 全員キャスバルロリマザコンかよと思ったが……よく考えたら、当たり前だった。

 

 

 どっかの童貞が夢と性癖を煮詰めて作ったゴーレムたちだったわ。

 

 さっき聞いた条件にも全て当てはまっている。……つまり、俺が遠回しにこいつらの性癖を調教しちゃった……ってコト!? 

 

 

 

 マジですまんかった。

 

 でも、お前らにはやらねえから。欲しければ自分で作るか、ちゃんとした生身の彼女作れ。

 

 ……その内に適当な魔族を捕まえて改造してパートナー候補を育ててやろうかな? 

 

 流石に責任を感じちゃうわ。

 

 

 

 でも、性癖談義は続ける。

 

 オラオラ。恥ずかしがってないで性癖を解放するんだよ。そうすればお前らは強くなれる。

 

 ……思ったよりもゆかりさん達、まな板組の人気が高いな。お前ら本当に俺の子か? 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 勇者ヒンメルの死より29年後。

 

 いよいよ始まる一級魔法使い試験に臨む老魔法使いが一人。

 

 名をデンケンという。

 

 北部高原の奥地を出身とする七十代も後半を過ぎた老人だが、血みどろの権力争いを勝ち抜いた海千山千の老獪な宮廷魔法使いであり、その権力は国すら動かせるほど。

 

 これまで一級魔法使いになっていなかったのは必要が無かったからにすぎず、実力では一級魔法使いにもひけはとらないという自負を持っていた。

 

 

 だが、彼は決して過信から油断するような人間ではない。それでは、宮廷魔法使いなどやってられない。

 

 デンケンはこれまで稼いできた財貨や築いてきたコネを使い、万全の準備を整えていた。

 

 

 彼はその経験豊富さから一次試験にてチームを組んだメンバーの中でも当然の様にリーダーとなり、試験通過のために己の財を吐き出す。

 

 

「これを肌に塗れ、『竜皮の軟膏』だ。魔法にもそれ以外の攻撃にも強い守りをもたらしてくれる。それと、この『魔力探知妨害のタリスマン』も肌身離さず持て。熟練の魔法使いは騙せないが、それでも一瞬の探知の遅れを引き出せるかもしれん。実戦ではそれが勝敗を分けることもままある」

 

 

 チームメンバーとなったリヒターとラオフェンは頼もしいやら呆れるやらである。

 

 特に魔道具の修繕屋をやっているリヒターはその価値が分かるだけに、悔しそうだが圧倒されていた。

 

 

「……伊達に宮廷魔法使いをやってないってことか。希少な魔法薬にゼーレの古代魔道具がこんなに……おいおい、急速魔力回復薬までダース単位であるぞ。信じられねえ」

 

「持ち物の制限がされてないなら、それを含めて魔法使いの実力を測る試験ということだ。準備ができるのにしないのは愚かだろう」

 

「確かにそれはそうだが」

 

 

 二人に比べれば魔法使いとしての格は落ちるラオフェンは、目を白黒させながらも他の魔道具について問う。

 

 

「爺さん。その細い杖類は何なんだ?」

 

「ああ、これは『探し物の杖』と『場所替えの杖』だ。どちらも古代魔道具だが、持ち込んで正解だった。これで隕鉄鳥を見つけて捕獲する」

 

「おお、便利だなあ」

 

 

 試験を突破する見込みがあるのは良いことだが、あまりにも至れりつくせりなのでリヒターとしては皮肉の一つも言いたくなってしまう。

 

 

「これだけあれば、三流魔法使いでも一級魔法使いになれそうだな」

 

 

 だが、それに対してデンケンは戒めるように注意する。一切の油断をするなと。

 

 

「何を言っている。これらはあくまで魔力を温存する程度の物だと考えておけ。この試験には何人も優れた魔法使いが参加しているのだ。本番は潰し合いだと思え。……特に、エルフの魔法使いは要注意だ。まともにやったら魔力回復薬を使い切っても勝てるかは分からん」

 

「……それほどか? まあ、魔王を討伐した魔法使いは特にヤバそうだが」

 

「他のエルフもだ。大魔法使いの一族は極めて強力な一族秘伝の攻撃魔法を持つ。……絶対に正面から撃ち合いをしてはならん。『見えざる矢の魔法』は速射性と連射性に優れる上に、込められる効果が多彩過ぎて完璧な対応は不可能だと思った方が良い」

 

 

 デンケンは続けてリヒターとラオフェンに強く言い含める。

 

 

「特に厄介なのは、試験官のマルシルが使うような魔法の矢を極限まで小さくして放つ攻撃だ。人を殺すのに体に大きな風穴を開ける必要は無い。小さな魔力の揺らぎを見逃せばそれだけでお終いだぞ」

 

「うわあ、おっかない。まるで暗殺者の魔法だね」

 

「『人を殺す魔法』なら速射性で張り合えそうだが、デンケンより年上の魔法使い相手に消耗戦なんかやってられないか。……やはり、どれだけ他の試験者を避けられるかだな」

 

 

 少し弱気になるラオフェンと考え込むリヒターを見ながら、デンケンは「少しは引き締まったか」と考えていた。

 

 デンケンにはもう時間が無いのだ。

 

 三年後まで待っていられるかも分からない。故に、何としてでも合格する必要がある。

 

 

 使える魔道具があるのに使わずに敗北するなど愚かなことだ。

 

 ……師匠の顔を思い出しつつ、その教えを尤もだと思う。

 

 デンケンはポケットに入った師匠から譲られた黒い瓶を片手で握り締めつつ、必勝の決意を燃やしていた。

 

 

 

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